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 監禁されている間に目を失った井上さんが自力で監禁場所から出られたとは考えづらく、だからこそ警察に捜し出されたと聞いて違和感は覚えなかったのだ。

 けれど警察の資料では井上さんは道端に倒れていたとあった。

 目の見えない彼が一体どうやってそこまで来られたのか。その間、監禁者の瀬川桜子に見つかってしまってもおかしくはないのに見つからずにだ。

 たぶん井上さんの証言よりも警察の資料が正しいのだろうが、何かが引っ掛かるのだ。


 私と玉彦の前を歩いていた那須警部が話が聞こえていたのか振り返って、大層微妙な表情を浮かべる。

 亡くなった被害者の証言を口にした私に複雑な心境のようだ。


「それって凄いことですよね。あなたみたいな人が警察に居たら、殺人事件はスピード解決ですよ」


 しかし赤艸警視は本気で思った様子の那須警部の二の腕を拳で小突いた。


「死者が真実を語るとは限らないだろう。自殺者が騙すつもりで恨みを持つ相手の名を言ったら逮捕するのか。少しは考えろ」


「あっ、そうっすよね。すんません」


 よほど小突かれた腕が痛かったのか那須警部はそこを摩りつつ歩き続けた。


 実際のところ、赤艸警視が言うように騙すつもりの死者であれば冤罪を生む可能性はある。

 けれどそれは普通の霊視だった場合だ。私の場合は神守の眼の中で聞けば嘘は言えないので冤罪はない。

 だからこそ今、不思議に思っているのだ。

 井上さんの証言は嘘ではない。きっと彼は助け出してくれたのが警察だと思っているのだ。

 しかしその救助者は警察ではなく、彼を道端に置いて行った。

 助け出したならせめて病院まで連れて行ってあげてくれたら良かったのに。


 玉彦の返答を待っているとパーキングに到着してしまい、流石の玉彦も分からないんだなと思っていたら車の後部座席のドアを開けてくれつつ、面倒臭そうに口を開いた。

 これはね、あれよ。既に必要な情報が揃っているのに私の推理力が足りなくて呆れてるパターン。


「井上は何者かの加護を持っていたと言っていたな。そして夏の終わりに保護をされた」


「うん、そう。緑色のね、オーラっていうか膜があったわ」


「以前涛川にも乳白色の膜が視えたと言っていたであろう。白色に近いものほど護りが高いとされている。それ程の格の者ではない何者かが助けたのだろう。助け出したは良いが道端で力が尽きた」


「え、そんな簡単な話?」


「簡単な話なものか。そういう類の者が物理的に影響を及ぼすことは並大抵のことではない」


「じゃあ井上さんを護っていた者は凄いってこと?」


「であろうな。何代にもわたり、積み上げた徳を使い切ってしまったのだろう」


「徳、ねぇ」


「夏の終わりに彼岸から来てみれば子孫が死に瀕していたのだ。先祖も焦ったであろうな」


「あっ! そういうこと!?」


 察しが悪い私に玉彦が最大限のヒントを出した。

 私は驚きつつ座席に落ち着き、隣に座った玉彦に身を乗り出した。


「もしかしてお墓に行くのって、ご先祖様に会うため?」


 それだけの事が出来る井上さんのご先祖様ならお墓に居ても不思議じゃない。

 けれど玉彦は首を横に振った。


「今は盆ではない。しんば会えたとて徳を使い切ってしまった故、期待できぬ。もし今でも健在ならば両親は兎も角、子供らを助けていたはずである」


「そっか……。そうだよね」


 早々都合良くは行かないかと溜息を吐くと、玉彦も何故か溜息を吐く。

 察しの悪い私に呆れていると思い、上目遣いに自分を窺った私に玉彦はもう一度溜息。


「多門と須藤を逆に配置すべきだったやも知れぬ」


「なにそれ」


「行けば解る。多門。マスクはあるか」


 赤艸警視たちの車の後方を走る車を運転していた多門が頷く。

 それを確認した玉彦は何かを思い出したかのように鼻と口を片手で覆い、端正な顔を歪ませ、車外へと向けた。



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