v2.0.32 - 混乱
小堀田采里は、混乱していた。
こんな、見るからによわよわな奴に何で勝てないの?
委員長にあっさりハメられて、濡れ衣着させられてるような小物が、なんでぼくより強いの?
ポーカーなんて、簡単なゲームだ。
確かに、運の要素はあるし、心理戦な部分もあるし、奥深いゲームではある。
でも、ぼくがこんなに大負けするようなゲームじゃない。
チップの管理をきちんとして、確率と手札をきちんと読めば、勝てるゲームだ。
オンライン対戦で上位に入ったことだって何度もある。
なのに、なんで勝てないんだろう?
この目の前の小物……えっと、御久仁健斗、だっけ?
自分でそれを指定してきたくらいだし、ポーカーが得意なのは確かなんだろう。
でも、特別強いという感じはしない。
おかしいのは、チップの賭け方だ。
なぜか、ぼくの手札を読んでくる。
ぼくの手の悪いときを狙い澄ましたように、必ず大きく賭けてくる。
なんで?
チート?
でも、ここはぼくの家だし、こいつにチートできる余地はない。
用意されてたトランプは割と新品っぽかったし、細工してある様子もなかった。
今はぼくのトランプ使ってるし、益々チートできる余地はない。
なんで勝てないの?
こんな奴に勝てないのは……正直ムカつく。
それだけならまだしも、「今のはいい手だった」とか余裕かましてきたりもする。
まじでムカつく。
小堀田采里は、混乱していた。
どうしようもなく強い健斗。
負け続けて、悔しくて、ムカついて。
――でも。
采里は感じていた。
感じてしまっていた。
(……楽しいな)
全然勝てないゲーム。
全然勝てないのに、悔しいのに、なぜか楽しいゲーム。
それが、采里の気持ちを余計に混乱させる。
なんで、こんな気持ちになるの?
なんで、こんなムカつくゲームで、こんな。
楽しい、だなんて。
そんなわけないのに。
ゲームは、勝つのが楽しいんだ。
頑張って研究して、勝つからこそ、楽しいんだ。
なのに、こんなに負けて。
負けてばっかりで。
それで、楽しい、だなんて。
そんな気持ち、ぼくが感じるわけ――
ああ……違う。
そうか。
そうなんだ。
あの頃の、気持ちなんだ。
どうしようもなく、勝てなくて。
でも、いつも、楽しかったあの頃。
采里がまだ小さかった頃。
あの頃も、負けてばかりだった。
全然、勝てなかった。
負けて、負けて、負け続けて。
それでも、ゲームが楽しかった。
ゲームをするのが楽しくて仕方なかった。
そして――
そう感じる時、采里の横には、必ずあの人がいた。
(お兄ちゃん……)
小堀田采里は、思い出していた。
数年前に亡くなった兄のこと。
その兄と、楽しくゲームをしていたあの頃の事を――




