5話 「独白」
非常にグロテスクな内容を含みます。
閲覧には十分注意してください。
桜は、自らの過去を話し始めた。
桜の話に、『残響』の記憶を読み取る力が作用し、桜の視点で鮮明に映し出される。
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私は、6人家族だった。
父と母と、弟が3人。
父は剣道の師範で、私にも小さい頃から竹刀を握らせてくれた。
しかし、父親は私が5歳になった時、突然いなくなった。
それから、母や弟達と、必死に日銭を稼ぐ生活。
それでも、私は幸せだった。
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ある日突然、人々が人間を超えた力、『能力』を手にした。
でも、私は何の変化も無かった。
村で私だけ、『能力』に目覚めることは無かった。
私は、神様に取り零されたのだろうか。
それでも、そんな事を弱さの言い訳にはしたくなかった。
だから、父の与えてくれた剣の道を進み続けた。
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母親は私が15歳になったくらいの時に、夜中に用事があると言って出かけたきり、帰ってこなかった。
それでも、家を出る前に最後に抱きしめてくれた母親の温もりと、父親が残してくれた御神刀が、私達を守ってくれているような気がした。
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両親がいなくなってから、1人で弟たちを養っていた。
全員男子なので食べ盛りで、食費も生活費もバカにはならない。
養うために、良からぬ職業にも手を出した。
父と昔から仲の良かった八幡のおじさんは、羽振りが良かった。
村は狭いので、私の噂はすぐに広まった。
村の皆の目は、同情半分、軽蔑半分と言ったところだ。
それでも、弟たちが幸せなら、ちゃんとご飯を食べさせられるなら、それでよかった。
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いつの日か、職場で、客同士の話を盗み聞いた。
村には何年かに一度、神に生贄をささげる必要があること。
その生贄に、自身の母親が選ばれ、無惨に殺されたこと。
今年は生贄にできる大人がいないから、子供を何人かささげて見逃してもらうこと。
そして、それに自分たちの家族が選ばれていたことを。
さすがに作り話だと思った。
うそだと思った。
確かに未◯年に手を出す下衆共ではあったが、そこまでの事をする連中だとは思ってなかった。
そんな話は信じられず、作り話か、客の悪趣味な遊びの設定を考えてるだけだと思い込んだ。
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その事を忘れかけていた夜、その日は良く稼ぎがでて、弟達に久しぶりに美味しい物を食べさせてあげようと奮発した。
意気揚々と家に帰ると、誰もいない。
と気づいた時には、村人たちは背後にいた。
気づけば視界は暗くなった。
袋を被せられたのだろうか。
すぐに拘束され、小さな車に押し込まれる。
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車で夜道を走り続け、いつになっただろう。
急に車が止まり、降ろされ、顔を覆っていた袋を取られた。
そこには、弟たちがいた。
串◯しにされた弟たちが。
丸太が貫通した口から、呻き声が漏れているのが分かる。
現実を受け入れられず、めまいと吐き気がした。
弟たちの後ろに鎮座する大岩に、つり下げられた紙垂が、乾いた音を立て揺れている。
恐怖と、怒りがこみ上げてきて頭が割れそうだ。
そして、村人たちに取り押さえられた私も、弟たちのようになろうとしていた。
太く鋭い丸太が構えられる。
呼吸が上手く出来ない。
嫌だ嫌だ嫌だ…!
絶叫しながら弟たちを見る。
長男がまだ生きている。
こっちを充血した虚ろな目でだらんと見ると、目をゆっくり瞑り、血の混じった涙を流した。
赤く透き通る涙が地に落ち、染みていく。
しばらくその様を眺めていた。
恐怖は、明確な殺意に変わった。
自分でも嘘のような咆哮が、口から溢れ出る。
私たち家族をこんな目に合わせた村のクズどもに
地獄を見せてやる……!!!!!
私は力いっぱいに暴れた、だが、男数人に抑えられているためどうしようもない。
「死んでも全員祟り殺してやる。」
そう決心し、死を覚悟したその時、急に一人の男が別の男の頭に斧を振りかざした。
それを皮切りに、男たちが殺し合いを始めた。
発狂しながら殺し合う男達は、程なくして残り一人になり、その一人も自分で喉を切り裂いて死んだ。
場に残ったのは、私一人になった。
男の一人が持っていた斧で、自らを戒める縄を断ち切り、立ち上がる。
何が起きたのかは分からなかったが、一つ、気付いたことがあった。
これが私の『能力』なんだ。
この力があれば、この村の、私たちの人生を奪ったカスども全員を殺せる。
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私は、力を手に入れた。
『能力』を使い、村の人々を強制的に争わせる。
『能力』を得た人間たちが、『能力』を用いて殺し合う。
悲痛な叫び声が、炸裂する血が、その時はただただ美しいと思ってしまっていた。
飛び散る鮮血が、まるで舞い散る桜のようだった。
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嵐山桜
能力 『鮮血の誓い』
対象の罪の意識を増幅させ、恐怖や錯乱、および自傷や他害を誘発させる。
覚醒能力 『???』
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殺し合いの惨劇は村中に瞬く間に広まり、集落全体が紅く染まる。
私はゆっくりと天を仰ぐ。
どす黒く濁った曇り空だった。
山の中の集落からでも、夜空に星が一つも見えない程に淀みきっている。
ぽつぽつと雨が降り出したかと思えば、すぐにざぁざぁと強い雨が降り注ぐ。
ただ、ぼうっと空を眺め続ける。
雨が目に入っても、何とも思えなかった。
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やがて、東の空から朝日が昇り始める。
どんな人間も、太陽は平等に照らしていく。
いや、太陽からは地球の青く綺麗なところしか見えないから、知らないんだ。
この星の人間は、こんなにも汚れている事が。
夜の闇を押しのけていく朝日すら、信じられなくなっていた。
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意識がはっきりとしてくると、村人たちの亡骸を集め、埋葬した。
ちゃんと一人一人、名字を確認し、先祖と同じ墓に埋めた。
百何人もの亡骸を一人で埋めるのは大変なことだった。
何日も、何日も、休まずに死体を集め、埋め続ける。
でも不思議と、嫌悪感も、疲労感も感じなかった。
ただ、弟たちの遺体は、何故か残っていなかった。
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全ての遺体を埋葬し、かつて家族と暮らしていた家に帰る。
正座で座り、ぼうっと家の中を見回す。
家族との幸せな日々が、鮮明に映し出される。
このまま気の済むまで、妄想と戯れていたかった。
死ぬまで、ずっと。
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「すみませ〜ん!! 誰かいますか〜!?」
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家の外から人の声が響く。
肉声を聞いたのは、かれこれ1週間ぶりだった。
あまりにも活気に溢れる声につられて、家を飛び出してしまう。
そこには、見たことのない青年が居て、この村にいる人を探しているようだった。
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「……どなたですか?」
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文面で表すより遥かに、この言葉にたくさんの疑問を詰め込んでいたと思う。
心の底では、『どうせこいつも汚れた人間だ』
と思っていたが、それに反した言葉を発してしまう。
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『少し……休んでいきます?』
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どうしてこんな言葉をかけてしまったんだろう。
私は、寂しかったんだろうか。
この誰かも分からない青年に、期待でも抱いていたのだろうか。
…………いや……違う。
私は─────
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桜の記憶と感情が、言葉を通じて流れ込んできた。
でも……最後の、俺に何を求めていたのか。
それが分からず、桜を緊迫した面持ちで見つめる。
しばらくの痛いような沈黙の後、口を開こうとする。
それを、桜の言葉が遮る。
「悠真、私、自分が何を望んでいるのか、やっとわかったよ」
(ぁ゙はははははははははっ!!!)
「っ…………!?」
『残響』が、前までの号哭とは全く異なる、狂気をはらんだ歓声を拾う。
固まる俺とは反対に、桜は快い笑みを浮かべている。
「悠真はさ、本当に綺麗な心の持ち主だよね」
その柔らかい声に織り込まれた、有無を言わさない圧力に怯んでしまう。
優しい声色とは裏腹に、『波』はあの「歓声」を拾い続けている。
「悠真、一つお願いしていい?」
彼女は曇り一つない表情で、真っ直ぐ俺を見つめて、可憐に、優しく言った。
「私を殺して?」




