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v2.0.22 - 依頼

 夜。

 二夜連続の説教から何とか解放された俺は、お茶を淹れて一服した後、日課のクラス内SNSチェックを終え、そういえばと思い出して、メールアプリの迷惑メールフォルダを確認してみることにした。


 迷惑メールフォルダには、今日届いた大量の迷惑メールが並んでいる。

 タイトルをざっと流し見るだけでも、相変わらずエロと金と欲望と危険のパラダイスだ。

 学校からなど大事なメールが間違って振り分けられたりはしていないようだし、順調に迷惑メールを捌いてくれているらしい。さすがは現代文明の利器。助かる。


 この様子ならネット記事に書いてあった通り、たまに確認する感じで大丈夫そう、かな……?

一時はどうなることかと思ったけど、とりあえず、よかった。

 LINCログインの事とか、迷惑メールフィルタの事も学べたし。

 ミントの説教も、授業料としては安いものだ。

 あの愛らしい外見のお陰で、何ならご褒美まである。


 とはいえミントにも散々説教されたが、もっとひどい事態にだってなり得た。

 今回は迷惑メールが届くようになったくらいで済んだけど、あの頃みたいな面倒事に巻き込まれていた可能性だってあったのだ。

 ……うん、やっぱりインターネット怖い。

 引き続き、気をつけていこう……。


 ……さて。

 正座の足の痺れも抜けてきたし。

 気持ちを切り替えて、学生の本分たる学業に励みましょうかね。

 今日は物理の授業で宿題が出てる。

 早めにこなしてしまおう。


 にしても……迷惑メールに悩まされない状況は助かるな。

 昨日は何だかんだで集中力奪われてたし。


 俺は淡々と宿題をこなし、もうちょっとで終わる、というところでARグラスが「ポーン」という音を鳴らした。

 いい加減聞き慣れた、通知の音だ。

 視界の隅に、これまたいい加減見飽きた、メール着信のアイコンが表示されている。


 届いたメールを開いてみると、


「……?」


 それは学校からでもなく、七橋さんでもなく、もちろんミントでもなく、見慣れない差出人からのメールだった。

 件名もない。


 ……あ、もしかして、フィルタを通り抜けた迷惑メール、ってやつなのかな?

 俺の指が削除ボタンに伸びる。

 だが、よくよく見てみればメールの中身は怪しい内容でも何でもなかった。


======

kent様

xirです。

課題の資料です。

https://linc.me/docs/BmVm1mMe2M3MlNEd

確認よろしくお願いします。

======


 ……あ、ああ。

 っぶね。

 これ、多分、小堀田さんからのメールだ。

 xirっていうの、たしかLINCで小堀田さんが使ってるIDで、クラスのSNSでもそういうIDになってた気がする。

 ……ああ、そういえばメール来るかも、と七橋さんからのメールに書いてあったっけ。

 情報Iの課題の資料、ってことなんだろう。


 な、なら、大丈夫だよな?

 迷惑メールじゃないなら、メールに書かれたURL開いても問題ないよな?


 俺はちょっとだけビクビクしながら、メールに書かれたURLをタッチして、開いた。


 さて、何の資料だろう。

 いきなり誰かの個人情報が書かれたものとかは勘弁していただきたいところですが。


 だが、予想に反して、開いたのはLINCのログイン画面だった。


 ……ん?

 どういうことだろう。

 あ、でもよくよく見たら「linc.me」ってこれLINCに関係ありそうなURLだ。

 ということは、見るのにログインが必要なページ、って事なのかなもしかして。

 なるほど、そういうのはありそうだ。


 ……えっと、大丈夫だよな?

 昨日やらかしたのは、「LINCでログイン」っていうボタンで、その場合はLINCとは別の誰かがやってるページだから気をつける必要があって。

 でも今回はLINC「で」じゃなくてLINC「に」ログインだし。

 それ以前にこれはどう見ても、アプリで何度か見たのと同じ、LINCのログイン画面だ。

 り、LINCにログインするだけなら、別に何の問題もないよな?


 いや……っていうかそもそもこれ、クラスメイトから送られてきてるURLだし。

 そんな危ない事が起こるとも思えないし思いたくない。ミントじゃあるまいし。


 じゃあ、先日登録したIDとパスワードを入力して、と。


 ARグラスでの文字入力もだいぶ手慣れてきた。

 結構いい感じに使いこなせてるんじゃない?

 俺はちょっと調子に乗りながら、ログインボタンを押した。


 画面が切り替わり、さて、どんな資料かな……と待ち構えていると、画面には「エラー」の文字が表示された。


 ……あらら?

 ま、まあ、そういうこともあるよね。

 だって、ハイテクなもの、壊れるし(偏見)。


 さてどうしたものか。

 これでは資料が見られない。

 何か別の方法で再送とかしてもらったほうがいいのかな。


 そう思ってメールアプリに戻ると、何やら新しいメールが2通ほど届いているのが目にとまった。

 一つは「LINC ログイン認証コード」、もう一つは「LINC運営より:ログインエラー」というタイトルのメールだ。


 「ログイン認証コード」というメールには、6桁の数字がでかでかと書かれている。


 もう一つの「LINC運営より:ログインエラー」というメールのほうには、


======

こんにちは、LINC運営です。

先ほど、お使いのアカウントで、ログインに問題が発生しました。

このエラーを解消するため、別にお送りした「ログイン認証コード」を記入の上、至急このメールにご返信ください」

======


 と書かれている。


 なるほど、今しがた起きたログインのエラーの話だよな、これ。

 じゃあ、別のメールで届いてるこの数字を書いて送ればいいってことか。


 そしたらえっと……「返信」ボタン押して。

 「812293」と。

 これでいいのかな。


 あ、礼儀として挨拶とかつけたほうがいいのかな。

 まあでも「至急」って言ってるし、早さ重視でその辺はいいか。

 とはいえ数字だけっていうのも失礼か。

 俺は数字のあとに「よろしくお願いいたします」とだけ付け加えて、送信ボタンを押した。


 だが――

 その後一切、何も起こらなかった。


 LINC運営からの返信もない。

 ログイン画面は何度ログインを試してもエラーを吐くばかりで、最初に試した時のような運営からのメールも届かない。


 仕方ないので、小堀田さんからのメールに、


======

送ってもらった資料が見られないみたいで……

他の方法で送ってもらうことってできますか?

======


 と返信を送ってみた。

 が、待てど暮らせど小堀田さんからの返信はなかった。


 小堀田さん、忙しいのかな?

 LINCのグループとやらのほうで聞いてみたほうがいいだろうか。

 でも、昨日見てなかったし、今さらの参加って何か気まずい……。

 どの面下げて来やがったとか思われたら割と立ち直れない気がする。


 ……ま、まあ、明日確認すればいいか。

 色々と腑に落ちない気持ちを抱えつつ、夜も更けてしまったので俺は布団に潜り込んだ。

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