v1.0.22 ミント
クラスのみんなの言葉が、頭の中をぐるぐると回っている。
さあ、どうする?
七橋さんは、謝ったら許す、と言った。クラスの皆もそれに同意している。
でも、俺は、やってない。
やってない事に謝るのは……嫌だ。
じゃあ、謝らずに、「俺はやってない」で通すか……?
でも、それは今のチャットの様子を見ている限り難しい気がする。
俺がやっていないと主張するなら、それを証明できる確たる証拠がいる。証拠もなしに「やってない」と言ったところで、一体誰がどうやってそれを信じられるだろう。
運がよくても話が平行線で結論が先延ばしになるだけ。
最悪「自分のやった事を認めない」という悪行のコンボが乗って総スカンを食らうのは確実だ。
もちろん、真犯人を見つけられればそれで全てが解決する。
でも、ITが得意なわけでもなんでもない自分に、今それができるかといえば……難しいと思う。
じゃあ、たとえば、ミントだったら――?
ミントだったら、真犯人を見つけ出す事ができるんだろうか。
あれだけの技術を持ったハッカーなら、俺がやったんじゃない、っていうことを証明できるかもしれない。
――でも。
ミントなら犯人を割り出せる可能性と同じくらい、ミントが犯人である、っていう可能性も高いのだ。
だからまず、俺は一つの疑念を、きちんと解決しておかなくてはいけない。
「ミント、いるか?」
「いるよー」
俺がミントを呼ぶと、そんな声とともに、いきなり目の前に爆煙が爆ぜた。
「じゃじゃーん!」
その爆煙を見て、少し懐かしい気持ちになる。
この演出は、ミントが初めて3Dキャラになった時の登場シーンと同じだ。
ほんの一週間前の事なのに、なんだか妙に遠い昔にあった出来事のように思える。
「初心に帰ってみました」
えへへ、とでも言いたげに鼻の下をこする仕草で登場したミントは、いつもどおり楽しげにニコニコしている。
でも——そんな笑顔を曇らせるかもしれないことを、俺は聞かないといけない。
正直、心苦しい。
あと、ちょっと怖い。
自分のほうも、ある意味初心に返った気持ちだ。
得体の知れないハッカーに恐怖するあの感覚が、じわりと胸に蘇っている。
「……ひとつ、聞かせてくれ」
「あれ、何か深刻げな話?」
「七橋さんのこと書き込んだの、お前か?」
「七橋さん、ってダーリンのクラスの委員長の事だよね。書き込んだ、って何の話?」
ミントは首を傾げてそう言った。
しらばっくれている、という感じではない。
やっぱり、ミントがやったのではない……んだろうか?
俺は、七橋さんからの依頼のことや、裏掲示板の事、そして俺が犯人になっている事などをミントに話した。
「ふーん……コソコソ何かやってると思ったら」
ミントはやれやれ、と首を振ると、「はぁ」と小さくため息を一つつき、
「ボクがそんなつまんない事するわけないじゃん」
むすっとした表情で、すこぶる不機嫌そうにそう言った。
「そりゃダーリンには少しはひどい事もしたし、そう考えるのが一番辻褄が合うっていうのはわかるよ?」
ミントの目に、表情に、少し悲しげな色が混じる。
「でも、少しくらいは信じてほしかったな……」
「だってお前はハッカー……」
ミントの人差し指が、「その先は言うな」とでも言わんばかりに俺の唇に触れた。
……え、触れた?
バーチャルな存在であるはずのミントの指の感触を、俺は確かに唇に感じたような気がした。
そういえば、VRで人に息を吹きかけられる映像を見ると、肌が「息を吹きかけられた」と誤解して、吹きかけられたような感触を感じる事があるって話があった。今のは……そういう事だったんだろうか。
突然の感触に混乱する俺をよそに、ミントは体制のまま、小さく笑うと、
「まったく、ダーリンはしょうがないな!」
そう言ってくるりと体の向きを変え、卓袱台の前にちょこんと腰を下ろすと、ミントは何やら手を動かし始めた。




