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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
二章 「千秋楽山・修行編/邪仙片鱗」
20/28

20話 『決戦前夜に』


「それじゃ、明日の相手……『童子』達について、『視られた』限りの情報を伝える。よく聞いて欲しい」


 場の全員が、黙って琉琉助を注視する。


「先ず、敵勢力は『金色童子こんじきどうじ』率いる総勢64人の『先駆者』の軍勢だ」


「『先駆者』って……あの時の飢餓天狗アイツと同じ……!」


 『先駆者』は、世界の人間全員が『能力』を得る以前から『能力』を寄与されていた者たちの事だ。

 あれほどの強さを持った奴が大勢……!?


 俺の不安に答えるように、琉琉助は続けた。


「一概に『先駆者』と言っても、悠真と桜が以前戦った飢餓天狗レベルの使い手は多くない。あのレベル以上の猛者は、『視た』感じ軍勢の中にも15人程度しかいない」


 だとしても15人もいる。

 俺は考えただけでも震えてくるが、横に座る桜の『波』からは、恐れは全く感じ取れなかった。


「それじゃ次に、その中でも特に強い。もとい、接敵する可能性が高い奴らを挙げていく」


「先ず、敵のアタマ、『金色童子』。能力は『金属を生み出す能力』だ。それに加え、高いレベルの体術や、『層合気』を使ってくる」


「『層合気』を……!?」


 『層合気』は、千秋楽山の仙人秘伝の武術のはずだ、何故敵が使うことができる……?


「『金色童子』は元々、千秋楽山の仙人だったんだけど、意見の食い違いで道が分かたれちゃってね」


「そう……だったんですか……」


 琉琉助の『波』が、一瞬、揺らいだ。


「話を戻そう。『金色童子』は俺が対処するからいいとして、問題はここから。今から挙げる奴らは、悠真や桜も鉢合う可能性があるから、十分に気を付けてほしい」


 空気がまた一段と張り詰める。

 

「まず、『獬豸かいち』 背が高くて青い髪の男だ。獬豸は『触れたものを分解する霧』を放つ『能力』を持っている。非常に殺傷力が高いから悠真と桜は、接敵したら戦わずに、逃げてほしい」


 『獬豸』の名を出した時の琉琉助の『波』からは、妙な後ろめたさを感じた。


「次に、『導鏡どうきょう』 長い銀髪に細い目をした、和服姿の女だ。奴の『能力』は『鏡の中に空間を作る能力』 鏡から鏡まで移動できるため、軍勢の統率手段としても一役買っている。攻撃手段は鏡から光を反射させた光線を出す事。こいつも能力の利便性から、敵の中核を担っている」


「最後に、『迦楼羅かるら』 こいつが一番得体が知れない。『能力』は炎の羽を持つことだと言うことは分かったけど、それ以上詳しい所は〈分岐〉が多すぎて見切れなかった。だが、『童子』の扱いからも、ほかの奴らとは一線を画す使い手だと言うことは分かっている。注意してほしい」


 琉琉助の話に、一つ疑問を抱く。


「誰と誰が鉢合うかは、『未来視』で予測できないんですか?」


 桜も同じ疑問を持ったのか、横で頷いている。

 琉琉助は表情を変えずに淡々と説明する。


「相手は『導鏡』の能力で、俺たちの位置を山の中のどこかにランダムに転送してくる。それにより〈分岐〉量を莫大にして 、俺の『未来視』を対策してきている。だから、誰が誰と鉢合うか、また、その戦闘の内訳は視ることができない」


「なるほど……」


「でも、一つ確定している事がある」


 琉琉助は自身の『波』の揺らぎを誤魔化すかのように、大きな声で告げる。


「最後に勝つのは俺たちだ」


 大きく『波』が脈打った。

 嘘をついている。と言うよりは、確定していない『未来』ということなのだろう。

 それでも、もう逃げることはできない。


「はい……!」

「当然です」


「……えっ……」


 桜の自信に溢れた答えに、少し驚いて視線を預けてしまう。

 桜もこっちを少し見て、軽く頷いてみせた。


「俺からはとりあえず終わり。誰か他に何かある?」


 全員が首を横に振る。


「じゃあ、今日は修行無しにするから、明日の夜に備えてゆっくり休んどいてね」


「「はい」」


 話が終わると、全員広間から出ていく。

 


「あっ。悠真、ちょっと待って」


 俺も部屋を出ようと立った時、琉琉助に引き止められる。


「……なんですか」


「……スマホ貸してくれない?」


─────────────────────


「ふぅ……ふぅ……」


 休んでいろと言われても、ぶっちゃけ暇なので、とりあえず山の中を走る。

 山の中の涼しい風や、揺れる葉の音が心地よい。


 走っている間は、何も考えなくて済む。

 明日の不安。琉琉助の裏側。戦うことへの恐怖……その他のぐちゃぐちゃしたモノも、この時だけは風に流されて飛んでいく。



「ランニング?」


 木の上から聞き慣れた声がする。


「あぁ……桜、なんでそんなとこ座ってんの?」


「木登り得意なもんでね」


「小学生?」


「……うるさい」


 桜は木の上から飛び降り、軽やかに着地する。


「先にあのデカい木の下まで着いたほうが勝ちね。」


 桜が遠くの木を指さして言う。

 その『波』には、どこか幼さが混じっていた。


「……急にかけっこ? 俺、高校まではクラスの中でも結構足速かったぜ」


「私は村一番だけど? あ、一応能力禁止ね」


「能力なしで俺に勝てると?」


「上等」



「「よ〜い……ドン!」」


 開始の合図を合わせた後、二人は同時に走り出す。

 

 

 先にゴールに着いたのは、悠真だった。



 走り抜いた二人は、ゴールにしていた大きな木の下に、倒れ込むように寝転がる。


「はぁ……はぁ……悠真……思ってたより運動できた感じ?」


「ま……まぁ……でも、桜もマジで速いな……能力使ってなくてこれかよ……」


 仰向けに寝る二人の目には、同じ空が映っていた。


「……ちょっとはスッキリした?」


 桜は寝転がりながら悠真に視線を移す。


「……分かってたのかよ」


「ずっと険しい顔してたから。思い切り動けばスッキリするかなって」


「そっ……か……」


 桜が勢いよく身体を起こすと、長い黒髪が風に靡いて揺れる。

 風に乗って、桜の『波』が響く。

 ……弟たちとかけっこしていたりしたのかな。


「ご飯できてるってさ」


「……ありがとう。ちょっと気持ち晴れた」


「それは良かったよ」


 二人は屋敷に向かって歩き出した。


─────────────────────


 夕飯を食べ終え、また少し動いた後に、風呂に入って汗を流す。

 

 風呂上がりは、縁側で軽く夜風に当たる。

 山の上からは、澄んだ星が綺麗に見える。

 

「はぁ……」


 新月の前の逆三日月……?が薄く夜を照らしている。

 

「どうしたの。空なんか見上げちゃってさ」


 襖が開いた音の後に、風呂上がりの桜の声が聞こえる。

 桜もゆっくりと歩み寄り、縁側に腰掛ける。

 そして、月を見上げた後、桜はこちらに顔を向ける。


「……怖い?」


「桜は……怖くないのか……?」


「私はなんか……今更、なんだよね」


 桜の『波』には、確かな自信と、覚悟が表れていた。

 それに比べて、俺は……


「俺は、命のやりとりをする覚悟も、強さも、足りてないんじゃないかと思う」


 言い切った後に、はっとした。

 いつか自らの手で殺す事を約束した人間の前で、殺す覚悟ができていないと言ってしまうのはおかしい、大失言だ。


 桜は少し黙った後、「じゃあ……」と続けた。

 

「その弱さに生かされたのが私だ」


「えっ……」


「分かってた。悠真は私を殺すことなんて、できっこないって」


「いや……それはっ……」


 言葉に詰まってしまう。

 返す言葉が見つからなかった。


 桜は更に続けた。


「でも、だからこそ、そんな人間が本気で『殺す』と言い切ってまで、私を生かそうとした事に救われた」


「…………」


 桜の目は、本当の意味で綺麗だった。


「私は今でも、悠真の手以外で死ぬ気はない」


「っ……」


 その言葉には、かつての桜とは違う、『生きていくことへの覚悟』が含まれているように感じた。


 桜は握った拳をこちらに向ける。


「明後日の月も、一緒に見よう」


「……かっけぇな。」


「でしょ?」


 桜はニッと笑ってみせた。

 俺もつられて笑った。


 拳を突き出し、桜の拳と合わせる。


「『当然だ』。勝利の三日月を拝んでやろうぜ」


 




─────────────────────


 これは私達なんかが介入していい話じゃなかった。

 

 『あの人』は、本物のバケモノだった。

 いや、もはや人ですらなくなってたのかな。


 ごめんね、獬豸君。

 もう私、ダメかもしれない。


 ここまで来て、やっとわかったよ。

 『あの人』がやろうとしてる事、それは───


─────────────────────


2章 「千秋楽山・修行編/邪仙片鱗」 完





ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます!

 次回から遂に、「千秋楽山・決戦編」がスタートします!

 皆様に本気の「ゾクゾク」を届けられるよう精進して参りますので、ぜひブクマ、リアクション等していただけると幸いです!

 改めて、ここまで閲覧して頂き、本当にありがとうございました!!


 新月の次は三日月じゃないというツッコミは置いておいてくださいね。

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