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2 師匠と弟子



トーラン大陸の東も東、"国"とも認められない小さな町村が乱立している地域を人々は空白領土と呼んでいた。


そんな空白領土からすぐ西の国アタロ王国も目の前という酒場から出てきたのが先程の2人だった。

変わらず大剣と刀が目立つ男と比べ、見劣りする刀を腰にさした少年は背中に大量の木の枝を筒に入れ背負っている。


「師匠、このまま西の国に入るの?」


「いや、国に入る前にお前の身分証を作らないと今後不便だからな、今から宿を取って明日ギルドに行くぞ。」


「はーい」


返事をして歩き出したのだが、少年は極自然な動作で背中の籠に手を伸ばし1本抜き取ると両手で持ち、上に振り上げる。


「おい、町中では修行の素振りするなよ?」


今にも振り下ろさんとした瞬間だったので少し手前につんのめってしまった。


「おっと。」


男は後ろから迫る少年の手から枝を奪い、目にも止まらぬ速さで少年の頭を枝の根元で叩きつつすぐに籠の中に差し込んだ。

その動きは洗練され、見るものが見れば相当の強さをしていることに気付いたことだろう。


「痛いよ。師匠。」


「お前はもっと自分以外の存在に気を配れ。

 そんなんじゃまた故郷に居たときみたいに酷い目にあうぞ。」


「でも、師匠以外と過ごしたことなんて殆どなかったから…。」


いじけた少年は純粋な性格らしく、15歳ほどのみてくれで見たものが心配になるほど落ち込んで見せた。


「まぁ、体格は良いとは言え、まだ10歳だからな。

 その辺のことも含めて俺が面倒見てやるよ。

 有料だけどな。」


「もちろん!また働いて返すね!」


男の最後の言葉で台無しだったが、少年は当たり前のように金を払う約束をし、喜んでまで見せるのだった。


「お前は俺の為に働かないといけねぇんだから、体力をつけるためにも、弟子として強くなる為にも肉はしっかり食えよ。

 フルーツと野菜だけじゃ強くなれんぞ。」


「う~~、がんばる…。」


「あぁ、頑張れ。」


そう言いつつ男は赤い果物のようなものをどこからか取り出し、少年の頭の上に乗せてやるのだった。


「師匠ーー!!ありがとー!」


そして男は目の前で満面の笑みを見せつつ、歩きながらでも美味しそうに食べるという妙な特技を発揮させる少年を弟子にした時のことを思い浮かべた。





その日俺の前に道ができた。


ズン!!と俺の後ろで今斬ったばかりのオオカミのような魔獣が倒れ伏す中、そんなものに視線をやることもなく、

声をかけてきた少年に体を向けていた。


「僕にその剣を教えてください!!!その綺麗な剣を!!!」


目の前で土下座をする赤髪の少年は薄汚れた格好で、肌も乾燥し、常人ならそんな声すら出せないはずのガラガラ声で弟子になりたいと言ってきた。


「俺は一度断ったはずだぞ、もう弟子はとらないと決めている。確かにお前は俺の恩人の息子だし、今もお前を助けるために魔獣を斬ったが、お前を弟子にするためではない。」


そう言いながらも、少し予感めいた感覚がしていた。

あの頑固な人の息子だ、恐らくどれだけ言ったところでついてくるんだろう。そして、そいつの目だ。


死にかけと言っても過言ではないような状態で、一体どれだけの人間がこんなに強い目をできるだろう。

顔を上げたその目の強さは一度断った時のような、思い付きだけでしゃべっているようなそんな軟弱な真剣さではない。力が欲しいとか、今の現状を抜け出したいとか、そんな副次的なものではなく、純粋に、ただ純粋に剣を修めたいという決意が感じられた。


赤い澄んだ瞳は、過去に東の果てで剣を求めた日々を思い出させた。俺もこんな思いで剣を始めたのか。


ああ、なんて純粋な思いだろう。相変わらず自分の意志の弱さに辟易するが、こいつを無下にする気がなくなって来ている。そして俺の剣を綺麗だと言ってもらえたのは何年ぶりだろう。


「お願いします!!僕を弟子にしてください!!初めてなんです!戦いは嫌いだったけど、こんなに綺麗な剣を見たのは!!」


「別に俺の剣術じゃなくても、この世界には剣を教えてくれる奴なんてそこら中にいるんだ。

 それに俺の剣は同業者どもに言わせれば豪快さのない軟弱な剣らしいぞ。お前に教えたところで、お前も後ろ指をさされるだけだ。やめておけ。」


もう、答えはわかっていた。そして俺の中でも断る選択肢はほぼなくなっていた。

でもこれは二度弟子をとり、修行を投げ出された俺の最後の小さな抵抗であった。


「その剣がいいんです。いままで村にきた誰よりもそうなりたいと思えたその剣が・・・。」


もうさすがに体力が残っていなかったのか、最後の方で態勢を崩しはじめ、声も弱々しくなっている。

その状態でも剣のことをいうこいつに、呆れを超して苦笑いが出てくる。


「わかったわかった。まったく、さすがあの人の息子だよ。お前は。そんな死にかけの状態じゃ

何も教えられねえんだから、今は休んでろ。な?」


「絶対、ですよ・・?・・・」


気を失う直前にまで念押ししてくるこのしつこい性格に今後振り回されるのだろうと考えながら、

それも悪くないと思ってしまっている自分がいる。

以外にもずっしりとした重さの体を抱き上げ、元の村へ戻るべく歩き始める。


その日俺の前に道ができた。

もうこれは俺のエゴでしかないが、関係ない。

こいつが立派に育った時、俺のすべてを残したといえるように、すべてを授けようと自分に誓った。



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