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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
二章 「千秋楽山・修行編/邪仙片鱗」
18/28

18話 『邪仙片鱗』


「……暗いし危ない……懐中電灯でも持ってくれば良かった……」


 夜の山は予想以上に視界も足場も悪く、中々進むことができない。

 それでも、あの悲痛な『波』の震源に向かい、歩いていく。


─────


(て……す……………て……………)


「なんだ……これ……」


 奥に進んでいくにつれ、その『波』の異質さに気づく。


 明らかに「言語」が混じっている。

 

 今までで一番「言語」に近かったものでも、あの時の桜の悲鳴や叫びだ。

 だが、今回ははっきりと発音している。


(た……け…………す………け……て……)


 ……今……「助けて」って聞こえたよな……?

 

 わけがわからない。

 そもそもこれは『波』なのか……?

 誰かが遠くで叫んでいる声が聞こえているだけ……?


 今までにないケースに、混乱してしまう。

 一体何が起きているのだろうか。


─────


「あっ…………小屋………?」


 目が慣れてきた頃、遠くの方に薄っすらと小屋が見え(たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……)


「えっ」


 なんだ……これ。


「っ……」


 あまりの気味の悪さに耳を塞いでしまうが、耳を塞いでも『波』は防ぐことが出来ない。

 脳内に直接訴えかけられているようで背筋が凍りつく。



「悠真」


「…………」


「悠真」


「ぅわっ!!」


 何者かに肩に手を置かれ、驚いて距離を取ってしまう。

 だが、目の前にいたのは、見慣れた人物だった。


「琉琉助…………。…………っ!?」


 琉琉助が放つその『波』は、あまりにも『嫌』だった。

 よく見ると、本人にもいたるところに血がベッタリと付いている。


「まさか……」


「やっぱり……来ちゃったか。来ない方の〈分岐〉に賭けてたんだけどな。なるべく、これは知ってほしくなかったよ」


 『記憶』にある、声も、仕草も、琉琉助そのものだった。

 でも、目の前の彼を琉琉助だとは思えなかった。


 いや、出会った時の最初と、村での再会時、そして、ここに来てからずっと感じていた『深い何か』の正体はこれだったのかと、今さら理解する。



「何を……してるんですか」

 

「……前に、『打てる手は全て打つ』って、言ったよね? これが『最善の未来』への〈分岐〉になるんだ」


 琉琉助は俺の問いには答えず、『未来』のためだというもっともな理由をつけてはぐらかした。


 琉琉助の心の底から湧き上がるような黒い何かと、あの助けを求める『波』に挟まれ、頭がおかしくなりそうだ。


「だから……なんで……琉琉助……一体、何を……」


「俺は、もう仲間を誰も失いたくないんだよ」


「っ……!!」



 これが琉琉助の一番根幹にある『本心』だとわかった。

 仲間を失わないために、『冷酷で無慈悲な最善』を選び続ける。

 

「悠真、忘れてくれとは言わない。忘れられないだろうし。でも……これが、誰一人失わずに勝つ為に必要な事なんだ。我慢してくれ」


 今分かったことからも、やっと状況が飲み込めてきた。

 ……理解できてしまった。

 そして、それにより得られる『何か』が、勝利のための決定的な要因になる事も。



「…………だとしても……これは……!」


「失望したり、軽蔑するならそれでもいい。ただ、これはどうしても曲げられないんだよ」


「それでも……!」


「いいか悠真」


 俺の反抗は琉琉助の言葉に遮られた。

 琉琉助は続ける言葉を一瞬、躊躇った。


「……『最善を尽くす』ってのは、こういう事なんだよ」


 その声は、震えていた。


「……………………」


 言い返す言葉が見つからなかった。

 琉琉助の『最善』は、重みが違う。


 ここで仮に琉琉助を止めさせたら、その先に待っているのは………………


 これは俺の命だけで済む問題じゃない事は分かっている。


 それでも……それでも……!!


 

「…………ぐっ…………!!」


「悪いな。こんな決断をさせて」


「なら……!!」


「ん?」


「ここで俺がアンタに勝つ……!」


「そう……か」


 

 震える手を握りしめ構えを取り、一気に距離を詰め、渾身の力を込めて殴りかかる。


 『気』を被せる……イメージ……!


(『層合気』!)


「!」

 

 琉琉助は悠真の拳に乗せられた『気』に気付き、すぐさま構えを取る。


「っ!!」


 悠真の振りかぶった一撃は、琉琉助に軽くいなされる。

 

「がっ……!」


 そして、無防備になった顔面に、デコピンを入れられる。


 「パカァン」というデコピンとは思えない炸裂音が響き、悠真はバタッと倒れ、そして、程なくして気を失った。



「……ごめん、悠真」


 悠真を見下ろす琉琉助の表情は、夜の闇よりもなお暗かった。


─────────────────────




「お地蔵さん……琉琉助って、なんなんですか……」


「…………見たのか」


「はい」



 あの後、琉琉助が屋敷まで運んでくれたみたいで、いつも通り布団のうえで目を覚ました。

 まるでアレは夢だったかのようだが、琉琉助に入れられたデコピンの跡が、現実だった事を嫌でも教えてくる。


 何が琉琉助をあそこまで駆り立てているのか、その所以が知りたかった。

 知ったところでどうとなるわけじゃないし、琉琉助の行動が『最善』である事もわかっている。

 全員の命がかかっている以上、俺の勝手な行動でねじ曲げてはいけない。

 

 でも、琉琉助の行動に納得できなかった。

 でも、弱いから行動を変えられず、『最善』に頼るしかない。

 その矛盾が堂々巡りとなって脳内を陣取っていく。

 

 だから、お地蔵さんに話した。

 お地蔵さんは、俺の意図を汲み取ってくれたのか、こんこんと語り出した。



「千秋楽山には、かつて、何十人もの『仙人』がいたんじゃ。じゃが、……皆死んだ」


 風が木々の間を吹き抜け、葉を揺らす。


「全員、『赫阿修羅』にやられたんじゃ。そして、当時の琉琉助はその〈未来〉を予知していながら、救うことができなかった。じゃから、『仲間を失う』と言うことに強いトラウマがあるんじゃろうて」


 話を聞いて、それでも腑に落ちないところがあった。

 琉琉助が捕らえている敵も、敵にとっては仲間で、味方のはずだ。

 自分達だけそれを理由に傷つけて良いのだろうか。

 

 分からない。

 宙ぶらりんになった疑問が、風に飛ばすにこびり付く。


「やっぱり……強くないと、変えられないんだ」


 つい、口から漏れた。

 お地蔵さんはそれを、物悲しげに見つめ、やがて、空を仰いだ。


「悠真、お前は十分強い。じゃからこそ、悩んで、考えて、心を痛められる。…………わしは、…………いや、わしも、そんなお前たちを死なせたくない」


 俺はまだ、自分の中の迷いを振り切れなかった。


 それでも、向き直り、構える。


「今日もお願いします」


 漠然とした『強さ』への渇望が、少しづつはっきりとしていくのが分かった。


 日を重ねる事に、拳は固くなっていった。


─────────────────────


 時間は悠真達が千秋楽山に来てから日が経った。

 森の中の開けた場所で、悠真と地蔵は向き合う。


「さて、全身全霊をかけて、わしを倒してみせろ……行くぞ悠真……!」


「はい……! 今日こそは勝って見せます……!」


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