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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
二章 「千秋楽山・修行編/邪仙片鱗」
11/12

11話 「表面」


「桜〜……起きて、朝だよ」


 桜は寒そうに布団にくるまりながら、ぐっすりと眠っている。

 やがて、少し目を開け、小さく呟く。


「…………朝……?」


「うん、朝」


「眠い…………」


 目をしぱしぱさせながら、布団をがっしりと掴んでいる。


 そういえば桜は俺が来るまで全く寝てないっぽい感じだったから、久しぶりの睡眠なのか。

 そりゃ眠いだろうと思い、少し起こすのを躊躇ってしまう。


「…………ふぅ……どりゃ!」


「おっ……」


 桜は気合を入れた掛け声を出し、布団を勢いよく蹴飛ばし飛び起きる。


 桜は全身、包帯を巻かれていた。

 琉琉助が手当てしてくれたのだろうか。


 それと……心なしか全身の傷跡が浅い気がする。


「はぁ……眠い…………」


 目をごしごしと擦った後に、俺をチラッと見て、桜は鼻で笑った。


「何……?」


「……悠真……寝癖爆発してる……」


「……マジか」


 髪の毛に手を伸ばし、軽く触れる。

 確かにパフパフした感覚がある。


 いや、それよりも、桜が軽口を叩いたことに驚く。

 これが『本来の桜』なんだろう。

 少し、嬉しいような、切ないような気持ちになった。


 桜は周りをキョロキョロと見回す。


「…………ここは……?」


「えっ……と……俺たちを助けてくれた人の家……?」


「えっ……知らない人の家に泊めてもらっちゃってたの……?」


 桜は申し訳なさそうな顔をした。

 そして、自身の傷口にしっかりと包帯が巻かれていることにも気づき、少し俯いた。


「お礼言いに行こう。それと、俺たちの分のご飯まで作っててくれてるみたいだし、ありがたくいただこう」


「そうだね……」


 桜は自身の腕のアザをさすりながら、軽くほほ笑んだ。


─────


 布団をたたみ、洗面所へと向かう。

 桜がたたんだ布団はとてつもなく綺麗に揃っていた。


 洗面所をお借りさせてもらい、顔を洗い、髪を軽くくしでとかし、少しでも寝癖を目立たなくする。

 ワックスはさすがになかった。


─────


 軽く身だしなみを整え、広間への襖を開ける。


「……えっ……?」


 開けた瞬間、目に飛び込んできたのは異様な光景だった。



 食卓の前に、お地蔵様がある。

 いや……いる?


 広間にお地蔵様が置かれているという意味不明な状況に、思考が止まる。


「お〜、ご飯できてるよ」


 琉琉助がこちらに気づき、しゃもじを振る。

 食卓には、既に箸とアツアツのお茶が準備されている。


「おぉ、君が悠真か」


「はい。えっ……?」


 今……喋った? 喋ったよな? お地蔵様が……


 呆然としていると、琉琉助の楽しそうな声が台所から聞こえてくる。


「びっくりした? これはうちのお地蔵さん、『狩り地蔵』だよ。まぁ、座って座って」


「は……はい……」


 琉琉助に促され、食卓に座り、お地蔵様と向かい合う。


「よろしくじゃ」


「よ……よろしくお願いします………」


 お地蔵さんに喋りかけられる事にものすごい違和感を覚え、無意識にお地蔵さんを観察してしまう。


 てか……石なのに口開いてるし……!

 どうやって喋ってんだよこれ!? 怖ぇよ!


「なんじゃその目は」


 それと、お地蔵さんのノリがなんか軽い。

 てかみんなノリ軽い。

 仙人……なんだよね……?


 異様な光景に、なんか余計なことを色々と考えてしまう。



「悠真は、強くなりたいんだったよね?」


 琉琉助はご飯を盛りつけながら、突然、質問してきた。

 急に真面目な質問をされ、ちょっと考えてから答える。


「あ……はい、そうです……」


「じゃあ、うちの『狩り地蔵』が相手してくれるから、安心して強くなっておいで」


「お地蔵様と……修行……?」


 琉琉助は冗談を言っている感じではない。

 お地蔵さんが修行をつけてくれるということだろうか……?


 全くイメージが沸かない。



「えっ……何この状況…………」


 桜も、洗面所から戻ってきた途端、異様な光景に固まる。


「おはよう桜ちゃん。まぁ、座って」


 琉琉助は桜の席を指さし、箸を置く。

 桜はちらっと俺のほうを見る。

 俺も全く状況を理解できてないのでとりあえず苦笑いで返す。

 それを見て、なんとなく察したのか、桜もゆっくりと食卓に座る。


 仙人一人と人間二人、そしてお地蔵様が一つ……

一人……? で、食卓を囲む。

 何とも言えない空気に変な緊張を覚える。



「来てそうそう悪いけど、今後の方針を伝えるのと、お詫びがしたい。聞いてくれるかい?」


「お詫び……?」


 琉琉助の『波』が一気に重たくなる。

 それは、お詫びをする時のものには感じられなかった。


「君たちをここに連れてきたのは、約〈2週間後〉、この千秋楽山に攻めてくる奴らと、一緒に戦って欲しいからなんだ」


 戦う……?

 いや……それよりも……


「どうして2週間後って分かるんですか?」


 俺が疑問を投げかける前に、桜が琉琉助に問う。

 そんなの……未来が見えてでもいないと分からないことのはず……


「俺はーー〈未来が見える〉んだ。」


「「はっ……!?」」


 桜と俺の声が重なる。


 未来が見える……

 ありえないレベルの能力だ。

 そんなもの……『神』が与えるのか……?


「未来が見えるって言っても、もちろん能力の範疇はんちゅうだ。なかなかきつい制限があってね」


「さすがに……」


 琉琉助は顎に手を置きながら、説明する。


「そう。俺の『未来視』は、無限の分岐の中から少しずつ少しずつ選んで行かないといけない。だから、脳へのダメージがえげつないし、その分試行錯誤もして今ここまで辿り着いた」


「じゃあ、聞く限り今が、あなたが見てきた、『最善の未来』ということで間違いないんですよね?」


 桜は俺が疑問に思ったことをどんどん聞いていく。

 授業で先に手を挙げられたみたいでちょっと悔しい。


「あぁ……〈今のところは〉全てが順調に進んでる」


「なるほど……」


 琉琉助は俺たちを真っ直ぐに見つめる。

 その翡翠のような緑色の目には、凄まじい覚悟と、圧を感じる。


「こちらも〈打てる手は全て打つ〉それでも、勝つためには君たちの力が必要なんだ」


 なぜか、「打てる手は全て打つ」という言葉に恐怖を感じる。

 琉琉助の『波』の奥深くには、どす黒い何かがあるのを知っているからだ。


 琉琉助の本性がわからない以上、これも聞く必要がある。


「敵の目的は何なんですか?」


 琉琉助の目と『波』が鋭くなる。

 顎においていた手を離し、クルクルと動かしながら話し出す。


「ここ、千秋楽山に封印されている怪物『赫阿修羅』の復活と、現世の統制……かな」


「現世の……統制……?」


「敵さん方もイカれた思想をお持ちでね。力を持った者が蔓延はびこる現世に、圧倒的な支配者を用意して統制したいんだと」


「なるほど……」


 つまり、世界に力を示して、新たな主導者になるのが目的……と……


「その、『赫阿修羅』ってのは何なんですか?」


 桜が琉琉助に疑問を投げかける。


「俺たち仙人が昔、百五十人ひゃくごじゅうにん以上の犠牲を出してやっと封印できた『突然変異妖鬼』とでも言うべきかな」


「えっ……」


 元々『仙人』がそんなに居た事も驚きだが、それよりも、『未来視』を持つ琉琉助と同格の『強者』が、たった一つの存在に蹂躙じゅうりんされたという事実が、恐怖感を湧き立てる。


 そんな存在が、解き放たれでもしたら……

 『統制』どころじゃないんじゃないか……?



「勝手な頼みなのは分かっている。力を貸してほしい」


 琉琉助は無駄のない所作でこちらに頭を下げる。


 丁寧な言葉とは裏腹に、絶対に断れない圧力が場を支配し、ピリピリと空気が張り詰める。


 しばらくすると顔を上げ、俺たちに向き直る。

 綺麗な翡翠色の瞳に、俺と桜が反射して見える。


「……ふぅ……」


 一旦深呼吸をして、呼吸を整える。

 そして、琉琉助の目を真っ直ぐ見つめ返す。


「……琉琉助仙人は、未来が見えるんですよね……?」


「……あぁ……そうだよ」


 かつて、仙人達が様々なものを犠牲にしてようやく倒したものに、俺と桜が抗ったところで何になるのか、正直疑問だった。

 それでも、困っている人を無視することはできない。

 ならばせめて、これだけは聞いておきたかった。


「……俺たちが死ぬ可能性はありますか?」


 琉琉助ははっきりと答えた。


「そうならないように努力する」


 …………その返答に、腹の奥底に恐怖が芽生える。


 未来が見える人間が、死ぬ可能性があると言っている。

 つまりそれは、『避けられなかった未来がある』ということだ。


 琉琉助はこちらを伺うように、落ち着いた口調で話し出す。


「君たち自身が死なないためにも、修行して強くなってほしい。俺たちは仙人だ、この戦いで死なないようになる程度の力なら、2週間もあれば付けてあげられる。信じてくれ」


 俺たちの命に関わる決断。


 桜の方を見ると、桜はゆっくりと頷いた。

 その『波』には、確かな覚悟が宿る。

 ならばもう、断る理由はない。


「……分かりました。一緒に戦わせていただきます」


「……ありがとう。そう言ってくれると信じてたよ」


 琉琉助は優しく笑った。

 場に張り詰めた空気が一気に軽くなる。


「それじゃ、ご飯食べたら早速修行始めようか、期待してるよ」


 そう告げた後、ご飯をよそってくれる。


 白いご飯に、味噌汁、焼き鮭、まさに健康的な、お手本のようなメニュー。


 ほかほかとした米粒が朝日でキラキラと輝いて見える。


 共に食卓を囲むことで、少しばかり、緊張が解れたような気がする。


 それでも、奥底の胸騒ぎがなくなることは無かった。



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