13話 「一歩」
遠くから聞こえる「ドゴォォォン!!」という凄まじい炸裂音で、悠真は目を覚ます。
…………ん……? あれ……空が青い…………
というか外で寝てた……?
「お……起きたか。全く……軽く小突いた程度で失神しおって……」
お地蔵さんが倒れている俺の顔を覗き込んでくる。
地面に手をつき、ゆっくりと身体を起こす。
「いっ……」
後頭部がズキズキと痛み、反射的にさする。
頭には包帯がぐるぐると巻かれているようで、布のザラザラとした感触がする。
「桜はもう先に修行始めとるぞ、今の爆音もそれじゃな」
「えっ……」
心の奥が、じわりと焼け付く。
桜は俺よりも圧倒的に〈強い〉。
それは分かっていたことだ。
それでも、これから戦う時、また桜に守られるだけなんてのはごめんだ。
「さて、悠真よ……お主は基礎からなっとらんからな。格闘技とか全然やったことないじゃろ?」
「あ……はい……学校の授業くらいしか……」
空手でも柔道でも、なんかやっとけばよかったなど、少し後悔してしまう。
「それじゃまずは筋トレからじゃな。一日腕立て500回と腹筋500回とスクワット500回とランニング……」
「えぇ……」
とんでもない事言い出したなお地蔵さん……マジで……?
「それからわしと毎日スパーリングじゃな、何度でもボコボコに叩きのめしてやるわい」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……さすがにそれは……」
言い訳を遮るように、お地蔵さんはため息をついた。
お地蔵さんの雰囲気が重たくなり、圧迫感を纏う。
「素人のまま戦う気か……? 本当に死ぬぞ」
「っ……」
そうだった……この修行の結果に、俺達の命かかってるんだった……
お地蔵さんの雰囲気が打って変わって明るくなり、励ますような調子の良い声色で話し出す。
「努力は裏切る、裏切らない以前に人間不信じゃ。努力が振り向いてくれるまでこっちから信じてやれ、わしも付き合う」
「……それ、言いたかっただけでしょ」
「バレたか」
お地蔵さんは生物じゃないのに、どこか生き生きとしているように感じた。
「分かりました……頑張ります」
「それでいいんじゃ。それじゃ早速腕立てから行くぞ!! 1セット50回!! わしが上に乗るから加重もバッチリじゃ!!」
お地蔵さんは瞬時に跳躍し、俺の背中に飛びかかってくる。
「ちょっえっ、乗るの!? ちょ待っ……!!」
お地蔵さんは石の塊、上になんて乗られたらたまったもんじゃな……
必死の抵抗も虚しく、お地蔵さんが背中におぶさる。
「おっ……もっ……てぇ……」
冗談抜きでマジで重い、多分100キロ近くある。
「ほら、腕立てせんかい!」
「くっ……そっ……がぁぁぁっ!!!」
悠真の絶叫が、白昼の山にこだました。
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時は悠真が目覚める前まで戻る。
───
(桜ちゃんには、まずはこの木を真っ二つに斬れるようになってもらう)
───
「そうは言われたけど……」
桜の目の前には、しめ縄が巻かれた、太く大きな木が堂々と立っている。
(これを……斬る……)
桜はゆっくりと屈み、鞘に手をかけ構える。
「……ふぅぅぅぅ……………」
集中による小さくも猛々しい呼吸音が、響く。
直後、凄まじい踏み込みにより、地面が割れる。
「しっ!!」
短く息を吐き、刀を振り抜く。
そして、刀を静かに鞘に収める。
チン……と刀の柄と鞘がかち合う音がした瞬間、ギシギシと音を立てて大木がズレていくのが分かる。
そして、轟音と、鳥たちの悲鳴とともに、大木は倒れた。
ほんの一瞬、刃に付いた感触を思い出す。
「ふぅ……終わり。新しい修行内容教えてもらおう……」
桜は真っ二つになった大木に背を向け、琉琉助の元へと歩き出す。
木の断面が、ぐにゃりと歪む。
「何処に行くつもりですか?」
「えっ……?」
誰もいないはずの背後から低い声が聞こえてきて、桜は咄嗟に振り向き、木の方を見る。
「私の森を荒らしておいてどういう了見なんですかね?」
なんと、斬ったはずの大木から、人が〈生えてきて〉いた。
見た目は30代ほどに見え、薄緑色の髪の毛をしている。
さらに大量の緑色の数珠を全身に身に纏い、まるで蔦が巻き付いている様に見えた。
(いや……え……? え……? えぇ……!?)
混乱する桜を、その男は鋭く睨みつける。
「私は森の大妖精『キュピー・キュピー』 私は、貴方のような森を荒らすクソガキが大っ嫌いなんですよ……!」




