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v0.2.5 自己紹介

 アンケートを送信したところでちょうど休み時間は終わり。

 次の時間はクラスのみんなで自己紹介、ということになった。


 出席番号順に、名前と出身校と、趣味だとか簡単なPRをしていく、どこにでもよくある自己紹介タイムだ。


 自己紹介はスムーズに、つつがなく進んでいったのだけど、何人かおかしな事を言う子がいて、教室の空気が変な感じになった。


 言ってることがふざけているというか、荒唐無稽というか。趣味が「埋蔵金探し」とか「宇宙と交信」だったり。「宗教を始めたいので信徒募集してます」とか言うヤバそうな奴もいた。

そしてそれを聞いてクスクスと可笑しそうに笑ってる子が何人かいる。


 中学が同じ友達同士で示し合わせて何かやって遊んでるのかな、と思ったのだけど、出身校などはバラバラだし、男女問わずふざけている様子だし、元々接点があった相手同士、という感じはしない。

 唯一共通点があるとすれば、そうやってふざけたり笑ったりしている子達は、学校支給のものではなく自前のARグラスを使ってる子がほとんどだ、っていう事くらいだ。

 なんだか俺の知らないところで何かが起きているような気配に、ちょっと嫌な感じがする。担任も少し不安そうな、不思議そうな様子で首を傾げていた。


 ちなみに俺はというと、

御久仁みくに健斗けんとです。沢北中っていう少し遠いところから来ました。趣味は読書と少し古めのゲームです。よろしくお願いします」

 なんていう、当たり障りのない自己紹介をして済ませた。


 いや、だって、ここで変にウケ狙いの事を言って変な空気になってもアレだし。後で話しかけられやすい自己紹介、とかそんな高度な自己紹介をできるスキルを、ぼっち道を極めた自分が持っているわけがない。ならばイキった変な奴だと思われるよりはとりあえず無難な感じにしておいたほうが、後々変な事にならないと思うし……っていうか誰かこういう時の一番正しい自己紹介を教えてほしい。


 そんな、ちょっとだけ違和感のある自己紹介タイムはすんなり終わり、最後はクラス委員決めだ。

「今すぐに決めないといけないわけじゃないんだけど、早く決まると先生が楽だし。もし立候補してくれる子がいたら先生大歓迎~」

 担任はニコっといい笑顔で、そんなちょっと残念な事を言い放った。


 ……雰囲気からなんとなくは察してたけど、この先生だいぶやる気ないな……。


 ちなみに担任は30代の女性。茶髪ロングの、多分わりと美人。「多分」が付くのは、口調や服装、体型に至るまでどことなく抜けた雰囲気で、全部整えたら輝くんだろうな、っていうポテンシャルだけしか表に見えてないからだ。


「先生、クラス委員って何するんですか?」

「あーそっか。えっとねぇ……」

 言いながら手元で何か操作する。やる気はなさそうな割に、手の動きだけはやたらと素早い。

「こんな感じ~」


 言った瞬間に、ARグラスに「クラス委員の仕事」というパネルが表示された。

 なるほど、クラスで決め事のある時の司会とか、まとめ役とか、先生からの連絡の伝達役、あとは生徒会主催の集まりに出るとか、よくあるクラス委員っぽい仕事が並んでいる。

 あとはIT指定校らしく、学内SNSのモデレータ、とかいうITっぽいものもある。……モデレータってなんだろ。


 まあ、どうせ自分がクラス委員になる事なんてないだろうし、SNSなんて見る気はないし、知らなくていい単語だろう。

 ……っていうかこれくらい、普通に口で説明したらいいじゃん。うちの担任、どんだけ省エネ派なんだ。


「どう? 誰か。いないなら、一週間後に投票システムで決めてもらう感じになるけどー」

 すると教室の窓際のほうで手が上がった。

「あ、七橋ななはしさんやってくれる?」

「はい」


 手を挙げたのは、七橋……ええと杏南あんな、だったっけ。自己紹介の時に、クラス(主に男子)がざわついたので覚えてる。

 人当たりのよさそうな、笑顔のよく似合う、黒髪ストレートの清楚系。担任みたいな「多分」のつかない美人で、ARメガネもだいぶオシャレな感じで、どこにも全く抜かりないその姿は、早くも男子の中でも人気沸騰中だ。いや、直接聞いたわけじゃないので周りの目線とかそういうのからの勝手な予想だけど。


「他にやりたい子はいる?」

 先生が聞くも、他に手を挙げる子はいない。

「じゃあ、七橋さん、お願いね」

 先生の言葉に応えて七橋さんがペコリ、と頭を下げると、クラスは拍手に包まれた。

 彼女が委員長というのは、なんか似合う感じがするし、いい雰囲気になりそうだし。何の文句もない。

 俺も賛意をこめてしっかり拍手しておく。


 そんなこんなで委員長決めもすんなりと終わり、先生の

「明日は身体測定と健康診断あるから、体操着を忘れないようにね」

 という一声で、今日は終了と相成った。


 はぁ……。

 なんとか無事二日目も終了できたのはいいものの。

 ……結局誰とも話できなかったな。

 鞄をかついで帰途に付くみんなを横目に、俺は机に突っ伏して、ここ2日でいったい何度ついたかわからないため息をまたひとつ大きく吐き出した。


 いや、ほんと友達ってどうやって作ればいいんだろうね。

 っていうか授業終わった後もみんなやっぱりARグラスで何かやってるし。

 やってない子はやってない子で、クラス内でなんだか意味深なアイコンタクトをしていたりする。


 うーん……。

 長いぼっち生活で磨き上げた観察眼が告げている。

 やはり何か、俺には見えないコミュニケーションが行われてるっぽい。

 それってやっぱりアレだよな。今日のレクチャーにあった学内SNSとか、チャットとか、そういう、ネット越しの。

 ……やっぱり見ないとダメかなぁ……見たくないなぁ……。


 ましてや今、このARグラスには……。

 と、昨日から俺の気持ちに暗雲を運んできているアレを思い出した、その刹那――


「じゃじゃーん」


 いきなり耳元に、何やら声が響いた。

 と、同時に「ドーン」という音とともに、目の前で何かが爆発した。

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