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v1.0.14 「1-Cの秘密」

 俺が、「裏」を作った張本人、か。


 ……まあ、そりゃ、疑われるよな……。

 クラスの中で唯一チャットに書き込んでいない人間。

 あからさまに胡散臭いプロフィール。

 そして、どうやらこのクラスのITをわりと使いこなしていそうなみんなにもできないらしい、タ グやプロフィール画面の書き変えをやってのける技術力。

 これを見たら、怪しいと思うなと言うほうが難しい。


 でも、当然のことながら俺は「裏」の事なんて知らない。

 そもそもそれが何なのかすらわからないのだ。

 なのにこうして疑われてる俺、というのもなかなか悲しいものがある。


 もちろん、原因の九割九分九厘くらいはミントのせいだ。

 っていうかまさか、その「裏」ってやつをミントが作ったりしてないよな……。


 引き続きダークナイト君の怪しさについての議論が続くチャットルームを横目に見ながら、俺は「はぁ」と一つため息を吐き出した。

 ほんと、高校に入ってからため息の数が半端ない。

 ため息をつくと幸せが逃げるとしたら、俺の幸せはここ数日で数年分くらいは逃げたんじゃなかろうか。


 にしても。

 あれだけの覚悟を決めて学内SNSに潜入したというのに、分かったのは結局「裏」というキーワードのみ。

 「裏」の正体はよくわからないままだし、ほとんど何の成果も上がっていないに等しい。


 他に得たものはといえば、俺のプロフィールが大変に痛いという事実と、俺がダークナイト君よばわりされてネタにされてた事と、今まさに疑いの目を向けられているという事実だけ。

 ……あれ、なんか俺がひたすら傷ついてるだけなのでは……?

 ほんと、泣きたい。J-POPの歌詞ばりに涙枯れるまで泣いて泣き崩れたい。


 などとネガい思考の渦にぐるぐると囚われていると、「ポーン」という音とともに一通のメールが届いた。


 ん? なんだろ。

 七橋さんからの催促だったら「何の成果も!! 得られませんでした!!」と速攻で返すしかないわけですが。


 慌ててメールアプリを立ち上げてみる。

 差出人は……よくわからない。

 とりあえず学校やクラスメイトからではなさそうだ。

 メールのタイトルは、「1-Cの秘密」。

 1-C、というのは俺のクラスの事だ。


 1-Cの秘密……?

 うん、怪しい。

 まず、タイミングがよすぎる。

 今さっき、ちょうどクラスのチャットを読み漁って、「裏」っていうものの存在を知ったところだ。

 まるでそれを狙いすましたように届く「秘密」を名乗るメールなんて、怪しいにもほどがある。これは見ずに捨てたほうがいい。最近の某ミントさんとの経験によって培われた危険センサーがそう告げている。


 ……でも。

 気になる。

 これが気にならないわけがない。

 これはあの「裏」に繋がる情報だっていう可能性がかなり高い。

 もちろん、そうじゃない可能性もあるし、もっと別の話かもしれない。

 何にしても、今調べている事に何かしら関係はありそうだ。


 としたら、やっぱり気になる。

 でも、これは、危ない。

 できるだけ用心するに越したことはない。

 としたらこういう時は……その筋の専門家に頼るに限る。


「ミント先生」

「はーい?」

「メールって見ただけで何かウィルスに感染するとかそういう事ってありますか」

「最近ダーリン積極的だね。その勢いでボクにプロポーズとかするといいよ」

「するか」

「んー、昔はそういう事もあったけど、今のmOS……えっとダーリンの使ってるARグラスならそんなことはほぼないと思う」

「ほぼ?」

「あーえっと、ボクの知ってる限りではそんな事できる方法はないけど、ボクがまだ知らないらない方法とかあったら知らないよ、ってこと」

「ふむ」

「あとは当然、添付ファイルとかは開いたらダメだからね」

「……」

 ……その件については痛いほど思い知らされているので、さすがに同じ轍を踏む事はない……と信じたい。


 ひとまずミントの知る限り大丈夫、ということか。

 万が一このミントが知らないような方法があるとしたら、それは多分相当に高度で面倒な方法なんだろうし、そんな高度で面倒な手を使ってまで、俺みたいなしょーもない端役を陥れるメリットなんて皆無だろう。

 としたらメールを開くところまでは大丈夫だろう。多分。


「何か怪しいメールでも届いたの?」

「あー、うん」

「怪しいのは開かずに捨てるのが一番だけどね」

「ですよね」

「それでも開きたい、ってことは何か気になるタイトルのなんだろうけど、どれだけ気になるものでも、儲け話とエッチな感じのタイトルのは全部罠だからね?」

「わかっとるわい」


 よし、ミント先生のお墨付きも得たし、じゃあとりあえず開くだけは開いてみよう。

 あとはうっかり添付ファイルを開く、みたいなアホな事だけしないように気をつけないと。


 しっかり心の準備をして、意を決してメールをタッチして開く。

 ――と、内容は、たった一行。

 「https://」で始まる文字列が書かれているだけだった。


 なるほど、どこかのサイトへのリンク、か。

 ……気になる。

 けど、これを開くのはさすがにマズい気がする。

 マズい気はするんだけど……でも、やっぱり気になるのは「1-Cの秘密」っていう、このメールのタイトルだ。

 これは、やっぱりあの「裏」という言葉に関係する何かな気がするし、これを開かないと話が先に進まない気がする。


「先生、URLを開くだけでウィルスに……」

「開くだけでウィルスに感染、はないけど……ダーリンは簡単にあれこれ騙されたりしそうだからなぁ……ほんとどんなメール届いたの?」

「……」

「まあいいけど。用心するならJS切ってプライベートモードで見るといいよ」

 JS……って女子小学生?

 プライベートモードってなんだろう。

 ……ま、まあ、とりあえずウィルス感染の可能性がないなら、あとは俺が変な罠にひっかからなければ大丈夫、っていう事でいいのかな。


 ……どうする?

 やるか?

 このURLの先は、学内SNSじゃない。

 誰がアクセスしているかもわからない、あの時ひどい目にあった、あのWebだ。

 どうする?

 正直、怖い。

 手は震えているし、じわりと嫌な汗も流れている。心臓も大きく早く鳴っている。


 ……でも。

 でも、やっぱり。

 これを開かないと、何も始まらない。そんな気がする。

 俺は意を決して、そのリンクをタッチした。


 刹那、新しいウィンドウが、空中にふわっと浮かび上がり――そこには、黒い画面があった。

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