電子音で鎮魂歌を
戦闘機械が撃った銃の先にはスィーンがいた。
彼女は頭を撃ち抜かれ、涙を流しながら倒れた。
ダイラスは顔から表情が削げ落ち、手を前に出したままの歪な格好で固まった。
ドラゴンは餌ができたとでも言うようにスィーンに近ずき、頭から彼女を喰い始めた。
その様子をダイラスは呆然と見ていた。
戦闘機械はムイとダイラスを守るように立った。
「住民に危害を加える可能性あり。討伐する」
そう言い、スィーンを食べ終えたドラゴンを攻撃し始めた。
「グォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
ドラゴンは気絶しているムイの方に向け火を吹いた。
しかし、彼に届く前に戦闘機械は彼守った。
「退避を推奨します」
ダイラスは何も言わず、ムイを抱え洞窟を走り去った。
「--そうして、僕達は生きて帰ることが出来たが、ムイは自分のせいだとずっと自分を責め続けているんだ」
ダイラスはため息をついた。
「話しすぎたな。忘れてくれ」
時計の音が辺りに響いた。
「その話から推測するに、ダイスの方が辛く感じているのでは無いのですか?」
「僕は覚えていないんだ。2人の様子は覚えてる。でもその時に僕がどう思っていたか、どんな感情を抱いていたか思い出せないんだ」
部品を直す手をとめ、ダイラスはこちらを向いた。
「ユィレ、もうこの部品はダメだ。新しい部品に付け替える必要がある。それでいいか?」
「問題ありません」
ユィレがそう言った直後、扉が勢いよく開いた。
開かれたドアの先にはムイとその両親がいた。
「ユィレ!!待っててって言ったっじゃん!」
「すみません。ダイスが腕を直してくれるようなので、着いてきてしまいました」
ムイは驚いたようにパッと目を開けた。
「ダイスって機械直せたの?!機械嫌いなのに?!」
「おい、失礼だぞ。僕は機械は嫌いだが誰かと違って器用でね」
ムイとダイラスがそう言って言い争いを始めた。
そんな中ムイの両親はユィレに深く頭を下げ心から感謝を伝えた。
「ムイを生きて返してくれて本当にありがとうございます。本当に、本当に」
「私共では何も出来なかった住民の解放までしてくれるなんて、本当になんと言ったらいいか......」
感極まった様子だった。
「いいえ、ワタシに命令どうり行動しただけです。感謝は不要です。腕が治りしだい次の街に移動します。それまではよろしくお願いいたします」
ユィレはそう冷静に告げると、ムイとダイラスの言い合いの仲裁に入った。
「ムイ、先程言っていた記録の5はありましたか?ダイス、新しい部品はどれくらいでできるでしょうか?」
ムイはハッとして、伝えた。
「それが、だいぶ前に盗まれてたみたいでなかったんだよ」
「ああ、あの日か。たしか記録以外のものは盗まれてなかったって言ってたよな」
ユィレは目を細めた。
「新しい部品だが、充電場の倉庫にあるはずだ。まあ、1時間半くらいでできるんじゃないか?」
「了解しました。ではそれが終わり次第この街を出ます」
「えええええぇぇぇ!!!!!」
ダイラスがとても顔を顰めた。
「うるさ」
「ユ、ユィレもう行くのか?!こう、もうちょっとゆっくりしていったりしないのか?」
「しません」
いつの間にかムイの両親が新しい腕の部品を持ってきていた。
ダイラスが頼んだようだった。
「じゃあ、付けるから、ムイは邪魔しないように外に出てろ」
「わかったよ……」
不満げな顔をしたが、大人しく引きがって家から出て行った。
ダイラスは作業をはじめた。
1時間と少したったぐらいだろうか、作業が終わったようだった。
「終わったぞ」
ユィレは新しくついた腕を動かして、問題がないことを確認した。
「ありがとうございます」
ダイラスは少し躊躇いがちに口を開いた。
「ユィレ、その、僕もお前の旅に着いて行っては行けないだろうか。戦闘力にはあまりならないが、お前を直したりできる」
ユィレは冷静に思考し、首を縦に振った。
「了解しました。ただ、旅での安全は保証できません。それでもよろしいですか?」
「問題ない」
ダイラスは安堵するように息を吐くと、準備をしてくるといい、部屋の奥に入っていった。
ユィレは家から出ると、そこには綺麗な夕焼けが見えた。おもむろに手を構えると、バーチャルのヴァイオリンがそこにうまれた。
ゆっくりと手を動かしユィレは鎮魂歌を演奏した。
経年劣化だろうか、ユィレの出した光のヴァイオリンからは時々電子音が混ざっていた。
家の壁にもたれ掛かり、それを聞いていたムイは思った。
(願わくば、この世の中で理不尽に殺されてしまった人たちの旅路に光があらんことを。そして)
--この電子音の鎮魂歌がスイにも聞こえていますように
軍部マル秘情報
戦争中、人間の死者が多く出た場合、鎮魂歌を演奏していたらしい。その音色は戦場には似合わない柔らかで、温かさがあるものだったとか、