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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
二章 「千秋楽山・修行編/邪仙片鱗」
17/27

17話 「仙術・層合気」


(……なんだ…………)


 獬豸は意識を取り戻し、周囲を見渡す。

 辺り一帯には、まるで小さい隕石でも落ちたかの様な、荒れた更地が広がっている。


「がっ……れ゙ぇ゙っ……」

 

 立ち上がろうとするも、砕けた骨が痛み、不意にこみ上げた咳で吐血してしまう。



獬豸かいちく〜ん。これ、何したの?」


 声が聞こえた方に振り向くと、オレンジ色に輝く炎を纏った男が歩み寄ってくる。


迦楼羅かるら……」


「童子様に言われてわざわざ探しに来たら、なんか凄い音がしたもんだからさぁ、急いで来てみたら、獬豸君を中心に竜巻みたいなのが起こっててさぁ? アレ何?」


「…………」


 獬豸は意識を失っていたため、そのような心当たりはなかった。

 また、獬豸の能力には、迦楼羅が言うような竜巻を起こせるほどの出力はない。

 

「もしかして、『覚醒能力』じゃない? 獬豸君はまだ出来たこと無いし、発動条件も分からないもんね。」


「いや……そんな事よりも……!」


「分かってるよ。とりあえず、童子様が待ってるからさ。」


 迦楼羅は自身のキラキラと燃える羽を弄りながら、諭すような笑みを向ける。

 獬豸は絞り出すような声で訴える。


「菊が拉致された……! 助けに行か」


「獬豸君。童子様が待ってるから」


「ッ…………」


 獬豸の反抗は、迦楼羅の威圧により鎮められた。

 やがて二人は言葉を交わすことなく歩き出す。


 淡い月光が静かに夜空を照らしていた。


─────────────────────



翌朝

 

 暗い夜が明け日が昇り、山は生き生きと緑を取り戻す。


 やがて二人も目を覚まし、布団から起き上がる。


「桜……おはよう……」


「おはよ……」


 二人とも朝は弱く、目を擦りながら洗面所に向かう。


─────


 襖を空け、広間を覗く。


「おはようございます。あれ、琉琉助は居ないんですか?」


「あぁ…………あいつも仙人じゃからな。瞑想とかもするんじゃよ」


「そうですか……」


 お地蔵さんは無機物だから、『波』は感じられない。

 でも、何かを誤魔化しているような気がした。


 昨日の琉琉助の『波』にも、言い表せない違和感を感じた。

 やはり、大きな戦いが近いとなると、いくら琉琉助でも落ち着かないのだろう。

 

 三人で席につき、温かい食事を口にする。



 食べ終わると、各々修行を再開する。


─────



「ほれほれ、先ずは筋トレせぇ!」


「上乗る……必要……ない……でしょ……!」


 今日も悠真は地蔵を背負い、筋トレを行う。

 適度に休憩を取りながら、1セットずつ確実にこなしていく。




「お地蔵さん……俺、なんかゴツくなりましたよね?」


 一区切り着き、木陰に座りながら、地蔵に話しかける。


「そりゃあんだけ筋トレしてたくさん飯食っとるからな。そんなに一日で変わるかと言われるとアレじゃが。」


「でもほら、見てください。力こぶが前よりもデカい!」


 腕に力を込めると、確かに以前よりも明らかに筋肉が付いているのが分かる。


「よかったのぉ。それじゃ、休めたらスパーリングするぞ」


「うっす……!」


─────


「どぉりゃぁ!!」


「ほっ!」


 地蔵の拳を間一髪で避け、悠真はカウンターを狙う。


「甘いわ! 石狩ムーンサルトキック!」


「ぅえっ……!」


 地蔵は悠真のカウンターに合わせ、足を振り上げ顎を蹴り上げる。


「がっ」


 視界外からの突然の蹴りに対応できず、悠真は仰け反り、白目を剥きながら倒れる。


「普通……地蔵が足技使う……!?」


「相手に固定概念を持つと足を掬われるぞ。」


「うっ……す……」


─────


「はぁ……はぁ……っ……はぁ……」


 何回かスパーリングを行い、悠真はボコボコのボロボロだった。


「昨日よりも動きが良くなっとったぞ。なんとなくならタイマンのやり方が分かってきたじゃろ」


「そう……すね……」


 倒れ込む悠真の上を、涼しい風が撫でていく。

 

「それじゃ、そろそろ教えるだけ教えておいてもいいかもしれん」


 地蔵は悠真を見下ろしながら、ニヤリと笑った。


「仙人秘伝の武術『層合気そうあいき』をな」


「昨日言ってたやつですか……? もう?」


「そうじゃよ。さて、レッスンして行こう」


 いつになく楽しそうに語り出す地蔵に、疑問を抱く。


「でも……そんな簡単に会得できるものじゃないですよね?」


 武術を会得することを一朝一夕でできるわけがないことくらい、未経験者でもわかる。

 でも、地蔵は待ってましたとばかりに言い切った。


「言ったじゃろ? 悠真はセンスあると」


「どういう事ですか……?」


「まぁ、先ずは『層合気』がどんなものか、説明しよう」


─────


「『層合気』は、自身の身体エネルギーを『纏い』、攻撃、防御に利用する技術じゃ。イメージ的には、手にビニール手袋をはめると、触れることなく水に触れるじゃろ?」


「なんか回りくどい気がするけど、言いたいことは何となく」


「そうしたら、さらにもう一枚ビニール手袋をはめる。そうすると、『二層』の手袋に覆われる。さらに被せれば『三層』『四層』と厚くなっていく。それを、自身の『気』で行う」


「なる…………ほど……?」


「何層にも重ねた『気』を、相手の内部まで届かせ直に衝撃を伝えたり、また、重ねた『気』で身を守る。これが『層合気』じゃ。まぁ、とりあえずやってみぃ」


─────


 ぶっちゃけよくはわからないが、ビニール手袋のイメージは何となく出来る。


「これからは筋トレとスパーリングも続けて、さらに『層合気』のイメージも広げていくぞ」


「……うっす」


 悠真はよろよろと立ち上がり、構える。

 その構えは、素人ながらも既に重心が安定していた。

 その目には、かつてとは一線を画す覚悟と闘志が見られる。


(異常なほどの根性……これもやはり、悠真の『理想主義者(ロマンチスト)』が影響しているのか……)


「さて、始めよう。1回はわしに勝てるといいな」


「望むところです……!」


─────────────────────


 日が沈むと、悠真達は山の上の屋敷に戻り、しっかりと休養を取る。

 

「結局今日も一度も勝てなかった……」


「頑張れ。私は血の操作が結構分かってきた。」


 雑談をしながら手際良く食卓を準備する。


「そういえば、今日琉琉助見てないよね。出かけてるのかな」


 テーブルを拭きながら、桜が視線をよこす。

 悠真は箸を並べながら、少し考える。


「確かに……もう夜ご飯なのに居ないし……どうしたんだろ」



「琉琉助は今少し用があってな。今日は夕飯は一緒には食べないから、用意しなくていい」


 台所から地蔵の声がする。

 琉琉助の事になると、今日はどこか違和感を感じられる。

 まるで触れられたくないかのようだ。


「わかりました……」


 

 三人で食卓を囲む。

 昨日の騒がしさが嘘のように、今日は静かだった。

 お地蔵さんはご飯を食べている時も、気難しい表情をしていた。


 そして、夕飯を終えると、風呂に入り、今日も直ぐに眠りについた。


─────────────────────


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………」


 琉琉琉は岩の上に座禅を組み、ぶつぶつとお経を唱えている。

 唱え終わると、目を開け、小さく深いため息をつく。

 そして、蝋燭を灯し、真っ暗な山の裏奥へと歩いていく。



 しばらく奥へと歩いて行くと、一つ、小さな小屋が見える。



 鍵を開け、その重い戸に手を掛ける。


 中は真っ暗で何も見えない。

 ただ、小さく荒い息遣いだけが響く。


 蝋燭で中を照らすと、くすんだ紫色の瞳と目が合う。

 『それ』は小さく「ひっ……」という声を漏らし、震え出す。


 琉琉助は戸を閉め、蝋燭を地面に置く。

 明かりに照らされた光の無い緑色の目が、怯えきった彼女を映す。


「な……何も話すことなんかないですから……」


「あぁ。お前に情報は求めてない」


「え……」


 琉琉助は何枚か手拭いを取り出す。


「自害されても困る」


 口内に手拭いを押し込み、自害を封じる。


「ぐっ……!」


 抵抗できず、苦しげにえづき、もがく。


 それを冷たく睨むと、感情のない冷淡な声で告げた。


「お前に求めることは一つだけだ。絶対に死ぬなよ。」


────────────────────────


「はっ……!?」


 悠真は夜中に飛び起きてしまった。

 遠くから小さく、それでも確かに、苦痛に呻く『波』を感じたからだ。


 桜はまだぐっすりと眠っていて、小さい寝息が聞こえてくる。


「なんだ……今の……」


 「ガンガン」と脳内に響いて来るような『波』は、まるでかつての桜を思わせる。


 なるべく音を立てないように布団から出て、寝間着に上着を身に着ける。

 そして、部屋の襖に手を掛ける。

 


 屋敷を出ると、夜の山には冷えて寒い風が吹いてくる。

 上着を着てきてよかった。


「『波』のする方は……こっちか」


 見てはいけないものが有るのは理解わかっていた。

 それでも、身体は引っ張り出される。


 まだ踏み入れたことのない、千秋楽山の裏へと歩き出す。


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