v2.0.20 - 迷惑メール
ああ……。
これはアカンやつや。
俺はげんなりして卓袱台に突っ伏した。
「どうかしたの?」
俺の様子に何かを察したのであろうミントに訊ねられたが、これはさすがに正直に答えるのは恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
「七橋さんの妹さんの写真を見ようとしたら、スパムメールが大量に届くようになりました」ってなんだそれ恥ずか死ねる。
「べ、別に……」
ミントにはそう答えつつ、さてどうしたものかと思案に暮れる。
断続的に鳴る、メール着信の通知。
頻繁に、というほどではないが、数分に一回、ちょうどウザいくらいのタイミングでメールの着信音が鳴る。
メールを確認してみれば、「下半身が疼いて……」とか「あなたにお金を振り込みます」とか「主人がオオアリクイに殺されて」とかそんなあからさまに詐欺っぽい怪しいメールばかりだ。
ああ……うん。
要するにこれはアレだ。
俺のメールアドレス、何かヤバい業者とかの手に渡ったっぽい。
で、でも……ま、まあ、迷惑なメールがちょいちょい届くだけだし?
小6のあの時と比べれば大した害はないし?
家にピザとか代引きの荷物が配達されたりするわけでもなく、俺の名前とメアドでどこかの企業とか施設に爆破予告が送られてる様子もない。
「あなたのPCがハックされました」とか「サービス利用料払え」とかそういうメールは全て詐欺なので全部無視でOK。
その辺の事はあの頃しっかり学習済みだ。
うん、これは単にメールアドレスが変な人達の手に渡ったってだけだし。
うん、大丈夫。実害はない。
実害はない、けど――なんというか、寝入りばなに耳元に飛んでくる蚊くらいにはウザさがある。
何より、メールアドレスが学校のものなので、見落としてはいけない学校からのメールも来るし、無視して放置するわけにもいかないというのが困る。
えっと……どうしたらいいのこれ。
止めてくださいって言って止まるものじゃないだろうし。
とりあえず削除し続けるしかない?
いやでも迷惑メールかそうじゃないか確認するだけでも結構削られるんだよな……精神力とかそういうの。
かといってミントさんに対処法を聞くというのも……。
経緯を説明したらまた土下座正座案件だろうし……。
……ま、いいか。
ちょっとたくさん余計なメールが届くだけの話だし。
何かいい対処方法があるかどうかは近々調べてみるとして。
おし。頑張れ、明日の俺。
ちょいちょい届くメールの通知に気を散らされながら国語と数学のプリントを片付け、ちょうどいい感じの眠気が来たので、俺はARグラスを外し、さっさと寝ることにした。




