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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
一章 「紅い桜が散った村」
5/10

5話 「独白」

非常にグロテスクな内容を含みます。

閲覧には十分注意してください。



 桜は、自らの過去を話し始めた。


 桜の話に、『残響』の記憶を読み取る力が作用し、桜の視点で鮮明に映し出される。


─────


 私は、6人家族だった。

 父と母と、弟が3人。


 父は剣道の師範で、私にも小さい頃から竹刀を握らせてくれた。


 しかし、父親は私が5歳になった時、突然いなくなった。


 それから、母や弟達と、必死に日銭を稼ぐ生活。

 それでも、私は幸せだった。


─────


 ある日突然、人々が人間を超えた力、『能力』を手にした。


 でも、私は何の変化も無かった。

 村で私だけ、『能力』に目覚めることは無かった。


 私は、神様に取り零されたのだろうか。


 それでも、そんな事を弱さの言い訳にはしたくなかった。

 だから、父の与えてくれた剣の道を進み続けた。


─────


 母親は私が15歳になったくらいの時に、夜中に用事があると言って出かけたきり、帰ってこなかった。


 それでも、家を出る前に最後に抱きしめてくれた母親の温もりと、父親が残してくれた御神刀が、私達を守ってくれているような気がした。


─────


 両親がいなくなってから、1人で弟たちを養っていた。

 全員男子なので食べ盛りで、食費も生活費もバカにはならない。


 養うために、良からぬ職業にも手を出した。

 父と昔から仲の良かった八幡のおじさんは、羽振りが良かった。


 村は狭いので、私の噂はすぐに広まった。

 村の皆の目は、同情半分、軽蔑半分と言ったところだ。

 それでも、弟たちが幸せなら、ちゃんとご飯を食べさせられるなら、それでよかった。


─────


 いつの日か、職場で、客同士の話を盗み聞いた。


 村には何年かに一度、神に生贄をささげる必要があること。

 その生贄に、自身の母親が選ばれ、無惨に殺されたこと。

 今年は生贄にできる大人がいないから、子供を何人かささげて見逃してもらうこと。


 そして、それに自分たちの家族が選ばれていたことを。


 さすがに作り話だと思った。

 うそだと思った。


 確かに未◯年に手を出す下衆共ではあったが、そこまでの事をする連中だとは思ってなかった。

 そんな話は信じられず、作り話か、客の悪趣味な遊びの設定を考えてるだけだと思い込んだ。


─────


 その事を忘れかけていた夜、その日は良く稼ぎがでて、弟達に久しぶりに美味しい物を食べさせてあげようと奮発した。


 意気揚々と家に帰ると、誰もいない。


 と気づいた時には、村人たちは背後にいた。


 気づけば視界は暗くなった。

 袋を被せられたのだろうか。

 すぐに拘束され、小さな車に押し込まれる。


─────


 車で夜道を走り続け、いつになっただろう。


 急に車が止まり、降ろされ、顔を覆っていた袋を取られた。


 そこには、弟たちがいた。


 串◯しにされた弟たちが。

 丸太が貫通した口から、呻き声が漏れているのが分かる。


 現実を受け入れられず、めまいと吐き気がした。


 弟たちの後ろに鎮座する大岩に、つり下げられた紙垂が、乾いた音を立て揺れている。


 恐怖と、怒りがこみ上げてきて頭が割れそうだ。

 そして、村人たちに取り押さえられた私も、弟たちのようになろうとしていた。


 太く鋭い丸太が構えられる。


 呼吸が上手く出来ない。


 嫌だ嫌だ嫌だ…!


 絶叫しながら弟たちを見る。

 長男がまだ生きている。


 こっちを充血した虚ろな目でだらんと見ると、目をゆっくり瞑り、血の混じった涙を流した。

 赤く透き通る涙が地に落ち、染みていく。

 しばらくその様を眺めていた。



 恐怖は、明確な殺意に変わった。

 自分でも嘘のような咆哮が、口から溢れ出る。


 私たち家族をこんな目に合わせた村のクズどもに



 地獄を見せてやる……!!!!!



 私は力いっぱいに暴れた、だが、男数人に抑えられているためどうしようもない。


「死んでも全員祟り殺してやる。」

 そう決心し、死を覚悟したその時、急に一人の男が別の男の頭に斧を振りかざした。


 それを皮切りに、男たちが殺し合いを始めた。


 発狂しながら殺し合う男達は、程なくして残り一人になり、その一人も自分で喉を切り裂いて死んだ。


 場に残ったのは、私一人になった。


 男の一人が持っていた斧で、自らを戒める縄を断ち切り、立ち上がる。

 何が起きたのかは分からなかったが、一つ、気付いたことがあった。


 これが私の『能力』なんだ。


 この力があれば、この村の、私たちの人生を奪ったカスども全員を殺せる。


─────


 私は、力を手に入れた。


 『能力』を使い、村の人々を強制的に争わせる。


 『能力』を得た人間たちが、『能力』を用いて殺し合う。


 悲痛な叫び声が、炸裂する血が、その時はただただ美しいと思ってしまっていた。


 飛び散る鮮血が、まるで舞い散る桜のようだった。


─────────────────────


嵐山桜


能力 『鮮血の誓い』 

対象の罪の意識を増幅させ、恐怖や錯乱、および自傷や他害を誘発させる。


覚醒能力 『???』



─────────────────────


 殺し合いの惨劇は村中に瞬く間に広まり、集落全体が紅く染まる。


 私はゆっくりと天を仰ぐ。

 どす黒く濁った曇り空だった。

 山の中の集落からでも、夜空に星が一つも見えない程に淀みきっている。


 ぽつぽつと雨が降り出したかと思えば、すぐにざぁざぁと強い雨が降り注ぐ。


 ただ、ぼうっと空を眺め続ける。

 雨が目に入っても、何とも思えなかった。


──────


 やがて、東の空から朝日が昇り始める。

 どんな人間も、太陽は平等に照らしていく。 


 いや、太陽からは地球の青く綺麗なところしか見えないから、知らないんだ。

 この星の人間は、こんなにも汚れている事が。


 夜の闇を押しのけていく朝日すら、信じられなくなっていた。


──────


 意識がはっきりとしてくると、村人たちの亡骸を集め、埋葬した。


 ちゃんと一人一人、名字を確認し、先祖と同じ墓に埋めた。

 百何人もの亡骸を一人で埋めるのは大変なことだった。


 何日も、何日も、休まずに死体を集め、埋め続ける。

 でも不思議と、嫌悪感も、疲労感も感じなかった。


 ただ、弟たちの遺体は、何故か残っていなかった。


─────


 全ての遺体を埋葬し、かつて家族と暮らしていた家に帰る。


 正座で座り、ぼうっと家の中を見回す。


 家族との幸せな日々が、鮮明に映し出される。

 このまま気の済むまで、妄想と戯れていたかった。


 死ぬまで、ずっと。


─────


「すみませ〜ん!! 誰かいますか〜!?」


─────


 家の外から人の声が響く。


 肉声を聞いたのは、かれこれ1週間ぶりだった。

 あまりにも活気に溢れる声につられて、家を飛び出してしまう。


 そこには、見たことのない青年が居て、この村にいる人を探しているようだった。


─────


「……どなたですか?」


─────


 文面で表すより遥かに、この言葉にたくさんの疑問を詰め込んでいたと思う。


 心の底では、『どうせこいつも汚れた人間だ』

 と思っていたが、それに反した言葉を発してしまう。


─────


『少し……休んでいきます?』


─────


 どうしてこんな言葉をかけてしまったんだろう。


 私は、寂しかったんだろうか。

 この誰かも分からない青年に、期待でも抱いていたのだろうか。


 …………いや……違う。


 私は─────



─────────────────────


 桜の記憶と感情が、言葉を通じて流れ込んできた。


 でも……最後の、俺に何を求めていたのか。

 それが分からず、桜を緊迫した面持ちで見つめる。


 しばらくの痛いような沈黙の後、口を開こうとする。


 それを、桜の言葉が遮る。


「悠真、私、自分が何を望んでいるのか、やっとわかったよ」



(ぁ゙はははははははははっ!!!)



「っ…………!?」


 『残響』が、前までの号哭とは全く異なる、狂気をはらんだ歓声を拾う。

 固まる俺とは反対に、桜は快い笑みを浮かべている。


「悠真はさ、本当に綺麗な心の持ち主だよね」


 その柔らかい声に織り込まれた、有無を言わさない圧力に怯んでしまう。

 優しい声色とは裏腹に、『波』はあの「歓声」を拾い続けている。



「悠真、一つお願いしていい?」



 彼女は曇り一つない表情で、真っ直ぐ俺を見つめて、可憐に、優しく言った。



「私を殺して?」



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