終わりは始まりとなり得るのか
「世界は滅びた」
『これは、きっと、争いが消えたということだろう。嗚呼、本当にここは争いの終焉なのだろうか?』
それは、自らを確かめるように言葉を発した。
「戦闘機体S-3057。最終接続日は終末152年。現在地は博士の家と推測」
冷静に記録を整理していく。
ただ、それは他の戦闘機械とは少し違った。
「現在の情報取得のため、アップデートを行います」
別に、感情を持っている訳では無い。
「正確なアップデートが行われませんでした。データを戻します」
大して価値はないだろう。
「ワタシはユィレ」
かつて、博士と呼ばれた人物により貰った、ナマエを持っていた。それだけだ。
「博士の命令を遂行する、博士の助手」
それ、否、ユィレの美しいガラスの瞳があるものに向けられた。
ユィレの記録にある博士の部屋があったところ。
保護プログラムがくまれ、守られているそのものに。
ユィレは美しく光るそれに触れた。
ーー機体番号s-3057 認証しました
データを移行します
あるデータがユィレに移された。
博士が最後に遺した記録、記憶。
そのデータを再生した。
「ユィレ、ごめんね。僕はここで終わりなんだ。だから、必要事項だけ君に移行しようと思って」
博士と呼ばれるその人は若い男性のようだ。
「さて、今ここのユィレは戦闘中だよ。でも、君は絶対戻ってくるよ。僕との約束だから」
そう言った博士はボロボロだった。
「知ってると思うけど、この戦争で世界は滅びる。だから、君は今いる世界を修復して守って欲しいんだ」
博士は少し悲しそうに付け加えた。
「ついでに僕の遺体も探して埋めてもらえるかい?野ざらしは少し嫌なんだよね。」
最後には満面の笑みで。
「このデータは世界の情報を取得し続け、更新しているはずだから、迷うことはない、と思う。ただ、戦争の影響で傷が入っていたりしたら、上手く君に情報を渡せないかもしれない。でも、君にしか頼めないんだ。ユィレよろしく頼む。そして」
ーー今までありがとう
映像は切れ、今の世界の地図を写し出した。しかし、損傷があるのかほとんどの部分がはっきり表示されず、詳細は分からなかった。
そんな中、ひとつ、黄色の光がある場所を示していた。
「了解しました。博士、無事命令を遂行しましょう」
そうして、ユィレの旅が始まった。
ユィレは自身を簡単にメンテナンスすると、白衣を羽織り、簡単な緊急セット、よく使っていた武器を数点、保存食、バッテリーを持ち博士の家を出た。
黄色い光は相変わらず同じ場所を指していた。
「テスラのあたりが近いか……?!」
生命体の反応を感じたユィレは武器のひとつを構え、辺りを警戒した。
反応があった辺りを見ると、そこには少年がいた。
「わっ!!だ、誰だ?」
「ワタシはユィレ。博士の助手です」
武器を下ろし、そう答えた。
「ユ、ユィレさん。俺はムイ・バース」
「なんとお呼びすればよろしいでしょうか」
「あ、えっと、ムイって呼んで」
「了解しました。ムイ、何をしていたのですか」
ムイはハッとした様子で後ろを振り向き、焦ったような表情を浮かべた。
「さっき、ドラゴンが出てきて、それで助けを呼びに来たんだ!!助けてくれ!!そうじゃないと、母さん達が……!!」
ユィレは少し思案すると、ムイを抱え走り出した。
「こちらであっていますか?」
「はっ?!え?あ、あってるよ」
「では、舌を噛まないようにお気をつけてください」
さすが戦闘機というところだろう。走るのはとてつもなく速く、ムイは誤って叫び、舌を切ってしまわないように必死だった。
ドラゴンのいる場所に着くと、男性と女性が戦っていた。
「父さん!!母さん!!」
「ムイ?!なんで戻ってきた!!」
そんな様子はお構い無し、というようにスルーし、ユィレはドラゴンに向き合った。
「お嬢さん?!危ないぞ!!」
「問題ありません。ワタシは機械ですので」
そう言って持ってきた銃でドラゴンの頭部に弾を乱射した。
「グオオオオオオォォォォォォォオ!!!!」
苦しそうに手を動かし弾から身を守ろうとしているすきに、ユィレは後ろへ回り剣で首筋を切った。
「ガオオオオオオオアアアアアアアアァァ!!!!!!!!」
ドラゴンは断末魔を上げ倒れた。ほんの数分の時間だった。ドラゴンの攻撃はユィレにかすりもせず、一方的だった。
「ユィレさん!!大丈夫か?!」
「全く問題ありません。それより、ワタシに敬称は必要ありません。ユィレとお呼びください」
「わ、わかった。ほんとに怪我はないんだよな?ユィレ?」
「はい」
ムイはとても心配そうにユィレを見ていた。
ムイの両親は顔から血が引き、青ざめたような表情をしていた。
「申し訳ございません!!感情を抱いてしまいました!!罰は受けます!!なので、どうか、ムイだけはっ……!!」
地面に頭をつけ、必死で訴えていた。怯えるように、懇願するように。
「?どういうことでしょう?」
「戦闘機械様方により、私たちは感情を抱くことを禁じられております。ご存知ないのでしょうか?」
ユィレは意味がわからないというような顔をした。
「ここは、どうなっているのですか?ワタシは最近、再起動したばかりなのでよく分かりません。教えて頂けますか?」
両親はそれは驚いた表情で頷いた。
「もちろんです。私共の知ることは全てお伝え致します」
その2人の話によると、戦争を生き延びた人はどこの街でも戦闘機械に支配され、二度と戦争を起こさないように、感情を抱かせないようにさせられているらしい。
「戦闘機械は命令がなくては行動しません。誰がそのような命令をしたかご存じでしょうか?」
「申し訳ありません。この街にいるのは機械様方のみで、ちからになれず申し訳ございません」
ユィレは博士より世界の復興、守護を命じられていた。守護の役割を果たすためユィレは戦闘機械を倒すと決めた。
「戦闘機械の充電施設はどこですか?」
「ここの街の中心にあります」
ユィレは武器を持ち直し、その場所へ向かおうと足を進めた。
「ちょ!ユィレ!行くつもりなのか?!」
「もちろんです。私が博士に命じられたのは世界の復興、そして守護。人々が苦しんでいてはいけません」
「それなら俺も行く!」
ムイの両親はムイ縋るように必死で止めた。
「ムイ!足でまといになるだけよ!」
「そうだぞ!お前は大人しく待ってろ!」
ユィレは両親の我が子を守りたいという気持ちがわからない。
「問題ありません。ワタシは1人くらい守って戦えます」
両親には冷酷な言葉だっただろう。
しかし、ユィレは機械であるため、そんなに感情は知らない。
ムイはニカッと笑った。
「大丈夫だって!俺がみんなを解放するんだ!ユィレ!道案内は任せろよ!」
両親は諦めたように、懇願した。
「お願いします……どうかあの子を守ってください。本当に、お願いします……」
「了解しました。ムイを守るという命令、確かに遂行致します」
「そんじゃ!行くぞ!」
ユィレはムイに手を引かれ、進んで行った。
ドラゴン:体長3〜10m程
小型のドラゴンは民間人でも対処可能だが、大型のものになると専門機関に依頼し、対処してもらう必要がある。戦争にも利用されていたとかないとか