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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
23/74

町の危機 2

「ここでいいのか?」

 学校のすぐ近くにある、あまり人通りが無い脇道にルースを置いた。

『はい、確かにここで間違いありません』

 試しにその印の場所を触ってみると、確かにさっきと同じような電流が流れた。

『では、二人とも頼みましたよ』

 彼女の言葉にアレスと二人で頷き返し、それぞれの目的地へと向かった。

 アレスは商店街近くの住宅街。この間、千草とぶつかったあの場所である。そして俺は、その商店街の入り口付近にある小さな駐車場だ。

「つきクン、魔法の発動を止めたら私はすぐに川にいくから。ルースと合流したらつきクンも川に向かってね」

 ドディックジュエリはこの魔法陣の中心部に位置する場所、つまり町の中心である川の真ん中にあるそうだ。場所がわかっているのならそちらを止めにいった方が早いのではないかと思うが、魔法陣は完成しているため、今まさに発動しようとしている魔法を止めなければ本体を探し出しても意味はないそうだ。

 つまり、これから発動するであろう魔法を止めた後、ドディックジュエリを取りに行く。あの少女も同じことを考えているだろう。彼女もブイオと合流した後に向かうはずだ。そのため、少女たちよりも先にアレスがドディックジュエリを回収しようというわけだ。

「私のこの体じゃそんなに速く飛べないから、あの子にすぐ追いつかれるかもしれない。だからその前に合流しよう。そうすれば、あの子も手が出しにくいはずだから」

「ああ、できるだけ早くそっちに行くよ」

 商店街の入り口でアレスと別れると、自分の持ち場へと向かった。

 誰が停めるのかわからない有料駐車場。昔は需要があったのかもしれないが、今は数台の車が停まっているだけだ。デパートの横にある無料の立体駐車場に客を取られまくりだ。それなりの人通りがあるにもかかわらず、誰もこの駐車場には目もくれない。だが、今はそれが幸いして、自分のことを見ようとする人は誰もいない。

「あった、これだな」

 駐車場の片隅の目では認識できない印。アレスに教えてもらった場所に触れると、そこには確かに静電気らしきものが流れた。

「えっと、ここから流れてくる魔力を抑え込めば良いんだよな」

 消滅の魔法が発動した瞬間、魔法陣から流れる魔力。魔法陣の交点を基点とし、描かれた逆五芒星デビルスターをなぞらえるように魔力が流れる。それを防ぐことができれば、消滅の魔法は本来の極小範囲にしか効力がなくなるようだ。

「つきクン、聞こえる?」

 突如、頭の中に直接響いたアレスの声。

「おう、準備はできてるぞ」

「うん、それじゃあルースに言っておくから。たぶんすぐにルースからも連絡が来ると思うよ」

 アレスが言うと、すぐさまルースの声がした。

「本当にすぐだな」

念話テレパシーですからね。距離は関係ありませんよ。それよりも、あちらの二人も準備はできたようです。私が全員に合図をするので、それにあわせて魔法陣から流れる魔力を抑えてください』

 しかしだ、どうやって魔法が発動する瞬間を見つけるのだろうか。彼女のことだから何か手段があるのだろうけど、説明されても意味はわからないだろう。

『暫く時間はあるようですが、いつでもできる準備をしておいてください』

 と、ルースは言ったが、準備も何も自分自身では何をするのかよくわかっていない。魔法陣から流れる魔力を抑えるといっても、具体的にどのようにするのか教えてもらっていない。

 ルースが言うに、合図と同時に印に手を当て、印から流れ出る魔力を押し返す、らしい。言いたいことはわかるが、それをどうやってしたらいいのかがわからない。魔力の抑え方も、押し戻す方法もよくわからない。ルースは手を当てるだけで十分と言ったが、果たして本当に大丈夫なのだろうか。

『もう少しで魔法が発動するようです。時間になったら秒読みを始めます。準備はよろしいですか?』

 ルースは全員に呼びかけるようにした。

『では、秒読みを始めます。―――――5秒前、4、3、2、1、0』

 ルースの言葉と同時に印に手を突っ込む。

「っ、なんだこれ・・・・・・!」

 触れた印から電流が流れる。だがそれは掌を抜け、腕を走り、全身へと流れていった。まるで血液を巡るように身体中を廻っている。

 全身が痙攣する。

 手も足も、頭も胴も。

 脳が目が口が、胃が腸が心臓が。

 身体のいたるところで小さな泡が破裂する。

「ル、ルース、これ、大丈夫なのか?」

 言葉を震わしながらルースに聞いた。

『はい、大丈夫です。もう少しで終わります』

 念話越しでよくわからないが、ルースは何かをしているようだった。

 すると、身体に流れていた電流が徐々に抜けていった。入ってきた時とは逆に掌から抜けていく。

『お疲れ様です。これで、魔法陣による効果範囲の増幅を防ぐことができました』

「え・・・・・・?」

 拍子抜けというかなんというか、呆気なく終わってしまった。見た目では何も変わっていない。何が変わったか全くわからない。

「これで終わり?」

『はい、これで終わりです』

 だそうだ。

 本当にこれで終わりでいいのだろうか。ただこの印に手を突っ込んだだけで終わってしまった。

 ふと、もう一度印に触れると電流が流れた。

「―――――ッ!」

 しかし今までとは違う。流れる電流が何かを引っ張っていく、そんな感じだ。

『マスター! どうしたのですか?』

「ルー、ス・・・・・・」

 声が出ない。自分では出しているつもりなのに、それが言葉にならない。

 意識もはっきりとしているのに、全身から感覚が抜けていくようだ。次第に目もぼやけていき、視界が闇に閉ざされていく。はっきりとした意識の中、全ての感覚が抜け落ちていく。

 まるで闇の中を彷徨うように、現実から切り離されていった。


『ブイオ!』

『ああ、わかってる、姉さんたちじゃ無理だ。こっちがやるよ』

「時間がありません。私だけで行きます」

 ブイオがルースに答える間もなく、少女は二人の話を断ち切った。

『あ、ちょっと』

 ブイオの静止に耳も傾けず、少女は少年のもとへと向かった。

『あ~あ、置いてかれちまった』

『私たち自身では動くこともできませんからね』

 ルースは皮肉るようにブイオに言った。

『まぁ、あの子なら問題はないけど、身動きが取れず放置ってのも寂しいもんだよ』

 と、嘆くようにブイオが言うので、ルースは彼女にどこにいるのかを聞いた。

『アタシかい? アタシは水の中だよ』

 ブイオはさらに嘆息をもらした。

『水の中・・・・・・ですか。川ですか?』

 ルースは印の場所を思い出してみたが、川の中に無かったはずだ、と思いながらもブイオに聞いた。

『川ならどれだけ良かったことか・・・・・・下水道だよ、下水道。まったく、なんでこんな所に印なんか書くのかねぇ。おかげで変な匂いが体中にびっしりこびり付いちまったよ』

『なるほど、それであなたの相棒パートナーは一人で行ってしまったのですね』

『んなわけあるかい! ―――――いや、あの子ならその可能性も・・・・・・』

 ブイオのツッコミが虚しく下水道に響く。

 いつ以来なのだろうか。ルースにとって、ブイオにとって、こんなにも気兼ねなく話したのは。

『変わりませんね、あなたは』

『なぁに言ってんだい、姉さんだって変わってないじゃないかい』

 二人にとっては何気ない会話。いつも通りの姉妹の会話。

『何も変わってないさ。アタシたちも、アタシたちの星も』

『そうですね、私たちは何も変わっていない。だからこうして私たちはここにいて、私たちの星は平和であり続ける。人が平和に生きるためにはヒトが犠牲にならなくてはいけない。そんな理不尽が間違っているとこの生を捧げたつもりが、そのあり方が一番の平和である故に変えることなどできなかった』

『そ、何にも変わってないんだよ、あのときからずっとね』

 しかし、二人が姉妹として夢を見て理想を語ったのは、遠い過去の話。今はもう、ただの傍観者へと成り果てた。


 今は何時だろう。家を出てからかなりの時間が経っている。だとしたら今は昼を回っているのだろうか。

 闇に飲まれ、全身の感覚が奪われ、尚も意識は残っている。

 考えることは(考えることができるのは)、今の状況を自分に問うだけ。答えはない。ここはどこで、周りは何に包まれて、手はどこに足はどこに。闇の中でただただ彷徨う。右も左も、前も後ろも、上も下もわからない。

「―――――」

 だが、突如その闇に変化が生じた。

 吸い込まれてゆく。今度は闇から自分へ。全ての感覚が闇から帰ってくる。

「・・・・・・っ」

 目を開けた。いや、正確には元から開いていたのだろうか。瞼を開くような感じではなく、目に光が戻ったと表現すべきか。

 光が戻り目に飛び込んできたのは、あの金髪の少女だった。

「気がつきましたか?」

 少女は覗き込むようにこちらを見ていた。

「・・・・・・ああ」

 まだ感覚が戻りきっていないのか、発した言葉に違和感を覚える。

 しかし、手も足もきちんとある。アスファルトの冷たさとごつごつしたものの感覚もわかるから、触覚も戻っているはずだ。

「んっ」

 少女の髪を照らす太陽が眩しい。

 目の前に少女の顔。その後ろに空と太陽がある。ということは、今は仰向けになっているということか。何とかして起き上がりたいが、目の前に少女がいるのでそれは無理そうだ。

「まだ全身に魔力と生命力が完全に行渡っていないので、もう少しそのままでいた方が良いですよ」

 そんな俺を察したのか、少女は起き上がろうとする俺の身体を優しく押さえた。

 少女は軽く触っているだけなのに、身体はまったく動かない。思っている以上に、この身体は俺ではなくなっているのであろう。妙に息苦しく、全身に枷が付いているようだ。

「少し寝心地は悪いかもしれませんが、暫く安静にしていてください。その方が早く良くなると思います」

 そう少女は言うと、その小さくて綺麗な手を俺の胸に当て何かを呟いた。すると少女の手が輝き始め、それは俺の身体の中へと入っていった。

「安心してください、変なものではありません。それは私の魔力と生命力の塊のようなものです。魔力の循環は心臓に一番負担をかけるので、私の魔力と生命力で補っているのです」

 そういえば、心なしか息苦しさがなくなっている。しかし、身体の感覚はまだ元には戻らないようだ。

「それにしても、あなたの絶対魔力量の多さには驚きを隠せませんでした」

 少女は手を離すと、その手を自分のひざの上に置き正座するようにした。

「それって、俺の持ってる魔力の絶対値、ってこと?」

「はい、人は生まれたときからその身に宿す魔力の量が決まっています。その量が多ければ多いほど使える魔法の量も増え、あらゆる面において優位に立てるのです」

 しかし、親から子へ魔力を受け継ぐのは、決まって女児であるとされているらしい。男は受け継ぐのではなく後天的に会得していくものらしい。

「あなたの魔力は私のそれを上回っています。男であるあなたがこれだけの魔力を得るには、人の一生を費やしても不可能です」

「でも、現に俺はそうなってるわけだよな」

「はい、だから驚いているのです。そもそも、この星の人たちは魔力の絶対値が少ないわけですから、例えあなたが女性であったとしてもこれほどまでに魔力の絶対値が多いのは不可思議です」

 男であるから、という以前に地球に住むものとして、この魔力値はおかしいということか。

『マスター、無事ですか?』

 と、不意に頭の中にルースの声が響いた。

『まぁ、無事じゃなきゃこのテレパシーは聞こえてないけどね』

『あなたはいつも一言多いですね』

『姉さんには言われたくないね。姉さんだっていつも一言多いくせに』

 なんだなんだ、えらく微笑ましい会話が聞こえてくるぞ。

「えっと、一応俺は大丈夫だけど・・・・・・」

『そうですか、それはよかったです。アレスも無事にドディックジュエリを回収できたようです』

 そういえばそんな話だったな、と今更ながらに思い出す。

『なっ、どさくさに紛れて卑怯じゃないかい』

『そんなことを言っている場合ではないでしょう。アレを放置したままのほうがよほど危険なのですから』

『そりゃそうだけどさ・・・・・・』

 ブイオは何か良いたそうだが、ルースのもっともらしい意見に反論できずにいた。

「ブイオ、一番重要なのはここに住む人たちを危険にさらさないことです。今は争うときではありません」

『わかってるさ。ただ、姉さんの意地が前に会った時以上に悪くなってると思ってね』

『そんなことはありませんよ。それよりも、ブイオこそ傲慢さが増しているように思いますが』

 皮肉に皮肉で返す姉妹たち。

『まぁ、ここで言い争っても仕方ないか。早くアタシを迎えに来てくれないかい?』

 と、ブイオが少女に言うので、自分もルースを迎えに行かなければいけないことを思い出した。

「よし、身体はなんとか動くな」

 仰向けになっていた身体を起こし、自らの身体を確認する。若干の違和感はあるが、問題なく動かせる。

「ありがとな、おかげで助かったよ」

 少女に軽く礼をすると、少女も立ち上がり手をこちらに向け伸ばした。

「いいえ、礼には及びません。あと、これを」

 その手には小さな黄色の宝石が乗っていた。

「これは?」

「お守りのようなものです。では、私はブイオを迎えに行くので」

 少女から宝石を受け取ると、彼女は一息に空へと飛び立った。それを追うように俺も空へと飛んだが、すでに少女の姿は無かった。


『お守り、ですか。これはまた、随分と怪しいものを渡していきましたね』

 少女と別れた後ルースのいる学校近くの路地裏に向かうと、そこにはすでにアレスがいた。ドディックジュエリを無事に回収し、先にルースと合流していたようだ。

 その帰り道で、少女に渡されたお守り(少女の言)についてルースと話していたのだが

『しかし、見たところ普通の宝石ですし、中に込められた魔力も魔法も別段怪しいものではありませんね』

 と、言葉とは裏腹に、更に怪しむ声で話した。

『一体、どのような意図でこれをマスターに渡したのでしょうか』

「怪しいところが無いのがよりいっそう怪しいね」

 二人は言うが、あの少女のことだし、その名の通りただのお守りだと思う。少女のことはまったくわからないけど、あの子が口にする言葉はそれだけの意味しかない気がする。口にした言葉に他意が無いような話し方だ、とこの数回の対面だけでも思えるのだ。

「それは私も思ったかな。でも、こういうものには疑ってかからないとダメなんだよ、って偉い人が言ってた」

 お前も十分偉い人だろ、と。

『この宝石に何の仕掛けも無いのは事実ですし、ありがたく頂いて起きましょう。タダより高いものはありませんよ』

 この人はいつからそんな庶民的な言葉を使うようになったんだ。と心の中で思いながらも同意する自分であった。

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