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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
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隣の席

『つまり、どういうことかというと、使用者の魔力を効率よく変換させる、ということです』

 首下からする声を右から左へと聞き流し、別のところへと耳を傾ける。窓の外からは、元気よく部活動の朝練に勤しむ学生たちの声がしていた。

 ルースの魔法使い講座が始まり、約十分。はやくも俺の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。言いたいことは分かる。だが、専門用語が多すぎてなんのこっちゃさっぱり分からん。

 ―――――午前8時10分。

 今日はいつもより早く学校に着いた。

 いや、いつもはこの時間には自分の席について、佐藤や鈴木らオタク軍団と情報交換(と言う名の雑談)をしているのだ。しかし、最近その予定を狂わされつつある。

 原因は、入江舞。昔から色々と付きまとっていたが、最近になりさらにそれが増えた。朝と帰りは必ずと言っていいほど家の前、教室の前で待ち伏せしているし、昼休みはおろか休み時間毎に教室に侵入する幼馴染っぷりである。

いったい何がしたいのだ、といわんばかりにまとわりついてくる。いつしかクラスの皆からも同情の目で見られる始末。

 あるとき幼馴染萌の奴が「幼馴染って憧れるけど、アレはさすがに無いわ」とまで言うほどである。

 だが、今日はあいつがいない。風邪を引いたとかなんとかで学校を休むそうだ。他人の不幸を喜ぶのはいささか問題があるが、久々にゆっくりできそうだ。

『そもそも、我々が使う魔法は自身の魔力をそのまま相手にぶつける、というもの。魔力を体内から放出するだけなら簡単ですが、それは単に自然の中に魔力を流し込んでいるだけ。魔法として扱うには魔力を変換する必要があります。ただし魔力変換機ゲレータなしで魔法を発動させる場合、その過程に体力、魔力を多く消費します。そこで我々ゲレータを使うことにより変換の過程を自身の体ではなく、我々ゲレータが行うわけです』

 そして今日はいつものヲタク軍団では無く、パートナーのルースとイヌもどきに変身しているお姫様のアレスの二人が話し相手になっている。

ルースからはいつの間にか「マスター」と呼ばれるようになった。うん、なんか悪い気はしない。

「普通のゲレータはそれだけだけど、ルースいろんな武器に変身できるんだよ」

 さて、彼女たちを学校へ連れてくるにあたって、多少問題が発生した。ルースは首飾りなので問題ないのだが、アレスの場合どう見ても未確認生物なので、他人に見つかると騒ぎが起きてしまうだろう。

 本当は連れてくるつもりは無かったのだが、どうしてもついて行くと聞かないので、無理やり鞄の中に詰め込んできた。意外にも俺の鞄の中は居心地が良いらしい。

『しかし、その場合使用できる魔法に限りができます。特に剣や槍といった近接武器などは行使可能な魔法が極端に減少します』

 ちなみに普通に話すとバレてしまうので、念話テレパシーを使って会話している。テレパシーって便利だね。

「一番多くの魔法を使えるのが砲撃モード。何が使えるかっていうと、弾幕とかビームとかほか色々・・・・って、つきクン聞いてる?」

「え、ああ、聞いてるよ。まぁ、かなり分かりにくい説明だが」

 アレスのそれは説明になっていない気がする。

『アレス、やはりあなたは黙っていて下さい。ちょっと邪魔です』

「むぅ、私ヒロインなのに・・・」

 あまりの雑な扱いに頬を膨らませるアレス。

 ヒロインが不遇なのはよくあることだ。

『先ほどアレスがおっしゃったように、もっとも多くの魔法が使用可能になるのは砲撃モードです。これはマスターであるあなたの魔力を、変換、放出させるのに一番効率がよい構造をしています。ですから初級から中級、上級まで幅広い魔法が使用可能となります。先日あなたが使った魔法は、そのごく一部ということです』

「ふぅん、ま、ルースがどういうモノなのか、っていうのは大体わかったよ」

 二人がいる方向とは、まったく別の方を向いて返事をした。

 理解したのは、彼女がどのような機械であるか、という事であって、何をどうしてこうするからこうなる、といった専門知識はまったく理解していない。

『そうですか。それはよかったです』

 相変わらずの無感情な声である。

「そうそう、もうひとつ聞きたかったんだけど」

 窓の外に向いていた視線を教室内に戻し、思い出すように声を出した。

『なんでしょうか?』

「お前たちが地球に来た理由ってドディックジュエリの回収なんだよな。だったらさ、ルーナからも誰か来てるのか?」

 彼女は若干の間を置いて、

『なぜですか?』

 と短く聞きなおした。

「いや、なぜっていわれても・・・」

 前回のドディックジュエリ回収のときも、ソルとルーナ両国から一人ずつ選ばれたわけだから、今回もそうではないのか、と思っただけである。

 実際、一人でこれをやるのは大変だと思う。というより、もしも一人であるなら目的を達成できない。ドディックジュエリは一箇所に集めると飛散する。これは確証された事実ではないとルースは言っているが、十中八九間違ではない。だとしたら一人で回収することは間違っている。何らかの方法が有るにしても、こんなことを立った一人の少女に任せるなんてことはしないだろう。

『・・・今回、ルーナからの使者はいません』

 ルースはぼそりとつぶやくように言った。

『ですが、スティーレからの救援は予定しています』

 ごまかすように、彼女は言葉を切り返した。

「予定? 一緒に来なかったのか?」

 特に突っ込んで話を聞く必要も無かったので、そのまま話を続けた。

『私たちは先遣隊としてやってきた、とだけしかいえません。その理由については、今はお答えできません』

 言葉に詰まりながらルースは話した。

『このことはあなたに話すべきかどうか、今は判断できかねます。ですので、この件に関してはこれ以上言及しないでいただくとありがたいです』

「そっか、じゃあそのことについてはまた今度ってことで」

 何か隠し事があるような雰囲気が出ているが、そこは聞かないほうがいいのだろう、と本能が察知した。

『ありがとございます』

 いつものごとく、気持ちのこもっていないありがとうだった。

「えっと、それじゃあ、最後の質問。なんでアレスはあそこで倒れていたんだ?」

 実はこれが一番聞きたかったことかもしれない。聞くところによると彼女は相当な魔法の使い手らしいのだが、そんな彼女がどうして怪物にやられてしまったのだろうか。

『ああ、そのことですか。それはですね・・・・』

「ああああああああああ!!!!!!!」

 と、ルースの言葉をさえぎるように、脳が揺れるほどの叫び声をアレスがあげた。

「うわっ!」

 思わず普通に声を出してしまう。出してからでは遅いのだが、思わず口を手でふさぐ。キョロキョロと周りを見るが、誰も声には気付かなかったようだ。

 気付けばいつの間にか、ホームルームの時間まであと数分となっている。教室内のざわつきがピークになる時間だ。そのおかげで俺の声は聞こえなかったようだ。

『あの時アレスは・・・・』

 そして、何も無かったかのように続けるルースである。

『おや? マスター、呼ばれていますよ』

 しかし、淡々と話を始める彼女であったが、途中で話を切った。

「高村君、おはよう」

 彼女たちに集中していた意識を一旦教室に戻すと、ちょうどそんな言葉が右隣から聞こえた。その声のした方向を見ると、そこには一人の女学生がこちらを見ながら椅子に座っていた。

「ああ、千草か。おはよう」

 その姿を確認すると、俺はいつものように挨拶をした。

『ご友人ですか?』

「そうだな、友人と言うかなんというか、ただのクラスメイトだ」

 ルースの問いに、曖昧な答えをした。

 千草凪ちぐさなぎ。昨年も俺と同じクラスだった。出席番号が並んでいたということもあり、話しかけることが少々あった。といっても、友達という関係でもなく、そんなに仲がいいわけでもない。

 第一印象は良くも悪くも普通の女の子。あまりパッとした印象はなかった。しいてあげるなら、腰まで届こうとするツインテールが目に残った位である。

 しかし、彼女が剣道部に所属していて、エースと呼ばれる存在だということを知ったときには印象がガラッと変わり、いろんな意味で近付き難くなった。

 ともかく、友人と呼ぶには仲が良くなく、他人と呼ぶには仲が良すぎる。そんな関係である。

「ねぇ、どうしたの? なんかボーっとしてたみたいだけど」

 ついさっき来たばかりなのか、千草は机の上に鞄を置くと教科書を取り出し引き出しの中に入れた。

「え、あ、いや、そ、そうか? ま、まあ、気にすんな」

 なんとか誤魔化そうとするも、顔を引きつらせながらぎこちなく答える。

「ん~、そういわれるとものすごく気になるんだけど・・・・ま、いっか、あんまり興味ないし」

 疑り深く聞いてきたかと思えば、割とあっさり退く千草であった。

 それはそれでなんだか傷つく。

「ごめんごめん、冗談だよ」

 彼女は、軽く笑うと鞄を手に取り机の横にかけた。

「で、本当は何してたの?」

 と聞かれたら聞かれたで、なんと言って良いのか回答に困る。

「えーっとだな、これはなんと説明したらよいものか・・・・そう、妄想だ!」

 何かとんでもないことを口にした気がする。言ってからでは遅いが後悔しまくりである。普段なら間違ってはいないが、今回は違うと断言したい。

「・・・・あーっと、今のは聞かなかったことにする」

 千草は、そっと席を遠ざけた。

「あ、ちょ、誤解するなよ! 決して変な意味ではない!」

「うん、大丈夫。誤解してないから」

 と言いつつも、さらに机を離す千草である。

「いや、絶対に誤解してるだろ! 言っておくが俺の妄想は真面目なものだ!!」

「ごめん、意味わかんない」

 自分自身でも言っていることが意味不明なことは理解している。だが、これが事実なのだ。他に説明のしようがない。

「高村君、これ以上はしゃべらないほうがいいと思う。私の中でのあなたのイメージが崩壊していく」

「ま、まて! そんな哀れむような目で見ないでくれ」

「・・・・もういいよ、私、ちゃんと分かってるから―――――っ!」

 こうして俺の一日は、誤解されたまま始まるのであった。後で誤解を解くも、どれ程の時間が掛かったかは聞かないでほしい。








「はぁ・・・・」

 放課後。人気の少なくなった教室で一人溜息をつく。

 朝に差していた太陽の光りは夕日となり、教室内を赤く染めた。

「どうかしたの?」

 溜息後の小さな沈黙のあと、アレスが鞄の中からひょっこり頭を出して聞いた。

「どうしたもこうしたも、今日の出来事があまりにも出来過ぎていて恐ろしいんだよ」

『今日の、ですか。具体的にはどのような?』

 ルースにしては珍しく、興味ありげに言った。

「二人も見てただろ、今日の俺と千草のやり取りを」

『お二方のやり取りですか?』

「何か変わったとこでもあったかな?」

 ルースとアレスの二人は、声をそろえて疑問を口にした。

「有りも有り、大有りだよ」

 そう、あれは一時間目の授業中の出来事であった。


『いきなりですが、先ほどの話の続きをしましょう』

 授業が始まって数十分後、ルースはそんなことを口にした。

「なんだ、いきなり?」

 なんとなーく先生の話を聴いていたが、授業の内容など頭に入っておらず、暇をもてあましていたところへの彼女の言葉だった。今の俺にとっては、たとえどんなに難しくても彼女の話のほうが格段に興味があるので、迷うことなく彼女の言葉に耳を傾けた。

 机の上には教科書とノート、筆箱が置かれているが、取り出したシャーペンは手にあらず、消しゴムは机の隅に放置されている。教科書とノートに至っては開かれもせず、きれいに積み重ねられている。明らかにやる気が無い証拠である。

「さっきの話の続きってことは、どうしてアレスが倒れていたか、ってことだよな」

「こ、こら! ルース、その話は・・・・!」

 アレスは必死に止めに入るも、鞄の中にいる限りそれは無理なことであるわけだ。

『アレス、これはとても重要な話なのですよ。そもそもはあなたが私の話をきちんと聞いていないのがいけないのです』

「ちゃ、ちゃんと聞いてたよぉ。でも、その仕様だけなんだか胡散臭くて・・・・」

『はぁ、仕方ありませんね。それも含めて、もう一度お話いたしましょう』

 ルースは呆れた声で深くため息をついた。が、なぜか楽しそうな雰囲気をかもし出している。

「って、ちょ、まって! まってください!! おまちくだせぇぇぇえええ!!!」

 妙な叫び声をあげながら鞄の中で荒れ狂うアレス。

「おい、そんなに暴れるな! 見つかるだろっ!」

「ふにょぉぉおおお!」

 今度は隙間から上半身を乗り出し、無理やり脱出しようと試みる。しかし、羽が引っ掛かっているのか、なかなか下半身が出てこない。

 いや、出てこなくていいです。

『では、まずは事の発端から解説しましょう』

 ルースはルースで、相も変わらず淡々と話を進める。

『・・・・ふむ、マスター、また呼ばれていますよ』

 と、またも話を途中で、というか初っ端から中断した。そして、なぜかルースは不機嫌そうにしている。

 また呼ばれている、ということは千草だろうか。そう思い、千草のほうを振り返ってみる。

「高村君。お~い、高村くーん」

 まぁ、予想は当たっていたわけで、彼女はひそひそと周りには聞こえない様に、というかほとんど声にはなっておらず、口パクで俺の名を呼んでいた。

「どうしたんだ?」

 彼女に合わせて自分も口パクで応えた。

「床に消しゴムが落ちてるよー」

「消しゴム?」

 言われて床を見ると、確かに消しゴムが落ちていた。机の上を確認すると、消しゴムは無くなっていた。

 さっきアレスが暴れたせいで落ちたのか。

「取ろうか?」

「いや、いいよ。それくらい自分でやるよ」

 とは言ったものの意外にも遠くまで転がり落ちていて、微妙に手が届かない。

「ふん!」

 勢いをつけて、ぐいと手を伸ばす。

 あと少しで手が届く。

 そこまできた。

 瞬間。

 ぱし、と二人の手と手が触れ合う。

「あっ・・・・・・ご、ごめん」

「う、ううん・・・・」

 赤面する二人。彼女の頬は熱を帯びるように赤く染まる。それがとても可愛らしくて、そして、愛おしかった。


『・・・・それは、つっこむべきなのでしょうか?』

 一通り話し終えると、ルースの冷たい言葉が待っていた。

「そうやって冷静に返されると、俺もどうしていいかわからん」

「で、結局どこがおかしかったの?」

 アレスは首をかしげ聞いた。

「お前には分からんのか! あの場面の重大さがっ! あり得そうであり得ない現象。消しゴムが落ちることがあっても、二人の手が触れ合うなんて事は無い。あまりにもできすぎている。これはまさに、消しゴムが落ちてそれを拾うとしたときに「あっ」となる現象だ」

「そのまんまじゃん」

「そう、そのままだ。だが、これがどれほど重要な出来事であるのか、お前たちは理解していない」

 たまたま体育の授業で、たまたま千草が走っていたところに、たまたま俺が気づかずにぶつかり、たまたまこれなんてエロゲ状態になったこと。

『それは一体、どういう状況なのでしょうか?』

「今でも忘れない。この手に残る感触を・・・・」

「こ、答えになってない」

 二人は、何を言っているのだコイツは、といった感じだ。

「まぁ、分からなくても仕方ないか」

 考えてもみれば、二人は女性で、尚且つ異星人である。この地球ほしの文化を理解するほうが難しいかもしれない。この地球ほしの人間でも理解できる人は少ないのに。

「まぁ、簡単に説明するとだな、俺と千草の間に現実では起こりえない現象がたくさん起きているわけだ」

「起こりえない現象。それが、さっき言ってたこと?」

 アレスは首を傾げ聞いた。

「そう。消しゴム落として、それを拾ってもらって、手が触れ合う。そんなことがそうあると思うか? いや、無いね。仮に起こったとしても、それはどちらかが意図してやらない限り起こりえない。もしそんな状況になったら、手が触れる前に腕を引っ込めるだろ」

『結局のところ、その起こりえない現象が起きてしまったことにより、何か問題があるのですか?』

「いや、特に無い。むしろ、俺としては貴重な体験ができてよかったと思っている」

 こんなことは、一生の内に何回も起こることじゃない。それは、奇跡に近い。

「いや、待てよ。今日の出来事がもし一生分の出来事だとしたら、それはものすごく損をしているのではないか? う~む、これはマズイな」

 教室の片隅で、一人思い悩む。

「そんなに悩むことなのかな?」

『さぁ、どうなのでしょう』

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