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【改稿版有】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅲ期 The Magical Life

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第六話 魔法祭-後編

前編ほどの長さにはならなかった。

 #5 変事

 一般来場者の受け入れ時間が過ぎ、文化祭が終了しても、校舎内は喧騒(けんそう)に包まれていた。この後、校内に来場者が残っていないことを確認し、簡単な清掃を行うことになっている。本格的な片付けは、明日に予定されているのだ。

 この日は掃除の後に、もう一つイベントが残っている。後夜祭だ。喧騒の原因は、大体これだろう。

 この後夜祭というものは、照明を落とした体育館に希望する生徒たちが立ち見で詰め込まれ、ステージ上で歌やダンスなどの演技が行われるのだ。個人やグループの有志で発表を行う者、部活動や同好会の単位で参加する者、元から期待はされていないが、文化祭実行委員会や生徒会本部、教員も二グループ参加することになっている。発表団体数は十、全ての演技が終わるまでに約二時間を要した。

 ……その体育館の隅に、細川の姿もあった。曲に合わせて手を打つでもなく、その場で跳ぶでもなく、壁に背を預けた姿勢で立ちっぱなしの状態だ。

 彼自身の意思で参加したわけではなかった。本来ならば、この無為な時間を過ごすでもなく、屋敷に帰って昼寝でもしていたところだ。昼夜逆転の生活は、当然ながら健康に相応の負担をもたらしていた。

 にもかかわらず、ここでこうしているのは一人の少女が原因だった。それというのも、細川が帰ろうとしたのを、彼女が捕まえて引き留めたのだ。

「伝えたいことがあるから、後夜祭が終わったら屋上に来てほしい」

 屋上は、危険を理由に出入りが禁止されている。錠が壊れているとかで、今でこそ細川と成瀬が情報交換に使うこともあったが、何しろ階段は汚く、埃が積もっているので、そもそも誰も近寄らない。

 どうせ(ろく)な話じゃない。極論、無視してでも帰るべきだったのだが、少女の表情は真剣そのものだったので、嫌々ながら付き合うことになった次第である。

 あまりに演技がつまらないので、細川はスマートフォンを取り出し、小説投稿サイトを開く。集中できない。場が場なのでスマートフォンの使用自体は何ら不自然ではないのだが、如何せん周囲が騒がしいので、内容が頭に入ってこないのだ。いつもの防音幕を張ることも考えたが、そんなことをすれば後夜祭が終わったことに気付けなくなる可能性がある。結局断念した。

 しかしそうなると本当に暇である。やはり無視して帰るべきだったか、と考え始めた頃、ようやく後夜祭が終わったらしい。人込みに呑まれるより早く体育館を脱出すると、細川はまず駐輪場に向かい、自転車を仮想空間に移動させた。

 それから、人通りの少ない廊下を通って屋上に向かう。今校舎内に残っている生徒は皆後夜祭に参加して帰るはずなので、通行がある場所は想定しやすい。

 細川は、埃の積もった階段を見ながら屋上に出た。正直厄介ごとの予感しかしないので今からでも帰りたいのだが、ここで帰ってはわざわざ後夜祭に出た意味がない。

 細川が屋上に着くと、少女は既に来ていて、内巻きボブカットの髪を風に(なび)かせていた。

「何の用だ?」

 後ろ手に扉を閉め、声をかける。

「俺も暇じゃないんだ、つまらん用事なら帰らせてもらう」

 上履きの色を見るに、どうやら同級生のようだ。しかし、顔に見覚えはなかった。細川は自分が人の顔と名前を覚えようとしない自覚があるので、あまり自信はない。多分、クラスメイトではないと思うのだが、どうせ短い付き合いなので、覚えたところで仕方ない、という考えもある。そんな時間があれば、対悪魔の魔法でも考えていた方が有意義というものだ。

(さて、どう出てくるか)

 少女は、やや躊躇(ためら)ってから口を開いた。その内容が問題である。曰く──、

「私と、付き合ってくれませんか?」


(罠か)

 細川は、一瞬で看破した。ただ、次に問題になるのは、

(一体何のために、俺に罠を仕掛けた?)

 罠を仕掛けることには、ある程度理由があるはずだ。ただの悪戯という奴ならばもう二度とそんな気を起こせなくなるほどに脅してやるのだが、悪戯であの真剣な表情ができるものだろうか。訓練を受けたスパイでもあるまいし、相応の事情があるとみるべきだろう。

 目の前の少女を、細川は観察する。何か違和感がある。細川は、他人の考えていることを読むのは得意ではない。むしろ苦手な方だ。だから考える。この少女は、一体何なのか。

 ──悪魔の変装。ありえない。だとしたら、わざわざ屋上に呼び出す必要がない。ここで何かしらの攻撃を行えば、人に見られる可能性がある。

 ──公安に目を付けられた。時間の問題だとは思うが、今この状況はありえない。協力者に高校生を使うのは危険だし、屋上というのはやはり不自然だ。

 ……ちなみにこの男、少女が本気だとは微塵も信じていない。記憶にないのだからそもそも交流はなかっただろうし、一目惚れされるような容姿でないことも、また充分に理解している。この可能性は真っ先に排除された。

 しかし、やはり分からない。少女はなぜ、細川に交際を申し込むのか。あるいはそう装うのか。

 細川はふと、少女が落ち着きなく周囲に視線を彷徨(さまよ)わせていることに気付いた。

(この状況を、監視している者がいる?)

 だとすれば、これは少女自身の意思ではない。仕組まれている。階段の様子を思い出す。ここに細川と少女しかいないのであれば、最新の足跡は二人分のはずだ。しかしよく考えてみると、埃の滑り方は二人だけが通った場所のものではなかった。広範囲の床に、埃の拭われた跡があった。そしてそれは、階段を上った際にできたものであり、下った跡はなかったはずだ。

 ──監視者は、この屋上に隠れている。風のせいで気配には気付けなかったが、ようやく理解した。監視者を拘束し、全て吐かせる。ちょうどいい訓練だ、機会は利用させてもらおう。

 細川は眼球の動きだけで、視線を投げた。

 右を見る──いない。

 左を見る──いる。

 なるほど、思ったより深刻な問題かもしれない。

「アル・シャイレ」

 口の中だけで呟く。直後、換気扇の裏に氷塊が出現し、数人分の少女の悲鳴が聞こえてきた。細川が見に行くと、シールで飾られたスマートフォンが二台落ちている。そして、重なり合って氷に押しつぶされている少女が三人。

 細川が拾い上げたスマートフォンは、いずれもカメラが起動していた。盗撮していたらしい。

「趣味の良いことだ」

 動画を削除しながら呟く。先日、これと似た状況の話を零火にしたばかりだ。重なり合った少女たちは、返せと繰り返し騒いでいるが、細川が手を止める理由はない。

「いや、あることにはあるか。映像は存在自体が証拠になるわけだし」

 だとすれば、細川が利用されたことにも一応の説明はできる。つまり、細川を呼び出した少女は、この三人にいじめでも受けていたのだろう。そこでその手から逃れるため、要求されたこの状況──所謂(いわゆる)嘘告白を利用して、細川に助けを求めた。よくできたシナリオだ。

 動画を削除すると、細川は彼を呼び出した少女に言った。

「あとはこっちで始末する。見つかると面倒だ、先に脱出していろ」

 やや躊躇った様子で立っているが、

「早くいけ」

 重ねて言うと、彼女はそっと屋上から消えた。


「それで、お前ら三人に関してだが」

 どうやって始末したものか、と細川は頭を悩ませている。とりあえず恫喝(どうかつ)してスマートフォンを全員分差し出させたものの、この後はどうするべきだろうか。

 状況としては、細川は現在、この三人の生殺与奪を握っていることになるのだが、被害者の少女に希望を聞かなかったのは失敗だったかもしれない。問題を表面化させるか、なかったことにして隠ぺいするか、それだけでも確認するべきだっただろう。

 一つ確かなのは、この三人の記憶に今日のことが残っていてはならず、ひとまず眠らせ氷を片付けた後、今は精霊たちが、記憶の改ざんを行っている最中だった。

 あとは階段の埃を吹き散らして足跡を誤魔化し、屋上の扉を開けておけば、三人は教師の誰かに見つかり叩き起こされて説教を受け、後日学年集会か何かで(さらし)上げられるだろう。

 それは当然なのだが、後は奪ったスマートフォンをどうするか。いじめられていた少女に連絡を取る手段がない以上、ひとまず持ち去るしかなさそうだ。

 仕方ない、と帰ろうとしたとき、細川の制服に入っている彼のスマートフォンが振動した。珍しいことだが、着信である。

「零火か。どうした?」

「どうした、じゃないっすよ」

 不機嫌な声が聞こえてくる。何かしただろうか、と思いつつ、話を聞いてみる。

「先輩がなかなか帰ってこないから、ラザムちゃんが心配してるんすよ」

「そういえば今日は、さっさと帰る気でいたんだったな」

 それは心配される道理だが、それよりも。

「零火、お前、なんで屋敷(うち)にいるんだ?」

「今更っすね、いつものことなのに」

 大方、細川の疲労でも狙って襲撃を考えていたのだろう。結果、見事に予定が狂ったらしい。

「それで、先輩こそ、なんでまだ学校に?」

「ああ、少々予定外の厄介ごとに巻き込まれてな」

「例えば、嘘告白に付き合って屋上に言ったらそれがいじめに関わっていて、対処法の希望を聞かずに相手を帰してしまい、どうしようか考えているとか?」

 やけに具体的、というか、見てきたようなことを言う。少なくとも、勘で当てられるような精度ではない。それこそ実際に見ていたか、当事者に話を聞かなければ不可能だろう。

 実際に見ていた、ではない。屋上には他に人がいないし、どこか遠くから見ていたのでは、話の内容まで推測するのは難しい。細川はかつて、『白兎』の協力者として伝言屋(メッセンジャー)と情報のやり取りをしていたことがあるのだ。そう簡単に読み取られてたまるか。

 だとすると、結論は一つしかない。そういうことか、と舌打ちし、電話の相手に恨み言をぶつける。

「零火、さてはお前、(はか)ったな」

「それは後で説明するので。どこで悩んでます?」

「今回の件を隠ぺいするかどうかだ。何か聞いていないか?」

「三人に精神的外傷(トラウマ)でも与えて隠ぺいしてください。そういう要望なので」

「お前は後で詳しく吐かせてやるから覚悟しろ。ひとまずは屋敷に入っていることだ」

 電話を切ると、細川は精霊たちに、追加の記憶改ざんを指示した。三人が眠っている以上、他に方法もないのである。

 あいつめ、という声が、夜空に吸い込まれていった。


 零火が述べた計画は、次のようなものだった。

 まず、加害者三人を適当に煽り、被害者に噓告白をさせるよう仕向ける。加害者三人は全員髪を染め、カラーコンタクトレンズを使用していた。よく見れば天然のものだと分かるだろうに、銀白色の髪と水色の瞳を持つ中学生の零火は、節穴の目を持つ三人に、容姿で気に入られたらしい。

「入学してきたら、ウチらのグループに入れてやるよ」

 というありがたい言質をいただいたそうだ。

 同時に、被害者に嘘告白が要求されることを伝えておく。どうしよう、と慌てる彼女に、零火は標的にする人物を提案する。

「この人なら、事情に気付いてくれます。噓告白を逆に利用して、助けを求めるんです」

 被害者と零火は、以前からつながりがあったらしい。中学の美術部で、共に活動したことがあったようだ。ということは細川とも同じ中学校の出身だということだが、一学年に二百人もいれば、当然その全員を覚えていられるわけもない。

 提案を呑み、細川に声をかけて嘘告白を実行したことで、無事計画は成功するはずだった。あとは細川の失態だ。一つ懸念があるとすれば、いじめの様子をインターネット上に公開されていないか、という点だったが、

「問題ない。録画は一つも投稿されていなかった。すればすぐにでも学校を特定されていただろうし、バッシングは避け得ないだろうからな。奴らは救いようのない連中だが、その程度を計算する頭はあったらしい」

 全員分のスマートフォンデータを確認した細川の言である。記憶を改ざんした精霊たちも、そのような記憶を見つけることはできなかったようなので、単に仲間内で楽しむためのものだったのだろう。悪質であるには違いないが、アップロードされていれば隠ぺいは格段に困難になっていたため、救いといえなくもなかった。

「それで、お前は俺をいいように利用できて、満足したのか?」

 脱力した細川が、正面のソファに座る零火に皮肉っぽく言う。自分の裁量で事を片付けたと思ったら、全て彼女の掌の上だったのだ。

「先輩が『降参』とでも言ってくれたら、満足です」

 などと言われたら、細川は言うしかなかっただろう。だがそうはならず、零火は、

「はい、とても」

 とだけ答えた。満面の笑みでそう言われてしまえば、細川もそれ以上何も言えなかった。


 #6 後始末

 細川が自身の記憶力を本気で疑うことになったのは、その翌日のことだった。昨日細川を呼び出した被害者の少女──零火に名前を聞いたところ、天宮みなみというらしい──が、細川たちのクラスが使っている教室にいたのである。

 言われてみれば名簿にいたような気がしなくもないし、教室で見れば、確かにいたかもしれない顔ではある。何しろ目立たない人物だし、積極的に人とかかわる性格でもないようなので、存在を意識したことがなかったのだ。

 事は済んだのだから、勘弁してくれ、という言葉が出そうになる。無論そういうわけにはいかないので、このままもうしばらくは、クラスメイト継続だ。もうこれ以上面倒なことにはなってくれるな、と細川は信じてもいない神に秘かに祈った。


 それはそうと、文化祭の片付けは始まる。何が問題かというと、使用された物品の処分方法だ。

 例えば、一人を除いてついに誰も扱い方を覚えなかった二丁の回転拳銃(リボルバー)などが、どうすればいいのか誰も分からず、処分方法が揉めるのである。

 もっとも、処分方法は細川が引き取ることだった。初めからそのつもりである。これは後で威力を調整し、有効利用するつもりで作ってあるのだ。勝手に処分されれば、処理場や処理車で爆発を起こしかねない上に、細川も困る。誰も得をしない。

「それに、もうこいつはエネルギーを充填できないはずだ」

 悪用防止のために、細川はマナの充填装置に細工をしていた。一定時間が経過すると魔法力回路が切断され、動作しなくなるように設計してあったのだ。そして、その復旧方法は細川以外、ラザムでさえも知らない。持ち帰っても無用の長物と化すだけである。

 回収するものは、もう一つあった。化学部の出店に使われた、かき氷機である。こちらは単にボタンを押すのみで動くので、誰も使い方を覚えなくて困る、という事態は避けられた。拳銃と違って危険はほとんどないが、何しろ短時間で作られた代物なので、いつ故障するか分からない。魔法力回路の異常によっては、学校中を氷が埋め尽くす結果を引き起こしかねない。爆発のような派手な事故にはつながらないが、やはり回収するべきであった。


 かくして、世間的には平和な、しかし細川にとっては厄介ごとの多い文化祭が、ようやく幕を閉じたのである。

とりあえずで恫喝しないでほしい。


次回は文化祭よりもっと長いので、これも分割して投稿します。試算約二万文字……長いわ。

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