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v3.0.8 - 現在進行系黒歴史

 Zを使い始めて五日ほど。

 何気なく「おすすめ」のページを見ていたら、こんなポストが流れてきた。


====

やはり現金は最高だ。使い勝手をよく、同時に偽造を防止するために凝らされた数多の工夫。こんな人類の生み出した一級の芸術品を捨てて電子マネーを使うなんて人類としてあり得ない

====


 見た瞬間、これだ! と思った。

 もはやその一言一句全てに共感しかない。

 現金決済NGな学校に通わされ、日々悶々としながら電子決済をする俺の気持ちを正確無比に代弁してくれる、そんなポストだ。


 そして同時に思う。

 やはり電子決済に違和感や忌避感を感じているのは俺だけじゃなかったんだな。

 そうだよね。

 現金っていいよね。

 本当にいいものだよね。


「やっぱみんな現金好きだよな」


 全身全霊全力で『いいね』を押しながら、思わず漏れ出た独り言。


 それを横で聞いたミントが、あからさまに疲れた顔になった。


「……どうかなさいましたか?」


 その表情がなんとなく気になって訊ねてみると、ミントの疲れた顔がさらにげんなりした様子になった。


「ダーリン……さすがにちょっと情弱が過ぎるよ……」

「……はい?」


 情弱……えっと、情報弱者、の略だっけ。

 いや、俺がIT弱者なのは間違いないんだが。

 またオレ何かやっちゃいました?


「……ダーリンのタイムライン——えっと、特に『おすすめ』ってほうだけど」

「……うん」

「ダーリンが見たいもの、喜ぶものが厳選されて流れてきてるのは分かってるよね?」

「ああ……まあ、うん」

「今の現金の話、『いいね』いくつ?」

「えっと……二十くらい」

「だよね」

「……?」

「ほんとに世間のみんなの共感を集めてる話だったら、その千倍くらいはいくよ」

「へ……? 万単位のいいねなんて、世界人類に愛され平和をもたらす犬猫写真とかにしかつかないんじゃないのか?」

「そんなわけないでしょ……ほら、これとか」


 そう言ってミントが見せてくれた「体を鍛えろ、筋肉は全てを解決する」みたいな内容の投稿は、五万以上の『いいね』を集めていた。


「このポストした人有名人?」

「全然」

「……こういうのって普通によくある話?」

「うん。これくらいのはボクのタイムラインだとよくあるよ」

「そうなのか……」

「ダーリンの「おすすめ」タイムラインだと、いいね多いのでどれくらい?」

「三桁いってたら凄いなーって思う」

「だよね……ま、よーするにそれだけダーリンの趣味とか嗜好が偏っててマイナーってことだから」

「……」

「ダーリンのタイムラインには、Zの中でダーリンみたいな事考えてる激レアさんが結集してきてるだけ」

「そう、か……」

「一回エコーチェンバーとかフィルターバブルとかってキーワードで調べてみるといいよ」

「エコー……何?」

「エコーチェンバー」


 ミントに言われて検索してみると、まさにそういう話が書かれていた。


 エコーチェンバーというのは、音の反響を作り出すための設備のこと。

 お風呂で歌を歌うとちょうどいいエコーがついて気持ちよく歌えたりするが、あのエコーをめっちゃ強化してくれるような空間の事だと思ってもらえればいい。


 SNSでは、そんな空間よろしく自分の言った事や「いいね」がそのまま自分に反響(エコー)として返ってきやすい。


 俺はまだ何も投稿してないが、今後もし俺が何かをポストすれば、俺のそのポストは『おすすめ』のアルゴリズムによって、俺と同じような考え方を持った人に届く事になる。

 逆に俺がよく「いいね」するような、俺に近い考えの人のポストも、俺の『おすすめ』タイムラインに流れてきやすい。


 結果、俺の周りには、似た考え方の人ばかりのネットワークができあがる。


 まあ、それ自体は悪い事じゃない。価値観の合う人たちと繋がりあえるのはいい事だと思うし。


 問題は、俺の考えが間違っていたり、偏っていたりして、世間一般の考え方とズレている時だ。


 俺にとって共感できるものばかりを集めてきてくれるということは、逆に言えば俺の考えと遠いもの、間違いに気付かせてくれるようなものは集まってこない、ということ。

 つまり、俺がどれだけ世間からズレていようが、間違った考えを持っていようが、それに気づく事ができなくなる、ということだ。


 そんな、大海を知らない井の中の裸のトノサマガエルを量産するシステム。

 そういう側面がSNSにはある、らしい。


 ……え、なにそれこわい。


 さっきの現金の話も、七橋さんあたりに「SNSでみんなが言ってたんだけど……」という体で話そうものなら、俺は即座に「なに言ってんだコイツ」と軽蔑と侮蔑の対象となり、「うわ……この人ヤバ……関わらんとこ……」となることは火を見るより明らか。


 ……え? やばない?

 人と仲良くなるために頑張って始めてみたSNSによって関係を絶たれるってそれどんな罠ですか?


 実際、年をとってからSNSを触りだした人が、SNSで過激な思想に染まって人間関係が壊れる話なんかもあるらしい。


 え、やばい。

 こわい。

 SNS、ほんと恐ろしい子——!

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