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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
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千草凪という少女 2

 何かがおかしい。

 いつものように学校に登校し、いつものように席に着いた。そして、いつものようにホームルームまでの時間を適当に過ごした・・・・はずだったが、いつの間にやら妙な感覚に身体が襲われていた。

 何がおかしいのかわからない。だが、明らかに違和感ある。今日、初めて教室に入ったときは感じなかった違和感を、今はひしひしと感じている。

 この感覚はいったいなんだろうか。

「        !」

 まさか、この教室内にアレがあるのだろうか。となるとかなりまずい状況である。ルースもアレスもこの違和感には気付いていないようだ。

「    !     !!」


 バシッ!


「いてっ!」

 まるでハリセンか何かで叩かれたように、頭が良い音を立てた。

「こら、高村。聞いているのか?」

「あ・・・・」

 叩かれた頭を押さえ上を見ると、そこには出席簿を片手にポンポンと手で叩く、鋭いまなざしの先生がいた。

「まったく、いるなら返事をしろ」

「す、すいません、ちょっと考え事を」

「ほう、珍しいな、高村が考え事か。考えるということはとても大事なことだ。だが、今はそのときではない、わかるな?」

 言われたことは至極当然のことだが、なぜこんなにも威圧感があるのだろう。最近、先生からのあたりが厳しい気がするのだが気のせいだろうか。

「う・・・・了解です」

「わかれば宜しい。はい、じゃあ次。千草凪さん・・・・」

 踵を返し教卓へと戻っていく先生。しかし、彼女の返事は無かった。

「・・・・え!?」

 先生が声を上げる。それどころか、クラス中が驚きの声でどよめいていた。俺もそのなかの一人である。

 なるほど、先ほどから感じている違和感はこれが原因か。

「千草が・・・休み・・・・・・だと・・・!?」

 先生の驚きようは半端ではなかった。


 ―――――少し昔の話をしよう。

 彼女は普通の学園生活を送り、部活動にも所属し普通の女子中学生として日々を過ごしていた。

 ある日の出来事。

 たしかマラソン大会の翌日だったか。その日はとても寒かった。今年一番の寒さ、とニュースでやっていたのを覚えている。マラソン大会の翌日ということもあり、欠席者も多かった。

 彼女はいつものように登校し、自分の席に着いた。しかし、どう見ても様子がおかしい。

 マスクをつけ、防寒着を身にまといながらも、顔を真っ赤にし、ふらふらと足がおぼつかなかったからだ。

「お、おい大丈夫か?」

 自分の席でぐったりとつぶれている千草に声をかけた。

「・・・・・・」

 千草は重たそうに顔をあげ、じー、とこちらを見つめる。が、それだけでまったく反応が無い。

 そして・・・・・・


 バタン!


「・・・・・・!」

 そのまま前へ倒れ、机へと顔を打ちつけピクリとも動かなくなった。

「ち、千草!」

 その後、千草は病院に運ばれ治療を受けたのだが、

「わたし、このまま、じゃ・・・・・・皆勤賞が無くなる!」

 と、医者をすっ飛ばして学校に戻ろうとしたらしい。

 もちろん駆けつけた親や看護師に止められた。

 あとで聞いた話によると、千草はインフルエンザにかかっていたらしい。恐らく前日のマラソン大会で感染うつったのでは、と本人は話した。

 さらに彼女はこうも言った。

「インフルエンザって事は公欠だよね? よしっ、これでまだ皆勤賞を狙える!」

 これにはクラス中の皆が呆れ返っていた。

 つまり何が言いたいかというと、彼女が学校を休むなんて事はあり得ない! ということだ。彼女ならたとえ何が起ころうと学校に来るだろう。それでも学校に来ていないということは、よっぽどの「何か」が彼女の身に起きたということである。

「ん~、欠席の連絡もきてないか。千草にかぎってサボりは無いと思うが・・・」

 先生は出席簿にチェックをいれた。

「あとで連絡するか・・・・・・では次、堤・・・・」





 ―――――放課後

 結局、千草が学校に来ることはなかった。

 先生の話によると、千草はいつもどおりの時間に家を出た、と親御さんに確認が取れたらしい。とすると、単なるサボりか、なにか事件に巻き込まれたか。

 千草の性格からして前者は考えにくい。ということは、本当に千草の身に何か起こったのか。

『気になりますか?』

 ホームルームの後、ボーっと考えている俺にルースが話しかけてきた。

「ん? まぁな」

 その問いかけに空返事で返す。

『おや、その様子ではさほど気にした風ではありませんね?』

「千草のことは気になるけど、ただ学校を休んだってだけだからな。深く考えるのもどうかと思う」

 しまい忘れていた教科書を鞄に入れながら言った。

『そうですか。では、ひとつ忠告です』

「忠告?」

 聞きかえすと、彼女は声色を変えずに続けた。

『ドディックジュエリの影響は、いつ、どこで、どのような影響を及ぼすか、それは未だにわかっていません。先日のように、ただ単に暴走しわたしたちを襲ってくることもありますし、嵐や津波などの天災も引き起こします。また何かモノに寄生、憑依し、意思を持つこともあります。モノとは、たとえば動物や植物、はたまたその辺に転がっている空き缶。全てのモノに寄生、憑依します。意図はわかりませんが、いずれにせよ、わたしたちにとっては脅威以外の何物でもありません』

「お、おい! もしかして千草がその寄生とか憑依ってやつの対象になったってことか?」

 その返答にルースは「いいえ」と答えたが、それはあまり自信のない答えだった。

『・・・・ですが、可能性はあります』

「・・・・・・!」

 そして、彼女は答えた。

『あくまでも可能性の話です。今まで人間に寄生、憑依したということは一度もありませんし、そもそも、そんなことは有り得ない話です。パーセンテージで表すなら1パーセントにも満たない数字です』

 だとしても、千草が絶対に寄生されていないとは言い切れない。

『大丈夫ですよ。今のところドディックジュエリの反応は出ていません。仮に彼女が寄生されたのだとしたら、すでに反応が出ているはずです。しかし、今はそれが感じられないということは、現時点ではドディックジュエリは暴走すらしていないということです』

「本当に、大丈夫なのか?」

『ええ、大丈夫です』

 ゆっくりと静かに彼女は返事をした。

『ですが油断しないことです。最初に言ったとおり、ドディックジュエリは不明瞭な点が多すぎます。どのような事態が起こるか見当もつきません。あなたの言う「守りたいもの」がそれに犯されぬよう、常に警戒してください』

 ルースは最後に、警告とも取れる言葉で締めた。







 外から吹きつける風が、教室の窓の隙間を流れヒューっと音を鳴らした。

 ふと周りを見ると教室の中には俺を含め数人しかいなかった。俺たちが話をしている間に皆帰ったのだろう。

『私たちもそろそろ行きましょうか』

 静かな教室に自分にしか聞こえない彼女の声が響いた。

 行く、というのは勿論、駅前のことだろう。昨日から始まった駅前探索だが、早くも嫌気が差すほどのダルさが身体を襲っていた。

 しかし、そんなことを言っている場合ではない。何が起こるかわからないあの石を放っておくわけにはいかない。どんなに辛くてもやらなきゃいけない。今それを出来るのは俺一人だけなのだから。

「ああ、そうだな。それに、千草のことも気になるし・・・・」

『おや、気にしていないのではなかったのですか?』

 それに対してルースは、しれっとした言葉で返した。

「そりゃお前にあんだけ脅されりゃ気にもなるさ」

『別に脅したつもりはないのですけどね。私はただ単に事実を言っただけですから』

 先ほどとは打って変わって、今度はいつもの真面目な声で言った。

『ともかく、早く移動することをお勧めします。また、何か嫌な予感がするので・・・・』

「それって、昨日の「有るのに無い」ってやつか?」

『ええ。正確にはそれに近いような何か。もしくは全く同じで違う何か』

 彼女は昨日と同じく、辻褄の合わない言葉を発した。

『・・・・こんなことは私も初めてです。ドディックジュエリがどのような影響を及ぼすものか分からない、と言っても、私はずっとアレを見てきた身。ましてや先の戦いでその能力を一部とは言え見たのです。それなのに私は何も理解できていなかった。

 ―――――歯がゆいですね。何かが起きてからでは遅い。私たちでは到底対応できないことが起きるかもしれない。そんなことは絶対に避けるべき。分かっているのに、それをすることはかなわない。

 だとしても、私たちのやることは変わりません。慎重に、そして、最善の注意を払っていきましょう』

 何度目の忠告だろうか、彼女からその言葉を聞くのは。出会って間もないにもかかわらず忠告の言葉は脳内にこびり付くほどに聞かされた。

 そして、それは当然理解している。しかし、理解しているだけではどうにもならない。

 闇雲に探しても見つかるわけも無く、見当をつけたころで反応すらしないものを見つけるのは無理な話である。

『しかし、それでも、私たちはやらなければいけない。それが私のやるべきことですから』

「だな、俺たちがやらなきゃ誰がやるんだって話だ」

 そう、出来る出来ないじゃない、やらなきゃいけない。他の誰でもない自分自身にしか出来ないことなのだから。

「・・・・ごめんね、つきクン。私がこんなことになってなければ、つきクンを巻き込まずに済んだのに」

 鞄から僅かに覗かせた顔は、ものすごく申し訳なさそうな顔だった。

「そんな顔すんなって。巻き込まれちまったもんは仕方がないだろ。お前に悪気があるわけじゃないんだ。だから、アレスが気にすることはないさ」

「でも―――――」

「でももヘチマもないぜ。こんなヘンなことに巻き込まれてウゼェ、なんてことも思ってなし、嫌々やらされてるわけでもない。俺はただ純粋にお前たちを助けたい、そう思うからこうしているんだ。自分からやるって言ってるんだ。アレスが気にする必要もないし、謝る必要もないよ」

「うん・・・・わかった。つきクンがそういうなら、気にしない」

 納得できていない、と言った感じだったが、それでもなんとか分かってくれたらしい。

「よし、それじゃ駅前探索に行くとしますか」

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