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不死身ストーカーに口説かれてます  作者: 色飴 遥火
そして彼女にほれました(白髪の男視点)
32/35

断片③

「ヨミカちゃんって、実は誰一人として信用してないんじゃないの?」

 ほとんど毎日のように、黒いセーラー服を着ていたヨミカちゃんが衣替えでもしようと思ったのか最近は白いブラウスを着ている。

 そんな彼女に以前から聞こうと思っていて忘れていた事をなんの前触れもなく口にしてしまった。

「どう言う意味?」

 大抵、こんな風にあんまり考えないで言葉にしてしまう時は、ヨミカちゃんを怒らせてしまう。詳細を話せば許してくれるし、彼女ににらまれるのも悪くないと思っているからこそ、なおすつもりがないんだろうね。

「教室だっけ……あの男女がぎゅうぎゅうに集まっているところを見ているとさ。基本的に同性同士でご飯を食べているな、と思っただけ」

 信用してない、と言うよりはヨミカちゃんが屋上でおれと二人きりになってくれているのが不思議だな、って。

 詳細を聞き納得してくれたようで、ヨミカちゃんの目つきがもとに戻っていく。

「細かい事を言うなら、たまにルナちゃんとご飯を食べている時もあるんだから。誰一人って訳じゃなさそうだね」

「それでもトコヨの感じた事は間違ってないと思う」

「ふーん、そうなんだ」

 屋上におかれている、ベンチに座っているヨミカちゃんが隣のおれのいるほうとは違うところに視線を向けている。

「聞かないの」

 しばらくの間……黙っていると。そっぽを向いているヨミカちゃんが口を開いていた。

「なにを?」

「そうだった。トコヨは、吸血鬼だったね」

 こんなに天気が良いのに……わたしの隣に座っていてくれるから、普通の人間だと思っちゃったわ。

 ヨミカちゃんにしては珍しく、ジョークを言っている。うそだったとしても声を上げて笑ってあげるべきかな。

「そんな吸血鬼さんのトコヨに聞きたいんだけど。そっちがわから見てさ、わたしとルナってどんな感じ?」

「甲乙つけがたいね。まだルナちゃんの血を飲んだ事はないし」

「はあ。わたしがばかだったみたいね」

 言葉の受け取りかたを、間違えてしまったようで大きく息をはきだし。ヨミカちゃんがすばやく弁当を食べおえている。

「ごちそうさま」

 口の中のものを飲みこんで……手を合わせながらそう言うと。ヨミカちゃんは弁当箱をもって、屋上の扉を開き通り抜けていく。

 閉まりかけている扉の向こうから、リズム良く階段を下りていく音が響いてきていた。

「ばかだったとしてもヨミカちゃんは可愛いんだけどね」

 相手がいなくなっているのに、なんて言いつつ。腹が空いている気分だったからか……今日の分の血をもらうのを忘れていた事を。

「ヨミカちゃん、遅れちゃってごめんね! って……トコヨくんだけ?」

 屋上の扉を勢い良く開く音とともにそんな声が、けたたましく聞こえてきた。

「やあ、ルナちゃん。こんにちは」

「うん、こんにちは。ヨミカちゃんは、お腹が痛くなっちゃったとか?」

 先ほどヨミカちゃんが座っていたところにルナちゃんが腰を下ろしていく。慌てて……はしってきたのか息をかなり切らしている。

「いんや。また、ヨミカちゃんの言葉の受け取りかたを間違えてしまったらしくてね」

「トコヨくんは吸血鬼くんだからね、注意をしていてもそうなっちゃう時はあるよ。気にしない、気にしない」

「そうだよね」

 なぜかルナちゃんに自分が吸血鬼だと言う事を教えている時を思いだしていた。

 はじめこそ、ルナちゃんは驚いた顔をしていたけど。それを聞いて色々と納得していたのか……すぐに受け入れてくれたっけな。

「まあ、トコヨくんの心の声って人間的には静かすぎるんだよねー。迷いがなさすぎると言うか、シンプルすぎって感じ」

 弁当箱の中に入っていた白飯を口に運ぼうとしながらルナちゃんが笑っている。遠回しに注意してくれているんだろう。

「ルナちゃんもじゃない?」

「わたしの場合は思った事をできるだけ口にするようにしているから、トコヨくんと少し違うね」

「ふーん、大変そうだね」

 人間が身体から発している音を聞き、心を読んでしまう能力だっけ……それのせいで。

「心配してくれるのはうれしいけど、浮気になっちゃうよ。トコヨくんはヨミカちゃんの事が一番好きなんでしょう?」

「それはどうかな」

 吸血鬼くん的には、ヨミカちゃんにほれたはれたと言うより。彼女がしわくちゃのばあさんになって、死んでくれる事を願っている気がする。

「しわくちゃのおばあさんになるまで生きてほしいって願うのは、ほれたはれただと思うんだけどね」

「吸血鬼には感情がないのに?」

「むずかしい事は分からないから、なんとも言えないかな」

「それじゃあ、おれがルナちゃんの心の声が聞こえちゃう能力をなかった事にできるって言ったら……どうする?」

 かなり驚いているようで、慌てながらルナちゃんが。大きくのどを鳴らして白飯を飲みこんでいた。

「トコヨくん、話が変わっちゃっているよ」

「いや、同じ話だよ。答えは?」

「まあ、そんな事が本当にできるのなら……やってほしいとは思うけど」

「それと同じだよ」

 ほれたはれたに限らないが、なにかしらの関係をつくろうと思えば。できるだけ違いは少ないほうが良い。

「感情うんぬん以前に、吸血鬼と可愛らしい人間ちゃんの時点でズレすぎている。しかも寿命は明らかにこちらのほうが永いしさ」

 人間はどれだけ長くても三百年ほどが限界だったよね? そう確認すると、ルナちゃんは黙ったままでうなずいていた。

「さみしいのは、いや?」

「そ。もともと一人だと分かっていれば諦めもつくけどさ。一回でもくっついちゃうと」

「それじゃあ、どうして今。わたしやヨミカちゃんの隣に」

「単なるヒマつぶし」

 なんの感情もなく、そう言ったのに。

「うそが下手だねー、トコヨくんは」

 ルナちゃんは楽しそうに笑っている。

「でも……なんだかヨミカちゃんに悪いな。トコヨくんの本音みたいなものを、先に聞いちゃってさ」

「ヨミカちゃんには、秘密って事で」

「どうしようかな。全力友達のヨミカちゃんとの関係が悪くなっちゃうかもしれないし」

「ルナちゃんの願いをかなえてあげるから」

 ごめんね……そう言ってから、ルナちゃんの右の耳たぶにかみつかせてもらった。

 いきなりだったからか驚いたようで、ルナちゃんが可愛らしい声を上げている。

 途中で逃げられると面倒なのでルナちゃんの身体を抱き寄せさせてもらうか。他人から見れば、彼女が彼氏に甘えている感じに見えそうだな。

「と……トコヨくん」

「ルナちゃん、ごめんね。少し時間がかかっちゃうんだ」

 抱き寄せたまま、ささやき。ルナちゃんの左の耳たぶにもかみついた。くぐもった声とともに身体を震わせている気がする。

「ヨミカちゃんだったら、殴られているよ」

「うん。おれもそう思う」

 と言うか、かなり前に首から血を飲ませてもらおうとして殺されたよな。結局、その後で謝罪とかなんとかで。

 ヨミカちゃんが首から血を飲む事を、許可してくれたんだっけな。そう言えば、今日はまだだったような?

「はい。おしまい」

 抱きしめるのをやめると、ルナちゃんに頬をビンタされた。尻が軽いイメージをもたれたくないらしい。

 今、屋上には誰もいないのにね。

「それで、なにをしたの?」

 と……聞くのと同時に。違和感があるのか左右の耳をそれぞれ両手で触っている。

「トコヨくんのおかげ?」

「さあ、なんの事やら。って訳にもいかないよね、もとに戻してほしかったら言ってくれれば良いよ」

「ないとは思いたいけど、分かった。でも、どうやったの?」

「ルナちゃんの能力は、要するに相手の呼吸や心音を聞いて……その状態を把握するものなんだよね。だったら、聴力を弱めてやれば使えなくなると思ったんだ」

 おれやヨミカちゃんも同じ事をできるが、ルナちゃんと違ってコントロールしている。って言わないほうが良いか。

 そもそもルナちゃんにとっては必要のないものだったみたいだし。

「前からやってあげたかったんだけど、ルナちゃんと二人きりになれる時がなくてね」

「ヨミカちゃんの嫉妬だね」

「まあ、そんな感じ」

 どちらかと言うと、ヨミカちゃんのそれっぽい感情はルナちゃんに向いているような。

「そんなに心配しなくても。ヨミカちゃんの思いってやつはトコヨくんに向いているよ」

「まだ、聞こえているの?」

「んーん、ヨミカちゃんを見ていたら分かるだけ」

「ルナちゃんの勘違いか」

「そうじゃないと思うけどね」

 ルナちゃんは楽しそうに笑ったが、こちらは笑えなかった。多分、彼女の言葉は本当で真実なんだろう……でも。

「かなりの覚悟が必要だよね、それって」

「ヨミカちゃんを愛する?」

「いや。ヨミカちゃん以外のどんな生きものも愛さないようにする覚悟」

 ヨミカちゃんが、可愛いしわくちゃのばあさんになって死んだ後に一人で生きていく。

「ぷっ……吸血鬼は一匹だよな」

 今の本音みたいなものは、聞こえなかったようでルナちゃんが不思議そうに首を傾げていた。

 とても可愛いらしいけど、愛するほどじゃないようだな。

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