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3


 八年ぶりの家族水入らず。

 父と母と兄と妹の。祖父もいるけど、今日のところはこの四人で家族とさせてほしい。ごめんね、澄彦さん。


 父親の玉彦は息子の行動に少し目を細めただけで、すぐに隣の洸姫に身体を斜めに向けた。


「状況はどこまで把握している」


「違う! 違う! ちっがーう! そうじゃないでしょ! そこはまずはおかえりでしょうよ!」


 美影から当主の間での出来事を聞いていて思っていたことがある。


 当主の間で再会っていうのは、まだいい。

 家長は澄彦さんだし、大人数での場なのでぎゅうぎゅうになりそうな普通の八畳間よりは当主の間の方が余裕があるから。

 でも美影の話を聞いていたら、依頼人との謁見のようなお役目状態だったと思うのよ。


 私が思い描いていた再会の時はそんなんじゃなかった。

 おかえりなさいって洸姫を囲んで、お世話になった稀人たちの肩を叩きながら労い、どこに住んでいたのか大きな怪我や病気はしなかったか、礼儀どうこうよりもまずはおかえりって大歓迎する感じ。

 洸姫は複雑な心境だからその場ではあまり突っ込まず、こうして家族だけのところで誠心誠意質問に答えるのが理想だった。

 しかし蓋を開けて見れば天彦の暴挙、多門の奇抜な行動によって全部ご破算。

 あとで二人揃って真冬の庭の木に吊るしてやりたい気分だ。

 そして案の定玉彦は私からすれば平常運転なんだけど、そこはね、お役目じゃないんだから状況の把握具合を洸姫に尋ねるにしたって聞き方があるってもんよ。


 斜め前に座る玉彦に口を尖らせて文句を言えば、玉彦はぎこちなく隣の洸姫を顔を覗き込むようにして笑みを浮かべた。


「無事に帰り何よりである」


 硬い言い方に突っ込む余地はあるが玉彦にこれ以上求めても酷だ。だって玉彦だから。

 もう、何年経っても感情を表すのが下手くそなんだからっ。


 玉彦に声を掛けられた洸姫は目を泳がせて頷き、それから私を見た。


「色々と聞きたいことも言いたいこともあるだろうけれど、まずはおかえりなさい、洸姫」


 洸姫の様子を見ているとやはり四歳までのここでの生活は忘れているように感じた。

 それは玉彦や私、そして天彦のことも忘れているってことだ。

 私はどこかで覚えていてくれるかもと淡い期待を持っていたが、そうそう都合良くはいかなかった。


 悲しい気持ちを隠して精一杯笑った私に洸姫は再び強張った顔で頷き、そしてちらっと天彦を見てからフンッと顔を反らす。

 父と母が声を掛け、次は自分の番だと思っていた天彦は洸姫の断固拒否の仕草に目を見開く。

 そりゃあそうでしょうともよ。どこに目を見開いて驚く理由があるのよ。


 一応天彦は私なりに人の感情に疎くならないように育てているつもりだが、この頃の玉彦と同じようにどこか不遜で大きな態度で、自分が一番、までは思っていないと思いたいけど、それでも傍若無人のがあった。


 洸姫の態度にショックを受けている天彦は放って置いて、私は再び洸姫に微笑む。


 八年ぶりにしっかりと見た娘は、私の想像通り愛らしく育ったようだ。

 見た目が、ではなく、性格は小さい頃に培われたものが基盤となっているように思う。

 ここでの話を聞いた限りでは、熱くなると言葉が止まらないところだとか、気持ちの切り替えが早いところとか、人見知りをほとんどしないところとか。

 稀人の三人と亜由美ちゃんがのびのびと育ててくれたように思う。普通の子供のように。

 愛されて育ったな、と洸姫の雰囲気がそう思わせてくれた。


「それで、父様?」


 と、いつもなら玉彦と呼ぶところだが、流石にちょっと今は自粛。

 父親を呼び捨てしていることに天彦は聞き慣れているけど、洸姫はそうじゃない。

 暫く洸姫の前では父親としての玉彦の威厳を尊重する。


 私に水を向けられた玉彦は、洸姫のつむじを見下ろしながら片眉を上げた。


「部屋はどこを使用する。天彦の隣室で良いのか?」


 そこじゃない、そうじゃない。

 そうだったとしても、天彦の隣はない。

 玉彦に聞かれた洸姫はあからさまに嫌な顔をして首を横に振った。


「ではどこを使用したい」


「どこって……」


 口籠る洸姫は助けを求めるように私を見たので、私は肩から力を抜いた。

 どこを使いたいと聞かれてもどこに何があるのか解らない洸姫は答えられないだろう。


「多門の話だとこれまで住んでいたところの荷物は全部置いて来たそうだから、ひとまずは私が学生の時に使っていた部屋が良いんじゃないかしら。一応机もあるし、お布団はあとで新しいのを運び込みましょ。天彦の部屋とも離れているから、それで良い?」


「……はい。それで、その部屋って、パパ……須藤さんと清藤さんの部屋とは近いですか?」




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