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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
二章 「千秋楽山・修行編/邪仙片鱗」
19/28

19話 「零(ゼロ)に辿り着く」


「始めるぞ、悠真…!」


「はい……!」


 二人がゆっくりと腰を落とし、構える。


 地蔵は地面を蹴り一気に距離を詰め、右の拳を振りかざす。

 悠真はその拳をギリギリで避け、地蔵の顔面に軽いジャブを放つ。

 それを地蔵は左手で払い、悠真の顎を狙って足を振り上げる。


「石狩ムーンサルトキック!!」


「っ……!」


 悠真は後ろにステップを踏み攻撃を避け、さらに後ろに引いた足の反発で一気に地蔵のふところに入り込む。


「遅いわ!」


 地蔵は悠真の突撃に対し、顔面に左ストレートを撃ち込む。

 

(最初から見切られてるのは分かってる……!)


 悠真は踏み込みで出した右足を外側に開き、重心を落とすことでスレスレで地蔵の拳を避ける。

 そして、地蔵が繰り出した腕の根元をつかみ、自身に引き寄せるように引く。


 初めて、お地蔵さんが『軽い』と思った。


「ぬおっ……!」


 元から蹴りを放ったことで重心が不安定だった地蔵は、バランスを崩し、無防備な体勢になる。

 悠真は右の拳をギュッと握り締める。

 

(ここ……! 『層合気』!)


 『気』を纏った拳が、地蔵の顔面に向けられる。


 腕を引かれた事により倒れ込む地蔵の頭と、渾身の力が込められた悠真の拳が衝突する。


 悠真の『気』が、地蔵の内部へと入り込んだ。


ビ/キッ……!


「あっ……!」


 地蔵は衝撃で大きく仰け反り、倒れそうになる。

 それを悠真は両手で受け止め、顔をのぞき込む。


 地蔵の顔面には大きなヒビが入っており、ポロポロと砕けた石が落ちていく。


「お……お地蔵さん……!!」


「ゆ……悠真…………わしの……皆の分まで……頼んだぞ……」

 

 やがて、お地蔵さんは全く言葉を発しなくなった。


「お……お地蔵さん……? すみませ……嘘……そんな…、」


 悠真は動かなくなった地蔵を抱え込み、呆然とする。

 あまりに唐突なことに、遅れて涙と後悔が押し寄せる。



「なんてな」


「……えっ……?」


 背後から地蔵の声が聞こえ、振り返る。

 そこには、地蔵が立っていた。


「えっ……? 壊れて……えっ……?」


 悠真は目の前に立つ地蔵と、腕のなかに抱える破損した地蔵を交互に眺める。


「びっくりしたかの? わし、ストックがたくさんあるんじゃ」


「ストック……?」


「山道にたくさん地蔵が並んでるのを見たじゃろ? 今動いてる地蔵が壊れたら、別の地蔵に魂を入れ替えたらまた動くことができるんじゃよ」


「つまり……今のって……」


「ただの演技じゃよ」


 悠真は目に溜めた涙を一気に引っ込めた。


「無駄な心配させやがってぇ……!」


「まぁまぁ。ずっとやりたかったんじゃよこれ」


 楽しそうに話す地蔵を、悠真は怒りと安心が混ざった目で睨む。


「まだやりますよね?」


 挑発的な口調に、地蔵は少し驚く。


「ん? あぁ……今日は……」


「あと5体はその地蔵ストック削ってやる……!」


「なんじゃってぇ……」



 このあと、悠真は地蔵のストックをさらに2体壊した後に、地蔵のストレートで気絶した。


 気絶した悠真を抱えて屋敷に戻りながら、地蔵は声を震わせて呟いた。


「お主は……死なないでくれよ。」


────────────────────────


 狭い会場には、綺麗に椅子が並べられ、全員がステージの上を、今か今かと注視する。


 やがて、ステージの裏から金髪の男が出てくると、会場は歓声に包まれた。


 金髪の男は両手を上げ、指揮を振るように手を下げる。

 すると、歓声はすっと止み、会場は静寂を取り戻す。

 やがて金髪の男は壇上のマイクを手に取る。


「俺たちは、かつて先導者だった! 皆を纏め、道を切り開いていた! なら、今はどうだ? 全ての人々に『能力』が与えられた世界で、俺たちはもう、『強者』では無くなった!」


 会場の全員が、彼のスピーチに聞き入る。

 中には、涙を流す者すらいる。


「だからこそ言わせてもらおう! 世界には、新たな『先導者』が必要であると! 新たな『圧倒的強者』が必要であると! 俺たちは……世界に『圧倒的強者』を取り戻し、全ての人々をまた、導くのだ!! これは大義などという大逸れたものでは無い! かつて『強者』だった者の責務だ! 今こそ、この世界で我々の責任を果たす時が来たのだ! 我々は共に、腐敗した『能力社会』に奇跡を起こす!!」


 彼がマイクを置くと、会場は歓声と拍手に包まれた。

 歓声は、彼がステージ裏に消えてもなお、止まなかった。

 


「お疲れ様で〜す」


 ステージの裏では、迦楼羅かるらが燃える羽を光らせながら手を振っている。


「どうだ? 俺のスピーチ。結構良かっただろ?」


「そりゃもう。『童子様』は人気者すね」


「あいつらにレベルを合わせるのは、楽じゃないけど楽しいもんだぞ」


「そーですか」


 『童子様』は、辺りをキョロキョロと見回したあと、悲しそうに見える顔をした。


獬豸かいち君は居ないのか?」


「あぁ。獬豸君は菊ちゃんが心配で心配で仕方ないみたいで」


 『童子様』は手を顔の前で横に振りながら、苦笑いした。


「獬豸には悪いかな。でも、仕方ないこともある」


「はっ。そっすか」


 軽く嗤う迦楼羅を尻目に、『童子様』は袴の中から、銅の手鏡を取り出す。


「『導鏡どうきょう』 今、菊はどうなってる?」


 『童子様』が手鏡に話しかけると、鏡の中に長い透き通るような銀髪を流した、糸目の女が映る。

 鏡の中の女は、少し間を空けて話し出した。


「そう……ですね……もうそろそろ限界かと」


「……おっけ。ありがと」


「はい」


 『童子様』は手鏡を閉じ、薄気味悪くニッと笑った。


「さて、決戦の日は近いよ。……それに、『赫阿修羅復活』の日もね」


─────────────────────


翌日 千秋楽山にて


 屋敷の広間には、一同が集まっていた。


 琉琉助の顔を、久々に見た。

 その顔は酷く深刻で、目に光がなかった。


「それじゃ、明日の相手……『童子』達について、『視られた』限りの情報を伝える。よく聞いて欲しい」


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