8話 「覚醒能力」
赤黒い血と鮮やかな血が混ざり、地面に落ちた「それ」を、強く踏みにじる。
「〈覚醒能力〉『彼岸に咲く血桜』」
桜の雰囲気が先ほどまでと一気に変わり、海底に沈んでいくような重い『波』を纏っている。
その圧倒的な存在感に、唖然としてしまう。
「覚醒……能力……」
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覚醒能力とは、一人の人間が本来の自身の能力とは別の能力を使用することができる特殊な力である。
覚醒能力そのものは、誰しもが使用できる芸当ではあるが、覚醒能力は発動に人それぞれ、様々な条件があり、その多くは、普通に生活していては到底満たせないようなものが多い。
そのため、意図的に覚醒能力を使用できる人間は少ない。
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「……覚醒能力だろうと関係ない。【神】の力を思い知れ」
飢餓天狗は一瞬で桜との距離を詰め、薙刀による刺突を繰り出す。
桜は刺突を避けるが、少し頬を掠め、赤い血が流れる。
それと同時に、飢餓天狗の頬が裂け、赤黒い血が飛び散る。
「っ…!?」
その一瞬の動揺を突き、桜が刀を振り抜く。
飢餓天狗はそれを薙刀で受け止める。
刃がかち合い、「ギィ゙ン……」と鈍い音が響く。
飢餓天狗は薙刀を振るい、桜を弾いて距離をとり、体勢を立て直す。
「『風薙』!」
飢餓天狗は薙刀を桜に振りかざす。
桜に向けて突風が放たれる。
ビ/ュ/ォ゙/ォ゙/ォ゙/ォ゙/ォ゙/ォ゙/ォ゙/ォ゙/ォ゙!!!
「ぐっ……!」
「桜!!」
桜が突風に巻き込まれ、捻れ、吹き飛ぶ。
「がっ……!?」
それと同時に飢餓天狗の全身から血が吹き出す。
(なんだ……これは……傷が俺にも返されている……!?)
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嵐山 桜
覚醒能力『彼岸に咲く血桜』
「自身の血と相手の血を混ぜたものを殺意を込めて踏み躙る」という手順を経る事で発動。
血を混ぜた対象に自身の受けたダメージを返すことができる能力。
桜自身が受けたダメージは無効化されない。
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「ぐっ……!」
吹き飛ばされた桜は、受け身を取り、すぐに立ち上がり、再度距離を詰め斬りかかる。
それに対応し、飢餓天狗は薙刀を地面に突き刺し突風を起こすことで砂嵐を発生させる。
「目がっ……」
巻き上げられた砂で、桜が反射的に目を覆った隙を突き、さらに突風の追撃を行う。
「ぐっ……!!」
桜に凄まじい突風が直撃する。
それと同時に、飢餓天狗の全身からも血が流れる。
だが、それには既に慣れたのか、飢餓天狗は動じない。
「……能力の年季が違うんだよ……! 俺はお前らのように『神』の気まぐれで能力を授かったわけじゃない……! 俺はお前らより先に、特別に力を授けられた〈先駆者〉だ……!」
桜は吹き飛ばされてなおすぐに体勢を立て直し、構え、刃を向ける。
「〈先駆者〉ってことは……私たちより随分前から能力使ってるって事でしょ?」
桜は目を細めてニヤッと笑い、余裕の表情を浮かべる。
「全然やり合えるじゃん」
桜は真っ赤な舌を出し、少し戯けた声色で言った。
「……なんだと……!?」
それに、飢餓天狗の怒りが頂点に達したのが『波』から読み取れる。
「調子に乗りすぎなんだよ餓鬼共が!!」
飢餓天狗は薙刀を構え、突撃する。
桜がそれを受け止め、刃がかち合う鋭い音が響く。
(煽れば直ぐに攻撃が単調になる!)
「よく【神様】名乗れてたよねぇ!」
「黙れぇ!!」
それを皮切りに、両者の至近距離の斬撃の応酬が繰り広げられ、火花が散り、周囲は二人の鮮血で、赤黒く染められていく。
その時、悠真は、何もすることができなかった。
「救う」と誓った人間が目の前で殺し合いをしているのに、何もすることができない。
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どうして俺はこんなに弱い……?
強くなるために旅に出たんじゃないのか……!?
桜があんなにボロボロになりながら戦っているのに、なんで……!
このままじゃジリ貧だ、勝っても負けても多分死ぬ……!
桜の刀を掴んだ時に切れた右手の傷が痛む。
……いや、焦るな……冷静になれ。
俺の能力で、今できることはなんだ……?
『残響』は、感情の『波』を受け取る力と、記憶を保存、読み取りする力がある。
それで今できることは……!
…………見つけられない……!
まるでレコードディスク1枚で戦場に乗り込むようなもんだ。
…………レコード……? ………再生……
記憶を保存する能力…………そうか……
まさか……『残響』って……!
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「悠真!!」
桜の緊迫した呼びかけに、意識を現実に引き戻される。
「おい……〈荷物〉がおろそかだぞ……? 桜……」
背後の頭上から声が聞こえた。
気付いた時には、首筋に刃が当てられていた。




