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4. 死を運ぶ川

「うん……?」


 シミュレーションの結果を一瞥(いちべつ)した僕は、それをまじまじと見つめ直すことになった。


「どうしました?」

「いや……」


 星江さんの問い掛けに生返事を返しながら、(あご)を片方の手の平で覆う。

 黒い一点の染みとして浮かんだ悪い予感が、僕の胸の中に徐々に広がりつつあった。まるで、水にこぼした墨汁のように。


 ――アレがここに落ちた、ということは――……?


「星江さん、テレビを点けてくれないか。ワイドショーでも何でもいい」

「は、はい」


 僕の唐突な指示に、星江さんが戸惑い気味にテレビのリモコンを探す。

 その間に僕は、今朝のニュースの情報をインターネットで調べていた。


那実(なみ)川……」


 茨城県白里町の例のアパートは、栃木県のある山(・・・)の奥を水源とするその川の流域にあったらしい。

 ――悪い予感は、ますます大きく膨らみ続けていた。


 折よく、研究室の隅に置かれたテレビのスイッチが入った。


 アナウンサーの切迫した声が流れる。


『緊急のニュースです。茨城県内の複数の市や町で、突発的な出血性の症状によって病院へ運ばれる人が続出しています。この症状は昨夜、茨城県白里町のアパートで発生したものと類似しており、強く関連が疑われています。本日8時現在、この症状による死者の数は100人以上に上っています』


「ええ〜! なんですか、これ!?」


 いきなりの非常事態に、星江さんが()頓狂(とんきょう)な声を上げた。


 ――ああ、やっぱり……。


 僕は片手で前髪をくしゃりとつぶした。予感がいま、確信に変わった。

 今朝のニュースから3倍以上に増えた犠牲者の数。それは、この異常事態が偶発的なものではないことの証左に他ならない。


(僕のこの直感はおそらく正しい。けれど、だからこそ慎重に行動しなくては……)


 僕の頭の中で、これから取るべき行動の選択肢がいくつも浮かび、くるくると回転していた。


「星江さん、これを見てくれ」

「はい!」


 星江さんは素早く僕の隣まで来て、PCの画面を覗き込んだ。


「栃木県の瑞篠(みずしの)山、ですか……?」

「ああ」


 シミュレーションの結果は、火球を構成していた物質のほとんどが、その山の特定地域に集中して降り注いだことを示していた。 その主な要因は、火球爆発の後、明け方までの間にこの山に降り続いた大雨だ。


「この山はある川の水源になっているんだ。茨城県を通って、太平洋に注ぐ一級河川だよ」

「それって……」


 僕と同じ結論に至ったのか、星江さんが青い顔をする。

 図ったようなタイミングで、テレビのアナウンサーが決定的な言葉を告げる。


『――被害が発生している地域は、茨城県の那実川流域(・・・・・)に集中しているとのことです』


 僕がシミュレーションの結果から得た仮説は、その台詞(せりふ)によって裏付けられた。


 離れて見えた2つの点同士が、ぴったりと重なった。



 未知物質による、最悪の水系汚染災害。

 その幕開けだった。



 ――このときの僕は気づかなかった。

 事態は僕の想像する最悪よりも、遥かに早く進行していた、ということを。


ここまでが序盤のイントロです。

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