██レポート〈DAY 5〉
以下は、██に関連して人類側が把握している情報をまとめたレポートである。
【前提】
・栃木県上空で異常な火球が閃光爆発を起こした日を〈DAY 0〉と記す。
・ここに記す内容は、〈DAY 5〉23:59時点の情報を基準とする。
【Acu-SHE】
・茨城県那実川流域を起点として発生した、致死率99.9%の死病。
・被害:死者約17,100名(23:00時点の日本政府公式記録)
茨城県内の罹患者数の増加は一段落したと考えられる。
東京・千葉・神奈川でも若干名の発症者が見られ、海産物由来の食中毒が疑われている。
栃木県以外に、埼玉・群馬・長野・福島・新潟の内陸部でも発症者が見られた。内閣内部の科学対策統括室によって「生物ベクターによるホットスポット形成」説が上がっている。
・生還者数:17名
・病状の進行について:
潜伏期:病原との接触から前駆期に至るまでの期間。患者や関係者からの聞き取りから、30分から5時間の間と考えられる。
前駆期:症状が発生し、末期に至るまでの期間。風邪に似た頭痛・発熱・倦怠感などの症状がある。具体的な症状や程度は患者によって様々である。これまでの臨床データから、患者によって一定ではなく、2時間から9時間以内と考えられている。
末期:なんらかのきっかけによって脳内で過剰な免疫反応が起こり、サイトカインストームが発生する。高濃度の炎症性サイトカインが血流に乗って全身に伝播し、免疫反応によって全身の血管が崩壊する。これが全身で見られる播種性血管内凝固症候群(DIC)の正体である。
・病原:〈DAY 5〉の発見によって、「██」の疑いが濃厚になっているが、まだ仮説の段階。
【ヒト以外への影響】
・〈DAY 4〉時点で、那実川流域周辺で「Acu-SHE」によると見られる多数の犬猫の死亡報告が上がっていた。
・本日の朝以降に宮城・岩手県の太平洋沿岸で見られた鯨類(クジラ・イルカ)の大量座礁現象によって、海洋哺乳類も「Acu-SHE」を発病・死亡することがわかった。
・宇梶慧をリーダーとする瑞篠山の調査によって、哺乳動物以外にカラスが「Acu-SHE」によって死亡することが示唆された。
・カラス以外の鳥類や、他の動植物に対する影響は明らかでない。
・ヒト以外の動物における病原と接触してから死亡するまでの生存期間は、ヒトよりも半日から1日以上長いと考えられている。
【██】
・〈DAY 5〉に魚渕と六津によって初めて発見された物体。
・大きさ:1μm大。
・以下の複数の形態を取ることが確認された:
①グミ粒状形態……植物プランクトンに付着している際に見られた形態。形状は大豆やグミ粒のようで、一定ではない。半透明の細胞膜のようなものに覆われており、光学的な手段で内部構造を見通すことはできない。環境条件によって、②③に遷移すると考えられる。
②アメーバ状形態……血液成分、特に溶血させた赤血球との混合液による培養実験で観察された形態。形状は仮足を持つアメーバと酷似しており不定で、内部に核を持つ。最速で3分半に1回という脅威的な速度で倍加する。
③真球状形態……電子顕微鏡での観察で確認された形態。形状は真球状で一定。表面は金属質で全体に滑らかだが、わずかに起伏が見られる。また、表面には極めて精密な幾何学的紋様が見られる。ただし、その意味や由来は不明。この形態は、極めて高い環境耐性を持つと推定される。
・備考:海洋での植物プランクトンの激減現象や、「Acu-SHE」の発生との関係が強く疑われている。
【鯨類の大量座礁】
・本日朝5時から深夜11時にかけて、宮城県の牡鹿半島周辺以北から岩手県の宮古市以南を中心に、両県の太平洋沿岸に合計で約400頭の鯨類(クジラ・イルカ)の死骸が漂着した。
内訳はイルカが約350頭、クジラが約50頭。
・死骸は例外なく全身に出血症状が見られ、凄惨な外見であることから「Acu-SHE」の発病によって死亡したと考えられる。
・宮城・岩手両県の県庁は午前中に対策本部を立ち上げ、保健所の監督下で官民一体による作業を行い、午後4時までに漂着したイルカ約240頭を焼却処分した。
・内閣は午後4時の段階でこれを「公衆衛生を損なう甚大な災害」と認定し、既に発足している緊急災害対策本部で情報を一元管理し、各県の対応を支援すると発表した。この発表には、自衛隊による災害派遣も含まれる。ただし、発表の中で「Acu-SHE」との関連については触れられなかった。
【日本社会への影響】
・茨城県・栃木県で那実川流域の断水が継続。当該地域、及び周辺のコンビニやスーパーなどで飲料品の需要が高騰し、一部の店舗では購入制限が課されるようになった。
政府は両県の住民に対し、県外への移動に対する強い自粛要請を出した。これに対し、住民から反発の声が多く上がっている。
・政府は海産物由来の食中毒によって「Acu-SHE」が発病していることを明かし、太平洋の日本近海で穫れた海産物の摂取を控えるよう、国民に告知した。
・海岸封鎖と漁業および海産物の出荷禁止命令の範囲は、岩手県以南から関東一帯に拡大された。
・これらの政府の対応に対し、一定の理解は示されつつも、漁業関係者や食品加工メーカー、飲食業関係者などから反発と抗議の声が上がっている。
・世間の怒りや不満の矛先の多くは、政府に加え、一連の事態の元凶とされるエレメント・マテリアルズ社に向けられている。
【その他の日本政府の対応】
・厚生労働省は、一連の事態とエレメント・マテリアルズ社の工場から流出した「ジオキソラン-F7」との間に「因果関係があるとは言えない」との公式見解を発表した。
 




