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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
二章 「千秋楽山・修行編/邪仙片鱗」
15/26

15話 「お鍋ですよ」


 桜がキュピーの指導の元、修行をしている時、悠真は……



「ごはぁっ!!」


「ほらほらどうした! まだ一撃も入れられてないぞ!」


 地蔵にフルボッコにされていた。

 殴り飛ばされ吹き飛んだ全身には、大量の青アザが見られる。


「死ぬ……死ぬって…………ほんとに……」


 吹き飛ばされ、立ち上がれない悠真を地蔵は見下ろす。


「……わしが怖いか?」


「はい……めちゃくちゃ……」


「じゃあわしより弱いやつは怖くないな。成長じゃ。ほら立て、もう一戦じゃ。」


「あの……エグい筋トレで筋繊維ブチブチなんですけど……ほんっとに限界すよ……てか、初日からこれ……?」


 悠真は既に、100キロ位ある地蔵を背負って筋トレしまくっている。

 普段から筋トレをしていたとはいえ、それまでとはあまりにも段違いの過酷な筋トレを強いられ、全身が限界を迎えていた。


 その上での格上じぞうとのスパーリングは、悠真の心をベッキべキにへし折っていた。


「ほら立て! 寝てる暇は無いぞ!」


「スパルタ過ぎるって…………もっと……なんか……筋トレだけなんですか……?」


「うむ……『今は』な。」


 その言葉に、テンションが上がり、地蔵を凝視する。


「つまり……あるんですか……!? なんか……仙人の技みたいなやつが……!」


「あるぞ。やる気出たか?」


 『仙人の技』という響きだけで、厨二的なロマンが詰まっている。

 そういうのが実際に体験できるかもとなると、この年になってもワクワクしてしまう。


「とりあえずは基礎が出来上がってからじゃな。まぁ、楽しみにしておけ」


「うっす……!」


「それじゃ、続きじゃ……!」


「っす……」


─────────────────────



 千秋楽山、激動の初日目が終わろうとしていた。

 もう日は沈み、暗く、恐ろしいような夜の山が広がる。



 その山の上の屋敷に、一同が集っていた。

 食卓を大人数で囲み、琉琉助を待つ。


「悠真包帯ぐるぐるじゃん。ボコボコにされた?」


「おう……地蔵に……フルボッコに……」


「まだまだこれからじゃな」


 合掌しながら座る地蔵に対し、悠真はもはや恐怖の域まで達していた。

 その様子を、桜は面白そうに眺める。


「なんで桜は無傷っていうか……むしろ生き生きしてるの……?」


「私やっぱりセンスあるからかな!」


「そう……」


 悠真はそれを聞いて、軽く俯く。

 今日だけで、自分が戦う側の人間ですらないと突きつけられた気がした。


「わしから言わせれば悠真もセンスあるほうじゃけどな」


「フォローが弱いって……」


「ほんとほんと」


 励ますように地蔵が悠真の肩を叩く。


「……痛いっす……」


「お、すまん」



 そんなこんなで談笑していると、部屋の襖がザッと音を立てて勢い良く開く。


「そういえば、歓迎会してなかったよね。ということで、今日はお鍋にしました!!」


「「「おぉ……!」」」」


 琉琉助が温かい鍋を台所から持ってくると、一同は感嘆の声を上げた。

 大きな鍋から湯気が立ち上り、それを一同は待ち遠しそうに眺める。 


「ご飯もたくさんあるから、じゃんじゃんお食べ」


 釜の中には、炊きたての白米がまるで真珠のように煌めいている。

 それを悠真と桜は山のように茶碗によそる。


「そんなに食べれる……?」


「血を作るのにはエネルギーが必要だから」

「筋肉が養分を求めてる……」


 悠真も桜も、今日の凄まじい運動量と極限の集中で空腹だった。


「じゃあ……手を合わせて……」



「「「いただきます!」」」


 琉琉助の合図と同時にいただきますをすると、悠真と桜の二人は山盛りの白米に手を付ける。


「落ち着いて食べなさいよ……」


 琉琉助がたしなめるも、二人は聞く耳を持たず、ガツガツと食べすすめる。

 そして、悠真があることに気づく。


「えっ!? 鍋カニ入ってる!?」


「そりゃ歓迎会ですから」


「ガチすか!?」


「たんとお食べ」


「「あざます!!」」


 鍋のなかのカニを箸で掬い、ご飯に乗せて、食べる。

 お鍋の汁とカニの身、それと白米が混ざり合い、まさに至福の味だ。


 ふと、桜が鍋の中の、大きい肉に箸を伸ばす。


(っ……!)


 気づいてしまった。

 琉琉助もその肉を狙っていることに。


 しばらく、肉を巡った睨み合いの沈黙が流れる。


「歓迎会なんですよね……? 譲ってくれてもいいんじゃないですか?」


「いや、これは別だよ。じゃあ、平等にジャンケンにし……」


「不平等でしょ」


「バレたか」


 桜は脳みそをフル回転させていた。

 どうすれば未来が見える琉琉助に勝てるのか。

 そして、一つの種目を閃く。


「指相撲にしましょ」


「……乗った。」


 二人が食卓から離れ、手を組む。

 肉一つを争うとは思えない緊張感が流れる。


「本気で勝ちに行きますから……!」


 そう言うと、桜の腕の血管がギチギチと音を立てて浮き上がる。


「……なるほど……!」


 二人の凄まじい指相撲が始まった。

 指の間合いや相手の動きを探るのは、本当の戦いにも通じるものがある。

 悠真は、それを琉琉助が見たいがために桜と肉の取り合いをしているのだと思っていた。


「くっそ……しぶてぇ……」

「んのやろ……!」


 だが、琉琉助はめちゃくちゃガチだった。


(大人気なさ過ぎるだろ仙人様……)


 白熱した指相撲は、ついに大一番を迎える。


「取った……!!」


 なんと、桜が琉琉助の指を押さえ込んでいた。


「マジかよ……!」


「10……9……8……」


 桜のカウントダウンがどんどん進んでいく。


「4……3……2……」


 誰もが(4人しかいないけど)桜の勝利を確信したその時!!



「お、美味しそうなお肉が残ってますね。いただきまっす」


 なんか髪の毛葉っぱみたいな色した男が、パクっと食べてしまった。


「え……? 誰……?」


「キュピー……それ駄目じゃよ……」


「?」


 地蔵は知っている人みたいだけど、マジで誰……?


「なんしとんじゃおっさん!!」


 桜がブチギレて緑色の髪の人に詰め寄る。

 もはや刀を抜かんとするほどの勢いだ。


「……何怒ってるんですか? 食べたかったなら名前でも書いておくべきでしょう」


「はぁ? アンタは植物なんだから光合成でもしとけよ!」


「今、夜ですよ。光合成できませんから」


「日中はしてんのかよ!!」


 桜の鋭いツッコミに、ちょっと吹き出しそうになる。


「最高……! 傑作……!」


 琉琉助がそれを見て爆笑しだす。

 まさかコレが見たかったとか……じゃないよね?


「それでも仙人かてめぇ!」


 桜も琉琉助の意図に気づき、どんどんと地団駄をしながら拳を握りしめる。


「まぁまぁ、まだ追加で肉もカニもあるからさ」


「チッ……!」


 舌打ちしながらも、桜は食卓に座り直る。

 そして、乱暴に茶碗を掴み、俺に向けて突き出す。


「おかわり。悠真よそって」


「俺……?」


「早く。」


「……はい……」



 まぁ、その後なんだかんだで桜さんのお怒りも収まり、歓迎会は平和に終わった。


 でも、一つ気になる事があった。

 琉琉助の『波』は、何処か無理をしているような気がしたからだ。


─────────────────────


 だだっ広い会場には、三人の男女がいた。

 金髪の男は、大きな椅子に座り、その前には青い髪に、角を生やした背の高い青年と、紫色の髪飾りを付けた長い黒髪の女が立っている。


 金髪の男は、琥珀のように輝く目で二人を捉える。


「頼みがあるんだ。『獬豸かいち』君、『菊』、琉琉助を殺してきてくれ」


 菊は、斜め上に視線をずらし、思い出すような仕草で問う。


「琉琉助……っていうのは、『童子様』がいつも言ってる……銀髪の仙人の事ですか? 殺しちゃっていいんですか?」


 その声色には、明らかな喜色が見られた。

 紫色の瞳に、ぐるぐると渦を巻いたような目が輝く。


「あぁ……構わないよ。獬豸君の方は、琉琉助には会ったことあるっけ?」


「そうですね……小さい頃に何度か。まともに話したことありませんけど」


 獬豸は、目を細めながら「ただ……」と続けた。


「とんでもないクズ野郎だってことははっきり覚えてます」


 それを聞き、『童子様』は手を叩きながら、声を潜めて笑った。


「言うねぇ……これでも結構あいつと仲良かったんだぜ?」


「でも、実際に殺そうとしてるじゃないですか」


 失笑する『童子様』に、獬豸ははっきりと告げた。

 『童子様』は自身の金色の髪を弄り、ため息をついた。


「分かってないねぇ獬豸君。俺は今でもあいつは嫌いじゃない。でも、目的に邪魔なんだ。『赫阿修羅』の復活にね」


「……そうですか」


「色々あるもんなんだよ獬豸君。ま、と言うことで二人とも、頑張って来てね〜」


「はい……」

「分かりました!」


 二人は『童子様』に背を向け、出口に向かって歩き出す。



 菊は獬豸の服の袖を掴みながら、見上げる。


「仙人様って、どんな断面してると思います?」


「どす黒くて汚いでしょうね」


「分かりませんよ? イケメンだったりしたら、綺麗かも」


「中身の話ですよね? 物理的な」


「そうだよ〜。でも、性格は顔に出るとも言うじゃない? あぁ……綺麗に斬ってあげたいなぁ……」



 『童子様』は手を振りながら、去っていく二人を眺めていた。

 その冷たい目は、明らかに『仲間』に向けるものではなかった。



「あいつら、行かせちゃっていいんすか〜?」


 赤い髪の男が、だるそうに目を擦りながら、会場に入ってくる。


「あぁ、良いんだよ。『迦楼羅かるら』」


 そう呼ばれた男は、『燃える羽根』をくるくると操り、手のあたりで遊ばせながら、『童子様』を見下ろす。


「だって、相手は仙人様なんでしょ? 俺、菊ちゃんまだ抱けてないんで、死んじゃったりしたらもったないっすよ。てか……未来見えるやつ相手に奇襲って……」


「俺が無駄なことをすると思うか?」


「…………」


 口ごもる迦楼羅を無視し、『童子様』は語り出す。


「あっちとしても『石狩』『森主』は温存しておきたいはずだ。だから、あの二人の奇襲にまともに対応出来るのは琉琉助だけ」


「…………それで……?」


仙人達あいつらのなかで、一番弱いのは琉琉助だよ」


 『童子様』は口角を吊り上げ、椅子に深く倒れ込みながらわらった。

 迦楼羅は大きなため息をつき、両手を軽く広げた。


「よくわかんねぇすわ、あんたの意図」


「それならそれでいい」


 『童子様』は目を瞑り、ゆっくりと足を組む。

 話が終わったのを確認すると、迦楼羅は紅く燃える大きな翼を広げる。


「じゃ、女の子達が待ってるんで」


 そう言い、手をひらひらと振って合図をすると、窓を空け、飛び立っていく。


 迦楼羅が夜闇に羽ばたいたあとには、細かな赤い火の粉が散っていった。



 また一人会場に残された『童子様』は、開いた窓から眩く輝く三日月を眺める。


「琉琉助と俺……どっちがよりクズかな」



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