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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
18/74

初めての・・・?

「そ、そうだ、千草は!?」

 しばらく、ボーっとしていると、ふと現実に戻されるように思い出した。

「大丈夫、そこにいるよ」

 アレスに言われて、近くの塀にもたれかかっている千草を見つけた。

「はぁ、なんとか大丈夫みたいだな」

 脈もあるし、息もしている。どうやら気絶しているだけのようだ。

 いつの間にか結界も解け、あの重苦しい感覚は無くなっていた。日は傾き、夕焼けがビル群に反射し眩しい。

「あの子は一体、何者だったんだろう」

 ほんの数分前の出来事。黄金こがねに輝く美しい少女。あの金髪の少女が頭から離れなれず、目にしっかりと焼きついていた。

『彼女たちについては、後ほどお話します。ですが、今は千草凪の回復を優先しましょう』

 ルースは金髪の少女、そして、もう一つの声の主を知っているようだった。しかし、彼女の言うとおり、千草を回復させてやるほうが先だ。

「でも、回復ってどうやってすりゃいいんだ?」

 ゲームのように回復魔法が使えるわけでもなし、そもそも、外傷が無いのにどこをどう回復させるのかわからない。

『そうですね、一番手っ取り早いのは』

「手っ取り早いのは?」

『接吻です』

「せっ! っぷ!?」

 何をおっしゃってるんでやがりますか、この人は!?

 いや、まて、落ち着いて考えるんだ。ルースは冗談を言うような奴じゃないことくらい分かっている。そう、コレにも意味はあるはずだ。

「えっと、それにはどんな効果が?」

『自分の魔力を相手に流し込むことができます。彼女の衰弱の原因は、極端な魔力の消耗です。生命力と同等である魔力を消費すれば衰弱するのは道理。ですから、マスターの魔力を彼女に与えることによって、その生命力を回復するわけです』

「な、なるほど、そういうことなら仕方が無いよな」

 そう、仕方が無い。コレは仕方の無いことなのだ。彼女を助けるにはコレしかないのだ。

 何度も自分に言い聞かせ、そっと彼女を抱き寄せた。

「うっ・・・・・・」

 ドクンと心臓が跳ね上がる。その鼓動は急激に早くなる。

 顔が、耳が、燃えるように熱い。たぶん、かなり真っ赤になっている筈だ。

 こんなにも近くで彼女の顔を見るのは初めてだ。いや、彼女だからというのではなく、女の子をこうして抱きかかえ、更には顔を近づけキスまでしようとしているのだ。緊張しないわけが無い。

「・・・・・・」

 千草は静かに眼を閉じているが、呼吸は少し乱れ、額からは汗が流れていた。それを見ると、緊張している自分が馬鹿らしくなる。こんなにも彼女は苦しんでいるんだ。何を躊躇う必要がある。

「い、いくぞ」

 誰に発した言葉なのか、本人もわからない。

 徐々に千草の顔が近付いてくる。

 彼女の口から漏れる息が顔に掛かる。

「―――――っ」

 彼女の唇はとても柔らかそうで、その、なんていうか、ごめんなさい。

『他にも丹田に流し込むという方法がありますが』

「早く言えっ!」


 ―――――臍の下三寸に指を当てる。・・・・・・臍の下三寸ってどこ?

『大体で構いません。指を当てたら指先に魔力を送ってください』

「と言われても、どうしたらいいのかわからん」

 横に寝かした千草の臍下に指を当てたまま、どうしたら良いのかわからず硬直する。傍から見れば実におかしな光景だろう。

 いや、眠っている女の子の服を捲り、臍に手を当てている光景は誰が見ても犯罪の匂いしかしない。早いトコ済まさなければ、警察のお世話になってしまう。

『先日のマスターがやったような、魔力の弾を作るような感覚です。意識を指先に集中させて、そこに小さな魔力の塊を造ってみてください』

 言われるがままにやってみるが、果たしてうまくいくのだろうか。

「指先に意識を集中。小さな魔力の塊を作る」

 千草の肌に触れている部分に全神経を集中させ、そこに魔力の塊を作る。

「―――――!」

 瞬間、指先から何かが抜き取られるような感覚があった。

 思わず指を離してしまったが、大丈夫なのだろうか。

「・・・・ん・・・・」

 だが、その心配は不要だったようで、千草の顔色はみるみる良くなっていき、呼吸も元に戻ったようだ。

「ひとまず安心だな」

 しかし、このまま道路で寝かせたまま、というわけにはいかない。かと言って、彼女の家まで運ぶことも出来ない。なにせ彼女の家の場所を知らないのだ。知らないものはどうしようもない。

「さて、どうしてものか ――――― ん?」

 千草の腕がすっと少し動き、胸元へと移動していった。

「起きた、わけじゃないか」

 彼女の目は閉じているし、すぅと寝息も立てている。

「・・・ん・・・・う・・・・」

 だが、どこか苦しそうな雰囲気である。さっきのとは違う、寝苦しそうな感じだ。

「ぁ・・・・・っ・・・・」

「・・・・・・?」

 よく見ると、また額から汗が滲み出ていた。それどころか体中に汗をかいているようだ。シャツがべっとりと体にくっついて、肌がうっすらと見えている。

「・・・あ、つい・・・」

 と、胸元にあった手で、おもむろにシャツのボタンを外し始めた。

「わっ、ちょ、まった!」

 僅かに開いた胸元をなるべく見ないようにして彼女の手をつかんだ。

「ふぅ、危ない危ない」

 危うく本人の意思とは無関係に、彼女の裸を見てしまうところだった。

「・・・ぅ・・・ぁつい・・・・」

 と言われても、どうしようもない。

「あつい・・・・アツイ、あつい、暑い・・・・・」

 千草はうなされる様に、何度も同じ言葉を呟いている。

「だー! 暑い!! 暑すぎる!!!」

「のわっ」

 ついには俺の腕を跳ね除け、勢い良く立ち上がった。

「って、あれ?」

 起き上がった千草は、周りをきょろきょろと見渡した後、自分の手を見て呟いた。

「元に、戻ってる?」

 千草は不思議そうな顔をして自分の身体を確かめていた。

「よう、おはようさん」

「あ、高村君。えっと、私、どうなったの?」

 どうなったの? と、聞かれても答えるすべが無い。ありのままを伝えても意味不明だろうし、そもそも、信じられないだろう。

「ねえ、私、高村君に何かした?」

「な、何かって?」

 聞かれてまごつくが、彼女自身はさっきの出来事を覚えていないようだ。

「具体的には言えないけど、さっき高村君とぶつかった時、なんかすごく嫌な感じだったの」

「嫌な感じ?」

 聞き返すと、千草は答えた。

「そう、自分じゃない誰かの殺気みたいなもの。確かにそれは自分の中にあって、でも、それは私じゃない誰かの感情。それも、普通じゃないほどの」

 言うと、千草は恐ろしいものを見たように顔を強張らせた。

「あんなにはっきりとした殺意は初めてだった。それが高村君に向けられていて、すごく怖かった」

「そうか、だからあの時「逃げて」って言ったのか」

 それは、千草が闇に囚われる直前のことだった。立っているのもやっとな彼女が発した言葉。その感情はドディックジュエリによるものなのか。そもそも、石に感情があるのか。やはり分からないことが多すぎる。

「その後のことが全然覚えてなくて、もしかしたら、高村君を傷つけたんじゃないかって」

「いや、千草の思ってるようなことは無かったぜ」

 ものすごく危なかったのは確かだが、幸い、というか、辛くも無傷だった。

「そっか、よかった」

 それを聞くと、千草はホッと胸をなでおろした。

「誰の感情かもわからないもので、友達を傷つけるなんて絶対にしたくなかったから」

「そうだな、千草の腕前なら、俺なんかひとたまりも無かっただろうな」

 事実、ひとたまりも無くなりそうだった。

「な! なによ、私だってか弱い乙女なんだから、男の子には負けるわよ」

 いや、か弱い乙女とは到底思えない強さだった。とは、口が裂けても言えない。

「まぁでも、お前が無事でホントに良かったよ」

「今更そんなこと言ってもダメですよー。――――― あ、でも、私の身体に触ってたことは許してあげよっかな」

「ぶぉっふ!」

 なんで気を失っていた千草がそんなことを知っているんだ。あれは事故のようなもので、決して疚しい気持ちがあったわけではなく、いや、男である以上無かったわけではないが、ってかそんなことは関係ないわけで。

「んっふふふ、じゃあそういうことで、またね」

「な、あ、おい」

 千草はいたずらな笑みを浮かべ、去っていった。

「あいつ、気付いてたのか?」

『いえ、魔力の消耗で気を失っていたのは確かです』

「だよな」

 自分自身で確かめたのだから、当然である。

「まぁ、そこは気にすることでもないか」

『ええ、今は家に戻って身体を休めてください』

 ルースの言うとおり、早く家に帰って休みたい。魔力をたくさん使ったのか、それともただの運動不足か、今日も前のようにくたくたである。

 それにあの少女のことも気になる。黄金色の流れる髪と人形のように整った顔が、今でも脳裏に焼きついている。彼女は一体何者なのか、ルースとアレスなら何か知っているだろう。向こうもこっちのことを知っているみたいだったし、何か関係があるのかもしれない。

「ん~、すげぇ身体がだるい」

 ともかく、帰って寝たい。その一言に尽きる。






「―――――ふぅ」

 どれくらい走っただろうか。振り返っても少年はもう見えない。

 お腹を軽くさすった。臍の下、いわゆる丹田というところが熱くなっている。簡単に説明すると、丹田とは元気の出る源である。呼吸法とか色々あるが、詳しくは知らない。ただ、ここに力を入れると「すごい」というのは知っている。

 あの時なにが起きたのか、それはわからないが、恐らくは彼が助けてくれたのだろう、ということはわかる。

 それよりも、だ。記憶を失っていた間の出来事。いったい何があったのか。身体が妙に軋む。変な動き方でもしたのか、普段は全く使わないところが痛む。彼は何も無かったというが、果たして事実なのだろうか。自分の中に存在した自分とは違う誰かの感情。明確な殺意。これが頭の中から離れない限り、彼の話は信じることは出来ない。

「でも、高村君は無事だったわけだし、本当に何も無かったのならそれでいいんだけど」

 もう一度、熱くなったお腹を触った。こんなにも熱くなるものなのか。先ほどから体中が焼けるように熱い。それに、いつもよりなんだか身体が軽い気がする。

 彼に秘められた謎のパワーが私を強くする。

「・・・・・・いや、無いな」

 それとも、この身体の熱はこのことだけが原因じゃないのか? 今の私にはわからない。


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