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v1.0.9 見るべきか、見ざるべきか

(さて、どうしたものか……)


 午後の授業を聞き流しながら、俺は考え事をしていた。

 もちろん、七橋さんからの依頼の事だ。


 確かに、俺個人としてもクラスのこの空気の事は気になっている。

 できればもうすこし和気あいあいとしたムードになって、うっかり俺をその輪の中に入れたりしてほしい。

 なので、自分なりに、できる範囲で協力はしたいと思う。


 問題は、あれをどうするか、だ。

 あれ――クラスのSNSとやらを見るかどうか。


 クラスの様子で、何か気になることがあれば教えてほしい、と七橋さんは言った。

 彼女は別に、SNSを見てほしい、とは言ってない。

 ぼっちなりの観察眼で、リアルなクラスのみんなの様子をしっかり観察して、自分なりに気づいた事を知らせれば、それでちゃんと期待には応えたことになる、と思う。


 でも、それで本当に十分なのか、と言われたら、正直どうなのかわからない。

 この一週間、話しかけたりするチャンスを伺うために、ずっとクラスの様子を観察してきたから、わかる。


 クラス内で幾度となく交わされる、目配せのような視線の交流。

 前触れもなく、いきなり何人かが同時に笑ったりすること。

 突然始まる文脈のよくわからない会話。

 俺みたいなネットに触れていないぼっちからすると、なんだかとても奇妙で不気味に見えるそれらは、このクラスのコミュニケーションの、かなり多くの部分がネットを通じで行われていることの証左だ。


 恐らくこのクラスで、リアルのほうに出ているコミュニケーションは、ネットで行われている大量のコミュニケーションのほんの上澄みでしかない。

 SNSを見ずにリアルのコミュニケーションだけを見ていても、きっと何も本当のところはわからない。

 ましてや、クラスの雰囲気を悪化させている原因みたいなものなんて、先生や親など大人の目が行き届いた、リアルの側には出てこない可能性が高い。


 としたら、俺がリアルをよく見ていたところで、何の意味があるだろうか。

 ネット側を見なければ、俺は恐らく何の原因も、理由も知ることはできない。

 当然、七橋さんにも、大して役に立たない情報しか提供できないだろうし、時には見当違いの間違った事を伝えてしまうことにもなりかねない。


 ……としたら、どうする?

 見る……のか?


 あんなものを、俺は、また見るのか?

 あんなものに、また触れるのか?

 あの、SNSというものを。


 正直、見たくはない。

 心の底から、見たくない。


 なぜ、そんなにSNSが嫌なのかって?

 いや、別に「SNS」が嫌なわけじゃない。

 SNSではなくて、SNSを含む「インターネット」というものが、どうしてもダメなのだ。


 俺の中学時代を暗黒に叩き落とした原因になったあの事件。

 あの事件の時、俺にとってインターネットというのは本当に恐ろしい場所だった。

 本当に怖い、悪魔みたいな存在だった。

 インターネットを通じて、俺は本当にたくさんの悪意に触れたし、たくさんの大事なものを奪われ、壊された。

 どうしようもなく死にたくなるような、そんな絶望に叩き落とされることも、幾度となくあった。


 あんな思いをするのは、御免だ。

 もう二度と、あんなものは見たくない。

 できることなら今後一生、ITだとかインターネットだとか、そういうものには触れずに生きていきたい。


 そう、思ってきた。

 今でもそう思ってる。

 本音を言えば、今だってこのARグラスを投げ捨てたいし、メールの一通ですらできるだけ見たくもないし、書きたくもない。


 でも――とも思う。

 それでいいのか?

 今回は七橋さんからの依頼があっての話だけど、それとは関係なく。

 これから俺は、本当にネットやITを避けていていいのだろうか?


 この高度に進んだ情報化社会。

 インターネットに触れずに生きていくことなんて、本当にできるのか?

 実際に今、「先進IT指定校」なんていう形で、ITに触れる事を強制されている。

 これからも、仕事に就いたり、家庭を持ったり、色々な場面でIT機器とかインターネットに触れる機会はあるだろう。

 それを全て「触れたくないから」で触れずに済ませることは、できるのだろうか。

 触れたくないから、触れずにいて、それで本当に幸せに生きていけるのだろうか。


 中学時代に俺がぼっちだったのだってそうだ。

 あれはもちろん、事件の影響で周囲に避けられていた事が一番大きかった。

 でも、俺がネットを避けていた事がそれに拍車をかけていたのは間違いない。

 だって、連絡をしようにもメールのやりとりの一つもできない相手なんて、どうやって仲良くなったらいい?


 ずっと、心のどこかでは、わかっていた。

 このままじゃ、きっとずっと一人だっていう事。

 このままじゃ、きっとよくないんだっていう事が。


 どこかであの恐怖を克服して、俺はまた、ネットだとかITだとか、そういうものを、せめて人並みには使いこなせるようにならないといけないんだって。

 本当は俺は、この高校に入って、IT機器を使う事を強制されて、少しだけほっとしていたんだって。

 こうしてIT機器を使う理由ができて、ほっとしていたんだって。


 ――としたら。

 今回、七橋さんからの依頼っていう理由もある。

 SNSを見るって事から、もう一度始めてみるべきなのかもしれない。

 俺の、インターネットライフってやつを。

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