v1.0.10 接続
さて……。
授業を終え、家に帰り。
一旦外して机に置いたARグラスを見ながら、しばし考える。
一応、覚悟は決めた。
決めたつもりだ。
しかし、大丈夫かな……。
インターネットが、4年前とどれくらい変わっているのかもよくわかってない。
動きの早いこの世の中だし、何よりアクセスするデバイスがスマホからARグラスに変わっている。
4年以上前の常識が、果たしてどれほど通用するものなんだろう。
まあ、見たくはない見たくないとは思いつつも、ARグラス入門本の、インターネット関連のページはそれなりにしっかりと読んだ。ブラウザを通して見るような、ウェブの世界はそこまで劇的に変わってるわけじゃなさそうだ、というのは確認できている。
SNSなんかも、サービスの流行り廃りはあるみたいだけど、根本的に何かが変わっているわけではなさそうだった。
結局、ネットは人が作って人が使うものだ。
小学生の頃に親父に何度か言われた通り、人として非常識な事をしなければ、そんなに危ない目に遭う事はない、はず。
あとは懸念があるとすれば、某ミントさんの件のような、ひどいやらかしをしないかどうかだけど……。
ミントのお陰で1週間前よりはだいぶ用心深くもなったし、どうにかなると信じたい。
ふぅ……。
気持ちを落ち着けるために、大きく息を吐き出す。
まあ、とにかくやってみないことには始まらない。
俺は両頬をパシッと叩いて気合を入れ直し、あらためてARグラスを身につけた。
さすがに聞き慣れた、フォン、という起動音。
指を動かして、ARグラスに入ってるアプリケーションの一覧を開く。
そこには、昨日タグの設定をする時に使った「eSchool」というアプリと、「TORiS」という名前のアプリがある。
「eSchool」というのは、全国の先進IT指定校の生徒が共通で使うアプリで、校門にあるゲートを通るとかいった学生生活の基盤を管理するためのものだったはずだ。
アプリ自体には今の所そんなに機能はなく、タグの設定みたいなあれこれが主な役割だ。なので今回は関係ない。
もう一つある「TORiS」。
これが、杜理須高校の学内SNSであり、学内の告知やコミュニケーションのメインの場になっているアプリであり、今回俺が見るべき「インターネット」だ。
ごくり、と息を飲む。
これに触れると、俺は、繋がる。
あの、ひどい思い出が詰まりに詰まったインターネットという場所に。
正直、やっぱり見たくはない。
触れたくない。繋がりたくない。
今だってやたらと手が震えている。
でも、これは多分好機ってやつだ。
今、触れなかったら、俺は多分二度とあそこには触れることはない。
全力で逃げ回って、逃げ切りを狙うだろう。
やっぱりそれは、よくない気がする。
せっかく七橋さんがくれた機会でもある。どうにか乗り越えてみたい。
それに、これからアクセスしようとしているのは学内SNSであり、学生しかアクセスできない閉じた場だ。
使っているのは全員学校の関係者だし、見ず知らずの人から悪意を向けられる事はない。
あの時みたいな目に遭う事は、きっとない。
だから、大丈夫。
大丈夫。
……よし。
意を決して、俺は「TORiS」のアイコンをタッチした。




