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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
12/74

千草凪という少女

「で、何か買うものは決めてあるの?」

 アレスはなんだかとても興味ありげに聞いた。

 風邪で休んだ入江舞のために、見舞いでもしようかと考えている旨を二人に伝え、ある場所へやってきた。

「ベタに果物でも買っていこうと思う」

 というか、それ以外の食い物で病人に良さそうなものが思いつかなかった。

『それで、なぜここなのですか?』

 ルースはいぶかしげに聞いた。

 彼女がそう言うのも無理はない。いま俺たちはケーキ屋の前にいるのだから。

 商店街の片隅にこじんまりと経営している。さして有名というわけでもないが、地元では知る人ぞ知る隠れ名店である。

 昔から誕生日とクリスマスはここのケーキを注文し食している。いわば常連だ。

「このケーキ屋はもう一つの顔があってだな、まぁ、見てれば分かるさ」

 店のドアを開け、レジにいたおばちゃんにペコリとおじぎをする。

「どうも、お久しぶりです」

「あらまぁ・・・・えっと、どちらさん?」

 って、覚えてないのか。

 俺が来るのは5年ぶりだから当然と言えば当然だが。

「俺ですよ、俺。高村月海、覚えてないっすか?」

 と言うと、おばちゃんは少し考えるようにして

「まあ、高村さんのところの・・・・そう、大きくなったわねぇ」

 と、優しく微笑み、久しぶりの来訪を歓迎してくれた。

「一人で来るなんて珍しいねぇ。それで、今日は何の用だい?」

「はい、実は舞が風邪をひいて寝込んだんで、それでお見舞いに何か果物でもと思って。」

「舞?」

 おばちゃんは誰だっけ、と首をかしげた。

「俺の幼馴染ですよ。たまに一緒に来てた・・・・」

 と、そこまで言って言葉をとめた。

 そういえば、あいつと一緒にここを訪れたことはあっただろうか? まぁいいだろう。幼馴染がいることは知っているはずだ。

「ああ、あの女の子のことかい? ――――― ああ、なるほど、へぇ~。」

 なにかに納得するように頷くおばちゃん。

「そういうことなら・・・・・これを持っていきなさい」

 どこからか取り出したバスケットに、これまたどこからか取り出した大量の果物を詰め込み、ほら、と俺に渡した。

「いや、さすがに多すぎますよ。それにそんなにお金もってないです」

「遠慮しなくっていいよ。これはおばさんからの餞別さ」

 あはは、と豪快に笑い飛ばし、肩をボンボンと叩かれた。

「いやぁ、いつまでも子供と思ってたけど、やることやってんのねぇ~」

 おばちゃんは何故か顔を赤らめながら言った。

「そ、そんなんじゃないっすよ」

「もう、恥ずかしがっちゃってぇ。はぁ~、若いっていいわねぇ~」

 そして羨ましそうに続けた。

「うちの主人なんか、年がら年中家の中でぼーっとしてるのよー。だんだんメタボになってくし、昔はかっこよかったんだけどねぇ。まぁ、働いてくれるだけマシなんだけどね、それ以外がてんでダメ男なのよ。この間なんかねぇ・・・・・・」

 おばちゃんはその後もご主人の不満を俺にぶつけ続けた。一体いつまで続くのだろうか。


『マスター、そろそろ出ないと遅くなりますよ』

 20分ほど経っただろうか。そろそろおばちゃんの小言にうんざりしてきたところに、ルースが程よく声を掛けた。

「それでね高校2年の夏休みに一緒に遊園地に行ったのよ。そのときにね・・・・」

「おばさん、そろそろ帰らないと・・・・」

 と、おばちゃんの言葉をさえぎった。

「ん? あら、ごめんなさいねぇ。ついつい話が進んじゃって。愛しのガールフレンドが待ってるものねえ」

だれが愛しのガールレンドだって?

「はいよ、これも持っていきな」

 おばちゃんはショートケーキ二切れを箱に詰め、それも俺に渡した。

「そんな、悪いですよ」

「なに遠慮してるんだい。いつもひいきにしてもらってるお礼だよ」

「じゃあ、せめてお金だけでも」

 じゃないと俺が母さん怒られる。

「いいよいいよ。さっき言ったでしょ、これは餞別だって。ちゃんと看病してあげて。その代わりじゃないけど、大人になったら二人の幸せな姿を見せて頂戴。あ、でも早すぎるのはダメよ」

 いろんなところにつっこみたいけど、そんな気力は先ほどの小言で使い切った。

「じゃ、じゃあ出世払いということで」

「ふふ、そうさせてもらうわ。あぁ、数年後が楽しみねぇー」

 なんかもうこの人と関わりたくない。

 しばらくはこのケーキ屋を訪れることはないだろう。


 ケーキ屋を出てからしばらくの後

『ずいぶんと賑やかな方でしたね』

 商店街を出たところでルースが話しを切り出した。

「賑やかというか、ものすごく絡みずらい」

 一を言えば十が返ってくる。そんな人だ。

「でも、優しそうな人だったよ」

 鞄の中に閉じ込めておいたアレスが、ひょっこりと顔を出した。

「それは否定できん」

 母親がよく買い物に来るからひいきにしてもらってる、というのもあるかもしれないが、よくしてもらっているのは事実である。

『ところでマスター、もしかして最初からそれが目的であそこを訪れたのですか?』

 なにか疑り深い声でルースが聞いた。

「違うって。俺はそんなにがめつくない。あそこは元々果物も置いてある店なんだよ。」

『ケーキ店なのにですか?』

「ケーキ店だからだよ。ケーキにも果物とかいっぱい使ってるだろ? それの余りを譲ってもらうんだよ」

「結局、譲ってもらうんだ」

「昔はそうしてたんだけど、それじゃ悪いからってことでお金を払うようにしたんだよ」

『なるほど、そういうことですか』

 納得した、とルースは頷いた(ように聞こえた)。

「でも、そのケーキ美味しそうだなぁ~」

 恨めしそうに抱えたケーキの箱を見つめ、よだれを垂らすアレス。

『アレスは甘いものには目がありませんからね。しかし、その格好はあまりにもはしたない』

 ルースは嘆くように吐いた。

『―――――!? ・・・・これは? 何が・・・・』

 が、次の瞬間、その声は嘆きから静かな愕きへと変わった。

「どうした?」

『いえ、今、わずかですがドディックジュエリの反応を感知した・・・・様な気がします』

 ルースは曖昧に答えた。

「それって結局は反応が出てない、ってことだよな?」

 しかし、彼女は渋るようにした。

『どうでしょう、はっきりとは分かりません。私の勘違いであれば良いのですが・・・・。もしもの場合も考慮してもう一度探索したいのですが、よろしいですか?』

「ああ、少しでも可能性があるのなら探さないわけにはいかないからな」

 舞には悪いが、今はこっちを優先すべきだ。ドディックジュエリは人の命に関わるものだ。何としても見つけ出さなければならない。

『分かりました、では、参りましょう。反応があったのは、はここから北の方角です』

「分かった。早く終わらして、ちゃっちゃと帰ろう」

 手にしたバスケットとケーキの箱を持ち直し、商店街の道を北へと進む。

 商店街の出入り口である大きな門をくぐると、そこから先は一変して家屋がずらりと並んでいる。町の形態を変えつつある駅周辺で、変わっていないのは商店街とこの住宅地のみである。

 自分の住む住宅街と比べどことなく高級感あふれるが、造りは同じような感じになっている。そのため、普段から来ることは無いこの地域は今でもさっぱりであるが、ある程度は把握できる。

『この先の十字路を右へ曲がってください』

 ルースは確信を持った声で言った。

「わかった」

 短く答え、やや早足で進む。

「ねぇ、どうして分かるの?」

 ドディックジュエリの反応は暴走していない限り見つけるのが苦労するのに、なぜルースはこうも確信を得た様子なのだろうか。加えて、彼女の感知した反応は感知したかどうかも曖昧なものである。

と、アレスは疑問を口にした。

「それに、ルースは魔力反応に感づいて、私だけ気付かないなんておかしくない?」

『・・・・どう答えるべきか迷いますが、魔力反応を感知した一瞬の後、ある場所に何か引っかかるものがあるのです。それが何かは分かりませんが、私自身でもはっきりしない確信がそこにある、そんな気がするのです』

「で、俺たちはその場所に向かっている、って訳か」

 ルースは無言で頷いた(気がした)。

『あ、あと、アレスだけが気付かなかったのは、単純にアレスが気を散らしていたからだと思います。先ほどから目線がケーキに釘付けですから』

「え、あ、いや、これは・・・・」

 妙にうろたえるアレスであるが、ルースはさほど気にしていないようであった。

『いつものことですから咎めることはしませんが、少しは回りの気配には気を配って欲しいものです。特に今という状況はかなり特殊な状況ですからね』

「はい、猛省します」

 アレスは鞄から出した頭をぺこりと下げた。

 ただ、言いながらよだれを垂らすのはどうかと思う。

「なんか、全く緊張感無いな」

『私は常に緊張感を持っているつもりですよ』

 と、無感情な声で言われても説得力に欠ける。

『あ、その突き当りを左に曲がってください』

「はいよ」

 ルースの言う突き当りを左に折れると、目の前に一人の少女がいた。しかし、この距離ではかわすこともできず、


ドン!


と、勢いよくぶつかってしまった。

「うわっと」

「きゃ」

 少女は短く声を上げると、ぶつかった反動でそのまま後ろに倒れ尻餅をついた。

「いったたた・・・・」

持っていたケーキの箱と果物の詰まったバスケットは手元から滑り落ちる。ケーキの箱は何とか無事であったが、バスケットの方は丸出しになっていたので、果物が飛び跳ねるように散らばった。

「だ、大丈夫ですか?」

 尻餅をついた少女に手を差し伸べる。

「は、はい、すみませんボーっとしていて・・・・」

少女は手を握り「よっこいしょ」と、まるでおじいさんが立ち上がるようにヨロヨロと立ち上がった。

「あ」

 そして二人の声が重なる。目の前にはツインテールの少女が目を大きくさせていた。

「た、高村君かぁ、もう、びっくりさせないでよ」

 ぶつかった少女の正体は千草であった。千草は俺の顔を見ると、少しだけホッとした様に胸をなでおろした。

「わりぃわりぃ、ちょっと急いでたもんだから」

 言いながら、落とした果物を拾う。

「あ、私も手伝うよ」

 と、千草は落ちた果物を拾おうと手を伸ばす。次の瞬間、ぱしっと二人の手が触れ合った。

「あ・・・・ご、ごめん」

「い、いや、こっちこそ」

 って、なんで一日に何回もこんなことしているんだ。

「はい、これで全部だよね」

「ああ、ありがとう」

千草が拾ったりんごを受け取りバスケットの中へ入れる。

「・・・・んん? んぅ~・・・・」

「な、なんだよ」

 千草はケーキの箱とバスケットをまじまじと見つめると、妙な声を上げた。

「あ、なるほどなるほど、そういうことね」

 そして、一人で納得するのであった。

「アレでしょ、ずばり風邪を引いた入江さんのお見舞いでしょ?」

 いや、まぁそうなんだが、そんな風に勝ち誇ったような顔されても、どう反応したらよいのやら。

「しかもその箱は、近所では噂の某ケーキ店のもの。やっぱり違うわねぇ。幼馴染の効果は偉大なのか? ・・・・でも、それ多すぎない?」

 果物が大量に入ったバスケットを指差し千草は言った。

「しょうがないだろ。店の人が譲ってくれる、って言うんだから」

「譲ってくれる? ひょっとして、お店の人と仲が良いとか?」

「まぁ、そんなところかな」

 すると突然、千草は目を輝かせ始めた。

「ね、ねえ、もしかして、高村君が頼めば割引してくれたりする? っていうか貰えないかな!?」

「できなくは無いと思うけど・・・・」

 さすがに金を払わずに貰うのは気が引けるのだが。

「ほ、ホント!」

 さらに目の輝きを増して、ずいずいと迫ってくる。その反応に少しだけ後ずさりし、コクリと頷く。

 女の子は甘い物の事になると豹変する、というのは本当らしい。

「あぁぁぁ、でも、おじいちゃんから甘い物禁止令が出てるしぃ~! これ以上食べたらお腹周りの脂肪がすごいことになりそうだし・・・・でも、やっぱり食べたい。食べたい。ううん、ここで食べなきゃ女の子じゃない!」

 空を見上げたり、自らの手を見つめたりと、奇妙な動きを見せながら、なんだかよく分からないことを言い出した千草。

 普通は逆なんじゃないか、女の子としては。

「千草の事情を知らないこちらとしては、どちらでも構わないんだが」

「よし、決めた。私、食べない!」

 結局食べないのか。

「だって、バレたらおじいちゃんにどんな目に合わされるか・・・・うぅ、考えただけでも恐ろしい」

 何を想像したのか、千草は身を震わせあげた。

「千草のじいさんってそんなに怖いのか?」

 と、聞くと、千草は怒りとも怯えともとれる表情で話した。

「怖いも何も、あれは人知を越えた生物よ。鬼でも悪魔でもない。もっと恐ろしいもの。あの人に喧嘩売って勝てる人なんて、この世にはいないわよ・・・・ってくらいおそろしいわ」

 すごい言われようである。むしろ馬鹿にしているのではないかと思える。

「バレたら素振り千本追加は間違いないわね」

 千草は素振りのフリをして見せた。まるで本物の竹刀を手に持っているようだ。さすが剣道部。

「なんていうか、大変だなお前の家も」

「大変の一言で済まさないで欲しいわよ」

 はぁ、と千草はため息をついた。

「物心つく前から剣術をやらされてるんだからね。しかも、あの拷問ともいえるような特訓を・・・・」

 そして、また一つため息を吐く。

 実際に見たわけではないが、彼女のこの雰囲気から察するに、かなり厳しい特訓だったのだろう。

「まぁ、自分の身を守れる位にはなったから良いんだけど。ほら、私、部活もやってるじゃない? おかげで放課後は部活か稽古かのどっちかだし。っていうか、稽古は毎日あるんだけどね」

 千草は苦笑し、手を上げた。

「自分の時間が無い、ってことか」

「そういうこと。みんなと一緒に好きなことできないのは、ちょっと辛いかな」

 ほんの少しだけ、千草の顔に曇りが見えた。

 自由が縛られている。そんな気分なのだろうか。

 幼い頃から自身のやるべきことが決められている、選択肢の無い人生。

 言い過ぎかもしれない。けれど、彼女にとってはそういう気持ちなのかもしれない。

「あ、あの! べ、べつに剣術が嫌いってわけじゃないよ!」

 慌てるように千草は訂正をした。

「俺は何も言ってないぞ」

「え!? あ、うぇ、えっと! ・・・・はぁ、何言ってるんだか」

 それを言いたいのはこっちなのだが。

「言っとくけど、剣術が嫌いじゃないって言うのはホントだよ。ううん、むしろ好き。じゃなきゃ、あんなに辛い特訓、とうの昔に投げ出してるよ」

 千草は微笑を浮かべていた。何故だかそれを見てちょっと安心する。

「そっか、じゃあ、後悔とかしてないんだな?」

「後悔って、随分と重い言い方ね。

 ―――――大丈夫、何を心配してくれているのか分からないけど、今までやってきたことに悔いはないよ」

「そうか、良かった」

 陰りのあった顔が明るくなるのを確認すると、なぜだかこちらも心が晴れる気がした。

「・・・・高村君って、もしかしてお節介やくタイプ?」

「いや、自分ではそんなつもり無いけど・・・・なんで?」

 不思議な質問をするもんだ、と心の中で思う。

「ううん、ちょっとそんな気がしただけ」

 千草は大したことが無いように言った。そんな彼女の言動に首をかしげる。

 自分では自覚の無いうちに、何かギャルゲーの主人公みたいなことをしていたのだろうか? それはちょっと寒い気がする。以後、自分の言動には気をつけるとしよう。

「――――そういえば、千草の家って何かやってるのか?」

「何かって、何?」

「ほら、昔から剣術やってる、って言ってただろ」

 先ほど口にしていた千草の言葉が、少し気になったのだ。

「ああ、そのことか。言ってなかったっけ? 私の家、剣の道場やってるの」

 やってるの、なんて、そんな軽く言われても全然現実味が無い。

「初耳なんだが」

 しかし、剣道部に所属していて尚且つエースと呼ばれている。なるほど、言われると頷ける。当然の結果ということか。

「ま、門下生なんていうのもいないし、知られてないのは当然よね」

 それはつまり、道場を開いておきながら、誰一人教えていないということか。

「かなり昔からやっているみたいだけど、今まで誰も入門した人はいないって。えーっと、五百年くらい前に始めたとか言ってたなぁ」

「ご、五百年!?」

 それこそ現実味の無い数字を言われて、驚きと疑いの感情が交じり合い、変な声が出てしまった。

 今から五百年前というと戦国時代最初期である。確かにその時代ならば剣術とやらをやっていてもおかしくはないが、それが五百年も続くなんてことはあるのだろうか。

「ほ、ホントなのか?」

 半信半疑に問いかける。

「うん。家にある書物に、永世五年なんたらかんたら~、って書いてあったのを見たし、おじいちゃんも先祖代々伝えられている、って言ってた。本当かどうか分からないけどね」

 千草はそんなことを言っているが、書物が残っているのなら恐らく事実なのだろう。たとえ五百年が嘘でも、百年単位で続いているのであれば驚きである。

「そりゃすごいな」

「すごくなんかないわよ。剣術なんて言ってるけど、型は滅茶苦茶だし、よっぽど剣道の方がちゃんとしてるわ」

「そうなのか? でも、千草自身はかなりの腕前だし、それは剣術が通用しているって事じゃないのか」

「う~ん、まぁ、そういうことになるんだけど、なんかねぇ」

 千草はどこか納得のいかないように唸った。

「ほら、さっきも言ったけど、剣道って決まりごとが色々あるじゃない? うちの剣術は決まりごとなんてほとんど無い自由なものなんだけど、その二つを比べるのはねぇ。同じ土俵に立ってない感じがして、どっちが優れているかなんて分からないわ」

 つまり、同じ剣を使ったものだけど、勝手が違うから比べられないということか。

「ま、そんなことを比べるために剣道をやってるわけじゃないけどね」

 どうでもいい、と千草は手を振った。

「―――――まぁ、それはいいとして、すっかり話がそれちゃったけど、それ、いいの?」

 そして、千草は持っていた二つの見舞い品を指差した。

「・・あ・・・・」

「私が言うのもなんだけど早くしたほうが・・・・」

 彼女が言い終わる前に、近くに建っていた時計を確認する。

 時計の針はいつの間にやら7の数字を指していた。

「や、やべぇ、もうこんな時間!」

 本来ならドディックジュエリの有無を確認した後すぐさま帰るつもりだったのが、こんな時間まで長居してしまった。

「じゃ、じゃあな千草、また明日」

「え? う、うん・・・・」

 言うと同時にその足は駆け出していた。

 千草の少し戸惑った声を背に、両手にケーキと果物を抱え幼馴染のもとへと向かった。






「・・・・行っちゃった。はぁ、なんか忙しそうね。―――――それじゃ、私も帰るとしましょうか・・・・って、買い物の途中だったんだ」

 少年の影を目で追い、彼女は一人呟く。

「・・・・ん?」

 彼女は目を地面に落とした。何故か分からないけどそこに何かがある気がしたからだ。そしてそこにはあった。黒く漆黒に輝く石が。

「あれ、これって・・・・?」

その声は遠く走る少年には届かなかった。

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