4 極東の村に着く3週間前(男視点)
俺はこの大陸では多分強いほうだと自負している。
俺は冒険者という名前のいわゆるゴロツキ集団に属している。
世間的に見れば底辺の存在ではあるものの、その実、モンスターを狩ることで町を行き来する街道間の治安を維持し、狩ったモンスターの素材を町に卸し資源を提供する第一次産業を兼ねていると言ってもいい。
そんな(ピンキリではあるが)腕自慢の者たちをまとめるのがギルド。職業斡旋所というより、
その時限りの短期の依頼を依頼者から金銭を引き換えに受け付けて、冒険者に提供している場所だ。
そんなギルドで、上から2番目のクラスであるB級の称号を貰っている。しかもそのB級の中では俺より強い奴には会ったことがない。
これは俺が調子に乗っているのではなく、冷静に戦力分析をした結果の話だ。
そんな俺だが、最近相棒の刀の調子がよくないように思える。
このままでは不安ということもあり、俺専用といってもいいギルドの職員に相談したところ。
「うーん、あんたの戦力が落ちるのはギルドにとっても大損害なんだよね。だから前に相談されたときに言った通り許可はしたいと思うんだけど、東の僻地まで武器の修理に行かれると業務がたまってしまうからなー。ちょっと大型の依頼を10個ほど片づけてくれたら、他のA級やB級に仕事を降って4~5か月ほど休暇を設けるよ。」
「ぬかせ。まるでこのギルドの職員みたいな言い方だが、俺はこのギルドの専属になった覚えはない。別に他の国のギルドに移動したっていいんだ。それが冒険者ってものだからな。」
職員の男、アルフは言い返しはしないが、ニコニコしながら俺のにらみにも負けず目を合わせてくる。
落ち着いた黄緑色の髪をしっかりと固めて制服をビシッと着こなす一見堅物そうな優男ではあるが、実は中身はそれ以上に頑固であり、自分の分を弁えつつも意見を通そうとしてくる厄介な性格をしている。専属の職員ということもあり、脅しなどには屈しないし下手な冒険者より胆力がある。
これが笑顔の圧力ってやつか。と、ちょっと感心していると、横から後輩であろう女性の職員がアルフに横から話しかける。
「せ、先輩だめですよ。フルードさんに愛想尽かれたら、このギルドが立ち行きません。」
少し制服を気崩して不真面目な印象を抱いていたが、涙目になりながらもアルフを窘めるということは自分が思っているより真面目な性格なのかもしれない。見た目で判断しては駄目だなと少し思ったが、それよりも・・・
「いや、それは言いすぎだと思うが。」
「うん、言いすぎだね。」
俺にかぶせるように言ってくるアルフをまた睨む。少しは反省しろ。
「いつも難易度高くても、面倒な依頼でも処理してくれるのはフルードさんぐらいしかいないんです。
ほかの人たちはいつも理由をつけて逃げてしまいますから。」
俺の中でこの女性の評価がうなぎ上りなんだが、アルフと変わってくれんかな?
ダメか、駄目だよな。基本的に高ランクの冒険者につく専属の受付は同性だと決まっている。
「大丈夫、この人どうせこのギルドでしか仕事しないし、いざとなればほかの奴らの尻を蹴ってでも、今まで滞納してた分働かせればいいし、移動したら私はそのギルドについていくから被害はないしね。」
「それって、自分に被害がないだけですよね!?残されたこっちは被害甚大です!」
なんか後輩がかわいそうになってきたんだが、この辺で助け舟を出すか。
「いや大丈夫だよ、こいつとも長いし条件をつけてくることもわかってる。
このギルドはやめないからとりあえず待ってる新人たちの対応してあげな?」
斜め後ろで話しかけるタイミングを待っていたのだろう4人組の新米っぽい若者たちを指さす。
後輩職員は「ありがとうございます。差し出口でした。」と小さく言うと新人たちの相手をし始める。
「いい子だろ?」
「ああ、お前よりよっぽどな。」
「惚れた?」
「ぬかせ。」
本当にこいつは・・・。
「とりあえずさっきの条件で長期休暇を許可するよ?」
「ほらよ、これでいいだろ?」
俺はこいつの性格をわかっていたので、あらかじめ依頼を消費していた。
いつもは得意げなコイツがどんな顔をするのかと期待しながら依頼の束を差し出したのだが、
「うん、そう来ると思ってたから移動経路の提案と船の手配は用意してる。あと、道中の村でやって欲しい調査が一つと依頼が二つある。」
相手のほうが上手だったことに顔を上に向け目を覆った。
「お前、読んでたのかよ。」
「まあね。おそらく今日休んでる職員の子にでも依頼を貰ったんでしょ?でもこれで随分やっかいな依頼が減ったから助かったよ。あ、まだ出発まで時間があるなら後3つぐらい依頼をこなして路銀の足しにでもしない?」
「お前には負けた。そこまで読まれてるとはな・・・。はいこれ。」
「ん?なんだいこの依頼は。」
「路銀用にこなした追加の依頼。さっきのと合わせて15個は終わらせてある。」
「それは読めなかったな・・・。」
苦笑いし肩をすくめているアルフを見て、最後に少しは意趣返しになったか?と少し口角を上げてみた。