12話 「修行開幕」
朝食を食べ終わり、胃の中が落ち着くまでのんびりした後、屋敷の外に出る。
「それじゃ、来てもらって早々悪いけど、今の君たちの実力を見せてもらおうか。ついてきて」
琉琉助とお地蔵さんの後ろを、桜と二人で歩いて行く。
山の中の空気はとても澄んでいて美味しく、吹き抜けていく風も涼しい。
ものすごい段数の階段の脇には、大量のお地蔵さんが並んでいる。
今から命がかかった修行が始まる。
そう考えると、階段を登る一歩一歩に勇気がいる。
ふと、桜に目を移す。
桜は俺の視線に気付き、こっちを見ると、ふっと軽く笑った。
その表情とは対象的に、腕が震えるほど刀を強く握りしめていることが分かった。
─────
しばらく山道をついていくと、少し開けた場所に出る。
琉琉助が振り向いて告げる。
「それじゃ、早速始めていこうか。お地蔵さん」
「分かっておる」
ゆっくりとお地蔵さんが俺たちに向き直る。
「わしが相手をしてやろう。どこからでもかかってこい……!」
「「……えっ……?」」
また二人の声が重なる。
「結局お地蔵さんが戦うの……? 琉琉助じゃなく……?」
お地蔵さんと戦う……いや……罰当たりでは……?
そもそもお地蔵さんが動いて喋ってる時点でおかしいんだけれども……!
「まずはお地蔵さんが相手するから。俺はじっくり観戦させてもらうよ」
混乱する俺たちを尻目に、琉琉助は木の上に座り、観戦モードに入っている。
「来ないならこっちから行くぞ……?」
お地蔵さんが合掌をやめ、ファイティングポーズを取る。
自分でもよくわからないが、そうとしか言えない。
「悠真」
桜が低い金属音を立てながらゆっくりと刀を抜く。
「わ……分かってる」
俺もそれっぽい構えをとり、お地蔵さんに視線を戻す……
いや、さっきまでいたはずのところにいない。
やべ見失っ……
「石狩ナックル!!」
ドゴ/ォッ……!!
「ごがっ……」
硬い石の拳が頭蓋骨に打ち付けられ、衝撃が脳内を駆ける。
次の瞬間には、悠真は意識を手放した。
「っ……!」
(いつの間に背後に……!)
桜は振り向きざまに刃を振るう。
その振りかざされた刃を、地蔵は軽々と受け流す。
そして、再度森のなかに紛れ込み姿をくらます。
(どこ行った……気配も探り辛い……無機物だから……?)
桜は冷静に刀を構え、僅かな気配に集中する。
二人の攻防を、琉琉助は顎に手を当て、木の上から静かに分析している。
「そこじゃ!! 石狩アタック!!」
地蔵が一気に桜の懐に入り込み、拳を入れる。
桜は既の所で拳を刃で受け止め、鋭く低い金属音が響く。
「ぐっ……! おっも……!」
「うむぅ……」
地蔵の石の拳と、桜の刀がかち合い、火花が散り、ギチギチと音を立てて拮抗する。
しばらく拮抗した後、互いに弾かれ合い、吹き飛ぶ。
「っ……!」
桜は木に垂直に着地し、衝撃を流し受け身を取る。
地蔵は地面をザリザリと滑り、止まる。
「…………なるほどのぉ…………悠真の方は未熟もいいところじゃな」
「そうだね。悠真はお地蔵さんにまかせるけど、桜ちゃんの方は〈妖精さん〉の所でやらせたほうが良さそうだ。……よし、桜ちゃん、一旦終わり」
琉琉助は木から飛び降り、桜の方に歩いていく。
桜も刀をゆっくりと下ろし、静かな金属音を響かせながら鞘に収める。
「とりあえず、様子見は済みましたか?」
琉琉助は目を細めながら話し出す。
「そうだね……それじゃ、悠真は手当てして起きるまで待つとして……桜ちゃんは、ここから一気に底上げしていこう。いいかい?」
桜は琉琉助の緑色の目に目を合わせ、自信ありげにはっきりと答える。
「勿論です」
失神していながらも、悠真の拳は強く握り締められていた。
後に、爪痕が残るほどに。




