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v1.0.5 翌朝

 翌日は朝からドタバタだった。


 いつもどおりの時間に起床はできたものの、ゆったりと朝ごはんを楽しむ時間などはない。

 いつもより念入りにシャワーを浴びて、髪型を丁寧に整え、シャツにはアイロンを、パンツはプレスして折り目を正しくつけ、ブレザーにはブラシをかける。


 今日は昼休みに七橋さんとお会いするのだ。

 天上人に謁見するのならば、下民は下民としてできる限りの身だしなみを整えなければいけない。だらしない格好をして七橋さんの不興をかってしまったなら、その場で切り捨てられても文句は言えない。それが江戸の時代から続くこの国のルールというものだ。


 入念に歯を磨き、ネクタイもビシッと締めて、一通りの準備ができたところで、ARグラスをごしごしと丁寧に磨き、身につける。


 グラスが起動すると、昨日と同じように部屋にいたミントが眠そうに「おはよー」と声をかけてきた。


「やあ、ミント君、おはよう」

「……なにそのテンション」


 穏やかかつクールに決めた俺に、怪訝そうにミントがツッコむ。


「なにを仰っているのかな? いつもどおりだと思うが?」

「……ダーリンなんかキモいよ?」


 はっはっはキモいだなんて何を言ってるんだね君はこの紳士に向かって。


 学校への道すがら、ミントが「ダーリンなんか心拍数高いし、テンションおかしいし今日どうしたの? 悪いキノコでも食べた?」とかあれこれと言ってくるが、今日は何を言われようが気にしない。


 ミントがどれだけひどい事を言ってこようが、今日は世界が穏やかに見える。


 穏やかに街を照らす朝日。チュンチュンと優しい雀の声。道行く人の会話や、走り抜ける車の作るノイズでさえも、穏やかな町のBGMとして心地よく聞こえる。


 七橋さんとの約束がある。たったそれだけの事で世界はこんなにも美しい。

 そして同時に胃が痛い。


 あああああ緊張する!

 七橋さんと何を話せばいいんだ?

 とりあえず今日の天気から始めればいいのか?


「ふーん、ダーリンなんか隠し事?」


 そんな俺の様子を訝しむミントは、探るように尋ねてくるが、俺は答えない。

 別にミントに何から何まで全部話さなきゃいけない理由はない。

 俺に義務付けられているのは会話であって、全てを話すことではないのだし。


「ま、いいけど」


 俺の黙秘権行使の意思が固いとみたのだろう。ミントは諦めた様子で、「そういえば、昨日さー」と世間話にシフトした。


 実は今回、ミントに何も話さないのにはもう一つ理由がある。

 ミントはあのメールの内容は読めない、と言っていた。

 あのメールの内容をミントが本当に知らない、というのが本当なのか、それをできれば確認しておきたい。


 だから昨日の七橋さんからのメールに関わる事は何も話さない。

 これでもし、昼休みに七橋さんと会うってことをミントが少しでも知っている様子なら、ミントの言った事は嘘ってことで確定だ。


 もちろん今日のこの行動によって、ダークナイトの称号が外れる日は遠のくかもしれない。

 もっとひどい称号をつけられる可能性だってある。

 それでも男にはやらねばならない時がある。

 そう、やらねばならない時がある。

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