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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
序章 「弱者の咆哮」
3/49

3話 「始まり」

「止められない。で、終わらせられると思うなよ……!!」


 俺は充電音の響く鋼のレールガンに掴みかかる。

 そして、力いっぱいに自分の腹に銃口を押し当てる。


「はっ……? ちょっ……君っ……!」


 鋼が咄嗟にレールガンを奪おうとするも、掴んだその手は離さない。


「くっ……! この……!」


「撃ったら俺ごとぶち抜くぞ!?」


 銃口を腹に押しつけたまま、脅迫する。

 鋼はそれを、血の気が引いた顔で睨みつける。


「何してんだよ本当に!! 離せ!!」


 怒りと、哀しみ。

 そして、少しの期待が、『波』となって響いてくる。


「本当は……撃ちたくないんだろ……!?」


「ッ……!」


 鋼は目線を、俺の腹から頭へと移す。

 あの青い目と、ようやく目が合った。


「っ……! クソっ……!!」


 「ヂッ……」という音を立て、レールガンの充電音が止まる。

 そして、ありったけの憎悪を込めた視線を向けてくる。


「何してんだよ……死にたいのか……?」


「そんなわけないだろ……!!」


 「死にたいのか」という言葉に、カチンと来た。


「っ………! じゃあ……なんでっ……」


 彼は希望を持つことを恐れている。

 どこかで否定されることを望んでいる。

 それがわかってもなお、諦めたくない。


「……君に恩を返したかった」


 鋼の『波』が明確に怒りをはらむ。

 レールガンを握り締めた手が震えていた。


「そんな自分勝手な理由で……? 僕は決心つけて来たんだぞ!? それを……!」


「こんなことにする決心なんて無駄だ……!」


「っ……」


 鋼の『否定されたい』という願望を、ひどく突き放し、拒絶する。


 「希望」を本人は頑なに受け入れようとしていない。


 鋼の『波』は、壊れそうなくらい張り詰めていた。


 強いからこそ、全部抱え込んでしまったんだと思う。


 それをただの自己否定、自己嫌悪で終わらせるなんてごめんだ。

 抱え込みすぎた人間が反発して裁かれるなんてもっともだ。


 だから、自己否定を否定させる。


「…………確かに、俺は〈弱い〉から、君の辛さはわからないかもしれない。でも、こんなところで、君を……俺の憧れを終わらせたくないんだよ……!」


「……憧れ……? 僕が……君の?」


「あの時君が助けてくれたから、今の俺がいる。だから俺も君を助けたいと思えたんだ……!」


 多分、俺の目はすごく血走っていたと思う。

 あまりにも必死で、まさに弱者の咆哮ほうこうといったところか。


 でも、ようやく憎悪と失望に塗装された鋼の『波』を、貫けた気がした。


 鋼は目を逸らし、少し肩を震わせて笑った。


「っ……はは……やっぱり……君、強いね」


「えっ……なんで……」


 思いがけない言葉に、少し返事が詰まる。


「強すぎるよ」


 鋼は笑いながら、少し泣いていた。

 涙と一緒に、目の濁りが流れていくような錯覚を覚える。


「僕さ、あの時君を助けに入った時、めちゃくちゃ怖かったんだよね」


「えっ……」


「じつは……君がいじめられてた子を助けて、その後あの子たちにやられてるのを、僕は最初から見てたんだ」


 予想外の告白に、言葉を詰まらせてしまう。


「最初は怖かったんだ、無視しようかとさえ思った。でも……放っておけなかった」


 その言葉の後、場に少しの沈黙が流れる。

 何を言ったらいいのか、この時ばかりは分からなかった。

 先に口を開いたのは、鋼だった。


「僕さ、あの喧嘩騒動のあと、引っ越しさせられたんだ」


「そう……だったんだ……」


「うん。親が〈そんな子のいるようなところに住まわせたくない〉だとか何とかさ。今考えるとさ、ホントにくだらないよな……! っはは……!!」


 今、『くだらない』と吐き捨てたものが、鋼の心の片隅をどれだけの間、占領していたのだろう。


「もうなんか、どうでもよくなった。……ていうか、心が軽くなった。……ありがとう」


 鋼は頭を掻きながら、照れたような顔で軽く笑った。


「いや……そんな、俺は自分のやるべきだと思ったことをやっただけで……いや、どういたしまして」


 変に謙遜けんそんしない強さ。

 これも、鋼から教わったものだ。

 それに気づいたのか、鋼も少し顔を明るくした。


「そうだ。名前、教えてよ」


「俺、蓮界れんかい悠真」


「僕は錆林さばやし鋼。じゃあ……また後で連絡す……」



「お兄さん達、ここで何してるのかな?」


 夜道の先から、突然、声が響いた。

 懐中電灯の三つの光が俺たち二人を照らす。


 水色に、締まった服装。

 

 それは、警察だった。

 おそらく、発砲音や俺たちの緊迫した声を聞いて、近隣住民の方が通報したのだろう。



「花火大会でもしてた? 近所迷惑だよ。ちょっと話聞いても大丈夫?」


「っ……!」


 三人の警官が、ゆっくりと詰め寄ってくる。

 優しい口調とは裏腹に、その『波』は俺たちに疑心を向けていた。


 ここで、鋼が暴動を起こそうとした事を知られてしまったら、逮捕されてしまうかもしれない。

 かといって、逃げ出せば余計に怪しまれる。


 俺たち二人は、終わりを悟った。



 その瞬間、視界がぐるりと大きく回り、地面がひどく遠くに離れる。


「なっ……!?」

(誰かに……抱えられて……!?)



 しばらく、俺たちは宙を舞った。



 警官の気配すら感じなくなるほどに遠くの道端で、俺たちは降ろされた。


「はぁ……はぁ……」


 誰が……こんな事を、どうやって。


 自身を抱えていたであろう目の前の人影を、恐る恐る見上げる。



「ナイスだったよ」


 そこには、高そうな緑色の着物を着た、銀髪の青年が、親指を立てて微笑んでいた。

 彼の『波』は、どこか深いところに嫌な感じがして、あまり触れたくないと思った。


「言葉で人を少しでも動かせるってのは、立派な〈強さ〉だよね」


 うんうんと頷きながら語りかけてくる。

 俺のさっきまでのが見られてたと思うと、少し恥ずかしい。


「えっ……あの……」


「でも、自分自身で理想を叶える力が欲しいなら、『千秋楽山せんしゅうらくざん』に来て欲しい。ここが君の大きな〈分岐〉になるからさ」


「……えぇ……?」


 〈分岐〉が何のことかは分からないが、『波』で、嘘や冗談ではないのが分かる。

 本気で、彼はそんな事を言っていた。


 それでも、俺の中の疑心を見透かされたのだろう。

 彼は急に真顔になり、真剣な目を向ける。

 そして、俺の耳元まで屈み、小声で呟いた。


「……死を望んでいるような少女ひとを、見過す事は出来ないタチだろ?」


「えっ」


「じゃ。そういう事で」


「ちょっ……待って……!」

「な、何者なんですか……!?」


 引き止める俺たちをよそに、彼は手を振りながら何処かに歩いていってしまう。

 ただ歩いていただけのはずなのに、彼の姿は直ぐに夜の闇に呑まれて見えなくなってしまった。



 ただ、呆然と道の先を眺める。

 そして、鋼と目を見合わせる。


「な……何だったんだ……」


─────


 気持ちが落ち着いた後、少しだけ鋼と話した。

 鋼の本名は『錆林さばやし 鋼』と言うらしい。

 互いに本名を伝え合い、また会う約束だけして、今日は帰った。


─────────────────────


 人の気配のしない、山奥の秘境の地、千秋楽山。


「あれが『残響』と、『理想主義者ロマンチスト』の能力か……期待できそうだよ。お地蔵さん」


 銀髪の青年は、大きな岩の上に座りながら傍らに立つお地蔵さんに話しかける。

 その声色は、少しばかり、興奮しているようだった。


 お地蔵さんは、表情を変えずに、ゆっくりと話し出す。


「……あの子、本当に必要なんじゃよな……? 『奴』を倒すのに……」


 夜の涼しい風が山上を撫でる。

 銀髪の青年は、神妙な面持ちで答える。


「うん。うちの山の……いや、ゆくゆくは世界がかかってる〈分岐〉になる。ダメなんだよ、あの子じゃなきゃね」


「やけにポエミーじゃな。ていうか、あんな少しの勧誘で大丈夫なのじゃろうか? うちの山の未来がかかってるんじゃよな……?」


 ごもっともな疑問を投げかけられ、銀髪の青年は少し考えてから答える。


「それなら多分大丈夫。『理想主義者ロマンチスト』は、するべき事を理解出来ているはずだからさ」


 青年は全てが分かっているかのように語るが、お地蔵さんは信じられなかった。

 あのどこにでもいるような悠真という青年が、自分たちの『未来』に大きく関わるということに。


「……『理想主義者ロマンチスト』とは……どういう能力なんじゃ……?」


 青年は、「説明が難しいんだけど……」と前置きをし、頭を軽く掻きながら話し出す。


「悠真の中の〈理想の魂〉そのもの……『救心欲』の塊みたいな感じかな」


「……それ……能力と言えるのじゃろうか?」


 能力とは、従来の人間を超えた力の事を指すことが多い。

 だからこそ『能力』と呼ばれるのだ。

 聞く限り、その『理想主義者ロマンチスト』という能力は、ただ、行動力と善性を高めるだけの代物だった。


 銀髪の青年はにっこりと笑ってみせた。


「立派な『能力』だよ。何も特別な力だけが、人の能力だとは限らないだろ?」


「……そうじゃな」


「それに、あの能力は────」


 この青年は知っていた。

 この先、『悠真』という存在が、そして、『理想主義者ロマンチスト』という異質な能力が、いつかこの世界の運命を握り締め、抗うと言うことを。


─────────────────────


 一方その頃悠真は、風呂を上がり、筋トレをしていた。

 腕立ての回数を数える声がだんだんと力む。


「20……っ……よ〜し……」


 20回の腕立てが5セット終わり、疲れて布団に腰掛ける。

 そしていつも通りスマホに手をかけた時、先ほどの話を思い出す。


「千秋楽山……だっけ」


 検索エンジンに指を伸ばす。



「グー◯ルマップ……ここから……千秋楽山………200km先の山奥って……」


 遠く離れた山奥までわざわざ行く。

 それでも、彼の行動が、『波』が、彼の最後の言葉が、脳裏にこびりついて離れない。


「『死を望んでいるような人』って……どういう事……」


 意味深な言葉に、俺の中では、謎の使命感が膨らんでいた。


 ……もし、『死を望んでいる人』を止めることが、今ならできるとしたら……?

 あの彼の『波』から感じられた、嫌な感覚と、その奥にある悲壮感の正体は何だ……?


 確かめられない疑問が、考えれば考える程浮かんで来る。

 でも、一つだけ確かだった。


 彼には、『自身の力が必要である』と。


 だから、決心するまでにそう時間は掛からなかった。


「……行く……か」


 でも、俺はバイクの免許を持ってない。

 行くならロードバイクでツーリングの旅だ。


 カレンダーのアプリを開き、予定を確認する。


「行くなら春休みからだな……準備しておこう」


─────


【1週間後】


「お金持った、水筒持った、非常食持った……ロードバイクで旅……人生で一回はやってみたかったんだよなぁ……」


 荷物と戸締まりの確認をし、玄関のドアを開ける。


「よし……! 行くか……!」


 涼しい2月の風が、耳の上を颯爽と吹き抜けていった。


─────


 知っているような、知らないような道を、マップを頼りに漕ぎ続け、そして夜は予約していたビジネスホテルに泊まった。

 貯金を切り崩しながらの旅は、予想以上に新鮮な心地よさがあった。


─────


【翌日】


 ビジネスホテルの会計を済ませ、ロードバイクに乗る。


(この先からだんだん人気なくなってくるんだよな……The山って感じ……)


 街から外れ、建物は見渡す限りどこにもなく、草木が生い茂る山奥へと進んでいく。


─────


 数時間ほど漕ぎ続けると、ふと、草木の先に開けた場所があり、木でできた質素な建造物が見える。


「……村……集落…?」


 目的地の千秋楽山には、まだまだ遠く、立ち寄る理由も無い。


 はずだった。


(ぐぅ゙ぅ゙っ……! あ゙ぁ゙ぁ゙っ……! っ……!)



「!?」

(何だ……今の……泣き声……?『残響』が拾ったのか……?)


 今まで感じたことのない「ガンガン」と頭の中に響き渡る『波』。


 鋼の時と同じように、苦痛と怨嗟に塗れた流れを感じ取る。

 だが、うめき声のような形で、『残響』が拾ったのは初めてだった。


 未知への恐怖は当然あるが、それでももはや迷いはなかった。

 これを聞いてなお、その誰かを助けに行かないという選択肢はあり得なかった。


 それが、どれほど『傲慢』な事かも知らずに。


「……行くか」


─────


 集落の周りにつき、集落の中を見回す。


「随分と……こじんまりした集落だな…」


 ロードバイクを降り、山奥の集落へと入っていく。

 集落は酷く淋しく、空気の時間が止まっているような感覚を覚える。


 悠真が異変に気づいたのは、集落に入ってすぐのことだった。


「てか……人居ないよな……?」


 廃集落なのだろうか。

 それに、ほのかに生臭いような香りが、集落全体から漂ってくる。


 段々と怖くなってきたので、それを紛らわすように、無駄に大きな声で人を呼ぶ。


「す……すみませ〜ん!! 誰かいますか〜!」



(っ…ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ……!)



「……また……」


 耳では聞こえないのに、呻き声のような『波』が響いてくる。

 この異常な『波』を発している主を一刻も早く探さなければと思った。


「……すみません!! 誰か!! いませんか!!」



(ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!)



「ぇっ……!?」


 一際強い号哭ごうこくが響き、咄嗟に振り返る。



「……どなたですか?」


 そこに立っていたのは、黒い着物に、後ろで結んだ長い黒髪の女性だった。

 体格や雰囲気からも、17〜18歳ほどに見える。


 華奢きゃしゃで……どこか儚げな少女だ。


 そして、濃い桃色の目をしている。



 ゾクッ……



 目を合わせた瞬間、背筋が一気に凍りつく。

 彼女から『それ』を読み取れてしまった。

 冷や汗が尋常じゃない勢いで流れていく。



「こんな山奥に……何の用で……?」


 疑うような低い声で、彼女は問い質してくる。


 恐怖で頭の回転が早くなり、早口で彼女の質問に答える。


「えっと、旅をしてるんだ、この先に用があって」


 彼女は、俺の言葉に少しだけ間を空けてから、答えた。


「へぇ……珍しい。疲れてるみたいですね。大したものはないですけど……少し休んでいきます?」


 無邪気でいて、どこか慈しむような可憐かれんな表情で、優しく提案してくる。

 それを断れば、何かが決定的に壊れる。 そんな確信にも近い直感が走った。


 そして、何よりも、

(こんな子……放っておけるわけが無い……!)


「……うん……そうさせてもらうよ」


 彼女はぱっと明るい顔になった。

 血が滲んだような桃色の目が輝く。


「良かった。そうだ、お名前は?」


 自分の手先が震えているのが分かり、咄嗟に後ろ手に隠す。


「……蓮界 悠真」


「私は桜。嵐山 桜っていいます」


 彼女は、にこりと笑った。


 頭をガンガンと殴りつけられるような『波』に、足が竦む。


 あの時目を合わせた時に、『残響』が読み取ったこと。


─────


 村の人たちみんな、この子が殺したんだ。


─────

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― 新着の感想 ―
こんばんわ! 感想失礼します。 今日はありがとうございました! ここまで読みましたが自分の作品となんとなく雰囲気が似ていて読みやすかったです。 これからも頑張ってください!
とりあえず序章を読ませていただきました。 鋼の強者故の苦しみ、悠馬の弱者故の苦しみ 鋼の優しさ、悠馬の優しさ そして二人の葛藤 これらの描き方が本当にすごいです。 僕にはこんなリアルな心情描写や、…
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