v2.0.26 - フィッシング
「長くなるから、続きは家についてから」
ミントはそう言ったっきり、黙り込んで「たのしみにしてたのに」「ばーかばーか」などとひたすら悪態をついている。
負のオーラがそのCGキャラから漏れ出ていて……なんというかコワイ。
これは多分のんびりしてると怒られるやつだ……ということで俺は早足で家路を急いだ。
◇ ◇ ◇
家に着くと、俺は問答無用で正座させられた。
このところ妙に自宅で正座する機会が多いなぁ……。
まぁ、和室だしなぁ……。
和室には正座、だよね☆
「フィッシングっていうのはね……」
なんとなく現実逃避したくなっている俺に対し、ミントさんのほうは急に真面目なメガネっ娘博士スタイルに早変わりし、指し棒をぺしぺししながら俺をキッと睨んできた。コワイ!
「誰かのIDとかパスワード、カード番号とか個人情報とか盗む方法の一つなんだけど」
「ふむ……」
「たとえば誰かのLINCのアカウントにログインするためのIDとパスワードを盗んでやろうと思った悪い人がいたとするね」
「悪い奴がいたものですね」
「その悪い人は、本物そっくりの偽物のログイン画面を作って、狙った相手をそのページに誘導するのね」
「ふむふむ?」
「誘導のしかたは色々だけど、例えば「あなたのLINCアカウントが凍結されました。回復するにはこちらのURLにアクセスしてください」ってメール送るとか」
「……ほう?」
「で、それを本当だと思ってしまったうっかり者は、偽物のページにアクセスして、さらにそのページが偽物だって気付かずにIDとかパスワードとか送信してしまうわけ」
「はははまったく馬鹿な奴もいたものですな」
「そしたら悪い人は、そのうっかり者のIDとパスワードを無事ゲットだね。その人になりすましてLINCにログインできる」
「あらやだ怖い」
「……変な合いの手はいいから」
「すみません」
おでこに青筋マークが浮かんだミントさんの様子を察して、慌てて謝る。
謝るなら最初からやらなければいいのだけど、こうでもしていないとなんというか色々と不安になるもので……。
「まあでも、LINCだったら、普通ならそれだけじゃログインできないのね」
「なんででしょう?」
「LINCには二要素認証っていうのがあってね」
「によーそ認証?」
「尿素、みたいにいわないでくれるかな?」
「ごめんなさい」
再びミントさんの表情に青筋っぽい怒りマークが浮き上がったので全力で謝罪。
「二つの要素で二要素、ね」
「二つの要素……?」
「一つはダーリンもよくわかってると思うけど、IDとパスワードね。でも、IDとパスワードだけだと、ダーリンみたいな子がうっかり他のところでフィッシングに引っかかったりして、パスワード漏らしちゃったりするから」
「はははまさかそんな事しませんって」
ミントの目がギロリと俺を見た。
無言の強烈な圧力。愛らしいCGキャラなのに何この迫力。
「ご……ごめんなさい」
「だからもう一つ、本人のARグラスでしか確認できないSMSとかアプリとか、あとはログインに使ってるメールアドレスにメール送るとか、何かしらの別の方法をもう一つ使ってきちんと本人がログインしてるのを確認するのね。それが二要素認証」
「ああ……ログインする時に毎度メールとか来るの、何これ面倒って思ってたけどそういう意味だったのか」
「……」
ミントさんが「はぁ」と短くため息を吐く。
ああ、うん、ここまで聞けばさすがに分かってきたぞ。俺の残念っぷりが――




