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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
序章 「弱者の咆哮」
3/10

3話 「始まり」


「止められない。で、終わらせられると思うなよ……!!」


 俺は充電音の響く鋼のレールガンに掴みかかる。

 そして、力いっぱいに自分の腹に銃口を押し当てる。


「はっ……? ちょっ……君っ……!」


 鋼が咄嗟にレールガンを奪おうとするも、掴んだその手は離さない。


「くっ……! この……!」


「撃ったら俺ごとぶち抜くぞ……!!」


 銃口を腹に押しつけたまま、脅迫する。

 鋼はそれを、血の気が引いた顔で睨みつける。


「何してんだよ本当に!! 離せ!!」


 怒りと、哀しみ。

 そして、少しの期待が、『波』となって響いてくる。


「本当は……撃ちたくないんだろ!?」


「ッ……!」


 鋼は目線を、俺の腹から頭へと移す。

 あの青い目と、ようやく目が合った。


「っ……! クソっ……!!」


 「ヂッ……」という音を立て、レールガンの充電音が止まる。


「何してんだよ……死にたいのか……?」


「そんなわけないだろ……!!」


 「死にたいのか」という言葉にちょっとイラついたので、きっぱりと拒絶する。


「っ………! じゃあ……なんでっ……」


 彼は希望を持つことを恐れている。

 どこかで否定されることを望んでいる。

 それがわかってもなお、諦めたくない。


「……君に恩を返したかった」


 鋼の『波』が明確に怒りをはらむ。

 レールガンを握り締めた手が震えていた。


「そんな自分勝手な理由で……? 僕は決心つけて来たんだぞ!? それを……!」


「こんなことにする決心なんて無駄だ……!」


「っ……!」


 鋼の『否定されたい』という願望を、ひどく突き放し、拒絶する。


 鋼の『波』に、少しずつ希望が宿っていくのが分かる。

 それを本人は頑なに受け入れようとしていない。

 鋼は〈強い〉から、たくさんのことを抱え込みすぎて、押しつぶされてしまったのだろう。


 それをただの自己否定、自己嫌悪で終わらせるなんてごめんだ。

 抱え込みすぎた人間が反発して裁かれるなんてもっともだ。


 だから、自己否定を否定させる。


「…………確かに、俺は〈弱い〉から、君の辛さはわからないかもしれない。でも、こんなところで、君を……俺の憧れを終わらせたくない……!」


「……憧れ……? 僕が……君の?」


「間違いない。あの時君が助けてくれたから、今の俺がいる。だから俺も君を助けたいと思えたんだ……!」


 多分、俺の目はすごく血走っていたんだと思う。

 あまりにも必死で、まさに弱者の咆哮ほうこうといったところか。


 鋼は目を逸らし、少し肩を震わせて笑った。


「っ……はは……やっぱり……君、強いね」


「えっ……なんで……」


 思いがけない言葉に、少し返事が詰まる。


「強すぎるよ」


 鋼は笑いながら、少し泣いていた。

 涙と一緒に、目の濁りが流れていくような錯覚を覚える。


「僕さ、あの時君を助けに入った時、めちゃくちゃ怖かったんだよね」


「えっ……」


「じつは……君がいじめられてた子を助けて、その後あの子たちにやられてるのを、僕は最初から見てたんだ」


 予想外の告白に、言葉を詰まらせてしまう。


「最初は怖かったんだ、無視しようかとさえ思った。でも……放っておけなかった」


 その言葉の後、場に少しの沈黙が流れる。

 何を言ったらいいのか、この時ばかりは分からなかった。

 先に口を開いたのは、鋼だった。


「僕さ、あの喧嘩騒動のあと、引っ越しさせられたんだ」


「そう……だったんだ……」


「うん。親が〈そんな子のいるようなところに住まわせたくない〉だとか何とかさ。今考えるとさ、ホントにくだらないよな……! っはは……!!」


 今、『くだらない』と吐き捨てたものが、鋼の心の片隅をどれだけの間、占領していたのだろう。


「もうなんか、どうでもよくなった。……ていうか、心が軽くなった。……ありがとう」


 鋼は頭を掻きながら、照れたような顔で軽く笑った。


「いや……そんな、俺は自分のやるべきだと思ったことをやっただけで……いや、どういたしまして」


 変に謙遜けんそんしない強さ。

 これも、鋼から教わったものだ。

 それに気づいたのか、鋼も少し顔を明るくした。


「そうだ。名前、教えてよ」


「俺、蓮界れんかい悠真」


「僕は錆林さばやし鋼。じゃあ……もう暗いし、また後で連絡するよ」


 そう言った彼の目は、街灯の切れた夜の闇の中でも、青く、綺麗に光っていた。


「うん、じゃあな」


 軽く手を振り、もと来た方向へ、ゆっくりと歩いていく。

 その背中は、かつて見た時よりも、大きかった。


─────


(取り繕ってたけどめっちゃ冷や汗エグい……! 早く帰ろ)


 ランニングをしに来ていたことを思い出し、再度家へと走り出す。

 緊張でダラダラと流れていた汗が、夜風に冷えて肌寒い。


─────


「ナイスだったよ」


 急に話しかけられ、足を止め、振り返る。


 そこには、高そうな緑色の着物を着た、銀髪の青年が、親指を立てて微笑んでいた。

 彼の『波』は、どこか嫌な感じがして、あまり触れたくないと思った。


「言葉で人を少しでも動かせるってのは、立派な〈強さ〉だよね」


 うんうんと頷きながら語りかけてくる。

 俺のさっきまでのが見られてたと思うと、少し恥ずかしい。


「えっ……あの……」


「でも、自分自身で理想を叶える力が欲しいなら、『千秋楽山せんしゅうらくざん』に来て欲しい。ここが君の大きな〈分岐〉になるからさ」


「……えぇ…?」


 〈分岐〉が何のことかは分からないが、『波』で、嘘や冗談の類ではないのが分かる。


 それでも、俺のなかの疑心を見透かされたのだろう。

 彼は急に真顔になり、真剣な目を向けた。


「……死を望んでいるような少女ひとを、見過す事は出来ないタチだろ?」


「えっ」


「じゃ。そういう事で」


「ちょっ……」


 引き止める俺をよそに、彼は手を振りながら何処かに歩いていってしまう。

 ただ歩いていただけのはずなのに、彼の姿は直ぐに夜の闇に呑まれて見えなくなってしまった。


「……なんだったんだ……? まぁ……一旦帰って風呂入るか……」


─────────────────────


 人の気配のしない、山奥の秘境の地、千秋楽山。


「あれが『残響』と、『理想主義者ロマンチスト』の能力か……期待できそうだよ。お地蔵さん」


 銀髪の青年は、大きな岩の上に座りながら傍らに立つお地蔵さんに話しかける。

 その声色は、少しばかり、興奮しているようだった。


 お地蔵さんは、表情を変えずに、ゆっくりと話し出す。


「……あの子、本当に必要なんじゃよな……? 『奴』を倒すのに……」


 夜の涼しい風が山上を撫でる。

 銀髪の青年は、神妙な面持ちで答える。


「うん。うちの山の……いや、ゆくゆくは世界がかかってる〈分岐〉になる。あの子達を取り巻く人間……想いの流れは、やがてこの先に待つ『現実』を変える大きな力になる」


「やけにポエミーじゃな。ていうか、あんな少しの勧誘で大丈夫なのじゃろうか? うちの山の未来がかかってるんじゃよな……?」


 ごもっともな疑問を投げかけられ、銀髪の青年は少し考えてから答える。


「それなら多分大丈夫。無意識的だろうけど、悠真の『理想主義者ロマンチスト』は、自分がどうするべきか、理解出来ているはずだからさ」


 青年は全てが分かっているかのように語るが、お地蔵さんは信じられなかった。

 あのどこにでもいるような悠真という青年が、自分たちの『未来』に大きく関わるということに。


「……『理想主義者ロマンチスト』とは……どういう能力なんじゃ……?」


 青年は、「説明が難しいんだけど……」と前置きをし、頭を軽く掻きながら話し出す。


「『やるべきだと思ったことを迷わず行動に移せる』能力……悠真の中の『人を助けたい』という〈理想の魂〉そのものかな」


「……それ……能力と言えるのじゃろうか?」


 能力とは、従来の人間を超えた力の事を指すことが多い。

 だからこそ『能力』と呼ばれるのだ。

 聞く限り、その『理想主義者ロマンチスト』という能力は、ただ、行動力と善性を高めるだけの代物だった。

 銀髪の青年はにっこりと笑ってみせた。


「立派な『能力』だよ。何も特別な力だけが、人の能力だとは限らないだろ?」


「……そうじゃな」


「それに、あの能力は、いずれ『神』に通じる。だって……アレは────」


 この青年は知っていた。

 この先、『悠真』という存在が、そして、『理想主義者ロマンチスト』という異質な能力が、いつかこの世界の運命を大きく変えていく事を。


─────────────────────


 一方その頃悠真は、風呂を上がり、筋トレをしていた。

 腕立ての回数を数える声がだんだんと力む。


「20……っ……よ〜し……」


 20回の腕立てが5セット終わり、疲れて布団に腰掛ける。

 そしていつも通りスマホに手をかけた時、先ほどの話を思い出す。


「千秋楽山……だっけ」


 検索エンジンに指を伸ばす。


「グー◯ルマップ……ここから……千秋楽山………200km先の山奥って……」


 山奥までわざわざ行く。

 一見面倒な行為だが、彼の最後の言葉が、脳裏にこびりついて離れない。


「『死を望んでいるような人』って……どういう事……」


 意味深な言葉に、悠真の中で謎の使命感が膨らんでいく。

 決心するまでに、そう時間は掛からなかった。


「……行く……か」


 だが、悠真はバイクの免許を持っていない。

 行くならロードバイクでツーリングの旅だ。


 カレンダーのアプリを開き、予定を確認する。


「行くなら春休みからだな……準備しておこう」


─────


【1週間後】


「お金持った、水筒持った、非常食持った……ロードバイクで旅……人生で一回はやってみたかったんだよなぁ……」


 荷物と戸締まりの確認をし、玄関のドアを開ける。


「よし! 行くか!」


 涼しい2月の風が、耳の上を颯爽と吹き抜けていった。


─────


【ロードバイクツーリングの旅】


 風が耳の上を吹き抜けていく心地よい感覚を味わいながら、見慣れた街並みを通り過ぎていく。

 住み慣れた街を少し外れると、そこは全くの未開の地。

 マップの情報を頼りに、知らない街を進んでいく。

 こういう時の知ってるコンビニやチェーン店の安心感はすごい。


 予約していたビジネスホテルに泊まり、シャワーを浴び、コンビニの弁当と容量の多いカップ麺をいただく。


 そして、筋トレをして、軽くスマホゲームをする。


 予想より早く眠気が来たので、怪談を聞きながら眠る。


 悠真はツーリング慣れしているわけではないので、かなり疲れたが、充実した1日目だった。


─────


【翌日】


 ビジネスホテルの会計を済ませ、ロードバイクに乗る。


(この先からだんだん人気なくなってくるんだよなぁ……The山って感じ……)


 街から外れ、建物は見渡す限りどこにもなく、草木が生い茂る山奥へと進んでいく。


「いや〜……自然の空気気持ちいぃ……!」


─────


 数時間ほど漕ぎ続けると、ふと、草木の先に開けた場所があり、木でできた質素な建造物が見える。


「……村……集落…?」


 目的地の千秋楽山には、まだまだ遠く、立ち寄る理由も無い。


 はずだった。


(ぐぅ゙ぅ゙っ……! あ゙ぁ゙ぁ゙っ……! っ……!)



「!?」

(何だ……今の……泣き声……?『残響』が拾ったのか……?)


 今まで感じたことのない「ガンガン」と頭の中に響き渡る『波』。


 鋼の時と同じように、苦痛と怨嗟に塗れた流れを感じ取る。

 だが、うめき声のような形で、『残響』が拾ったのは初めてだった。


 未知への恐怖も当然あるが、悠真に迷いはなかった。

 助けに行かないという選択肢は、悠真の中には無かった。

 それが、どれほど『傲慢』な事かも知らずに。


「……行くか」


─────


 集落の周りにつき、集落の中を見回す。


「随分と……こじんまりした集落だな…」


 ロードバイクを降り、山奥の集落へと入っていく。

 集落は酷く淋しく、空気の時間が止まっているような感覚を覚える。


 悠真が異変に気づいたのは、集落に入ってすぐのことだった。


「てか……人居ないよな……?」


 廃集落なのだろうか。

 それに、ほのかに生臭いような香りが、集落全体から漂ってくる。


 段々と怖くなってきたので、それを紛らわすように、無駄に大きな声で人を呼ぶ。


「す……すみませ〜ん!! 誰かいますか〜!」



(っ…ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ……!)



「……また……」


 耳では聞こえないのに、呻き声のような『波』が響いてくる。

 この異常な『波』を発している主を一刻も早く探さなければと思った。


「……すみません!! 誰か!! いませんか!!」



(ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!)



「ぇっ……!?」


 一際強い号哭ごうこくが響き、咄嗟に振り返る。



「……どなたですか?」


 そこに立っていたのは、黒い着物に、後ろで結んだ長い黒髪の女性だった。

 体格や雰囲気からも、17〜18歳ほどに見える。


 華奢きゃしゃで……どこか儚げな少女だ。


 そして、濃い桃色の目をしている。



 ゾクッ……



 目を合わせた瞬間、背筋が一気に凍りつく。

 彼女から『それ』を読み取れてしまった。

 冷や汗が尋常じゃない勢いで流れていく。


「こんな山奥に……何の用で……?」


 疑うような低い声で、彼女は問い質してくる。


 恐怖で頭の回転が早くなり、早口で彼女の質問に答える。


「えっと、旅をしてるんだ、この先に用があって」


 彼女は、俺の言葉に少しだけ間を空けてから、答えた。


「へぇ……珍しい。疲れてるみたいですね。大したものはないですけど……少し休んでいきます?」


 無邪気でいて、どこか慈しむような可憐かれんな表情で、優しく提案してくる。

 それを断ってはいけないと、直感で理解した。


 そして、何よりも、

(こんな子……放っておけるわけが無い……!)


「……うん……そうさせてもらうよ」


 彼女はぱっと明るい顔になった。

 血が滲んだような桃色の目が輝く。


「良かった。そうだ、お名前は?」


 自分の手先が震えているのが分かり、咄嗟に後ろ手に隠す。


「……蓮界 悠真」


「私は桜。嵐山 桜っていいます」


 頭をガンガンと殴りつけられるような『波』に、足が竦む。


 あの時目を合わせた時に、『残響』が読み取ったこと。


─────


 村の人たちみんな、この子が殺したんだ。


─────

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