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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
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町の危機

 目指した先は町の先にある小さな砂浜である。まだ6月なので人は全くいないが、ここはシーズンになると海水浴目当ての客で大賑わいになる。流石に新聞やニュースにあるような事はないが、それでも毎年かなりの人数はこの砂浜に遊びに来ている。

『あの小さな砂山のところです』

 それは自然にできたにしては良くできている小さな砂山だった。ここで子供たちでも遊んでいたのだろうか。

『おっと、また会っちまったね』

 上空からの声。正体は分かっている。あの少女のゲレータ、ブイオだ。見上げると、少女がゆっくりと降りてきた。

『探しているものが同じですからね、当然でしょう』

 ルースはいつも通り淡々と話した。

『ところで、その趣味の悪い登場の仕方はやめてもらえませんか』

『なに言ってるんだい姉さん。確かにアタシたちは戦うつもりは無い、って言ったけど、これが戦争である以上最善の注意をする。この状況で気配を隠すのは常套手段だろ?』

 当然だろう、というブイオの言葉にルースは頷き返した。

『そうでしたね、油断していたのは私のほうでした』

 と返すルースにブイオはため息混じりに言った。

『まったく、姉さんは堅苦しいんだから。もっと気楽にいきなよ』

『これが私の生き方ですから、あなたに言われる筋合いはありません。それよりも、あなた達は何か進展がありましたか?』

 ルースは気にする様子も無く続けた。

「その感じですと、あなた方も進展は無いようですね」

 少女は静かに答えた。

「私たちもあれから何度か見つけたのですが、結局この「不可思議なもの」の正体は掴めませんでした」

『こりゃもう地道に探したほうが早いんじゃないか? こうしている間にも、この訳の分からないモンが増えてるわけだし、その対処法も分からないってなると、後で大変なことになるかもしれない』

 ブイオの言う通りだった。このまま何の解決策も無く、無闇にこの「有る」のに「無い」ものを探し続けても意味は無い。このままだと、後手どころか取り返しのつかないことにだってなるかもしれない。それならば、彼女の言う通りに地道に探すのが最良の手なのかもしれない。

 だとしても、どうすれば見つけられるのか。結局のところ、今までも地道に探した結果、暴走しているドディックジュエリに遭遇しただけで、一度も探し当てたことはない。万が一、見つけることができたとしても、それが今のこの状況を作り出している本体である可能性は低い。残り九個のうちの一つを見つけ出すのは至難の業だ。

 もしも、この状況がドディックジュエリの暴走であるなら、僅かな反応でもあるはずなのに、それが今回は無い。それはコイツのせいなのか、それとも別の何かが要因なのか。

「―――――いっ!」

 急に右手が痺れる感覚に襲われた。小さな電流が走ったような、そんな感じ。

「つきクン、どうかしたの?」

「あ、いや、なんか静電気みたいなのが走っただけだよ」

 別段、大したことではない。ただの自然現象である。

『静電気ですか。マスター、それは本当に静電気でしたか?』

 と、妙な聞き方をするルースにどういうことか尋ねた。

『いえ、ただの静電気ならそれでいいのですが、もしそれが魔法的要因であるのなら見逃せないことですから』

 確かに、この状況ならどんなことにも疑って掛かるべきだろう。しかし、どうもこうもただの静電気が流れたようにしか感じなかった。

『それならば、直前の行動をよく思い出してみてください』

 直前の行動、と言われても突然のことであまり覚えてはいない。

 この不可思議な反応のことを考えていて、それで急に電流が流れて・・・・・・

「・・・・・・」

 何気なしに手を伸ばした。すると、また電流のようなものが流れた。指が震えるように勝手に動く。今度はずっと流れている。手を戻すと電流は収まった。

 この場所が電流の流れるポイントなのだろうか。もう一度同じ場所に手をやると、やはり電流が流れた。

「ここに手を当てると電流が流れるんだけど」

「「・・・・・・」」

『『――――――』』

 いや、皆して固まらないでくれ。

『マスター、その電流が流れる場所というのは本当にそこなのですか?』

「あ、ああ、そうだけど」

 と言うと、ルースとブイオは声をそろえるようにして言った。

『その場所は「有る」のに「無い」と感じ取れる「有る」の部分です』

『「有る」と「無い」は別々に分かれて存在していないんだけど、その部分だけ「有る」と「無い」が分かれてるんだ』

『それが私達にそのモノを「有る」と感じ取らせている部分』

『けど、その部分からは何の魔力も感じることができないんだよ。勿論、周りからもだけどね』

 交互に話す彼女達は、まるで壊れたステレオテレビのように聞こえた。

「つまり・・・・・・どういうこと?」

 よく分からない、という風にした俺に少女が答えた。

「つまり、魔法的要因が無いその「不可思議なもの」にあなたは手を触れることによって何らかの干渉を受けることができた。それが意味するものは、「不可思議なもの」の正体が、魔力の無い魔法で作られたものだということです」

 魔力の無い魔法で作られたもの。それは一体どういうものなのか。この世の全てのものには魔力が存在していているのではないのか。

「例えばね、ほら、この二つの印を見てみて」

 と、アレスは砂浜に二つのバツ印を書いた。

「一つは私が指で書いたもの、もう一つは魔力で砂を削って書いたもの。ここにある二つのバツ印は違う方法で書いたけど、二つとも同じもの。つまり、指で書いても魔法で書いても、違いは無いってこと」

「ということは、この電流が流れる場所は魔力で削った場所ってことか?」

「そういうこと。ここに電流が流れるのは、本来削りえない空間が削り取られ、印として残っているから。つきクンは削り取った空間って触ったことある?」

 アレスの問いに首を振って答えた。

「でしょ、普通そんな物存在しないからね。つきクンの言う電流が流れるって言うのが、空間を削り取った場所を触った感覚、ってこと」

 なんとなく掴めてきた。魔力で削った部分には魔力は残らないけど、本来削ることのできない空間を削ったからみんなはここに何かあると感じていた。そして、電流が流れたって言うのは、その場所の触れた感触ってことか。

「それにしても、よくこの場所に触れることができましたね。こんなに小さなもの、意識しても触れることは難しいのに」

 と、少女は俺の触れていた、電流の流れる場所に手を出した。

「・・・・・・やはり、難しいですね。あなたの言う電流が流れるという感触はなかなか掴めません」

「そんなに難しいのか?」

「ええ、固定されているのならともかく、少しずつですが動いているのです。こんな、目では識別できない、それこそウィルスか何かくらいの大きさのものを手で触れるなんてことは、至難の業でしょう」

「うお、そんなに小さいものだったのか」

 少女に聞かされ、そんなものによく触れたなと自分で感心する。

『で、これを姉さんはどう思う?』

『コレの正体が単なる目印と分かった今、考えられるものはいくつかありますが、これほどの広範囲に渡って展開されているのですから、最悪な状態を前提に考えるべきでしょう』

『となると、やっぱあの時と同じ類のやつかねぇ』

 あの時とは十六年前に起きた事件のことだろうか。ゲレータの二人はその当時のことについて話した。

 ドディックジュエリを探していた二人の少女、つまりここにいる二人の母親は同じくこの不可思議な印を見つけたらしい。印自体にも魔法効果があり、範囲も狭かった。だから、素早く対処もできた。

『今回のその印が、前回のものと同じ類である場合、かなり危険な状況にあるといえます』

 ルースのその声はいつになく真剣であった。

「そんなにやばいのか?」

『やばい、なんてものではありません。前回のアレは魔法が発動していたら、その空間が消滅していました』

「消・・・滅・・・・・・?」

 消滅。全てが消え去る。

 想像ができない。それが起きるということが。

『今回も同じだと言い切れませんが、原因が同じものである以上そう仮定したほうがよいでしょう。ブイオ、あなたが見つけたその印の場所を教えてもらえますか』

『はいよ、今そっちに情報を送るよ』

 少女のゲレータは一言答えると、ルースに向けて何か光のようなものを当てた。

「それは?」

『アタシ達が見つけた印とその場所が書いてある地図をデータ化したものを姉さんに送ってるんだよ』

 ブイオが言い終ると同時にその光は消え、ルースは地図を持ってくるように言った。

 そんなことを急に言われても持っているわけがない、と思っていたら

「私が持っています」

 と少女は綺麗に折りたたまれた一枚の地図を胸元から取り出し広げた。

『私の言うところに印を付けていってください』

 言われたとおりに少女は印を付けていき、地図に六つの点が出来上がった。付けられた印には特に規則性があるようには見えず、手がかりらしいものはないように思えた。

『場所は双子山の格頂上に二つ、商店街、砂浜、住宅街、川。何か意味のあるものに見えますか?』

 ルースは全員に問うようにした。

「一応、山の名前は昇日山のぼりびやま日暮山ひぐれざんで、この砂浜は深先浜みさきはま、川が流星河りゅうせいがわだな。意味があるかどうかはわからんが」

 印のついた場所の名前を挙げたが、どうも関係がないように感じる。

「印のある場所自体に意味は無いのでしょう。ただ単なる目印である以上、何かを象っていたりするのではないでしょうか」

 と、少女は地図の印を指していった。

『そう捕らえるのが妥当でしょうね。しかし、その形と範囲が分からなければどうしようもありません』

「なぁ、その形ってやつは何かの文様だったりするのか」

『何か、と言いますと?』

「ほら、よく魔方陣とかに使われてる星みたいな形の」

 漫画やアニメの世界の魔法使いが魔法を使うとき、必ずと言っていいほど魔法陣が出てくる。その魔法陣に描かれている星の形をしたものは実際に使われているのだろうか。

『五芒星や六芒星、七芒星といったもののことですか?』

「そうそれ」

『確かに、魔法を使用する際に予め描いた魔法陣を利用することで、魔力の増強や魔法そのもの発動起因にすることはあります。ですから、この印が何かを象っているのなら、そういったものである可能性が高いでしょう』

 とルースは言った。しかし、この印をどう見ても、その五芒星とかそういったものを象っているようには見えない。

『地上に魔法陣を書く場合は北側が上ですよ』

 というので、その通りに実際にその五芒星や六芒星を地図に書き込んで見るが、全く印と重ならなかった。

「他に文様とかってあるのか?」

『ないことはありませんが・・・・・・ブイオ、あなたならこの地域一体を消滅させるとして、どのように魔法を発動させますか?』

『どのように、ねぇ。ただ純粋に破壊するだけならどんな魔法でもできるけど、それじゃあ無いんだろ?』

 と聞くブイオに、少女が代わって答えた。

「破壊ではなく消滅。この点を考えるなら魔法陣は必要不可欠になります。消滅の魔法は本来、極小範囲にしか効果の無いものです。例えどのような魔法使いでも、その範囲を広げることはできません。しかし、魔法陣を使うとなると話は別です。かなり大掛かりな魔法になりますが、範囲を意図的に広げることが可能です。広ければ広いほど、時間は掛かりますが。そして、それに必要な魔法陣はただ一つ」

 逆五芒星デビルスター

 天使を表すとされる五芒星エンジェルスターの対となるもの。悪魔の顔、逆五芒星デビルスターは悪魔を召喚するものといわれている。実際は悪魔を召喚するものではなく、魔法の威力そのものを増幅させるための陣。ただ、それだけの手段。

逆五芒星デビルスターは、ただ単純に魔法の「破壊」という部分を増幅させるためのものです。そして、「破壊」の意味を持たない消滅の魔法に使用すると、消滅させる部位を大きくする。それは、魔法陣が大きければ大きいほどに広がります」

 今回のドディックジュエリが起こそうとしている魔法が消滅の魔法というのであれば、逆五芒星デビルスターである可能性が高いということである。

「ってことは、この五芒星を逆さまにして書けば・・・・・・」

 全てが繋がった。双子山の頂上、町の商店街、住宅街、深先浜、流星河。全ての印が逆五芒星デビルスターと重なった。

「印が各点と重なってるのか」

「はい、そして、これが消滅の魔法だと仮定するなら、重要なのはこの交点になります」

 少女は地図上の逆五芒星デビルスターの五つの交点を指して言った。

 もともと魔法陣は交点に魔力が溜まりやすいが、消滅の魔法の場合はこの交点が基点となる。この交点から外に広がるように消滅の順路が出来上がるらしい。

「つまり、この魔法を止めるのなら、この交点から流れる順路をそれぞれの交点で食い止める。それが最善の手段でしょう」

「それでなんとかできるんだな」

「はい。それに、この魔法が消滅の魔法でなかったとしても、魔力が増幅する交点を押さえることはとても重要になります」

 少女は地図を丁寧に折りたたむと、それを胸ポケットにしまった。

「でも、俺の知ってる魔法陣となんか違うな」

「それはそうでしょう。星が違えば意味が変わる。同じものが存在したとしても、全く同じものなんて存在しえませんから」

 確かに少女の言う通りだが、彼女達の使うモノはこの世界に存在しているモノに近いものがいくつもある。特にこの魔法陣なんかは絵柄が全く同じで、俺の知っている魔法陣とは意味が違うというだけ。それは大きな差なんだろうけど、やはり気になってしまう。何かしらの関係があるのだろうかと。

「さて、これでやることは決まりましたね。ちょうど人数も五人ですし、なんとかなるでしょう」

 そんなことを考えていると、少女がなにやら作戦を立てていた。

「五人・・・・・・? えーっと、俺と君とアレス―――――ルースとブイオも入ってるの?」

「そうですけど何か?」

 少女は不思議そうに見つめた。

 いや、彼女がなんとかなると言うのだから、なんとかなるのだろう。

「では、参りましょう。いつこの魔法が発動されるか分かりませんから」

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