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5 極東の村(フルード視点)


3週間後、俺は東の島を目指しつつとある村の外れまで来ていた。

この大陸の端に近く、さらに東に行くと港町があるので、そこから船で目的地に向かう予定だ。

別に補給物資に余裕はあるし、さして疲れてもないのだが、アルフから受け取った調査と依頼があり一度寄ることになった。


「しかし、このクソ村にまた来るとは・・・。滅んでなかったか。」


正直なところ来たくはなかった。幼い頃にこの村に滞在していたことがあり、そこには恩師と呼べる人がいたのだが、村の連中にはいい思い出など一つだってないからだ。

仕事で対価が貰えるならと、気も足も重いままゆっくりと村を目指す。

はて?村まではまだ距離があったはずだが・・・。

予想していたより手前に村の柵が見え広い畑が見える。


「何だこりゃ、こんな広い畑を管理する気力のある奴なんかいたか?」


他人の足元を見ることしかできないと思っていた村人の中にも、立派な農村と言えるだけの畑を管理できるものがいたのか?いや、そもそもあれから何年も経ってるんだ、まともな移住者がいたか一度村が滅んだか。そっちのほうが可能性がある。


物騒だが、自分にとって都合のいい思考を繰り広げていると、何やら離れたところから揉めているような声が聞こえるので行ってみることにした。

俺の行動がのちにこの世界に怪物を生むことになるとは微塵も思っていなかった。






「おい!!何やってんだ!!」

その光景を見た瞬間、血が沸騰し怒りが込み上げてきた。

やっぱりだ、この村はなにも変わってなんかいなかった。


悪ガキが数人、赤毛の少年を囲って石を投げつけたり木の棒で叩きつけたりとやりたい放題にやっている。やられっぱなしの少年が着ている服は明らかに暴行される前から汚れ、ぼろぼろの状態だったのだろうとわかる物だ。血の発生箇所はわからないが少し血だまりが出来て、内出血を起こしている個所も見受けられた。


「なんだよおっさん。俺はこの村の未来の村長なんだ、畑の妖怪は今から躾けておかないといけないんだから邪魔するなよ。」


4人のうち一際体格の良いガキが反論してくるが、妖怪という言葉から赤毛の少年をもはや人間と思ってないことが簡単に読み取れる。無視して少年を助け起こそうとするが、何か木の棒のようなものをガキたちから守ろうとしていたのかずっと抱えている。


「やめて、これを折らないで。邪魔をしないで。」


小声でずっと呻くように繰り返しぶつぶつ言っている。

しかし、少年の願いむなしく棒のようなものは折られてるし、無数の棘が生えたようになっている折れた部分を強く握りしめていたため、手からは結構な血が流れてしまっていた。


「おっさん、もしかして冒険者か?腰にあるそんな細い棒が武器だなんていわないよな?こんなしょぼい冒険者今まで見たことないぜ。」


クソガキがにやけた声で何か言っているが、相手にする価値もなさそうだ。取り合えず懐から傷薬を取り出し少年の最もひどい手に直接塗り込み、治療しようとするがあまりにきつく握りこんでいて手を開かせることに四苦八苦する。っ・・・こいつ、なんて握力だよ・・・。

無理やり剝がせないわけではないが、この12歳ぐらいだろうか、幼い見た目のわりにものすごい握力をしているせいで傷を広げないようにと気にしながら手を離すのは至難の業だ。


「おい!無視すんなよ!!おい、このE級冒険者が!!!」


おそらく俺の後頭部を目掛けて棒切れを降り下ろしているのだろう。

気配でわかるし、振りが遅いしで簡単に避けられるな。振り返りざまに顔面に拳を叩きつけてやろうかと思っていると、目の前をさっきまで弱弱しかった少年の足があり得ない速度で通っていく、それと同時に風切り音がしたのをみて。少し背筋がヒヤリとする。


「やめて!!!」


手を話させようとしたのが誰かはわかっていなかったのだろう。おそらく本当は俺に向けて放たれた少年の蹴りは見事にガキの持っていた棒切れの根元をへし折り、それでも勢い止まらずクソガキの腹にヒット。

地面に寝転んでいる状態から放ったにもかかわらず自分より体格のいい相手を4~5メートル以上は吹き飛ばす少年の蹴りの威力にうすら寒い思いもするが、もし冒険者にしたらすごい逸材になるんじゃないか・・・?という熱い何かを胸に感じた。


でもそれは一瞬で、少年が気絶したのに気付いた為、急いで担ぎ上げる。

やはり、見た目のわりに筋肉質なのか脂肪とは違う重みを感じながら、なるべく揺らさないように慎重に歩き始める。

取り巻きどもがアタフタしながら意識を絶たれたクソガキに呼びかけているが無視したまま村に入ったのだった。





「やぁ、こんばんは」


村長の家までは思ったより距離があった。家が見えてくるまで、長いこと畑が続いていたためだ。

爺は担いでいる少年をちらりと見て少し眉を顰めるが、なにもなかったかのように挨拶をしてきた。

一見、人の好さそうな顔をした爺だが、こいつもさっきのガキ同様クソ野郎である。


「あんたが村長だな?依頼を受けたギルドの者だ。それで依頼とは関係ないが、あんたの孫を名乗るガキがこいつをしこたまやっちまった様だが、お前の指示なのか?それか指示してなくてもこんな扱いを許可しているのか?」


なるべく怒気を抑えてたんたんと聞いてみる。


「そうですか、あの子が・・・。いえ、指示も許可も出していないんですがね。畑仕事をさぼらないように見張っていろと言っただけなんですが、どうやらヒートアップしすぎていたようですね。お客様にはお見苦しいところをお見せしてしまい、すみませんでした。」


返答には本当にすまないと思ってないのがありありとわかるし、この少年に対する日頃の行いも黙認されていたことが簡単に思い浮かべられるようだ。


「そんなことより依頼の魔獣なんですがね、南西の山の方で村人が見たようなんです。いつごろ出発されますか?今からだと遅いので明日出発されるなら我が家でおもてなしいたしますよ。」


こういう手合いでは、泊まった分の宿代とか消費した分の食料代とかのたまって、依頼料から金額を差っ引かれるのはよくある話である。もちろんそんな事をせず、請求などしない所もあるのですべてが悪質な提案でしかないとは言えないが。


「いや、遠慮させてもらう。とりあえずこの状態じゃこいつも畑仕事なんか今日はできないだろうし、こいつの家に帰すついでに泊まらせてもらうから場所だけ教えてくれ。」


村長を急かして場所だけ聞き、すぐに向かい始める。






場所は村の端っこ、ほとんど薄れていた記憶からまさかとは思ったが、昔恩人が住んでいた家そのものだった。


「まさかここをまた見ることになるとはな・・・。」


外観はまさに幽霊屋敷と言えるような二階建てのおんぼろな一軒家だ。サイズは驚くほど小さく、こじんまりとしていて汚い。隣の家には空き家もあるのに居を移してもらえないところを見ると、これも嫌がらせの一種なのだとわかる。


とりあえずここで良いかと薄汚れたベッドに寝かせることにした。






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