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第三話 海と悪魔

先に言っておきます。Ⅱ期にとっては重要な回ですが、未改稿版は駄文です。

#1大磯の浜辺

 細川は、友人の立花に連れられて、大磯の浜辺に来ていた。夏休みのとある日、よく晴れた一日である。

 すぐ後ろのバイパスを挟むと広大な屋外プールがあり、人は皆そこへ行っているらしい。よって、浜辺は真夏にも関わらずがらんとしていた。

「おー、人がいない」

 立花の第一声である。薄いパーカーに身軽なハーフパンツ、海に来ましたと服装で語っているかのようだ。一方細川はと言えば──、

「あちぃ……」

 いつも通り、長袖の白いワイシャツに黒い長ズボン。ネットに画像が上がれば、「熱中症不可避!」とでもタグがつきそうな、季節に合わない服装だ。先月との違いをあげるとすれば、それは黄色いパーカーを羽織っていないことか。

 暑いものは暑いので、立花でさえも汗をかいている。まあ気温は既に三十度、当然だろう。

おかしいのは、その気温、その服装に関わらず、細川が汗をかいていないことだった。

 別に熱中症ではないのだが……。

 ──日陰が欲しい。

 浜辺には、日陰が勝手に現れることはない。なので、テントなどで日陰を作らねばならない。

しかし、立花の持っているテントは小さすぎる。多分、中の方が暑苦しい。

「……テント、作っちゃいますか?」

「いや、お前はなんでいるんだ」

 着いてきているはずのないラザムの声に、細川が鋭いツッコミを入れた。確かに、着いてこなくてもいいとは言った。着いてくるなと言った訳ではないが、

「いやでもなんでいるんだ」

「えっと、お邪魔でした?」

「という訳でもないが……」

 まあ、いいか。

「テントを張る。その分の魔力入れてくれ」

「俺が知ってるファンタジーと違う」

 何やら外野のうるさい声が聞こえたが、細川は気にしない。したがって、ラザムも気にしない。そして外野が落ち込む。

 ラザムは細川の手首に触れ、彼の体の中から何かが沸きあがるような感覚があった。初めのうちは違和感しかなかったが、今ではもう慣れている。毎朝起きて、朝食を食べるくらいの経験だ。魔力が体内に入るとき特有の、灼熱感である。

 ちなみに、寝る前に魔力を抜くときは、体の奥が凍りつくような感覚がある。こちらは何度経験しても慣れることがなく、毎度顔を顰めてラザムに笑われるのがお約束。

 そうして魔力が入ると、細川は魔法習得時のラザムの言葉を思い出した。

「作りたいものを、できるだけ詳しく思い浮かべてください」

 細川は、目を閉じていた。

「その物体は何からできているのか、どんな形をしているのか、どれくらいの大きさをしているのか。言葉にして聞かされたとき、全員が全く同じものを想像できるようにです。情報が弱すぎると、何が起きるか分かりませんよ」

 散々脅かされたものだ。実際に適当な想像で構造を作り、ブラックホールになって吸い込まれた魔力使用者もいたという。なんと恐ろしい。

(脚はアルミニウムで。魔法で片付けるから関節はなくていい。幕はポリエステルの化繊にしてみるか……よし)

 どさり、と現れたテントを見て、細川は思わず吹き出した。

「だっせぇ」

 有形のものを出現させるのは初めてなので、ラザムは満面の笑みなのだが。一方立花はというと。

「いや、これできる時点ですげえよ」

 ぽかんとしてその光景を眺めていた。


「バーベキューしようぜ!」

 と立花が言うので、することになった。バーベキューくらいどこでもできるだろう、と細川は反論したのだが、相手の表情を見るに、初めからそれが目的だったらしい。

「まあ、いいか。ラザムはどうする?」

「私は海水に触れてきます」

 ラザムは海に来たことがない。アメリカにいた頃は内陸に住んでいたそうで、川と海と湖には縁がなかったのだそうだ。

 彼女は姿を変え、浜辺をかけていった。天使皆身につける技術、「人化」らしい。イメージ通りというか、それは身長百センチにもなるかというくらいの幼女である。その彼女がパタパタと海にかけ出す様子は、外見相応の少女そのものだ。

 それを微笑ましく思いながら、細川が視線を戻すと、そこには別の意味でニヤけた顔の立花がいた。

「……なんだよ」

「いや、楽しそうだなーと思って」

 立花が襟を掴まれてバーベキューセットを取りに行くまでに、そう多くのやり取りは行われなかった。


#2 異変

 ラザムは、浜辺の浅い部分で水遊びをしていた。バーベキューをしながら──主に立花の質問を食っていたが──細川は時々ラザムの方を気にかけ、更なる質問に忙しく答えていく。

 やれ魔法がなんだ、天使がなんだ、あれはどうだこれはどうだと、質問にはきりがない。

 食事を切り上げて水遊びに参加した方が楽だろう、などと考えた細川が、再度ラザムの方を見ると……彼女の姿は、浜辺から消えていた。

 消えた? この数秒間で? 有り得るのか。そんなことが────。

 血の気が引いていき、立花がかける声も細川には聞こえない。

 気配すら感じず、ラザムは忽然と姿を消した。


 泡に閉じ込められたラザムは、ぐったりと海を俯瞰していた。

 細川が呼ぶ声に返事をしようとしても、声が出ない。

「無理に決まっているわ。あんたの持つ力は全部あたしの制御下。魔力も全部奪ってるし、動けるわけもないわね」

 天使状態に戻されたラザムは、恨めしげに声のする方向を振り向いた。そこに佇むのは、身長にして六十センチほどの女──否。

「悪魔めが……」

「あら、随分と減らず口が叩けるのね。契約主の前でなければ、そんなことも言えたの? 残念でした。あたしは天使。まあ、堕天使って注釈が付くけどね」

 うふふふふっという気色の悪い笑い声を立て、黒い影が気色悪く蠢いた。


「そっちいたか?」

「いーや、いねえ。どこいったんだ、連れの天使」

 連れの天使、というのもおかしな話だ。もともと細川が連れてこようとして連れてきたのではない。

 しかし、今更愚痴を吐いても仕方ない。

 彼等は、ラザムが堕天使に誘拐されているとは知らない。それ故に探し回っているのだが、見つかるはずもないだろう。

 人に訊いても見ていないの一言しか返ってこないし、人探し魔法などという便利なものもない。はっきり言って、詰みである。

「魔法もない、海は広い、人に訊いても分からない。どーすんだよ、これ」

「海で一人にしたのが間違いだったな。俺が傍についてればよかった……」

「ここまで捜して見つからねーんだ、迷子じゃねえ。事故なり事件なりに巻き込まれたと考えるべきだろうよ。お前のせいじゃない」

「それで慰めてるつもりか?」

「まさか。思考放棄だ。魔法のことは、俺にはわからん。お前にわかんなければ、俺にもわからん。お手上げだ、これ以上どうしようもない。……お?」

 座り込んでいた立花が、グリルを振り返って奇妙な声を出した。

「……なあ、お前、ここで焼いてた肉、食ったか?」

「あ?」

 見ると、グリルの上には、野菜と肉の骨だけが残されていた。

「「気色悪……」」

 怖気すら覚えるその光景に、二人同時に呟いた。

 そのときである。

 さらに一本の骨が、グリルの上に投げ落とされた。

 細川と立花が同時に振り返ると、そこには──。

 アルミニウム製の骨組に腰掛けた、黒い小女がいた。


#3 堕天使ルシャルカ

 細川は、その姿を見て直感した。

「お前、悪魔か」

「あーあ、つまんないの。なんで名乗る前に分かるのかな。心外心外、めちゃくちゃ心外」

「やかまし……」

 殊更に「心外」と繰り返す悪魔に、細川は嘆息する。しかし、そうしていたのも束の間。

「……おい、そこにいるのはラザムだな。彼女に何をした?」

 悪魔の横に浮かぶ泡を見て、細川は警戒心を強める。

「ああ、これのこと。エネルギー源を奪っただけよ。天使って思ったより弱っちいのねえ、あたしってこんなだったのかな」

「──悪魔は堕天使と呼ぶこともある。つまり、元は天使だ。あいつもかつては天使だったんだよ」

 立花は、音を立てずに細川に寄って囁いた。地面は砂浜だが、さて、一体どうして足音がしなかったのだろう。

「知るか。悪魔でも堕天使でもなんでもいいけどさ、ラザムを解放しろ」

「交渉の仕方、知ってる? 力ずくでやる物じゃないのよ。あとあたしの名前はルシャルカ。天使ルシャルカよ」

「天使じゃなくて堕天使の間違いだろうが」

 細川が手に炎と電気を集中させるのを見て、悪魔が嘲る。

「自分の力を過信するなよ。天使を傷つけられるのは天使だけ。あんたには無理よ」

「だから、天使じゃなくてお前は堕天使だろう」

「黙れ」

「こっちの台詞だ」

 細川は、ルシャルカに向けて炎と電気を飛ばした。彼女はそれを片手で払うと、右手を伸ばして打ち込んでくる。

「ああ? なんだ、雑魚か。ねえ、さっさとくたばれよ。新米魔力使用者」

「は、口汚ぇこった。ちょっと気になってんだが、天使って性別あるのか?」

「へえ、この状況でよく軽口が叩ける。感心だねえ、あとどれくらいもつか、なっ!」

 何度か魔力を込めて手刀をぶつけているのだが、ルシャルカの右腕は切れそうもない。

 思った以上に、細川は戦闘能力的に弱いようだ。

 双方が疲労した頃、右手を隠していた立花が、ルシャルカに喋りかけた。

「なあ、ずっと気にしてたんだけど、俺らが焼いてた肉食ったのってお前だよな?」

「お前はこのタイミングで何言ってんのっ?」

細川のツッコミに、しかし立花は反応しない。

「お前しかいねえよなあ? 俺らはそこのちっこい天使を探してたんだからよお!」

「だから、何?」

「何って? 俺が言いたいのは簡単なこった。ゴミ処理くらい、自分でしやがれ!」

 言うが早いが、彼は隠していた右手を大きく振り切った。

 ルシャルカは、不意打ちに反応できない。というか、このスピードで接近する投擲物を回避するなど不可能だ。

 彼女は顔面で、それを受けた。

 ──いやらしく笑った立花が投げつけた、鶏の骨を。

「お、命中命中。悪魔にも物理攻撃って効くんだな」

「誰とは言わないが、馬鹿なのか?」

 骨をぶつけられたルシャルカは、くるくると後ろに回って頭から砂に突き刺さった。

 その隙に、細川は泡を割ってラザムを救出する。

「反則よ反則! 何!?  悪魔に骨ぶつけるとか正気なの!?」

「悪い、俺もちょっと調子狂ったわ。手が滑って」

「は?」

 ルシャルカの目の前に立った細川が、超至近距離で別の骨を叩きつける。

 カコーンという気持ちのいい音がして、再びルシャルカは砂に倒れた。

「あーもう、やめたやめた! あたし、帰る!」

「あっそう。んじゃ、ぶっ潰される日を楽しみにしとけよ。俺もちょっと楽しみにしとくぜ」

 細川はそう言って嘲笑し、テレポートするルシャルカを見送った。


「それにしても、よく寝るやつだ。まあ力を全部吸われてんのは分かるが」

 ラザムは、細川の腕に抱かれてすやすやと寝息をたてている。

 その寝顔を再確認して、細川は少し離れた立花に振り返り、グッと親指を立てた。

「野球部エース、よくやった」

書き直したいな、これ。

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