表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/41

第一話 魔法店

最初からこっちに載せればよかったかな。とりあえず誤字修正以外していない文を載せます。

 #1 魔法との距離

 魔法。誰しも一度はあこがれるであろう、不思議な力である。現代では魔法などないことが常識だ。現代のそれに似たもので科学力があり、人はそれを理解可能な現象とみる。対して魔法は、理解不能であるにもかかわらず、なぜかそうなるものだ。

 科学がすべて、魔法などない──それが当たり前の世の中。それでも、魔法を見たと思うことはある。

 例えば、一瞬で意識を失い、それを他人に操られて自立したように動かされたとき。

 例えば、科学者にも理解不能な現象を見たとき。

 例えば、ありえない動きが画面の中で起きたとき。

 彼も、その一人である。細川裕、ただの高校一年生である。ダークブラウンの瞳をして、やや色の薄い黒い髪の、見間違いようもない理系男子で、化学とコンピューターと甘いものが好きな、別段変わったところもないこのときは普通の人間だ。

 五年前に父親が死に、母親は朝から晩まで働くので、ほとんど顔を合わせることはない。おかげで弁当を作るために彼は早起きだし、料理はできるし、工作が好きなので手先は器用だ。これでも長所は多い方なのである。父が死んだら力が伸びた、などという言い方は好きではないが、状況としてはつまり、そういうことである。母親に会わないから反抗期と言われても反抗のしようもなく、母親は職場で

「いいお子さんですね」

 などと言われているらしいが、細川にとってはどうでもよかった。

 そんな彼の趣味は、大きく分けると読書とものづくりだ。ものづくりは特に、かなり細かく分かれ、パーソナルコンピュータ―長いので以後PCと表記する―で下手な音楽を作ったり、絵を描いたり、ダンボールで銃を作ったりしている。これがまた上手く作ったもので、どこをどうしたやら、気に入らなければ分解して別の中に組みかえてしまう。化学より物理が向いているのでは、というのはいつも言われている事だが、本人は気にしていない。

 読書はミステリーとファンタジーを読むが、ファンタジーを読むようになったのはつい最近のことである。さらにその作品がアニメ化されることになり、今ではすっかり気に入ってしまった。そのアニメは現在、オンライン配信―インターネット上に公開され、多くの人が見られるようにするサービス―された動画を見るうち、彼は次第に思うようになった。―このような魔法を使うには、どうすればいいだろうか?


 #2 異世界

 いつものように公開されていたファンタジーアニメを見ていた細川は、突然謎の空間に連れ去られていた。科学者志望の読書家は、しかしその現象を表現するすべを持たなかった。どちらかというと、憤然として言ったものである。

「畜生、いいところだったのに!」

 このようなとき、人は等しく同じ態度をとるものらしい。誰でも口にしそうな文句を吐き捨て、彼は周囲を見回した。淡色の、色調定まらないもやが、どこまでも流れている。

 重力は働くようだが、地面がない。加速もしないし、そもそも落ちているのか、どこに向かって流れているのか、あるいは流れてすらいないのか。

 物理法則を綺麗にこれでもかと無視した空間だが、気分は良かった。物理法則を無視しているからこそ、と言うべきかもしれない。しかし自分がどこにいるのか分からない以上、その点ではあまり楽観はできない。

「おーい、誰かいませんかー?」

 夢を見ているのだろうか。呼んだ時に現れたのは、天使のような見た目の、小さな女たちであった。もっとも、この空間に飛ばされること自体ありえないので、いまさら「夢だろうか」と考察するのは愚というものであろう。

「細川裕さんがお目覚めですわ」

「そのようですわね。さあ、連れておゆきましょう」

「そうしましょう。魔王様がお待ちですから」

 聞いた事のない癖の強い喋り方をするものたちを横目に、彼は確信した。

「まあ、間違いなくこれは夢だろうな。他にありえん」

 すると、天使たちはくすくすと笑い出す。

「いやあね、夢だなんて」

「私たちは、ここにいるじゃありません」

 気がおかしくなりそうである。喋り方を変えてもらわないと、夢の中でも目眩がしそうだ。現に、頭痛は起き始めている。眠気がしてあくびが出ることを考えても、現実世界ではないにしろ、どうやら夢では無さそうだ。

「ようやく分かっていただけたようですわよ」

 言うが早いが、二人の天使は細川の手を取った。とたんに、景色が変わる。今度はきらびやかに飾られた、いかにもといったふうの執務室である。

 目の前にいるのは、ピンク色の肌をして金と黒を基調としたチョッキめいたものを着た、どこかで見たような魔王であった。魔王という呼称が合わないので、細川は相手のことを、魔人と呼ぶことにした。

 体はラグビーボールのように丸っこいのに、何故か威圧感を感じない。針をさしたら割れそうな、風船のようにも見える。体積それ自体も、結構大きいはずなのだが……。


 魔人は、高いような低いような、合成した声のような音を発した。ようするに、喋り始めたのである。尊大だが、これまでどこにいてもクラスの異端者扱いされた細川は、萎縮もせず、むしろ反発したくなったものだ。

「君が、細川裕だな?」

 呼びつけたなら知っておけ、風船魔人め。細川は内心毒づいたが、表情にも声にも出さない。大人しそうに答えるだけである。

「そうだ」

「魔力が欲しいそうだね?」

 誰に聞いたのだろう。彼はそんなことを口外したことは無い。馬鹿にされるだけと知っているからである。だが、これも細川は口に出さない。

「ないものねだりはしない主義だ。せいぜい、羨望している程度だ」

「では、今ここにいることに、どう説明をつける?」

「知らんな。アニメでも見ている間に、寝落ちでもしたんじゃないか?」

 他人事ではないことを他人事のように言ってのけるのが、細川の特技と癖である。彼はこうして、今まで孤高と客観を守り抜いてきたのだ。

 魔人は、息継ぎもせず笑った。先程まで入れていた間は、話をしやすくするために入れていたに過ぎないのだろう。

 細川としては、妙な行事に付き合わされて、肩をすくめるだけである。が、決定は変わらないらしい。

「お前に、無制限の魔力を貸し与える。死ぬまで有効だ」

「ここは魔力の銀行か? いや、無担保ってことは消費者金融に近いか。だとすると高い利子が……」

 真面目に考察を始めた細川を見て、今度は天使たちが甲高い笑い声を上げた。空間は閉鎖されていないのだろう、反響して頭に響くことはない。

「心配しないでください!間もなく亡くなる魔法使いの代わりに、細川裕さんに魔力が移るだけですから。いくつか、大切な条件に従ってさえくれれば」

 ひとつだけ、と言われるよりは遥かに説得力はある。ただし、その条件とやらが問題なのだろうが、とも思う。厄介なものなら、手を出したくはない。

 魔人は、鷹揚に頷いた。示された条件は、次の通りである。

 A 魔法を使う時は、必ず天使が近くにいなければならない。魔力を持つものが一人でいても、魔法を使うことは固く禁じる。

 B 魔法は、必ず自分のために使う。天使の場合は、自らの職務(魔力使用者を助け、補佐すること)のために使う。また天使に限り、テレポーテーション及び空中浮遊に関してのみ例外。

 C 魔力使用者の全体数は、常に五人に統一される。魔力使用者は、死ぬと魔力を天使に預け、返さなければならない。

 D 魔力の使用用途は、魔力使用者個人が決める必要がある。行うことにはほとんど制限はないが、生命を操作したり、生命体を生成することは、固く禁じる。

 E 魔力は、魔力使用者の生存中でも天使に預ける事が出来る。

 F 天使は、食事を必要としない。ただし、何らかの理由で体力や魔力が低下している場合は、食事によって回復が早まることがある。

 ……魔人はだいたい、こんなことを言った。細川は、そのほとんどを聞き流していたが、そこそこ大事な部分だけは念の為脳内に留めてある。

「何をしてもいい。天使を一人つけるから、何かあればそいつに言えば解決するはずだ。ラザム!」

 いったい、天使に対してどんな名づけ方をしているのだろう。名前であるのかすら分からない。人間の名前であれば、「キラキラネームだ!」と言って虐められるのがおちである。細川は魔人に問い質してやりたくなったが、その時間が与えられなかったのは残念としか言いようがない。

 一人の天使が、細川の前に進み出た。

「この男について行け。やることはわかっているな?」

 天使は、微笑して答えた。

「承知致しておりますわ」

 うむ、とひとつ頷いて、魔人は言った。

「さあ現世に戻れ。景色が変わっているだろう」

 そうして、細川はなにがなんだかわからないまま、現世に帰されたのである。どこまでも、尊大な魔人の顔が鼻についた。


 #3 天使ラザム

「はじめまして。私、ラザムです。細川裕さんの天使ですわ」

 これが、彼女の自己紹介である。細川も形ばかりに返したが、

「細川です、どうかよろしく」

 これはどう考えても、不要な部分しかなかったであろう。相手は細川のことを知っているはずだし、改めて話す必要もないことだった。なので、これは本当に形ばかりなのである。

 ラザムと名乗った天使の容貌は、おそらくは誰もが想像しえる美少女型の天使で、相違点としてはよく見ると頭上の輪がないだけにとどまる。色白で布一枚からできているであろう服を被せ、背中から白い羽が生えていてふわふわと飛んでいる。ラザム本人に言わせると、あるだけ邪魔で役に立たないから二年前に廃止されたとのことだった。

「あれがなくなったとき、ずいぶん楽になったんですよ」

 ですわ調で喋る度に細川が妙な顔をするので、それと察したラザムは口調を変えた。細川が初めにラザムに対して感謝したのがこれであった。


 必要なことは何でもする、というラザムが、一つだけ要望を提示した。魔法陣が必要だと言うのである。

「何に使うんだ?」

 不審そうに尋ねる細川に、彼女は説明した。

「先程帰ってきた世界と、接続する必要があるんです。行き来するのは、魔法陣がないと少々不便で……」

「ふうん、面倒なんだな、案外。で、必要な大きさは?」

「直径五センチメートル程で……」

「はあ、なるほどね」

 細川は、指でサイズをイメージした。以外に小さいんだな、と思ったが、考えてみれば自然である。見たところラザムの身長は十五センチ程だろう。三等身サイズなので、すんなりとした体型もあって、五センチという魔法陣のサイズそれ自体は、別に不思議がるような大きさでは無い。

 それを、今度はラザムが不思議そうに眺めている。

「……メートル法を、よくご存知なんですね」

「は?」

「私、以前アメリカ合衆国というところに住んでいる女性の元にいたのですが、そこではメートル法が通じなかったのです。ヤード・ポンド法が主流だとかで」

「その女性は?」

「六年前、交通事故で亡くなりました。魔力使用者になって、二年ほどだったのですけど──」

 ラザムは、軽く俯いて話した。目の位置が原因で、細川には彼女の表情が見えない。そして、ラザムが顔を上げた時、そこには決意の表情が窺えた。

「細川裕さんは、そんな目に遭わせません。何があっても、私が必ず助けます。絶対に」

 はあ、と細川は溜息をつき、軽く頭をかいた。この溜息がなんによってもたらされたのか、実は彼にも判断できない。

「事情はわかったよ。だがな、一つだけ言っておく。ヤード・ポンド法を使っているのは、今はアメリカくらいなものだろう。他ではメートル法が主流だからね。もちろん日本もだ。……さて、何の話をしていたんだったかな」


 #4 魔力使用者

 五日後、細川は、いくつかの魔法を扱えるようになっていた。まだ数は少ないが、炎と電気、そして名のない白銀の蔓のようなものである。これに名前をつけたいとは思うのだが、なかなかいい名前が思いつかないのだ。

 この蔓は、なかなかに器用である。太くなったり細くなったり、テーブルからものを取ったりできるし、カードを並べることもできる。それらをしても腕が疲れないのが、細川の気に入った。

 表に返した掌に、炎を出現させる。これも器用に動くので、細川は周りに炎を纏うこともできる。ただし、温度は高いので、あまりできたものではない。

 それから彼は炎を消し、変わって電流を発生させた。手の上で、放電された高圧、低電流の電気が、青白い光を放って踊っている。

 ラザムは、それを見て評した。

「習得が早いですね、細川さん」

 平均的に、魔法の習得には約一週間はかかるとされる。とくに最初の魔法は一か月かかることも珍しくはなく、そう考えると細川の場合、早いどころではないのだそうだ。とにかく、これで「初めに覚えるべき魔法」は全てコンプリートしたことになるのだ。


 数日後、細川は自宅前に魔法店を置いた。電話ボックス型の箱の中に、魔法陣が置いてあり、中に入るとラザムの仮想空間に転送される。そこに事務所を置き、魔法店とするのだ。

 可能なときに開ける、という方針のもと、細川とラザムはここを「気まぐれ魔法店」と名付けている。彼ら二人の新しい日常が、こうして始まる。

このままⅡ期までは一気に載せていきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ