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凛と冷えた朝

作者: コウ
掲載日:2026/04/04

休みの日にこんなに早い時間から起きているなんて、ほんの一週間前の私だったら考えられない事だった。

マンションのエントランスから、自動ドアを抜けて外に出る。ようやく少し春の気配がし出したとはいえ、朝晩はまだ寒いし日陰の場所にはあちこちに小さく汚くなった雪の塊が点在している。

私は朝の空気を吸い込みながら、走り出し…たりはしない。ゆっくりと散歩するだけだ。

自慢じゃないが私は昔から運動なんて一度もしてこなかった。ジョギングなんて三日坊主どころか初日で断念する自信しかない。

ではなぜ散歩だけでもする気になったかというと、よくある話だが、先日の健康診断がとんでもない不健康診断だったからだ。

痩せてはいないがまだまだ普通体型だし、年齢の割には保ってる方と、油断していたら血糖値やら内蔵脂肪やらがもうちゃんと病気の数値だった。

自覚がないとは恐ろしい。そりゃお酒は飲む方だし、食欲もある方だと思うけど、喫煙はしないのに……。

でも喫煙しないで一点突破できるほど健康診断は甘くなかった……。

そうだよなぁ、私30超えてるもんなぁ。若い頃みたいにはいかないよなぁ。なんて事を考えながら近所をうろつく。歩き出してみると朝のキリッと冷えた空気を吸いながら歩くのは、案外気持ちが良かった。小さな小川に沿って整備されている公園の芝生を歩く。朝露に若干靴が濡れているけど、靴底に芝生が柔らかい。

まだ枯れ木のままのこの木はたしか、桜だったような気がする。あと数週間後には満開になっている事だろう。

反対側から鶏ガラみたいに痩せたおじいちゃんが黒い芝犬を散歩させながらこちらに向かってくる。

「おはようございます」と普段は絶対にしない知らない人への挨拶をすると、おじいちゃんも立ち止まって「おはよう」と言ってくれた。

「触ってもいいですか?」そう許可を取ってから芝犬に触ろうとしゃがみ込んだが、犬は私の手を巧みにするりするりとかわし、触らせてくれなかった

「ごめんなさいね、おじょうさん。芝犬ってどうもこういうとこがあってね」

おじいちゃんはすまなそうに謝ってくれたが、

私をおじょうさんと言ってくれただけで、私は大満足だった。

公園沿いに歩いていると、小さなパン屋兼カフェのお店が見えてきた。

え、こんなお店いつできたんだろう。近所に住んでいるというのに、全く知らなかった。

私はポケットに財布が入っている事を確認し、扉を開いた。

ドアベルが軽やかな音を立てる。

「いらっしゃいませ」

奥から上品なマダムが出てきて挨拶をする。50代くらいのこの女性以外に店員が見当たらないところを見ると、一人でやっているのだろう。

パンは焼きたてを示すように香ばしい匂いがしている。種類は少ないけれど、どれも美味しそうだ。

私は少し考えて、クロワッサンとバターラスクと菓子コーナーに置いてあったオランジェットをトレイに載せる。トングで掴んだだけでクロワッサンがサックサクなのがわかる。私は健康診断の結果など忘れてあれこれ取りそうになったが、本末転倒だとグッと堪えてトレイをレジに持って行った。

「これ、昨日の残りなんですけど、良かったら」と、女性がナッツの乗った美味しそうなクッキーを一枚おまけに入れてくれた。

私はお礼を言って、お店を後にした。受け取った紙袋に鼻を突っ込んで思い切り匂いを嗅ぐ。途端にお腹が鳴って、家に着くまでにうっかり全部食べてしまいそうになる。私はなるべく見ないようにして、まだ温かい紙袋を抱えたまま家路を急いだ。

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