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【改稿版有】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅱ期 二正面戦争

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第五話 異世界一周旅行(Ⅲ)

#4 連邦工作

「だめだ」

「そこをなんとか!」

「とにかくだめだ」

「なんでっすかあー」

 ある屋敷の広間に、若い男女の声が響く。銀白色の髪をした少女がぺこぺこと頭を下げて頼み込み、右目を覆う長髪の男がそれをにべもなく切り捨てている、という構図だ。

「いい加減、しつこいぞ。何度も説明しているだろう。今日は特に、旅行する余裕がない。パトリックのとき以上に危険を伴う。お前を連れていくことはできない」

 呆れの成分を声に滲ませる男──細川裕。対して、

「先輩が言ってくれたんじゃないっすか、私は強いって。毎日の襲撃で訓練されてるんすよ? 任務くらいどうってことないっすから」

 どこまでも食い下がる少女、平井零火。

「俺は条件をつけたはずだ。お前が強さを発揮できるかどうかは相手次第だと」

「でも……」

「俺は意地悪で言ってるんじゃないんだ。お前は俺に対して襲撃を繰り返してはいるが、守る技能は磨かれていない。今回は、それが必要不可欠なんだ。目に見える範囲からの攻撃は、今回はないと思っていい」

「じゃあ、私はどうすればいいんすか。今日は先輩について行くつもりでいたのに、予定が一気に空いちゃったんすけど」

「そうだな、帰って昼寝する、というのも選択肢のひとつだが……」

 細川は腕を組んで考えた。

 やがて、あることを思い出して指を鳴らす。かすれた音しかしなかったので、彼はやや残念そうな顔をしたが。

「昨日、一昨日と俺がいなかったからな、幽儺をずいぶん退屈させたらしい。母さんに来てもらってはいたが、こっちからもやりにくいと苦情が出ていてな」

「先輩がいれば解決すると思うんすけど」

 彼女はやや口を尖らせた。不満、と言いたげなのは、細川にも分かる。頬を膨らませているのはおまけだろうが。

「そうなんだが、そうじゃない。今回の件、俺は外れる訳にはいかなくてな。で、母さんは幽儺を連れて出かけようかと言っているから、お前はそっちに行ってみてはどうかと思うんだが」

 零火は、細川の対面に、対象的なほど行儀よく座っていたが、やがて大きく息を吐いて立ち上がった。

「分かりましたよ。その口車に乗せられてあげます」

 結局、他にやりようもないのである。


 平井姉妹(+母)の出発を見届け、細川はラザムと二人だけで先進国家連邦に飛んだ。ライも連れていきたいところではあるのだが、ある事情により、そうもいかなかったので、狸さんはアルレーヌでお留守番というわけだ。

 先進国家連邦は、現代日本に比較的近い文明を持つ。地球から転生した人間も、多く流れ着くようだ。それというのも、文明慣れした現代人たちが、科学技術において劣る共和国や帝国に適応できず、魔法に憧れたはいいものの結局文明をとって住所を移す、という流れが、結構多いようなのである。

 連邦はいくつかの属国を持っている。帝国には一地域しかなく、共和国は属国を持たないことを考えると、これは連邦人の支配欲求の高さを示すものだ──などとまことしなやかに語る「専門家」が現れるほどだ。

 例えば、ジャポニオ民国。名前からして日本と中国と韓国が譲ったようで譲りきれていない国名なのか、などと細川が考えていると、どうやらアジア圏の人々が流れ着く地域であるらしい。

 他には、インディムリオ王国。英語圏の人々が集まっている。ジャポニオ民国がアジア圏であることを考えると、(まと)まり方に規則性はないらしい。さらに別では、アラビア方面の人々が集まるラビアル帝国や、いまいちどのように纏まっているのか判然としないノーラス共和国というものもある。転生者なるものは、細川が考えるより多いらしい。

 それにしても、帝国の属国が民主国家のワーロル自治領であり、一応は共和制である連邦の属国には専制国家が二つもあるというのは、これはいったいどういうことだろう。

「ところで、転生の原理ってどうなってるんだ? 何か条件でもないと、死んだそばから異世界送りってことになりそうだが」

「少なくとも、歳が若いことと、遺体が残っていない、あるいは判断できないほど細かくなっていること」

「つまり、第一世界空間ではそんな死に方をした人間が国家形成できるほど出てるんだな……」

 あまり知りたくなかった社会の闇である。

「ああ、でも転生者は、体の構造が普通に生まれる人間とは少し違うんです。加齢という現象がありませんから、昔の戦争の時代に亡くなった人が、結構割合を占めているのかも」

「なるほど。原爆は人を多く消滅させただろうし、沈んだ戦艦や、墜落した戦闘機なんかでも、死体が砕ける可能性はあるか」

 運悪く敵の砲弾を受ければ、人間の身体などひとたまりもないだろう。太平洋戦争末期には『回天』だの『神風特攻隊』だのといった自爆戦法が取られたようだから、それで増えたのかもしれない。

「ところで、なんで細川さんは転生のことを知っているんですか?」

「『白兎』さんが、どうやら転生者らしくてね」

「『白兎』……?」

 ラザムはしばらく考え込んでいたが、やがて「ああ、あのときの」と思い出した。彼女と『白兎』に、そもそも接点がないのである。ラザムたちにはあまり、「その方面」に関わらせたくなかったのだ。一度ある接点は、零火が体力を切らして眠ったとき、やむを得ず呼びに行ってもらったときのみだ。本来は零火も関わらせたくなかったが、それは流れで『白兎』と遭遇してしまった以上、いかんともしがたかった。

「この戦争が終わったら、色々聞かせてくださいね」

 とラザムは釘を刺したが、それは死亡フラグというやつではないかと、細川は思う。もっとも、一度出た言葉は引っ込めようもないのだが。そもそも、大天使がそう簡単に死ぬとも思えない。

「それで、連邦ではどんな任務を任されているんですか?」

「設置された火器の回収、または破壊」

 火器の生産国は、先進国家連邦。つまり、高度な技術と精度を持つ武器が使用されている。片時でも気を抜けば、その隙に銃弾を撃たれ、落命する恐れすらあるのだ。

「おおよそ、一介の協力者にやらせることではないな……」

 などと細川は思うものだが。

 そういう意味では、本当はラザムも連れて行きたくなかった。しかし、

「私は言いましたよ、初めてあなたに会ったあの日に。何があっても私が守ると、そう言ったんです」

 このように言われては、どうしようもなかった。そもそも、ラザムが拒否すれば、連邦に赴くことすら不可能なのである。


 連邦に降り立つと、細川は首都バーティアに潜り込んだ。共和国首都ギルキリアと同じく、世界有数のスパイ戦地として(その界隈ではとてもよく)知られている(らしい)。また、南ギルキリア工業地域程の規模ではないにせよ、アルマニア工場団地という工場の集団があり、持ち合わせる科学技術を遺憾(いかん)無く発揮していた。技術それのみに限って言えば、当然のことながらギルキリアのそれをはるかに凌駕する。

その付近、アルマニア街道──の裏手に、目的地があった。裏通り、という形容詞が、そっくりそのまま似合う道だ。日が差し込まず、電柱や送電線が屋根のように張り巡らされ、衰退(すいたい)したアーケード街のようにも見える。商店の代わりに多数置かれているのが、連邦製の銃火器だった。

 共和国のスパイと連邦のスパイが争った際、連邦側が大量に設置したという仕込み銃。これを、連邦工作員が回収する前に、共和国側が入手するため、細川が派遣されたということらしい。構造を解析し、今後共和国の工作員に供与する銃をより高度なものにするため、研究材料にするのだ。

 まず、細川は電柱に取り付けられた仕込み銃を発見した。弾切れらしい。スイッチに触れてみても、カチリという微かな機械音がするだけで、銃弾が撃ち出される気配はない。火薬の匂いも薄れて久しく、ただそこにあるだけ、といった趣があった。

 次の一丁は、ラザムが発見した。ビルの配管に仕込まれた銃は、挟み込むように隠され、色まで塗り替えて巧妙に擬態している。弾倉を調べると、中にはまだ、数十発分の弾薬が残っていることがわかった。まずは弾倉を取り外し、銃本体は魔術によって破壊する。魔道具の研究にも利用している、物質操作魔術。やがて銃は、鈍く光を反射するだけの金属塊と化し、低く唸って地面に落下した。

 同じような作業を何度も繰り返す。発見した銃は七丁、回収した銃は四丁に上った。細川たちに変化が起きたのは、八丁目を探そうとしたその時であった。

 静かな発砲音と共に、細川の腹に銃弾が命中する。全方位を見渡す『精霊の目』を持つ細川に攻撃を加えるのは、実は並大抵のことではない。仕込み銃の角度ではなかった。道の向こう、闇に紛れた人影が、消音器付きの拳銃を向けている。あの人間が撃ったのか。

 細川の腹部から、どろりとした赤黒い液体が零れ落ちた。うめき声とともに倒れ込み、ラザムが駆け寄る。路上には、鉄の匂いが立ち込めていく──。


「誰だ?」

 そう陳腐な質問をしたのは、大して意図したことではなかった。細川の喉が、肺からせり上る空気の流れに便乗し、勝手に発声したのである。掠れた声で流れ出たその問は、しかし興味のないことではなかった。一体何者が、全方位を視認する彼の死角を突いたのか。

 闇の中から現れたのは、臙脂(えんじ)色の髪を乱雑に切りそろえた、気怠げな顔の男だった。右手に握った拳銃は既に下ろし、つまらなそうな表情で、飽きたような目を細川に向けている。

「君の顔は知らないな。連邦の協力者や工作員ではないだろう。ここに来たってことは、共和国の関係者か」

「どこまで知っている?」

「何も? だから、君を連れ帰って拷問にかける。情報はそれで手に入れればいい」

 臙脂色の髪の男は、再び銃口を細川に向ける。ラザムは、庇うように細川の前に立った。

「……なにか。我は余分に殺す気はない。どくといい。殺すのはそいつだけで十分だし、直ぐに殺しもしない」

「させません。これ以上その銃を撃つつもりなら、私は実力であなたに反撃します」

「子どもに何ができる」

「逆にあなたを殺害するくらい、訳ありません」

「いや、下がれ」

 男は、ラザムの宣告を大言壮語と受け取ったようだ。たしかに外見上は幼い子どもだし、魔術を使う場面に出くわさなければ、人間でないことを確信する要素はどこにもない。天使の輪ですら、廃止されたときている。

 しかし、それを押しとどめた人物がいる。

「細川さん!?」

 と、ラザムが言い切るより早く、細川の手が彼女の口を塞いだ。危なかった、敵の工作員に名前が伝わってしまうところだった。

「名前を呼ぶんじゃない。……で、あんたは何者だ?」

「言っても仕方ない」

「これから拷問にかけるなら、今言っても仲間には伝わらないはずだ」

「……まあいいだろう。──我は先進国家連邦大統領府情報部、コードネーム『海木竜』」

「なるほど、チェックメイト」

『海木竜』の声に、明瞭な声が答えた。

「大統領府がどうだと言う前に、まずは偽の血にも気付かんか」

 彼は血色に染ったローブの裾を揺らして何不自由なく立ち上がると、間髪入れず、隠し持っていた魔道拳銃を発砲した。喋りつつ接近していた『海木竜』の肩に水晶片が飛び込み、彼の体力を急速に奪う。マナ・リボルバーともレーザーリボルバーとも違うそれは、グリップに弾倉を装填し、八発の実体弾を撃つことができる自動拳銃。性質のひとつとして、「体力をマナに変えて吸収する」マナ水晶を加工し、人体に突き刺さるように出力を調整した黄金色の拳銃だ。形状は、H&K P7などが近いだろうか。ただし、銃口の位置は構造上、やや低くなっている。名前は、まだない。

 発砲音が、空に響く。

『海木竜』は地面に崩れ落ち、銃を取り落とした。

 驚愕の表情で自身と細川が流した血を見比べている。

(ようやくまともに人間らしい表情をしたな)

と、細川は考えた。要らざる感想であっただろう。

「仕込み銃の解除道具を出せ。それと、どこに仕掛けたかも吐いてもらう」

「………」

「肩の傷、増やしたいか?」

 極めて冷酷に、細川は言った。『海木竜』の肩には、まだ水晶弾が残っている。もう一発撃たれれば、即死の可能性すらあった。

「まさか、持ってないのか? ここに来たってことは、仕込み銃の解除が目的なんだと思ったが」

「……我の上着に内ポケットがある。そこに全て入っている。銃の場所が書かれた紙もだ」

「ふん、考えることは皆同じか。……反吐が出るぜ、お前と同じことを考えていたなど」

 細川は『海木竜』の上着から工具を取り出し、電流を流して眠らせた。

 それからは早かった。ラザムがメモを読んで細川に仕込み銃の場所を伝え、専用工具を手にした細川は、素早くそれらを解除していく。適材適所というわけで、元からこの手の作業は得意なのだ。でなければ、マナ・リボルバー以下いくつもの銃を、組み上げてはいない。

 回収した銃はケースに詰め込み、『海木竜』は魔術のつるで縛り上げて共和国北部メルトナ州の南端にある小屋──共和国の情報機関が所有する物件だ──に放り込む。スイッチを押すと、ほかの協力者が引き取りに来るらしい。細川は疲労と安堵に身を委ね、小屋の外壁に寄りかかって腰を下ろした。ラザムも彼の隣に座り込む。そして、細川の全身を眺めて口を開いた。

「細川さん、身体は今、なんともないんですか?」

「うん? なぜそんなことを聞く?」

「だって、バーティアであれだけ血を流したじゃないですか! あなたのことですから、なにか仕掛けがあったのだとは思いますけど……」

 評価してくれているようだ。確かに、真実はその通りである。

「俺もあまり見事に策が成ったので驚いたよ。まあ結論から言えば、こういうことさ」

 手をかざした細川の正面。そこに、一本の氷剣が出現する。ホルーンの精霊と契約した関係上、細川にも精霊たちの影響が、少なからず現れているようだ。つまり、氷や風の魔術が得意、ということである。零火も同じようなものだが、細川と零火の氷細工の出来は、ほとんど同程度だろう。彼はもっと時間をかければ更に精密な氷剣を作ることが可能だったが、今目の前に現れたそれは、出来合いであることを示すかのように、簡素な作りをしていた。

 ──その刃先は細川の心臓を正確に狙い、寸分の狂いもなく貫かんとする。

「ちょ──!?」

 ラザムが止めるまもなく、止めるまでもなかった。

 剣は、ローブを浅く裂いただけだった。肉体には届かない。しかし、裂け目からは赤黒く粘る液体が零れ落ちる。これは一体、どういうことだろうか?

「見ての通りさ」

「何がですか!?」

 流石の細川も、説明の必要を感じたらしい。彼にしては珍しく、段階を踏んで解説を始めた。

「心配しなくても、こいつは俺の血じゃないよ。というか、そもそも血液でもない。鉄を混ぜた、ただの水っぽいスライムだ。少し血液成分について調べてそれを真似たから、まあ見ただけでは気づかないと思う。こいつを、人間の肌に近い弾力を持つビニール袋に分けて入れて、ローブの下に隠したのさ。俺自身は精霊たちの結界を着てな」

 推理小説のトリックみたいなことを考えたのだな、とラザムは解釈した。小賢しい小細工をしたものだ。

「これが鮮血なら、もう少し派手に吹き出してるよ。だから俺はあいつに言ったのさ、工作員ならこれくらい見破ってみろ、とね」

 それなりに付き合いの長いラザムでさえ、細川のうそに気づかなかった。彼の場合、演技力も手伝ったのだと思う。

 とにかく細川には全く傷がなかったし、彼が無事に帰れることは、ラザムにとっても嬉しいことだった。

やっと三大国回り切った。

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