10話 「故夢」
俺は『神様』が好きじゃない。
「神様」のせいにすれば、何でもかんでも「奇跡」とか、「運命」とかで片付いてしまうから。
人間たちに『能力』を与えたのが神様なのかなんて、知ったことじゃない。
人間たちが、奇跡が起きたから神様のせいにしてるだけだ。
神様の目的は、人類の発展かもしれないし、あるいは、魔が差しただけなのかもしれない。
どちらにせよ、確かに神様にだけ出来る特権だ。
今の俺たちの世界は、神様にとって、面白いのだろうか。
格差と不平等と、悪意に塗れた世界は。
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場面が切り替わる。
見渡す限りの草原。
色とりどりの花。
透き通るほど綺麗な川が流れている。
遠くに、大きな木が見えた。
真っ赤な実を付けたりんごの木。
その木の下で、白い羽が生えた人間……が、二人、草原に寝転がり話している。
その二人には、純粋な笑顔が浮かんでいた。
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また場面が切り替わる。
先程までの美しい草原はそのままだが、りんごの木の周りに柵が出来ている。
先程の者とは違う、白い羽が生えた人間が、その木に生えるりんごを食べる。
その様子を、先程の二人が羨ましそうに柵の外から眺めているが、りんごを食べている彼は、分けてあげる素振りを見せない。
彼は、一人でりんごをおいしそうに食べていた。
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また場面が切り替わる。
先程までの美しい草原は消え、黒い焼け野原になっている。
先程までりんごの木があったところには、一つの切り株が残っている。
それを見た瞬間、何故か凄まじい怒りが湧き上がる。
二人の姿は、もう見えなかった。
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また場面が切り替わる。
見慣れた、整備されたアスファルトの地面。
人々の喜怒哀楽、様々な声。
そして、狭そうに生えている街路樹。
見慣れていたもののはずなのに、なぜかとても寂しい気持ちになった。
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「…………………………」
見慣れない場所で目を覚ます。
外から少し眩しい朝日が差し込んでくる。
頭がまだ少し痛い。
手を伸ばすと、首に包帯が巻かれていることに気付く。
「お、起きた?」
綺麗な銀髪に、豪華な緑の着物を着た青年が覗き込んでくる。
「る…る…すけ…さん……?」
「おはよう。ようこそ我らの千秋楽山へ。」
にこやかに彼は笑い、Vサインを作る。
「桜は……?」
「桜ちゃんは隣で寝てるよ。しっかり手当てはしたから、大丈夫」
横に目をやると、桜は心地よさそうに布団にくるまってぐっすり眠っている。
その寝顔は、とても安らいでいた。
「悠真はもう起きられそう?」
「はい……えっと……俺……どのくらい寝てました……?」
なんだか、とても長い、悲しい夢を見た気がする。
そういう日は、長い時間眠っていることが多い。
「丸一日寝てたよ。まぁ、あれだけの事があったら……そりゃね?」
そうだった……俺は……
鮮明に思い出せてしまう、あの時の飛び散った血や悲鳴。
忘れたくても忘れられないのが『残響』の辛いところだ。
「俺はここ、千秋楽山に住んでる仙人、琉琉助だ。改めてよろしく。こう見えてめちゃくちゃ年上ね」
琉琉助は仙人……らしい。
仙人と言うには若すぎるし、イメージと違い過ぎる。
「あの……ありがとうございました」
「うん。洗面所はあっち、便所もその近くにあるから。あと、広間はそこの襖開けたらすぐだから」
廊下に向かって指を差しながら、丁寧に家の間取りを教えてくれる。
「じゃあ、先に広間でご飯の準備しておくから。朝からしっかり食べるのが健康の秘訣ってね」
「本当に……ありがとうございます」
そこまで準備してくれてるとは……もはや旅館みたいだ。
ちょっと申し訳ないような気もする。
「それと、大事な話もあるから、桜ちゃんも起こしておいて。ま、ゆっくりしてていいから」
琉琉助は優しく笑いながらそう告げ、ゆっくりと襖を開けて部屋を出ていく。
この至れり尽くせりとも呼べる待遇が、ありがたいのと同時に、恐ろしかった。
彼の『波』は、表面上はとても美しく、凪いでいる。
だが、奥底には、海底を彷彿とさせるような底知れないどす黒さがあった。
彼の言う、「大事な話」とは、一体何なのか。
心の奥底に湧き上がる胸騒ぎを、無視することはできなかった。




