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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
一章 「紅い桜が散った村」
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9話 『記憶の逆流』


 首筋に大きな薙刀の刃が当てられ、ゆっくりと血が流れ落ち、鎖骨の辺りを伝っていく。

 冷や汗と震えが止まらない。


「こいつを殺されたくなければ、刀を置いて土下座しろ」


「お前……!!」


 桜の身体も、俺とは違う理由で震えている。

 眉間に皺を寄せ、怒りに満ちた目で奴を睨みつけている。


「聞こえていないのか? 早くしろ」


 桜はその言葉を無視し、飢餓天狗に刃を向ける。


「……そいつにも私の能力かけてるから、傷つけたらお前にも跳ね返る。そんな状態で殺しなんてしたら、お前も死ぬから」


 ……『波』で分かる。

 これは嘘だ。

 そもそも俺に能力をかける機会なんてなかっ……


「嘘だな」


 奴は間髪入れずに桜のハッタリを見抜いた。

 桜の表情が一瞬強張り、驚いた表情を見せるが、すぐに冷静な鋭い目つきを取り戻す。


 飢餓天狗はその様子を鼻で笑った。


「能力をこの餓鬼にかけたのかの真偽は知らんが、時間であれ、効果であれ、際限のない能力など存在しない。神はそんなものを人間に与えない」


「っ……」


 俺の首に刃がより食い込んでくる。

 飢餓天狗は口角を吊り上げて俺たちを嘲嗤あざわらう。


「お前の〈反射〉にも、跳ね返せるダメージの制限があるのだろう?」


「っ……!!」


 図星を突かれ、一気に緊張が走る。

 桜は既に限界が近いことが『波』を通じて伝わってくる。

 冷静な態度も、自身の限界を悟らせないために取り繕っているだけの状態だ。



 俺は桜に目配せをする。

 桜は頷くことなく、目で了承する。



 俺は両手を挙げ、奴を見上げる。


「降参だ……桜の命だけは助けてくれ」


「……は?」


 奴と目が合った瞬間、右手の傷口を弾き、真っ赤な血を奴の目を目掛けて飛ばす。


 飛ばした血に飢餓天狗が気を取られた一瞬を突き、桜が距離を詰め渾身の力で斬りかかる。


ギィ/ン゙……!!


「なっ……!」


 飢餓天狗は桜の斬撃を薙刀で弾く。


「同じ手は何度も食らわん」


 桜に向けられた薙刀の先端に風が集まり、突風が巻き起こる。


「まずっ……」


 桜はすぐに防御姿勢を取ろうとするが、間に合わない。

 この位置だと桜は奴の攻撃をモロに食らってしまう。


「お前の反射がどの程度まで返せるか、試してみるか?」


 飢餓天狗は桜に薙刀を向け、渾身の一撃を叩き込もうとする。



 奴が桜に完全に意識を向けた瞬間。


 この一瞬を待ってた……!



 俺は左手で奴のこめかみのあたりを掴む。


「……なんだ……?」


「俺……言わなかったっけ、一撃で倒してやるってさ……!」


 声が上ずる。

 手足が震える。


 失敗すれば二人とも死ぬ……


 正真正銘ぶっつけ本番1回限りの大博打……!


 俺の持つ『記憶』をあいつの脳内に直接ぶち込む……!!


「『記憶の逆流(メモリー・リバース)』……!」


「……ひっ……が……ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!!!」

「ぅ゙ぉ゙ぇ゙ぇ゙っ…………」


 奴は薙刀を投げ出し、頭を抱えながら地面にうずくまり、泣き叫ぶ。

 俺も耐えきれず、その場にうずくまり、嘔吐しかける。

 さらにその後、凄まじい頭痛に襲われる。

記憶の逆流(メモリー・リバース)』の副作用だろうか。



 桜は地面をのた打ち回る奴と、悠真を呆然と交互に眺める。


「悠真……一体……何を……」


「がっ……はぁ……はぁ………はぁ……あぁ……ぅ゙ぐっ……………」


 まだ恐怖と興奮でまともに返事ができない。


 俺がこいつにぶち込んだ『記憶』


 それは、桜が体験した、生贄となる事への「死への恐怖」

 そして、桜が殺した人々、189人分の号哭。


 その部分を記憶として流し込み、擬似的に死への恐怖を味わわせるというものだった。


 流し込んだ『記憶』は、自身でも一瞬読み取る必要があるため、全身の震えが止まらず、視界がチカチカする。



「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……!!」


 奴は地面を這い、逃げようともがく。

 【神】を自称し、人間を殺すことに何とも思っていなかった奴が、惨めに死を恐れ這いずり回る。


 その光景に、つい漏れ出た本音。


「結局お前も死ぬの怖いのかよ……」

「結局お前も死ぬの怖いのかよ。」


 桜と俺の言葉が重なる。

 『それ』に対し、全く同じことを思ったみたいだ。


「いっ……!!」


 奴はまともに動かせなくなった羽で何とか飛び、逃げようとする。


 桜がゆっくりと刀を構え直す。

 その刃は、鮮やかに夜の闇に光っていた。


「じゃあね、〈カミサマ〉。先に地獄で待っててよ」


 一気に奴の横に回り込み、首に刃を振り下ろす。


「地獄でもまた殺してやるから。」


 桜が刀を振りきると、奴の首が汚い音を立てて吹き飛び、胴体が地面に落ちる。


 それでも、羽がまだゆっくりと蠢き、飛ぼうとしている。


「ぅ゙ぐっ……!」


 非常にグロテスクな光景をうっかり直視してしまい、再度吐き気がこみ上げる。

 今日だけで何回吐きそうになったのかも分からない。


 桜は奴の死体を眺めた後、俺を見てこう言った。


「悠真……これで……ちょっとは償えたかな……?」


「あ……あぁ……そう……だな……」


 だが、ここで肯定しきってしまったら、桜は自分を殺せと言うかもしれない。


 だからあえて〈この先〉を提示する。


「でも、まだまだ始まったばかりだ。これからも……俺は……」


「がはっ……」


 俺が言い終わる前に、桜は血を口から吐いて倒れた。


「桜……? 桜……!!」


 当然だ、あれだけの量の血を流している。

 失血死していないのがおかしいくらいだ。


 桜に駆け寄ろうとするも、足元がふらつく。


 そうだ……俺も右手から血を流しっぱなしなんだった……


 貧血で立てなくなり、地面に膝をついて座り込む。


 このままじゃ……二人とも……


───


「よく頑張った」


 声の聞こえた方に首を動かし、なんとか視線を向ける。


 そこには、いつか見た緑色の豪華な着物を着た、銀髪の青年がいた。


「あ……貴方は……」


「『琉琉助るるすけ』で良いよ。行き先は千秋楽山で合ってるよね?」


 確認を取るように彼……琉琉助は俺に聞いてくる。


「は……はい……」


 意識が朦朧とする中、そう答えると、琉琉助は嬉しそうににっこりと笑った。


「千秋楽山まで運んであげるから、安心して休んでいい」


 その言葉を聞いた途端、急に疲労と眠気が襲う。

 安心による緊張からの解放だろうか。


 だが、その言葉とは裏腹に琉琉助の『波』は、まるで津波のように荒ぶっていた。


 その事に疑問を感じる間もなく、疲労で失神する。


 琉琉助は二人を綺麗な緑色の目で眺める。

 そして、誰も聞いていない独り言を呟く。


「……良くやったよ……悠真……桜……全部俺が望む、『最善の未来』に向かって進んでる。これからも頼むよ、〈三人とも〉」



 ここから、仙人たちの命を懸けた争いに巻き込まれていく事など、今の俺たちは知る由もなかった。



1章 「紅い桜が散った村」 完

 ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。

 第一章 「紅い桜が散った村」 いかがだったでしょうか。

 これからも、読者の皆様を「ゾクゾク」させられるよう目指していきますので、評価やブックマークの程、付けていただけると幸いです。

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