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v0.2.2 見守ってるから♥

 ……とりあえず、本でも読むか。


 カバンから昨日買ったミステリ小説を取り出す。


 いや、学校二日目にしていきなり本を読むって、『私に話しかないでください』オーラがビンビンに出るのは分かってる。しかし今は猫も杓子も電子化の時代で、紙の本を読む人は少ない。もしかしたら「へぇ、紙の本読むんだー」っていう好奇の声や、さらには「俺も紙の本読むんだ」っていう同好の士との出会いがあるかもしれない。


 すなわちこれは緻密に仕組まれた作戦というやつであって、断じて人に話しかける勇気がないのを誤魔化しているとかそういうわけではないんですよ?


 なお、中学時代から長らくこの作戦を実行し続けているが、未だかつて望まれる結果が出たことはない。


 ……ま、まあ、結果が出ようが出まいがいいんだ。

 結果より過程のほうが大事って言うし。

 本を楽しく読む過程のほうが大事だから。

 早速表紙をめくって読み始め……ようとした瞬間に、俺の視界に異物が割り込んできた。


=======

mint > どうかしたの?元気なさそうだけど

=======


 また例の黒いウィンドウ……。

 元気がなさそうって、そりゃ元気もなくなりますよね。こうしてハッカーさんに侵入されている事実を何度も突きつけられればね。


 ……って、なんで俺の元気がなさそう、っていうのがわかるんだろう。

 何か表情とか身体的なステータスとか、そういうデータが端末を通じて伝わってる?

 それとも、まさかとは思うけどハッキングしてきているこの相手って、このクラスにいたりするのか?


 慌てて周囲を見回してみるけど、それらしい視線はない。

 ちなみにその過程で一人の女子と偶然目が合って、「キモっ」とでも言いたげに目を逸らされたんですが、これは泣いていい案件ですよね。後でトイレで一人泣こう。


 クラスメイトがハッカー、っていうパターン以外であり得るとすれば、学内に設置されてる監視カメラで見てる、とかだろうか。

 そういえばこのクラスにも、何かのデータを取るためだったか、カメラが設置されているって担任が言っていた。たしかに、教室の正面、黒板の上辺りに一つと、天井のど真ん中に一つ、教室の後ろの両隅に2つ、カメラっぽいものが設置されている。

 このカメラを経由して見てるなら、俺の様子だって好きなだけ見放題だろう。


 とはいえ、そんな簡単にこういうカメラの映像って盗み見たりできるものだとも思えないし、あと、その方法で見てるとすると、ハッカーさんは俺の外見とかそういうのも全部把握してるってことになるんで、できればその方向は考えたくない……。


=======

mint > そんなキョロキョロしなくても

mint > ボクはダーリンのことをいつも見守ってるからね♥

=======


 そんな俺の気持ちを見透かしたように、ハッカーさんは温かなメッセージを送ってきてくださった。

 うん、なんかとりあえず自分の様子とかは全部筒抜けらしいぞ。

 いつも見守られてるとか……控えめに言って滅茶苦茶怖いんですけど。


 なんだかあの事件の頃、行くところ行くところで出くわした、たくさんの嫌な視線を思い出す。

 何にしてもほんとに色々と情報を握られすぎてるし……もしこれで何か脅迫とかされたら俺の人生、完全に詰みません?


=======

mint > ダーリンが寂しかったり退屈だったりしたらボクがいつでも相手してあげるからね♥

=======


 う、うん、心配していただかなくても、少なくとも退屈はしてないので……

 昨日今日とこんなにもスリルを味わわせてくれるんだもんな。

 ほんともうお腹いっぱいだから消えて♥


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、


=======

mint > あ、いいこと思いついた♥

=======


 そんなメッセージを最後に黒いウィンドウが消え、それに合わせるように、始業のチャイムが鳴った。

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