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第六話 異次元的冬休み

#1 ケーキ作りの裏側

「さて、ケーキを作りましょう」

 冬休みに入るなり、唐突なことを言い出したのが誰か、今更語るまでもない。細川家の一人息子で高校生、魔力使用者と精霊術師を兼ねた何でも屋の店主、細川裕である。こうしてみると、肩書きも増えたものだ──たったの半年で。

 今日は十二月二十五日、世間が浮かれ、色々なものの値段が高騰する日だ。細川はプレゼントには興味がなく、恋人もいない上に、パーティーに参加する友達もいない(とくにこの一年の孤立具合は酷いものだ)。彼としては、日付とイベントを名目に、単にケーキが食べたいだけである。

 細川家の慣習上、クッキーと違ってケーキはあまりほいほいと食べられるものではない。作る時の手間も段違いだ。この日は細川の母、細川裕子も会社を定時で上がってくると言うので、自然と気合いも入ろうというもの。かくして、細川によるケーキ作りが始まった。

 エプロンを着け、魔術魔法の初期技能、白銀の蔓で魔石機能のキッチンを自在に操る。ここは仮想空間にある一軒家。もともとはラザムの寝室を確保するために建設したのだが、幽霊の幽儺──柚那に霊体としての区別をつけるために細川が与えた名だ──を保護するにあたり、いくらか増設工事がされている。

 半ばは細川の暇つぶしも兼ねた作業だったので、広さは一軒家と言うよりも屋敷と言ったところか。部屋数は無駄に多く、三十二。はっきり言って、使いきれるわけがない。細川は魔法実験に五部屋、ラザムは魔法陣の研究に四部屋を占領しており、幽儺が寝室と勉強部屋と遊び部屋を確保しているが、それでも二十部屋が余っている。何度か細川が爆破事故を起こし、うち二部屋は使用不可になっているのだが……。

 ケーキ作りは順調だ。時折ラザムや幽儺が、キッチンを覗きに来る。彼女たちは、現在キッチンに隣接した広間のテーブルを使い、ボードゲームに興じている。そこには細川の契約精霊であるライや、幽儺の姉である零火──幽儺と同じく雪女として区別するために与えられた──も参加している。それなりの人数だが、逆に言うとそれしかメンバーはいない。

(……ところで、ライは狸の姿をしているのに、どうやってゲームに参加しているんだろうな?)

 疑問に思って覗いてみると、ライはテーブルに座ったままだった。前足を全く動かしていない。風の魔法を使っているようだ。そういえば、ライの得意分野は氷と風だと言っていたような気がする。

「上がり!」

「あれっ、いつの間に」

 一人勝者が出たようだ。クリームを混ぜながら細川がそちらを見ると、どうやら勝ったのは零火であるらしい。一人が勝つとその時点で終了するゲームらしく、ボードを片付けながらラザムが次のゲームに誘っている。勝つまでやるつもりだろうか?

 焼いたスポンジにナイフを入れ、細川はクリームとフルーツを挟み込む。気分は上々、手元に狂いはない。

「キウイと苺が余ったな」

 上に乗せるのはブドウとバナナなので、もうこれは使わない。ボウルにキウイフルーツと苺を入れて広間に赴き、差し入れとしてテーブルに置いてくるついでに戦況を視察する。

 種目はオセロのトーナメント。ライと零火、ラザムと幽儺の組み合わせだ。後者の組はいい勝負だが、幽儺はライに、いくらか押されている。去り際、

「幽儺、君から見て手前に三つ、右から四つめに白だ」

「ここ……? あ、凄い!」

「ユウ、今のはずるいよ! キミはどっちの味方なんだい?」

「契約相手の、さ」

 堂々と嘯き、真っ黒な盤面を白で塗りつぶした細川は、更なる追求を避けてキッチンへと帰還する。

 ケーキの外側にクリームを塗っていると、

「勝った!」

 また零火が勝ったらしい。

「負けました……」

「相手が悪かったわね。くじで私と組んだのが運の尽きよ」

「まあ、運も実力のうち、と言うからなあ。ラザムが負けるとは思わなかったが」

「うう……」

 思った以上にダメージを受けているようだ。ここはそっとしておいてやろう、と細川は判断する。ライと幽儺のペアはと言うと、細川が助言を入れたときのまま形勢は変わっていないらしい。つまり、幽儺の優勢。この姉妹、何となく力量が見えている気がする。勝負はもちろん幽儺の勝ちに終わり、優勝者及び三位決定戦へ移った。

 トッピングを終え、完成したケーキを冷蔵庫に入れた細川は、一度自宅へと帰る。読みかけの文庫本を持って再度屋敷に入ると、そこで見たものは。

「お姉ちゃん、こんな弱いんだっけ?」

 戸惑いの声を発しながらボードを組み上げていく幽儺だった。盤面は幽儺の黒一色。都市部から観測される夜空のように、白がちらほらと見えなくもないが。

「……相手が悪かったわね」

「……!」

「くじで私と組んだのが運の尽きよ……」

「……!!」

 ぼそりと呟いた細川の声をかき消すように、零火が絶叫する。そうしておいて、彼はにやりと笑うと、

「せいぜい負けないように頑張れよ、姉様」

「先輩、嫌い……」

 零火は、何故か細川のことを『先輩』と呼ぶ。恐らくは中学が同じだからだと思うのだが、実際に理由を聞いたわけではないので、それは定かでない。

 そして隣に視線を移すと、

「大天使様、これ本気?」

「ど、どうして私は……」

 平井姉妹似たようなことが起きていた。ラザムは相当、オセロに弱いらしい。零火は先程、『なんとなく勝ってしまった』のだろう。さて、相手が悪かったのはどちらの方か。最終的な結果がどうなったのか、言うまでもない。

「部外者だから何も言わないが、最初の勢いはどこへ行った、雪女」

「雲散霧消、吹雪の彼方」

 なんとも雪女らしい答えである。


#2 年末年始の小休止

「あけおめことよろくたばれ店主―!」

「お前は新年早々何をやっているんだ」

 この光景は一月一日、元旦も元旦、まだ日が昇り切る前に、魔法店で発生した出来事だ。正月の手土産にしては物騒な挨拶とともに魔法陣から飛び出し、氷の大剣を振り下ろしたのは雪女の零火。そしてそれをとんでもない硬さの蔓で叩き割り、彼女を締め上げたのは店主の細川。

 契約で保証され、つまりは日本の法律でも、これは容認された暴力──では済まないような殺気が現れたにもかかわらず、細川の周りは平然としたものだ。

 例えば、大天使のラザム。彼女はどこか、細川の生存力を無制限に信じている節がある。彼がそう簡単に死ぬわけがない、と、あたかも見てきたように信じて疑わない。

 例えば、大精霊のライ。「見慣れた珍事だね」と、矛盾したようなことを言いながら傍観。他に言いようもないのだから仕方ない。

 あとは基本的に幽儺の肩に乗っている、トカゲのウィア。特異的に本精霊から龍になりつつある、どこからどう見てもトカゲには、風と氷を得意とすることから、風の「Wind」と氷の「Ice」からウィアという名が与えられた。

 そしてこの殺し合いにも近い状況の原因と言えば原因であり、唯一心配しているのが、

「ああ、またやってる……」

 幽霊の幽儺だ。零火の実の妹でもある。彼女は戦いを繰り広げる細川と零火を心配し──店主の圧倒的な強さを再確認するのだった。

 零火をソファに下ろし、細川は対面に座り直す。

「俺は敵じゃないんだがな」

 ソファでくたばる零火を見て、細川は今更すぎることを言った。

「昨日の一件で分かっただろう。俺は契約でお前の妹を屋敷に置いている。それを違えるわけがない」

 すると言われた側が、

「幼女趣味……」

 ぼそりと、とんでもなく見当違いなことを呟いた。

 確かに考えてみれば、身近にいるのは幼女姿のラザムと、年齢一桁の幽儺だ。外見的に幼いことは間違いなく、これだけ見れば幼女趣味──俗な言い方をしてしまえばロリコンと、そう見えてもおかしくないところだ。もっとも、それはありえないことなのだが。

「年下の妹がいるやつはどうなんだ」

 と言おうとして、

「血縁者はいいの」

 あるいは

「それはシスコンだから別」

 と返される未来が見え、細川はそれを断念。

 やれやれ、ああまでしても誤解は解けないものなのかと、彼はつい昨日のことを回想する。


 十二月三一日、大晦日である。

 細川家は年末の大掃除も終わり、細川は、仮想空間にある屋敷に来ていた──外出の装いで。

「幽儺、悪いが、これから少し出かけよう」

「えー、行かなきゃだめ? 眠い」

「だろうな。良い子はもう寝る時間だ。実際、俺も結構眠気が来てる」

 時刻は既に、夜の九時。やや含みのある言い方をして幽儺とラザムに首を捻らせると、

「だから、まだ起きて動き回ってる悪い子を懲らしめる。ちょっと手を貸してほしい」


 春から伸ばして切っていない長い前髪で右目を隠し、黒いマスク、黒いフードの付いたローブを被った細川は、さらに黒い靴と黒い手袋で、その姿は闇に溶け込むようだ。

「滅霊僧侶団」

 眠い目をこすりながら手を引かれて歩く幽儺と、フードの中に隠れているラザムに、細川は告げた。

「幽儺を霊体として、この世から抹消しようとしてる、坊さん連中の組織名だ。狙っているのは幽儺だけじゃない。情報によると、最近急速に勢力を拡大している宗派のようなもので、ここ三ヶ月ほどでかなりの数の幽霊が、強制的に成仏させられているらしい。市内の寺は、ほぼ全てが滅霊僧侶団の勢力下にあるとみていいだろう。スパイのような暗躍だ、全く」

 幽儺が震え上がった。当然だろう。もちろん、

「それ、細川さんが調べたんですか?」

 というラザムの疑問ももっともだ。さすがにこれは、彼だけの成果ではない。

「先々週、猫探しを手伝った探偵がいただろう。報酬代わりに調査を頼んだら、そんなことでいいなら喜んでってんで、調べてくれた。こういうのは本職に頼むのが一番だと思ってね」

 依頼してから十日後、電話で報告を受け、その成果には唖然としたものだ。

「彼の調査だと、大晦日の今日、大掃除でもするかのように大量の霊を一斉に排除する計画が建っている。俺らはそれを逆手に取り、滅霊僧侶団の一部を叩く。別行動で零火も同じことをするのは、既に共有済みだ。こちらは幽儺に一度俺から離れてもらい、幽儺を排除しようとする僧侶を俺が潰す。さすがに殺しはしないがな。なにか質問は?」

 スパイかなにかだろうか。

「本当に、大丈夫?」

「君のジャンパーのフードに、ライを入れておくか? そこにいるんだろう?」

 路地に入ったところで、幽儺が不安そうに呟く。細川が何も無い空間に目を向けると、

「はは、バレてた?」

 光を纏った毛玉が現れ、次第に狸を形作って細川が差し出した掌に降りた。ライである。

「分かったよ、この子のフードに隠れてる。もしユウが間に合わなかったら、危ないお坊さんを氷漬けにすればいいんでしょ?」

「ああ、ラザムは俺と一緒にいてもらわなければならない。飛行魔術が必要だからな」

「承知致しました。大精霊様、幽儺さんをお願いします。お気をつけて」

「う、うん。店主、信じてるからね? 来てくれなかったら嫌いになるから」

「大丈夫だ、安心していろ」

 幽儺とライが通りに戻り、ラザムがローブの中に戻ると、細川は今度こそ闇に溶けた。飛行魔術で空に飛び出し、それなりの高度に達すると、地上からは見つけることができない。

 飛行魔術は、分解してみると簡単な仕組みだ。圧力のない空気の膜で、体を浮かせる。これだけ。要は、風で体を包んでしまえばいい。よく魔法の基本属性四つなどと言うが、風はそのうちの一つに数えられる──関係ないが。

 ラザムによると、魔法には属性というものが存在しないらしい。実際魔法力はエネルギーであって原子化合物などではなく、規模で言えば科学とは比べ物にならないほどちっぽけなものだ。回復魔法、シールド技術などは現状精霊にしか扱えず、魔術で再現するには、ラザムのように、魔法陣をいくつも重ねなければならない。水魔法やら風魔法という区別は、これまでされてこなかったそうだ。区別されたのは、魔力を消費する魔術魔法、マナを使う精霊術魔法、それと魔法力を細かく調整する呪術の三つのみ。ラザム曰く、

「魔法の属性というものは、ファンタジー作家たちが分かりやすいように定めたものなのだと思います。魔法力に属性も色もありませんし、属性を仮定すると物語を考えやすかったのではないでしょうか」

 しかし、細川の持論はやや異なる。通常、ファンタジー小説は、中世が舞台になることが多い。そのため、ギリシア哲学前期に唱えられた四元素論──水、空気、火、土を一部変更し、魔法の属性としたのではないか、と言うのだ。

 ……ちなみに彼らは知らないが、辞書を引くと、仏教用語で四大というものがあり、それが地大、水大、火大、風大であることが分かる。

 ──しばらく飛行を続けていると、足早に歩く不審な僧侶があった。顔を隠し、人の間をすり抜けていく僧が三人。うち一人が幽儺を路地に引き込み、他の二人は何かの紙切れのようなものを取り出す。多分、御札だろう。

「読みにくいですが、成仏とか滅霊とか書いてありますね。滅霊僧侶団の方かと」

 ラザムが、ひょこりと顔を出して囁いた。

「了解した。滝水は飽きただろうからな、たまには違うものを浴びるといい」

 細川は、幽儺を幽儺を引き込んだ僧侶に狙いを定めた。

 髪がひりつく感覚があった直後、標的に電流が突き刺さる。魔術製人口落雷だ。打たれた僧侶はその場に倒れ、他の二人が周囲を警戒するが、遅い。

「どこを見ている」

 尊大な口調で僧侶に呼びかけ、細川は闇夜から姿を現した。倒れた僧侶のすぐ上で静止し、残った僧侶を睥睨すると、目に見えて彼らは怯んだ。それを見て、細川はそっとほくそ笑む。

「かかったな」

「仏に仇を成す者か?」

「仏? 微そんなものには塵も興味ないな。用があるのは貴様らだ」

「我らに?」

「貴様らは、滅霊僧侶団だろう」

「……そうだ。その通りだ」「人間に害をもたらし、自らも現世に縛られる哀れな霊を成仏させる」「それが我々滅霊僧侶団だ」

 ステレオだろうか。嫌になるほど息のあった喋り方をする二人の僧侶に、細川は心底うんざりする。

「聞くも一考も値しないな。とはいえ、消滅させるわけにもいかん。仕方ない」

 細川は右手をゆっくりと挙げた。

「契約に従い、俺は手段を問わず、貴様ら滅霊僧侶団からこの幽霊の子を保護する」

 言うが早いが、彼の手元から白銀の蔓が現れ、僧侶の行動を縛り付けていく。声にならない声を上げ、抵抗を試みれば、ローブに隠れたペンダントから精霊が飛び出し、僧侶の中に入り込んだ。──そして、数秒で出てくる。

「へえ、記憶を奪ったのか。連れ帰って拷問にかけるまでもないな」

「細川さん、そんなことしようとしてたんですか?」

「必要ならしてただろうね」

 精霊たちを労い、ラザムの若干引き気味な質問に軽く苦笑しながら僧侶を見下ろした。足元にいた僧侶は、丁寧につまみ上げて別の一人に投げつける。記憶が手に入った以上、これらはもう用済みだ。

「さて、一応聴くが体はなんともないな?」

「うん、店主が思ったより容赦なかったけど」

「だな。ああいう行動は、当分妹思い故に視野の狭い、どこかの雪女に任せておこうか」

「あ、細川さん……」

「ユウ、そういうこと言ってると……」

「ちょっと、誰がシスコンサイコパス雪女よ!」

「「「ほら、出た」」」

 ラザムとライと幽儺の声が重なった。

「えっと、先輩? これは一体……」

「見ての通りだ」

「ぶっ倒れてるっすけど」

「ぶっ倒れてるからな」

「何したんすか?」

「用水路に溜まった汚泥を掻き出すように、記憶を奪っただけだ。情報は手に入ったから、その両手に抱えた木偶の坊は捨てて行っていいぞ」

 細川は、零火が掴んでいる僧侶を指して言った。滅霊僧侶団の一部だろう、無事に捕えてきたらしい。

「せっかく拷問用に捕まえてきたのに……」

「全面戦争はまだ先だ」


#3 クリスマスパーティー

 時は再び、十二月二五日に巻き戻る。午後八時、仮想空間にある屋敷の広間には、所狭しと料理が並んでいた。

 詳細はあえて語らないが、その大量の料理の出処が細川家、あるいは細川裕子の手による割合が高いことは記しておこう。彼女は帰宅するやいなや、一時間でテーブルを埋め尽くす料理の数々を作ってしまった。昼間から準備を続けていた細川がそれを見て何を思ったか──これは彼の名誉のために伏せておく。

 パーティー参加者は、細川裕、細川裕子、ラザム、ライ、平井零火、平井幽儺、そしてウィアと、その他五十以上の精霊たち(全てが集まらなかったのは、精霊病院と、各々の好みの影響だ)。

 パーティーは細川裕子の挨拶によって始められ、長いので細川に代わり、結局まとまらずにライが引き継いで簡潔にまとめることでスピーチ終了。あとはもう、騒ぐだけである。

 ささやかなプレゼント交換が行われ、普段あまり関わらないメンバーが談笑し、歌い──パーティーは、女子会の空気を強めた。

 一般的に人語を話す参加者の半数以上が女性であったことが原因だろう。細川裕子を筆頭に、ケーキを持った女性陣が固まり、細川と精霊たちが契約者同士の言語で会話をする。

 ここに、パーティーは分断した。


 魔法店本部横の精霊病院。女子会に参加資格を持たない細川と精霊たちは、そこでしばらく談笑した。細川にとって、これはなかなかに有意義な時間だ。精霊と対話することにより、いくらか魔法の勉強にもなる。

 屋敷に帰ると、広間はしんとしていた。ガラスや陶器が触れ合う音が、時折聞こえるくらいである。異様な光景だが、なんのことはない。

(外見年齢上の)最年少者二人、ラザムと幽儺の電池が切れただけだ。

 彼女たちは細川裕子と零火に挟まれる形で、仲良くソファですやすやと眠っている。まだ九時前だが、少々騒ぎ疲れてしまったらしい。なんとも微笑ましい光景だ。

 細川裕子を細川家本家に帰らせ、細川がラザムを、零火が幽儺を、それぞれ抱き上げ、寝室へ運ぶ。ちなみにライは定位置の、細川の肩に乗ったままだ。

「精霊は寝なくていいのか?」

「ボクたちは天使とはつくりが違うからね。寝なくていいの」

「お姉ちゃんの気も知らないで、よく寝るわね。私より早く死んだくせに」

 起きているものは三者三様の言葉を発するが、それぞれ優しい微笑を浮かべていることは言うまでもない。この寝顔を守らなければならない、と思ったことも共通だ。それぞれベッドに寝かせ、「おやすみ」と声をかけた。


 そうして、夜は更けてゆく───。

前々から変えたいと思っていた部分は書き換えた。

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