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不死身ストーカーに口説かれてます  作者: 色飴 遥火
エピローグ(絵本の男視点)
34/35

人間みたいに恋をする

 ははっ。本当……笑うしかない。遊び半分だったとは言え、彼女との協力で。もしかしたら……あの吸血鬼を完璧に殺せるかもしれないと。

「生きている?」

 身体中の骨がおれまくっている痛みで幻聴でも聞こえたのかと思ったが。どうやら本当に誰かが声をかけているらしい。

 ぼくの身体を埋めつくしている瓦礫をていねいに少しずつ撤去して。

「あ。生きていたっぽいね」

「羽と右足と左手が千切れている気がしますが、お互いに生きていたみたいで」

 先ほど……おそらく吸血鬼になる事を選択したであろうヨミカさんに羽をへしおられた時点で、もう駄目だと思っていたのに。

「なんか、知らないけどさ。いきなりビルがぶっ壊れて、びっくりしたんだけど」

「いやいや。半分こちらがわとは言え、ビルの崩壊に巻きこまれても生きている、あなたのほうにびっくりしましたよ」

「お互いさまじゃない?」

「それもそうですね」

 彼女が瓦礫を撤去してくれたので……ようやく空を見られた。すでに、夜は明けていてそれなりに太陽の光が痛かったり。

「あの二人。いや……例外すぎる吸血鬼二匹はどこへ? ぼくに確実なとどめを刺すために、あなたも探していたんでしょう」

 死にかけていて、彼女をコントロールするための能力を使うほどのエネルギーも、なくなっているはずだしな。

「わたしだけよ。あの二匹は、あなたを許す事にしたみたいね。遠すぎて。全部は聞こえなかったけど、そうしてくれたっぽい」

「そうですか」

「羽と右足と左手を探して」

「どうして、ここにいるんですか?」

 ぼくの身体の一部を探そうと背中を向けていた彼女が、ゆっくりとこちらを見ていた。

「あなたが死にかけているから、理由はそれだけ」

 他の理由なんて必要ある? とでも言いたそうな顔つきを彼女はしている。

「日常的に人を殺したりしていたのに?」

「それも、お互いさまでしょう。新しくて、面白いヒマつぶしができたんだから」

「なるほど。その、とても言いづらいんですけど……身体が回復すれば羽や右足や左手は生えてくるので」

「あっそ」

 短い返事とともに瓦礫に埋まっているぼくを彼女が引っぱりだしていく。

「酔狂にもほどがありますね」

「半分はそっちがわなんだから、ある意味で普通とも言えるんじゃないかしら」

「ものは言いようですね」

 彼女に助けてもらったのは事実だが命まで保証されている訳じゃない。

「簡単には死なせないってやつですか?」

 ぼくに肩を貸して、引きずるように歩いている彼女が不思議そうな顔をした。冷ややかな空気を吸いこみ、人気のない道をしばらく歩いてから。

「そもそも吸血鬼は死なないんじゃない?」

 ジョークかなにかの類いだと思われたようで彼女が笑みを浮かべていた。

「なんだか、あほらしくなってきました」

 どうして、死にかけているぼくを助けようとしているとか。自由になったはずなのに、まだ関係を続けようとしているのか、とか。

 聞きたい事は色々とあったけど、野暮なんだろうとぼくの頭は判断をしたようで黙ったままでいる。

「そうそう……あなたの分身が。瓦礫につぶされていくのが見えたわね」

「そうでしたか。まあ、どちらにしても今のぼくの状態だったら消えていたでしょうね」

「本体も?」

「五分五分ってところですかね」

 本当は、このまま生き残れる可能性は一割もない。そんな事は、肩を貸してくれている彼女も分かっているはず。

 それなのに、彼女は意味のない質問をぼくにしてきていた。理由は……なんとなく理解できている。

 だから、ぼくもうそをついてしまった。

「ぼくを好きだったんですか?」

 なぜか、そんな質問を彼女にしている。

「相性が良かったからかと」

「そうですか」

「本当に死ぬの?」

「がんばる理由もありませんし」

 少し、言葉を省略しすぎた気もしたが彼女には伝わったのか、そっぽを向いていた。

 左足の感覚がなくなってきている。

「わたしが、がんばれって言ったら?」

「一応は、がんばります」

「だったら、エサも取ってくるわ」

「はあ。ありがとうございます」

「死ぬな」

「吸血鬼ですから、そもそも死ねませんよ」

 それからも、彼女はぼくに声をかけ続けていた。多分……そのおかげもあって助かってしまうんだろう。

 奇跡ではなく、今までの色々な事に対する断罪として。

 血の匂いがする。あの吸血鬼のもので一番えげつない殺しかたをするつもりで、こんな事をしやがった。

 おそらく、ぼくを親身になって助けようとする存在がいた時のみ発動する。

 ヨミカさんが、ぼくを殺さない事をすでに確信をしていて。

 ぼくが、ヨミカさんに手をだそうとした罪に対する罰として、最も。

「吸血鬼どころか、悪魔じゃないか」

 当たり前だろう、おれの女に手をだそうとしたんだから。

 身体から血がにじみでてくるように、あの吸血鬼の声が聞こえてきていた。

「絵本の……吸血鬼と女神さまの話を知っていますか?」

「神さまのほうだったら知っているけど」

 ああ、そうだった。絵本のほうでは神さまにされているんだったっけな。

「それ、本当は女神さまなんですよ」

「ふーん」

 ぼくがなんの話をするつもりなのか分からないようで彼女が不思議そうにしている。

「あんまり、しゃべらないほうが」

「ケガのほうは、もう平気になりました」

「そうなんだ」

 顔色が良くなってきているからか、どことなくうれしそうに彼女が笑っていた。

「それじゃあ、その絵本の吸血鬼は女神さまを食べちゃったって事?」

「恋愛として、ですけどね。そして女神さまはその吸血鬼よりも先に死んでしまった」

 かつては、その話のこっけいさを笑えたんだが。今は、きょうふしてしまっている。

 身体が寒い。感情がない……吸血鬼のはずなのにそう思っていた。

「子どもでもいれば多少は違ったんでしょうが。吸血鬼とは現在の駆け落ちみたいなものだったらしく、その力を奪われていたとか」

「それで?」

 話の続きが気になるようで彼女は唇を動かしている。でも、ぼくはこれ以上。

 おそらく、ぼくはその吸血鬼と同じ道を。

「自殺」

「え?」

「同族からすれば笑える話なんですが、ほとんど死ぬ事がない存在なのに。その吸血鬼は自殺しようとしました」

「後追い」

「ええ」

 結局その吸血鬼がようやく死ぬ事ができたのは……老衰だったらしい。

 隣の彼女は黙ったまま。なにを考えているのかは知らないが。どちらにしても、ぼくはもう同じ道をいくしかない。

 吸血鬼に感情がないのは、その事が。

 感情のブレーキが壊れて、なにかを好きになってしまうと。そうなるから……そうならないように。

「殺してくれませんか?」

 思わず、そう口にしてしまっていた。

「ごめん。あなたは殺せない」

 彼女の、エクソシストだったウルカさんの答えは……すでに分かっていたはず。

「そうですか」

 目から水があふれてきている。

 ぼくは普通の吸血鬼だったはずなのにな。

 でも、ウルカさんの事は好きらしい。

 だから。

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