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なんか変

 最近、ストーカーが変な気がする。吸血鬼なんだから、それが普通なのかもしれないがなにかが違うような。

「うーん、トコヨくんがヨミカちゃんにあんまり話しかけなくなったとか?」

 ひらさか大学の講義を受けた後、昼食を一緒にしているルナに、それとなくストーカーの違和感について相談をすると。そんな返答をされた。

「あっ。それかもしれない」

 確か、フウくんが通っている高校の事件を解決して……しばらく経っているのにストーカーとほとんど会話をしてない。

「なるほど。それは倦怠期だね」

「つき合ってもいないのに、倦怠期ってあるの?」

「ヨミカちゃんの、トコヨくんとつき合ってないアピールはさておき。恋人同士じゃなくても倦怠期みたいなものはあるよ」

 例えば。ずーっと昼食にラーメンを食べていると、たまにはチャーハンを食べたくなるでしょう? あんな感じだよ。とルナが説明してくれている。

「つまり、ずっと同じものを食べている状態だから違うものを食べたくなっている?」

「ラーメンとチャーハンの話ならね……人間関係で言うなら。可愛いヨミカちゃんに好き好き言いすぎて、胃もたれしちゃったんじゃないかな?」

「胃もたれしそうなのは、こっちよ」

 基本的に寝ている時、以外はストーカーが近くにいて。そう言えば、今日はまだ会ってないな。

 普段なら、そろそろわたしとルナの会話に割りこんでくるはずなのに。

 辺りを見回しても、ストーカーの姿どころか気配さえも感じない。わたしの影に隠れているかとも思ったけど……ザンカしかいないようだし。

「ヨミカちゃん、さみしいの?」

 もしかしたら、ルナの影に隠れているかもしれないと考えて確認をしていると。そんな台詞が聞こえてきた。

 影のほうに向けていた視線を、上のほうに移動させていく。両目にお星さまを輝かせているルナがとてもうれしそうにしている。

「ち、違うから。なんか変なだけ」

 少なくとも中学生ぐらいの頃から……あのストーカーにつきまとわれていたから、変な感じになっているだけで。

「でも、わたしがこんなにもトコヨくんの事を気にしているのは。もしかして」

「心の声をねつぞうしないで」

「まあまあ、おにぎりをあげるからさ」

 ルナからもらった大きめのおにぎりをゆっくり食べていると。

「そんなにトコヨくんと話をしたいのなら、ヨミカちゃんからアプローチをしたら良いんじゃない? 迷惑じゃないだろうし」

 そんな事を言ってきた。

 ルナの台詞とは少しニュアンスが違う気もするけど。いずれにしてもストーカーと話をするほうが良さそうだな。

 そう言えば以前にストーカーにもそれなりに悩みがあるとかなんとか口にしていたか。

「そして……できる事なら。その時のトコヨくんとのピロートークをわたしにも」

「それはないから」




 ルナと別れ、ストーカーがいそうなところを探してみたけど見つからなかった。いってないのは、ストーカー本人の家だけか。

 基本的にはわたしのマンションですごしているから、ほとんど使っていないとか言っていたと思うが。

 わたしの想像している通り、なにかしらの悩みがあるのなら誰もこないであろう、この家にいるはず。

「と言うか、なんで。わたしのマンションの屋上に家をつくってあるんだか……そんなに近くにいたいのなら、部屋でも借りれば良いのに」

 そもそも、家と呼んで良いのか? 次元を切り裂く能力で、とりあえず寝泊まりできるところをつくっただけだよ、とストーカーは言っていたけど。

 かなり、ルールやら道理をねじ曲げすぎている。建築基準法かなにかで怒られれば良いのに。

「お邪魔します」

 周りに誰もいない事を確認してから、ストーカーの家もとい切り裂いた次元の中に……顔だけをつっこんでいく。

 吸血鬼だからと言うのか家具の類いが全くなく、黒い空間が広がっている。でも、照明器具もないのに豆電球を使っているていどには明るい。

 空間の一番奥としか言いようがないところに目をつぶっている吸血鬼が立っていた。

 女の子の姿になるのに飽きたのか、もとの姿に戻っている。そもそも見てくれのほうは良いからか、こんな風に黙っていると同姓に見えなくもないのか。

 ストーカーを起こさないように、ゆっくりと黒い空間に足を踏み入れたつもりだったのだが。わたしの右足の先っぽが、床であろうところに触れた瞬間。

 目を開いたストーカーが常人には感じる事もできないほどのスピードで近づいて。

「あっ……なんだ。ヨミカちゃんか。ごめんごめん、そうだよね」

 わたしに顔面を吹き飛ばされる前に、なんとか気づいてくれた。正当防衛とは言え部屋のクリーニング代を求められても面白くないしな。

「でも、珍しいね。ヨミカちゃんのほうから会いにきてくれるなんてさ。もしかすると、ほれちゃったのかな?」

「それはないから安心して。けど相変わらずのようで良かったわ」

 ここまできておいて、その事を隠すほうがストーカーを増長させそうなので。しばらく顔を見てなかったので心配だったと、すなおに伝えておいた。

「人を食べてないとか? ヨミカちゃん以外の人間からは血をもらわないようにしているから安心してよ」

「それに関してだけは安心しているから」

「ヨミカちゃん。変なものでも食べたの? 今日は、すなおと言うか。普段よりもさらに可愛く見えちゃうんだけど」

「寝ぼけているからじゃない」

「そうかもしれないね」

 普段と同じように、笑っているつもりなんだろうが。やっぱり少し違う。手を握ろうとしたり、抱きついてこようとしないのは。

「今さらだけど、お邪魔するわ」

「え?」

 ストーカーが目を丸くしている。

 わたしの体温を確認しようとしたのか、額のほうに右手を伸ばしていたが途中でやめてしまった。

「ね、熱でもあるんじゃないの?」

「平熱よ。少し、お腹は空いているけど……いたって健康」

「まだ寝ぼけているのかな」

「なんなら顔面を殴ってあげましょうか? 新しいものをつくらなきゃいけないぐらいの力で」

「ありがたいけど、遠慮しておくよ。最近はできるだけ死なないようにしているからさ」

 死んじゃったら、わたしの記憶をいじっている能力がリセットされちゃうから?

 わたしがそう聞くと。

「その通り」

 もう隠す気はないようで……ストーカーは普段と同じように唇を動かしていた。

「誤解、でもないんだけど。ヨミカちゃんにばれちゃっても良いと思っていたんだよね。ただ」

「そんなに心配をしなくても全部。トコヨが悪ふざけでわたしの記憶をいじくったりするとは思ってないから」

 おそらく、わたしと目の前のストーカーはこんな事ができる関係だったのだろう。

 恥ずかしくもなく……かと言って当たり前ってほどでもないが。とにかく、どこかこなれた感じで。

 わたしはストーカーに抱きついていた。

 記憶はないけど、身体はその時の事を。

「やっぱり、今日のヨミカちゃんは少し変な感じみたいだね」

「それはお互いさまよ。ばかストーカー」




 ストーカーが指ぱっちんをすると黒い空間の真ん中の辺りに、ふかふかとしていそうなソファーがでてきた。

 ソファーの前にあるテーブルの上には……二つのマグカップがあり。それぞれに湯気が立っているコーヒーが入っている。

「立ち話もなんだからさ、座って話そうよ」

 普段と同じように、笑っているつもりなんだと思うけど、らしくもなくきんちょうしているようでストーカーの声は震えていた。

「そうね。いただくわ」

 多分、長い話になるんだろうな。わたしがソファーに座るとストーカーも腰を下ろしていく。

 ソファーのはしっこのほうに座っているので手を伸ばしても、ぎりぎり届かない。

「意外ねえ。ストーカーでも後ろめたいって思いがあったりするんだ」

 なん回か息を吹きかけて……マグカップに入っているコーヒーをゆっくりと飲んだ。

「からかわないでほしいねえ。でも、ヨミカちゃんにそんな風に遊ばれるのも、悪くない気分だけどさ」

 それから、しばらくの間。本当に久しぶりに隣に座っているストーカーと普通に会話をした。

 面白くもなく、かと言ってエクソシストと吸血鬼にしか分からないようなものでもない普通の男女がしているであろう話。

 お互いに、こんな話はさっさとやめて本題について語り合うべきだと思っていながら、時間だけがすぎていく。

 本音を言えば、このままでも良かったような気もしたが。

「そろそろ、良いんじゃない?」

 リラックスできていると思うストーカーにわたしはそう聞いていた。知らなければ……このままでも良かったんだろうけど。

「そうだね。ありがとう、ヨミカちゃん」

 吸血鬼のおれなんかにリラックスするための時間をくれて。ストーカーは、そう言ったんだと思う。

 なんだか……眠くなってきていて。ストーカーの声が聞こえ、づらい。

「ストーカー、わたしになにかを」

「安心して。ちゃんと、その事を全部ヨミカちゃんに教える約束は守るつもりでいるからさ」

 吸血鬼のおれが、こう言うのも変かもしれないけど……ストーカーの唇が動いているのに声が。

「起きたら、絶対にぶん殴る」

「うん。楽しみにしている」

 ぐらついている、わたしの身体を支えつつ耳もとでストーカーは。

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